第19話 「私達だけのお揃い」


 あの後、恐竜の形を模したジェットコースターや魔法使いの世界を体験できるアトラクションに乗り、俺たちは非日常的な体験をする事が出来た。

 特に魔法使い視点で空を飛び回る体験は、魔法が使えるようにならないと出来ないだろう。


 ――などと余韻に浸っていると


「やぁぁぁぁ!むりむりぃぃ!!」

「うぉぉぉぉ!すげぇぇぇぇ!!」


 絶叫と楽しげな声という対極な反応をしているさくら拓馬たくまは、後ろ向きに進むジェットコースターに乗っている。

 次に何が起こるか分からないという恐怖が売りなんだとか。

 確かに、次に何が来るかは視界に入ってしまえば心構えが出来るが、後ろ向きゆえそれが出来ない。


「楽しそうだね~」

「桜ちゃん大丈夫かな……」

「少なくとも大丈夫では無さそうだな」


 佳奈かな月音つきね、俺の三人はベンチにて休憩中だ。

 先程、施設内にあるお店で購入したジュースをすすっていると、ジェットコースターから利用客が降り始めていた。

 満足そうな顔、安心した顔と様々見受けられるが……。


なぎ~?もしかしたら、出番かもよ?」

「何となく俺もそう思う」


 普段は向日葵ひまわりのように明るい桜だが、今は随分としおれてしまっていた。

 佳奈も俺もこうなってしまった桜がどんな行動を起こすか分かっている。


 桜は俺の前まで歩いてくると、俺の膝の上に座り抱きついてくる。サクラは比較的軽いため、身体的な負担は無いのだが、周りからの視線が痛い。


 普段は底抜けに明るい桜だが、月に数回はこうやって甘えん坊モードになる。

 主に、疲れた時や嫌なことがあって我慢できなくなった時だ。

 恐らく、今回は後者だろう。

 あまりの出来事に慣れてない月音は動揺を隠せず――


「さ、桜ちゃん?あまり、こうゆうところでそういうのは……」

「お兄ちゃんは嫌って言ってない……」

「そ、そうだけど……」


 あまりのテンションの低さに言葉を詰まらせ、俺と佳奈の方を見る。

 俺も佳奈も『諦めろ』の意志を込めて首を横に振る。


 拓馬だけが申し訳なさそうにたたずんでいた。


 この行動には慣れているので構わないが、流石に人目に付きすぎるので、努めて優しく移動を促す。


「桜?気持ちは分かるけど、ここで膝に乗るのは止めような」

「……わかった」


 膝から俺の横に移動したがハグだけは止めなかった。


「も、もうお昼だし、休憩がてら軽く何か食べない?」

「そうしようか」


 月音の提案でフードエリアを目指す事になった。

 たどり着いた頃には、桜もだいぶ元気になったので俺から離れ、佳奈や月音の元に走っていった。


「なんか……ごめんな」

「俺じゃなく桜に謝ってやれ、多分もう気にしてないと思うけど」

「そうするわ……」


 ここからは各々食べたい物を買うために別行動になった。

 遊びがメインなので、食べ物系は簡単なものを提供しているのかと思っていたら、ガッツリ系からデザート系の物まで幅広くっているが揃っていた。


「無難にホットドッグとか……いや、普段食べないものを――ん?」


 俺が商品を吟味ぎんみしてると、何やら難しい顔で悩んでいる月音が目に入った。

 デザートエリアで悩んでるみたいだが――


「何悩んでるんだ?」

「チュロスを食べたいんだけど……チョコ&ミルクかチョコ&バニラで悩んでる」

「確かに甘いものも良いな、じゃあ、俺はチョコ&ミルクにしようかな」

「もう少し悩みなよ~」


「俺の半分あげるからもう一つの買いなよ、そうすれば二つ楽しめる」

「確かに!それに、『あ~ん』とかやってみたいしね」

「それはここでやらないよ」


 何やら、月音はムスッと明らかな不満の意志を見せたが、俺は肩をすくめチュロスを購入した。


 みんなと合流しシェアしながら食べてると――


「桜、口にケチャップ付いてる」

「んー」


『拭け』と言ってるらしい。

 俺は、ホットドッグに付いてくる手拭き用のナプキンで口をぬぐってやる。


「えへへっ、ありがとう」

「次から自分で拭けよ」


 こうやって自然な感じでやってくるので、こちらも無意識に甘やかしてしまう。甘え上手とはこのことか。

 横を見ると、月音が自分のチュロスを食べ始めてたので、俺の分も差し出す。


「ほれ、半分って約束だしな」


 月音は食べてた分を飲み込むと、何やら少し考えたあと――


「もう少し、先っぽこっち向けてよ」

「ん?こうか?」

「いただきま~す」


 そういい、俺の手に持ってる状態から食べ始めた。

 その時、不意に行った髪の毛を耳にかける仕草に思わず心臓が跳ねる。

 月音は雰囲気が大人っぽい故に色っぽい仕草が似合ってしまう。

 そんな、俺のドキドキを露知つゆしらずチュロスを頬張ほおばっていた。


「ん~!こっちも美味しいね!ってどうしたの?」

「いや、別に……美味しいなら良かったよ」

「うん!じゃあ……はい」


 そう言って自分の分のチュロスを俺に向ける。


「お返しね?食べかけでごめんだけど」

「ありがとう、いただきます」

「どう?こっちも美味しいでしょ」

「……


 それを美味しいと捉えたのか、月音はニコニコして自分のを食べ始めた。


「青春ですなぁ~私達も恋人作りたくなるねぇ~」

「俺はむしろ、コレ見てるとお腹いっぱいになるわ~満足感が凄い」


 幼なじみと親友の会話は、無視すると決めた。


 ※※※


 午前中はアトラクション多めだったので、午後はゆっくりと、このテーマパークでしか見れないグッズを散策することになった。


「見てみて!このカチューシャ可愛い!」


 振り向いた桜の頭には、二つの耳の部分が色違いのキノコになっているカチューシャが乗っていた。


「可愛いけど、ここでしか使えないな」

「そんな事分かってるよ~何なら家でも使える」


 その他にも、キーホルダーやぬいぐるみ、キャラクターがプリントされている服まで売っていた。


「ねぇねぇ~皆でお揃いのキーホルダー買おうよ~」

「お!良いじゃん、青春っぽいな」


 佳奈からの提案にみんな揃って頷く。

 時間をかけて選んだ結果、犬のキャラクターが手紙を持っているキーホルダーに決まった。

 手紙の色が沢山あるのだが、それぞれのイメージカラーで


 桜 ピンク

 佳奈 紫

 拓馬 黄色

 月音 白

 俺 青


 になった。


 お店を出ると各々の色を佳奈から受け取り、携帯やカバンに付け始め、散策を再開する。


 エリア毎にキャラクターが変わるため飽きが全く来ないどころか、どんどん引き込まれる。


 サメがコンセプトのエリアでは――


「サメのぬいぐるみだ……!可愛い……どうしよう」

「月音さんはぬいぐるみ好きなの?」

「大好きだよ!枕元に置いてる!」

「ふふっ、可愛いね~」


 悩んだ挙句、購入したらしい。

 満足したのかホクホク顔だ。


 恐竜エリアでは――


「おい凪!恐竜の被り物良くないか?」

「そうだな、買うのか?」

「ん~……流石にやめとくか」


 その代わりに、このエリア限定フードのスモークチキンを食べることにしたらしい。

 これも例に漏れず絶品だった。


 結局、全てのエリアを周りきることは出来なかったが大いに楽しむ事が出来た。

 最後に大きいお城があったので、それを背景に五人で写真を撮った。

 撮った写真を俺らのグループLINEに送られてきたため、確認すると――ホッとした。


 ――今回はしっかり笑えていた。といってもみんなより随分控えめだけど……



 テーマパークの入口に集合の予定となっていたため感想を言い合いながら向かっていた。


 俺は佳奈、桜、拓馬の後ろ姿を眺めるように歩いていると、不意に後ろから小さな声で月音が話しかけてくる。


「ねぇ、はいこれ」


 そう言ってサメの可愛いキーホルダーを渡してくる。


「ありがとう……?これは?」

「これは私と凪だけのお揃いね」


 ニコッと笑って、前の三人の元へ走っていく。


 顔が熱いし口角が上がってしまうのを抑えられない。


 ――それは、反則だ……。


 最後の最後でとんでもない可愛さを詰め込んだ爆弾を落とされた。


 涙あり笑いあり可愛いありの修学旅行は、俺にとって最高の形で幕を閉じた。



 ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 第十九話 「私達だけのお揃い」 修学旅行編最終回


 読んで頂きありがとうございます!

 応援、フォロー、レビューお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る