冬休み編

第20話 休まらない冬休み

 修学旅行から季節は流れ、辺り一面が雪景色になった十二月、期末テストから解放され、冬休みの始まりを告げるチャイムが学校に鳴り響き、教室は一気に喧騒に包まれる。

 冬休みの間に起こるイベントの華やかさが、より一層この教室の喧騒に拍車をかけている。


 俺の元に月音つきね拓馬たくまが同時にやってきて――


なぎ!いつも通りファミレスで打ち上げやろうぜ!」

「ねぇ、凪!さくらちゃん達とファミレス行こ!」


 二人から同じ内容の誘いを受ける。


「今は俺の方が早かったんじゃないか?」

「残念!私が先に言い終わってたよ?」

「だー!クソ!負けたぁ」


 この二人も、随分仲良くなったものだ。

 若干、月音がボケ側に染まりつつあるのが気がかりだが……。


「悪いが先に行っててくれ、俺は職員室に用事があるから」

「ん?それくらいなら、待つぞ?」

「いや、時間がかかりそうだから……」

「そうか……なら、桜たち誘って先行ってるな」

「凪、また後でね?」


 月音は俺に手を振り、教室を出ていく。

 帰りの支度を済ませ、職員室に行こうと腰をあげると、意外な人物に声をかけられた。


君も職員室に用事あるって言ってたよね?」

「言ったけど……篠原しのはらさんも?」

「うん、だから一緒に行かない?」


 断る理由も無いので、二人で職員室を目指すことになった。

 篠原さんとは、修学旅行で告白されて以来まともに話してないので、やや気まずいのだが――


東雲しののめ君はなんの用事なの?提出物……って訳じゃ無さそうだけど」

「アルバイトの申請用紙貰ってくる」


 篠原さんは目をまん丸にして驚いていた。


「アルバイト?東雲君が?」

「意外か?」

「ちょっと意外かも……あんまり、そうゆうことしてるイメージが無かった」

「まぁ、色々あるんだよ」


 話していると職員室に辿り着いたので、俺は申請用紙を受け取った後、篠原さんに別れを言い学校を後にする。


 ◇


 学校を後にした俺は、学校から三駅離れたのぞみ町にある大きなビルを見上げ、掲げてある社名を確認する。


『東洋ゲーマーズ』


 ――――時は少し遡り


「え?東雲君バイトするの?」

「まぁ、少しお金が欲しくてな」

「それでなんで俺のところに?」


 俺は昼休みに修学旅行で仲良くなった高橋たかはしを訪ねていた。


「バイト先が『東洋ゲーマーズ』って所なんだ」

「それで?」

「高橋はゲーマーって聞いたから、もしかしたら、そこが発売してるゲームもやってるんじゃないかって思ったから訪ねてみた」

「確かにやってるけど……貸してってこと?」


 借りた方がお互いに負担はないが、あいにく俺はゲーム機自体持ってない。


「いや、高橋の家にお邪魔したい」

「なるほど、一緒に遊ぼうってことか」

「色々教えてくれると助かる」

「分かったよ!じゃあ、今週の土曜日にしよう」

「無理言ってすまない」


 土曜日を迎え短い間ではあったが、実際にゲームに触れ、開発者インタビューが掲載されている雑誌にも目を通した。

 メインタイトルを手掛けているのは『八神藍やがみあい』というの女性だった。


 とりあえず予習は済んだ事だし、これで何を聞かれても答えられるし面接は問題無く通るだろう。

 ゲームは生まれて初めて触ったが、ハマってしまうのも無理は無いくらい面白いものだった。


 ――――


(結局あの予習は意味を成さなかったけど……)


 中に入り受付担当に名前と要件を伝えアルバイト申請用紙を手渡す。


 とりあえず暇なので近くにあった椅子に腰かけ辺りを見回す。

 エントランスには受付の他に、コンビニやカフェがあり、社員と思われる人達が出入りをしていて、凄く活気がある。


 更に上はどうなってるのか気になり始めた所で、その好奇心は一度心の中にしまっておく事となった。


 俺の方へ歩いてくる女性が目に入ったからだ。


 背中辺りまで伸びている金髪が癖毛なのか所々外側に跳ねている。

 華奢な体付きだが、凛とした顔つきのお陰で雰囲気が引き締まってみえ、『可愛い』や『美人』より『かっこいい』と表現する方がしっくりくる女性だった。


「寒いのに待たせてごめんね!申請用紙の記入合ってるか確認してもらえるかな?」


 見た目以上にハツラツとした態度だったので、呆気に取られていたが、気を取り直して用紙を受け取る。


「多分大丈夫だと思います、お手間取らせてすいません」

「いいんだよ!最後の一人が中々埋まらなくてさ〜助かったよ!!」

「期間内に埋まらなかったら締め切るんじゃ無いんですか?」

「締め切るっちゃ締め切るんだけど……アルバイト一人一人の負担が増えるから、嫌なんだよね〜」


 今回の仕事内容的にチームを組むらしいし、確かに一人欠けてのスタートは良くないのかもしれない。


「ところで、君はこのあと時間あるのかい?」

「友達を待たせてます」

「あ〜そっか……コーヒーの一杯位でもどうかと思ったんだけど……厳しそうだね」

「また今度頂いても良いですか?」

「全然OK!なんなら、明後日から来るんだしその時で良いよ!」


 俺は頭を下げその場を後にする。何気なく後ろを振り返ってみると、ニコニコと静かに手を振っていた。


 社会人は、スーツ着て堅苦しい挨拶をしている人ばかりかと思っていたが……。

 社会人に対する偏見が少し変わった気がする。


 それにしても、今回対応してくれた女性……。

 どこかで見た気がするけど、一体どこでなのか思い出せずにいた。

 悶々とするが、そのうち思い出す事を祈る他ない。


 お金の問題は解決したのでプレゼント選びのため、以前行ったことのあるジュエリー店へ足を向ける。




 ふと、携帯を見てみると、催促のLINEが鬼のように入っていた……。

 今日はもう行けそうにないので、今度しっかり埋め合わせをしようと、この寒空に誓った。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 第二十話「休まらない冬休み」

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