第16話 「君の隣に立つために」

なぎくん一年生の頃から貴方が好きです」


 ――俺の事を?一年生から?


 正直俺は好意を向けられて気付かないほど、鈍感では無いと思っている。

 ただ、篠原しのはらからの好意に気づかなかった。


「……なんで……俺なの……?」

「俺は君に好かれるような事はしてないよ」


 謙遜けんそんでも無く本心だ。

 俺の疑問を聞いた篠原は、悲しい笑顔を浮かべ――


「凪くんは覚えてないよね?校舎裏での事」



 ――高校一年生 秋頃――


 当時の私は今ほど垢抜けていなくて、田舎くさい女子だった。


 それでも好きな人がいました。

 見た目もカッコよくて、誰とでも仲良く出来る男子だった。

 周りには華やか女の子が沢山いる彼は、私なんかにも優しく接してくれていた。


 そうして、勇気をだして気持ちを伝えた。

 彼はやや困った笑顔で、『時間が欲しい』と言ってくれた。


 そして、二日が経ったある日、私が御手洗おてあらいを済ませ外に出た時に、男子トイレから三人の話し声が聞こえた。

 おそらく、私が告白した男の子だと思う。


『そういや、俺さ篠原に告られてんだよね』

『え?あの芋臭い女?』

『お前ならもっと良い女狙えるだろ』

『篠原は身体つきは良いしキープしとこうかなって思ってんだよね~』


 その後に男子二人の笑い声が響いた。

 結局、その話に酷くショックを受けてしまい私から告白を無かったことにした。


 その後、我慢できなかったので誰にも見つからない校舎裏で静かに泣いていた。

 私の初恋は、こうしてはかなく散った。


 足音にも気付かない程泣いてんだと思う。

 気づいたらで立っていた。

 上手く声が出せない私に――


「………こんな所で何してんの?」

「………だっ……だいじょうっ……ぶだから……」


 しゃくりをあげつつも、質問の答えになってない答えを返す。


「ふぅん」


 まるで、興味が無くなったかのようにその場を去る。

 五分程経って私も落ち着いてきたときに、無表情の彼は戻ってきて、私にココアの缶を差し出してきた。


「ん、いつから居たのかわかんないけど、冷えるだろ」

「あ、ありがとう……」


 お礼を言い、蓋を開け一口含む。

 凄く温かくて、また涙が出そうになった。


「また、泣く?」

「な、泣かないよ!」

「失恋か?」


 思わず、彼を見上げた。


「なんで……分かったの?」

「こんな所で一人静かに泣いてたらそれしか無いだろ」


 私は、気付いたら名前も分からない男子に今日あったことを全部話していた。


「わたし……馬鹿だよね……ちょっと、優しくされたからって好きになって……遊ばれて」

「異性に耐性が無い奴は、少し優しくされると簡単に好きになる。男でもそうだよ」

「それでも、ちょっと考えたら分かるじゃん、私なんか相手にされないって」


 彼は少し考える素振りをした後


「好きだったんだな、そいつの事」

「うん……好きだった」


 最低な事を言われていたとしても、これは本心だった


「良かったな、付き合う前に最低な男だって知れて」

「そ、そんな事言わないでよ……今回は私の見た目が他の人よりおとってるせいだから……」

「はぁ……可愛くないやつは恋愛をする事も許されないのか?可哀想に」


 流石にカチンときた。

 八つ当たりだって分かってるけど、見ず知らずの人にあわれまれる筋合いは無い。


「可哀想って……勝手に首突っ込んできて、なんでそんな事言われないといけないのっ!」

「事実でしょ?泣いてスッキリして切り替えれるなら良いけど、お前はそんな感じがしない」

「今回の件で自分に自信が持てなくなって、どんどん堕ちていく、俺にはそう見えた」


 実際に心の中を言い当てられて言葉も出ない……

 あれだけ泣いたのに、気持ちはスッキリしないし、ずっと『芋臭い女』『お前ならもっと良い女が狙える』――この言葉が心に突き刺さったままだった。


「話を聞いただけで……分かった気にならないでよ」

「女子は恋愛絡みで悔しい思いをしたら変わるって妹から聞いた」

「……え?」

「努力次第で変われるよ、今より可愛くなってその男を見返してやんなよ」


 初めて彼は私の目を見た。

 私は座っているから見下ろす形になるのに、その目は凄く優しくて、私に寄り添ってくれてると錯覚するくらいに――


「じゃあ、寒いしもう帰る」

「私も帰る……そう言えば名前聞いてなかった」

東雲凪しののめなぎ

「東雲君……ありがとうね」


 彼は何も言わずに、寒さで身震いしながら帰って行った。

 ――あ、私の名前言ってなかった……というか、聞かれなかった。


 その後、私は頑張った。ファッションにメイク、立ち振る舞いなど沢山勉強した。

 あの時、私の傍にいてくれた東雲君の横に並んでも恥ずかしくないように――


 ※※※


 話を聞いて驚いた。

 確かに覚えているが……過去の記憶の女の子と今俺の目の前に立っている女の子は、まるで別人だ。


「そっか……あの後から頑張ったんだな」

「凪くんのお陰でね、君の隣に立てるよう頑張ったんだ」


 ――どうすれば良い……?篠原の気持ちに応えないと今度は俺が傷つけてしまう……でも、俺には……


 俺の葛藤が伝わってしまったのか――


「私の気持ちは伝えたよ?後は、凪くんの本当の気持ちが知りたいな」


 ――俺の……本心。


「俺には……今、好きな人がいる……」

「けど、それは……篠原じゃない」

「だ、だから……俺は……篠原の気持ちには応えられない」


 心臓が今までに無いくらい脈を打っている。

 呼吸も浅い……

 何も言わない篠原に目を向けると――


「そ、そうだよね……何となく……分かっ……てたから……」


 声が震えている。


「もしかしたら……っ!それでも……っ私の事……選んでくれるかもしれないって……ほんの少しだけの希望にかけてみたんだけど……」


「人生そんなに甘くないね……」


 我慢していた涙が頬を伝う。

 ただ、静かに……

 あの時見た悔しさをにじませた涙とは違う。


「あの時、無責任に声掛けて、その気にさせたクセに応えられなくて……ごめん」

「それは違うよ?私が勝手にその気になったんだから……異性に耐性ないから……ね?」

「それに……今の私があるのは、あの時凪くんが声を……かけてくれたからだよ?」


 と、泣きながら笑う。


「フラレれちゃったけど……その……友達とした仲良くしていたいんだけど……良いかな?」

「もちろん……篠原が辛くなければだけど」

「私は大丈夫……だよ!一晩寝れば……ケロッとしてるよ」


 そう言って、一歩二歩と後ろに下がる。

 そして、俺に指さして――


「私をフッたこと後悔させてあげるからね!」


 そう、俺に宣言をしてホテルの中に走って行ってしまった。


 ※※※


 消灯時間になっても、俺はホテルの外をぶらついていた。

 今はただ、この痛みに浸っていたかった。


 気付いたら沢山の紅葉がライトアップされて綺麗に見える所まで来ていた。街灯の近くにあったベンチに腰を下ろす。


 ――俺は……今一人の女の子の恋愛を終わらせた……一年近く抱き続けてくれた想いを受け取らなかった。傷つけて……しまった……



 気づくと泣いていた。

 泣くぐらいなら『俺でなんかで良ければお願いします』って、言えば良かったのに……

 でも、そう出来なかった理由があった。

 俺には――


 ガサッ!


 驚いて顔を上げると――


「は?なんでここにいんだよ……」

「ん~……助けてって聞こえた気がして??」


 そう言って、月音つきねは俺の隣に腰を下ろす。


「なぁ、月音」

「なぁに?凪」



「恋愛って……痛いんだな……」


 ~~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 第十六話 「君の隣に立つために」


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