第26話「クリスマス会」
「
「分かった!」
「
「ん!バッチリだよ!さすが月音ちゃんだ!」
桜も月音も誰かと料理するのが楽しいのだろう。忙しそうにしているが、ずっと笑顔だ。
俺たちは、彼女達が作った食欲を刺激するような良い匂いのする料理をテーブルの上に並べていく。前回作ってもらった時と比べて確実にレベルが上がっている。
「おい!
「んふふ~おいひ〜」
佳奈のマイペースさに
桜と月音も一仕事を終え、晴れやかな顔でソファに座る。
俺は、疲れた様子を見せない二人に、ジュースを注ぎ――
「お疲れ様、大変だったろ」
「ふぅ~……私の料理欲は満たされた……もう死んでも後悔はない……」
「死ぬのは嫌だけど、楽しかったからあっという間に終わっちゃったよ!」
疲労よりも楽しさの方が上回っていたらしく、元気いっぱいな返事が返ってきた。
料理も完成したところで、いよいよクリスマス会が始まる。
「お兄ちゃん、乾杯の音頭取ってよ」
「え?俺が?」
「リーダーでしょ?」
俺はいつからこのグループの中心になっていたのか……。
こういうのは、桜の役目だと思っていたので、何も考えてなかった。
「無事にクリスマス会ができて嬉しいよ、存分に楽しもう!乾杯!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
カチンとグラスを鳴らして、ようやく今年最後のイベントが始まった。
「でも、普通メリークリスマスって言うんじゃねーの?」
「そ、そうかもな……」
拓馬に指摘され、俺は誤魔化すようにジュースを煽った。
◇
「このミートパイ、月音さん作ったの?」
「うん!初めて作ったからお口に合うかどうか……」
「美味し~よ!」
「良かった~……」
佳奈の無垢な笑顔に、月音はホッと胸を撫で下ろす。
俺も一つ口に運ぶと――
「うん!美味しいよ、ミートパイって初めて食べたかも」
「お口にあって良かった~凄く不安だったから……」
佳奈に続いて俺からも絶賛されて顔を綻ばせる。
「ほら~佳奈ちゃんの好きなフライドチキンだよ~」
「あ~ん……ん!コンソメ味だ!」
佳奈は、口いっぱいに頬張りながら幸せそうな顔をしている。
そんな様子見ていた拓馬は――
「桜、俺にもあーんしてよ」
「やだよ、自分で食べな?」
「つめて~」
ケラケラと笑っていたので、本気じゃなかったらしい。
俺は、他の料理にも手を伸ばし、静かに味わっていた。
俺も一緒になって騒ぐのも好きだが、皆が和気あいあいとしている様子を眺めるのも好きだ。
料理も無くなり始めたところで、桜が――
「そろそろ、プレゼント交換しようよ!」
「お、良いね!やろうぜ」
この、クリスマス会のメインイベントとも言えるプレゼント交換が桜の合図で行われることになった。
プレゼントは『自分の好きな物』というコンセプトで用意してある。
交換と言っても音楽に合わせて回していくなんて事はしない。
事前にプレゼントに番号を振っておいて、くじで引いた番号のプレゼントを貰うというシンプルなものだ。
ジャンケンの結果――
桜、月音、拓馬、佳奈、俺の順番で引くことになった。
各々の手元にプレゼントが渡ると、早速開封し始める。
「月音ちゃんぬいぐるみ好きって言ってたもんね~可愛い!」
ペンギンのぬいぐるみを佳奈は嬉しそうに抱きしめる。美少女にぬいぐるみのセットは反則級な癒しがあるな。
「なぁ、凪……お前入浴剤好きなのか?」
「好きだよ、大事に使ってくれ」
拓馬はサッカーで体を酷使してるだろうし、ピッタリなプレゼントだろ。
「佳奈ちゃんのお部屋いつも良い香りしてたけどこれ?」
「そ~気分転換したい時とかお風呂の時に使ってもいいんだよ~」
桜はアロマキャンドルを不思議そうに見つめる。早速今日の夜使いそうだ。
「さ、桜ちゃん……?これはいつ使えば良いの?」
「アイマスクは寝る時に使うものでしょ~?ちょっと、今付けてみてよ?」
月音は、恥ずかしそうにアイマスクを付ける。
「あっははは!似合ってるよ~月音ちゃん!」
桜が用意したのは変顔アイマスクというものだった。
キリッとした目付きに太い眉毛が月音と不釣り合いで、かえって面白さを演出している。
最後は俺なのだが……
「拓馬、お前……」
「ん?俺のプレゼントが凪に当たったのはラッキーだな!」
げんなりしている俺の手には、赤本があった。
しかも、『東京大学』通称『東大』と呼ばれるところだ。
俺の本棚に一生手をつけることが無い、参考書が置かれることになってしまった。
◇
料理とプレゼント交換を楽しんだあと、月音お手製のクリスマスケーキを食べることになった。
切り分け、実食……のところで――
「待ちたまえ、男子諸君」
急に立ち上がった桜に注目が集まる。
嫌な予感がする……。
「なんだよ桜、美味しそうなケーキを前に待てると思うか?」
「ふっふっふ……佳奈ちゃん、月音ちゃんおいで!」
否応もなく引っ張られていく月音を、俺は不憫に思いながらも見送った。
「なんだと思う?」
「……さぁな」
しばらくすると、月音だけ先に帰ってきた。
「??雨宮さん、佳奈と桜は?」
「……も、もうすぐ来るよ?」
「ふぅん?ケーキは待ってた方が良いか?」
「待ってあげた方が良いと思うな……」
~五分後~
「メリークリスマス!桜サンタです!」
「メリ~クリスマ~ス!佳奈サンタです~」
「名前どうにかならなかったのかよ……」
ノリノリで部屋に入ってきた桜と佳奈は、事前に買っておいたサンタのコスプレ衣装を着ていた。
肩をさらけ出し、ギリギリ膝上のスカートという、部屋が暖かいからこそできるコスプレだ。
「どう?可愛くない??」
桜がスカートの裾を摘んで少しだけ持ち上げると――
「うぉぉぉぉぉ!!可愛いぃぃぃ!!」
アイドルの推しを前にしたオタクの様な雄叫びを上げる拓馬。
素材が良いだけに、可愛いと認めざるを得ない。
「月音ちゃんにも着てもらいたかったのにな~」
「無理無理!恥ずかしすぎて着れない!」
月音が衣装を着なかったことに安堵している俺がいる。
「コスプレ衣装の私たちを見て~、手作りケーキも楽しめて~、一石二鳥だね?」
「ふふん!今年は最高のクリスマスになったね?」
「ありがとうございますっっ!!」
ソファに座ってニヤニヤと笑う二人。
その前に跪いて両手を合わせる拓馬。
俺は一体何を見せられているのか……。
一連の謎イベントを経て、ようやくデザートにたどり着いた。
料理のみならずデザートまでも絶品だった。
俺と同じ感想をみんなも持ったらしく、月音を称賛する言葉が飛び交う。
月音は微笑みで応えていた。
◇
クリスマス会が終わり、皆が寝静まった夜中。
俺は、なかなか寝付けず一人でリビングにいた。
拓馬は寝る寸前まで、興奮がさめやらぬ様子で騒いでいたが、今はぐっすりだ。
参考書をテーブルに重ね置き、一ページずつめくっていると、静かにドアが開かれる。
ビックリしてそちらを見ると、月音が立っていた。
「リビングに明かりがついてたから、消し忘れたかとおもったけど……凪だったんだ」
「びっくりした……起きてたのか?」
「寝る前にお水飲みたいなって……二人は寝ちゃってるけど」
俺の横に座って水をちびちび飲み始める。
「なんの本読んでるの?」
「キャラクターデザインの参考書」
「キャラデザってやつ?意外だね」
「最近触れることがあって……興味湧いたから」
ページをめくる音、時計が時を刻む音、二人の衣擦れの音。
静かな時間が流れていたが――
「そうだ!」
何かを閃いた様に部屋を飛び出す月音。
しばらく待っていると――
「ど、どうかな……?」
サンタのコスプレをした月音が頬を染めながら、胸の前で指を絡ませながら俺に聞く。
そんな事聞かなくたって――
「可愛いよ……」
「ふふ……喜んでくれたみたいで良かった」
その衣装のままストンと隣に座る。さっきよりも、ずっと近い距離で……。
俺の空いている左手にゆっくりと指を絡ませてくる。
手は握ることはできるが、それ以上のことは出来ないだろう。
邪な考えを振り払うように、参考書に意識を集中する。
「…………凪」
「ダメだよ、今は――」
甘く切なげな声にやや心が揺らぐ。
諭すように顔を向けると、瞳を潤ませた月音が俺を見上げている。
俺の理性の壁はあっという間に崩れた。
キスをしつつゆっくりとソファに寝かせる。
誰かが起きてくるかもしれない……という考えは、すでに頭の中に無かった。
止まることなく俺たちは恍惚に身を任せた。
◇
「はよ~……ん?どうした凪、寝不足か?」
「なかなか寝付けなくてな……」
「逆に快眠しちまってごめんな」
「俺の問題だから、気にするな」
朝から桜と月音の作った朝食を堪能し、少し談笑をしたあと、解散した。
玄関まで見送りをして、月音が背中を向けた瞬間に、首元から微かに見えた絆創膏にドキリとする。
「や~楽しかったね~来年もやりたいね!」
「来年は受験生だしな、皆が落ち着いてたら良いかもな」
「よし!頑張るぞ!……ところでさ」
「ん?」
「お兄ちゃん首元の絆創膏どうしたの?怪我した?」
「……寝てる時に引っ掻いたみたいなんだ」
「ふぅん?気をつけなきゃダメだよ?」
軽く注意し、身震いをし家の中に戻った。
(明日から、また頑張らないとな)
今年の少し激しめなクリスマスは終わりを迎えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第二十六話「クリスマス会」
ご覧いただきありがとうございました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます