第31話「六年ぶりの再開」

「凪兄はわたしのこと覚えてる?」


 抱きついたまま、少女は上目遣いで尋ねてくる。

 外見だけ見たら、本当にわからない。

 けど、俺を『ナギ兄』と呼ぶのは――


はな……か?」

「思い出してくれて良かった〜!」


 グリグリと俺の胸に頬を擦り付ける様子を見て、少しずつ過去の記憶がよみがえってくる。

 懐かしさに浸りつつあると、クィクィと袖を引っ張られた。


「凪?場所変えたほうがよくない……?」


 周りを見ると、下校してくる生徒の注目の的になっていた。

 月音と付き合ってることは、新一年生も例外ではなく、学校全体が周知している。


 すでに遅いとは思うが、慌てて駅の近くのカフェに逃げ込むように入店する。

 適当に注文を済ませ、いったん気持ちを落ち着けると――


「えっと……月音?この子は、俺の従姉妹の如月華きさらぎはなだ。妹じゃない」

「てっきり桜ちゃんの他に妹がいるのかと思ったよ……」

「昔から慕ってくれてるだけだよ」


 簡単に紹介を済ませ、今度は華に月音の紹介をしようとすると――


「大丈夫!雨宮月音先輩でしょ?みんな知ってるよ〜」

「そ、そうなの……??」

「三年生にめちゃくちゃ可愛い先輩がいるって男子たち騒いでたからね!」


 その情報を聞いて、月音そっと俺のスラックスの裾を掴む。

 知らない男たちから関心を寄せられるのは、苦痛だろう。


「それにしても、小学生ぶりか?」

「ナギ兄は知らないだろうけど、中学生のとき一回会ってるよ?」

「そうだっけ?記憶にないんだが……」

「あの時、ナギ兄すっごく怖かったから、話しかけなかったんだ……さく姉とは話したけど」


 その話を聞いて申し訳なくなった。

 中学生の俺は荒れてたしな……。


「でも、この高校にいるのは知らなかったし、ナギ兄の他にさく姉もいるなんて!」

「昔っから桜のこと好きだよな」

「二人とも好きだけど、一番はナギ兄だよ?」

「はいはい」


 小悪魔のような笑みを浮かべる華を、手で払うようにあしらう。


「しかも、超絶美人な彼女なんかつくってさ〜」


 視線を俺から月音に向ける。

 標的が月音に移ったと確信し、俺は紅茶に口をつける。


「いや……それほどでも……」

「ありますよ!!ちなみに、雨宮先輩ってハーフですか?」

「うん、ロシアと日本のハーフだよ」

「へぇ……ロシアの……どおりで……」


 一点を見ながら、なにかを納得したような顔をする。


「えと……なに?」

「いえ、なんでも……先輩ってナギ兄と付き合ってるんですよね?」

「うん、付き合ってるよ」

「どこに惚れたんですか?」


 止めようとしたが、少し遅かった。


「か、かっこいいところ……」

「ナギ兄は確かにかっこいい!」

「他の人とは違って大人びた雰囲気がすき」

「わかります!高校生になってから、より深みが増した気がします!」

「甘やかしてくれるところも好き!」

「女の子を甘やかしてくれる男性って良いですよね!」

「ストップだ、月音」


 雰囲気に深みが増すってなに?俺はコーヒーなのか?

 華の相槌のせいで、だんだん勢いが出てきた月音を止める。


「ね!今度、遊びに行こうよ!久しぶりにちゃんとさく姉に会いたいし!」

「まぁ、休日なら良いけど……」

「雨宮先輩も来ますよね?」

「ん〜……さすがに遠慮しとこうかな?いとこ同士で楽しんできて?」


 勢いに押され、つい頷いてしまったが……あとで、桜にも話しておこう。


 思いのほか時間が経ってしまっていたため、会計を済ませて外にでる。

 現在、十七時なので一時間ほど、話していたことになる。


 いつも通り、駅の中に月音が消えるまで見届け、俺も家路につく。

 ――のだが、


「で、華は帰らないのか?」

「わたし学校の近くのアパートだから、さく姉に会ってから帰りたい!」

「俺の家と結構近いな、桜も喜ぶだろうし、暇ならいつでも遊びに来ればいい」

「うん!そうさせてもらう!」


 その夜は、桜を含め昔話に花を咲かせることになった。


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第三十一話「六年ぶりの再会」


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