第36話「ひと段落」
――十一月
夏が終わり、季節は冬に差し掛かる。日を追う事に、周りの空気のピリつきが増し、わたし自身も落ち着かなくなる。
一週間前に桜ちゃんの推薦入試が終わり合否判定待ちになった。
推薦組は残すところわたしだけになった。そのわたしも……泣いても笑っても今日で一区切りがつく。
「受験票……学生証……筆記用具……良しっ大丈夫!」
昨日から何回数えたのか分からないほど、念入りに確認する。頑張って準備したのに、忘れ物一つでダメになったなんて笑えない。
時刻は、朝の六時半。
緊張で目が覚めてしまい、早めに準備を始めたのだが……。身なりを整える程度なので、大した時間も潰せなかった。
姿見の前に立ち、人差し指で口角を上げ――
「笑顔だよ……大丈夫……」
目の前の緊張が前面に出ている少女に、わたしは言い聞かせる。
ヴーッヴーッ
机に置いてある携帯がメッセージの受信を知らせる。
画面には、LINEグループに桜ちゃんや佳奈さん、神宮寺くんから激励のメッセージが届いていた。
「ありがとうね、みんな」
返信とは別に、口頭でも伝える。
携帯を置こうとしたら、再び携帯が震える。今度は少し長めだった。
画面を見てみると――
「っ!?」
凪からだった。しかも……電話?
なぜか、別の意味で緊張してきた……。
震える指で画面をタッチする。
『おはよう、今大丈夫だった?』
「お、おはよう!大丈夫だよ!久しぶりだね」
『あんまり連絡できなくてごめんな、今日本番だったよね』
「う、うん……」
『緊張してる?』
「し、してるよ!当たり前じゃん」
画面の向こうから、クスクスと笑う声が聞こえる。つられてわたしも笑ってしまう。
『月音なら平気だよ、頑張ってな』
「ありがとう!頑張るよ!凪も頑張ってね?」
なんてことの無い会話だったけど、不思議と緊張はほぐれていた。
そろそろ、良い時間なので向かうとしよう。
「行ってきますっ!」
無意識に気合いが入っていたのか、少し語気が強まってしまった。
◇
「はぁぁ〜終わった〜」
「よしよし、頑張ったね〜」
「ありがとう〜」
テーブルに突っ伏したわたしの頭を、佳奈さんが優しく撫でてくれる。
夏休み中に、こんな光景見た気がする。
デジャブを感じつつ、かなさんの善意百パーセントの施しを受ける。
「とりあえず、これで全員一区切りついたわけか!大変だったよな〜」
「合否判定はまだだから、気は抜けないけどね」
「それでも、終わったんだし、ゆっくりしようぜ」
「それもそうだね、なんか食べよ〜」
桜ちゃんと神宮寺くんが、仲良くメニューとにらめっこを始める。
わたしもなにか食べよう。今までにないくらい空腹だ。
「そういえば、凪からは何も無かったの〜?」
「佳奈さん達から連絡来たあと、凪からもきたよ」
「あ〜わたし達の見えないところで、イチャイチャしてるんだ〜アツアツだね〜」
「そ、そんなんじゃないよ!普通に頑張れって応援されただけだよ!」
「はいはーい」
絶対にわかってない気がする。
「そーいえば、月音ちゃんと佳奈ちゃんは、年末帰るの?」
「受験のことで頭いっぱいだったから、なんも考えてなかったよ〜」
「わたしも、そんな余裕なかったな……どうして?」
「二人が良ければ、一緒に年越しして初詣行きたいな〜って思ったり……」
いつも、家族や親戚と年越しするのが当たり前だったから、その申し出は嬉しかった。
佳奈さんも乗り気なようで――
「良いじゃん〜やろうよ〜」
「わたしもやってみたいな」
「やった!全員合格してますように〜!」
桜ちゃんは、両手を合わせてスリスリと神頼みを始める。
神頼みが通じたのか、わたしたちは無事に第一志望に合格することが出来た。
後は、凪ただ一人だが……。
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第三十六話「ひと段落」
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