第37話「一難去って」

 ――十一月の中間


 今日は試験当日。

 通常より早めに起き、いつものランニングと筋トレの日課をこなす。


 シャワーを浴び、最後の確認を済ませる。

 前日に確認しているが、念には念を……だ。


 今まで気を張って過ごしてきた反動なのか、桜は八時近くになっても起きていなかった。

 簡単に朝食を済ませ、九時になったため階段を降りると、寝起きの桜と鉢合わせた。



「おはよ〜……今日も学校??」

「おはよう、いや、今日が試験だよ」

「え!?今日なの?なんで、教えてくれないのさ!」

「ごめん、自分のことで頭いっぱいだった」

「も〜」



 よほど、不満だったのか、ポヤポヤした表情からふくれっ面に変わってしまった。



「ごめんって」

「ん〜許す!頑張ってね」

「ありがとう、頑張るよ」

「ん!」



 桜は両腕を前に突き出し、何かを待ってる。



「なに?」

「小さいときやってた、おまじないやってあげようかなって」

「そんなもん幼稚園の話だろ」

「効果あるかもよ?ほら、時間無くなっちゃうよ」



 軽くため息をつき、桜の両腕の中に収まる。俺と桜は幼少期から、緊張をほぐすおまじないとして、ハグをすることがあった。

 緊張はしていなかったが、悪くない気分だった。

 なんて思っていると、ありえないほどの力で締め付けられた。



「痛い、痛いから」

「ちっちゃい頃と同じこと言ってる〜」



 ケラケラと笑いながら、パッと俺を解放する。



「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

「あぁ、行ってきます」



 駅の中で携帯を見ると、拓馬や佳奈、月音からメッセージが入っていた。

 少しだけ、頬が緩んでしまった。



 ◇



 数ヶ月前までお世話になっていた『東洋ゲーマーズ』を訪れる。

 エントランスにいる受付に、名前と学校名を伝え担当が来るのを待つ。



「お、噂をすればだ」



 聞き馴染みのある声の方を向くと、八神さんと狼谷かみやさんが、コンビニの袋を片手に、こちらに歩み寄ってくる。



「おはようございます」

「おはよー、ちゃんと寝れた?」

「はい、グッスリでしたよ」

「あんまり緊張してなさそうだね」



 自然体の俺を見て、安心して笑う八神さんに対して――



「相変わらず澄ましてんなーナギ」

「いや、澄ましてないですよ?これが、自然体です」

「あれからどうだ?少しは前向きになったか?」

「はい、おかげさまで。まだ、課題は残ってますが……」

「んなもん、ゆっくりやってきゃ良いんだよ」



 狼谷さんは面倒くさそうに手をヒラヒラと動かす。

 やっぱり、この人は面倒見が良いのだろうな。


 軽く談笑をしていると、人事部の女性が現れた。



「それでは、失礼します」

「リラックスして頑張っておいで」

「…………しっかりやってこいよ」



 二人に見送られ、俺は社内を進んでいった。



 ◇



 面接が終わってから一週間後、俺は先生から呼び出しをくらい、生徒指導室にいた。



「呼び出して悪いな」

「いえ、俺なにかしましたか?」

「ん?あぁ、呼び出した場所が悪かったな……これを渡したくてな」



 先生は俺に一通の封筒を差し出す。

 差出人は『東洋ゲーマーズ』の人事担当だった。

 開封してみると、そこには――



「合否判定でるの早すぎじゃ……」

「なに?もう結果が出たのか?」

「はい……」



 先生に『内定』の文字が記されている書類を渡す。

 しばらく、書類を眺めていた先生も――


「たしかに……本来はもう少し時間がかかるはずだが――ん?なにか書いてるぞ」



 再度、受け取りもう一度しっかり読んでみると――



『(仮)内定通知』

『この通知を受け取り後、一週間以内に本社までお越しください』



 なにかあるのか……?

 今日はやることがあったため、明日行ってみるとしよう。



 ◇



 翌日、俺は『東洋ゲーマーズ』の応接室にいた。

 案内してくれた、人事担当の女性曰く


『八神さんから説明がある』


 らしく、それ以外は詳しく教えてくれなかった。

 ドアがゆっくり開かれ、八神さんが顔を出す。



「待たせてごめんね」

「いえ、そんなに待っていません」

「ありがとう、さて、長話もあれだし、単刀直入に言うね」



 俺はゴクリと喉を鳴らす。



「君にはこれから最終試験に臨んでもらう」




 〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 第三十七話 「一難去って……」


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