第24話 「聖夜」

「映画の時間って何時だっけ」

「十四時からだな」

「早めに入ってゆっくりしてようか!」


 クリスマスデートは二人で楽しめるよう、話し合って計画を立てていた。

 月音つきねが映画好きだなんて知らなかった。


「アクション映画……好きなんだな」

「恋愛系も好きだけど、アクション系が一番好き!ワクワクするし、楽しいじゃん!」


 両手で握りこぶしを作り、エネルギーに満ち満ちている月音に苦笑を漏らしてしまう。

 予約していたチケットを購入し、席に着くと月音はパンフレットに穴が空くほど見ていた。


「楽しみだな」

「うん!」


 全身からワクワク感を漂わせ答える。

 次第に会場の照明が落ち始め、予告が流れた後に映画が始まった。


 ◇


「面白かったね!!」


 カフェの席の対面から、フンス、フンスと頬を紅潮させ俺に声をかけてくる。

 月音が楽しみしていた映画なだけあって、迫力あるシーンが多く胸が踊った。


「めちゃくちゃ面白かったな!特に、昔の主人公の相棒が敵として立ちはだかった時なんかもう……」

「わかるよ!ゾクゾクしちゃった!」


 パンフレットで口元を隠しながら、ルンルンと話し続ける。

 俺は話を聞きながら口元に紅茶を運ぶ。


 月音が楽しそうに話し、俺が耳を傾ける。

 俺らの空間だけ切り離されたかのように、穏やかな空気が流れる。


 機械的に紅茶を口に運んでいたせいで、味わうことなく紅茶は底を尽きてしまった。

 けど、それ以上の雰囲気を味わえたので、後悔はしていない。


 ◇


「スケート?」


 目の前のオープンスケートリングを前に月音が聞いてくる。


「結構人気みたいでさ、俺もやってみたかったし」


 俺の言葉を裏付けるように、広いスケートリンクはカップルで溢れかえっていた。

 受付で、スケート靴を借り、早速――


「うわっ!!」


 スケートを甘く見ていた。

 滑るどころか立てやしない……。


「大丈夫?ほら」

「あ、ありがとう……月音は上手だな、やったことあるの?」

「小学校でやってたんだ!身体は覚えてたから、余裕で滑れちゃう」


 俺の手を掴み、尻もちを着いている俺を器用に立たせる。


なぎは運動神経良いから、すぐ滑れるようになるよ」


 俺の手を握りながら、ゆっくりと滑り出す。


「凪~腰引いちゃダメだよ」

「わ、分かってるけど……」


 熱血的な指導のお陰で、だいぶ様になってきた気がする。

 それでも、月音の手から離れる事は出来ないが……。

 手を離すことを試みたが、力強く握られてしまった。


「月音?もう、離しても平気だと思う」

「えー?でも、周りは手を離している人達はいないよ」


 周りを見渡すと、みんな手を繋いだままだ。


(なるほど……これが人気の理由か)


 確かに、スケートなら自然に恋人と手を握る事が出来る。

 静かに納得して、俺も握る手に力を込めた。


 ◇


 スケートを充分に楽しみ、俺らはイルミネーションが綺麗な公園まで来ていた。

 イルミネーション点灯間近ということもあって、カップルが今か今かと待っていた。


「楽しかったね~!こんなに、楽しくスケートしたの初めてかも」

「楽しかったけど……くそ……痛い」


 最後の最後で派手に転び、月音に笑われてしまった。

 それでも、行ってよかったと思えることがあって――


「このまま来ちゃったね」

「周りからしたら、これが普通だから変に目立ってないな」


 俺らは、スケート後も手を繋いだまま公園まで来た。


「凪は、ずっと手が冷たいままだね~」


 月音は、俺の手をニギニギと確かめるように握り言う。

 それに、答えるように優しく握り返す。


「月音は温かいままだね、寒くない?」

「これ持ってきた!」


 モゾモゾと服の中をまさぐり、カイロを手渡してくる。


「確かにこれなら寒くないな」

「そうでしょ?じゃ、返して?」

「くれないの?」

「あげたいけど私が寒いから嫌~」


 カイロを自分の服の中に戻しながら、悪戯っぽく笑う。


「でもほら、手が冷たい人は心が温かいって言うじゃん?」

「それでいくなら月音は心が冷たい人になるけどな」

「私は心も身体も温かいカイロのような人間だよ?」


 カイロなら温まるために抱き締めても良いかと、考えたがやめておく。

 恋人を抱擁している姿は、ちらほらと散見されるが……。

 そんな煩悩に意識を奪われていると、ワッと感嘆の声が上がる。


「ね!ね!始まったよ!!」


 イルミネーションが順番に点灯され始め、最後にクリスマスツリーが盛大に輝きを放つ。

 無彩色だった公園が一気に色とりどりな輝きを放ち、その場の人間を魅了する。


「綺麗だ……」


 無意識に漏れ出た言葉に――


「そうだね……」

「こんなに綺麗なら、もっと早く来てれば良かった」

「え?凪も初めて?」

「初めてだよ、機会がなかったしな」


 公園内を歩き回り、色んな角度からイルミネーションを堪能した。

 自然と恋人繋ぎになっていたが、この時はお互い気付くことは無かった。


 ◇


 他のカップルがはけ始めるのを見て公園を後にし、月音のマンションの前に来ていた。

 俺の中では、ここでプレゼントを渡して解散……だと、思っていたのだが――


「ね、ねぇ……もう少し、一緒に居たいんだけど……ダメかな」


 頬を染め上目遣いでこちらを見る彼女を見ていると……この後の事が想像出来てしまい、心拍数が上がっていく。


「俺もまだ終わりたくないって思ってたから……部屋でゆっくりしようか」

「うん!」


 久々に入った月音の部屋は、さほど変化はなかった。サメのぬいぐるみが仲間入りしていたくらいか。


 リビングのソファに座っていると――


「ケーキ買ってあるから食べようよ!紅茶も淹れてさ」

「良いね、紅茶は俺が淹れるよ」

「ありがとう!お願いね」


 二人でケーキを食べ、テレビを観ながらまったりと過ごす。

 家で二人きりで過ごすのも悪くないなと思っていると、いつの間に持ってきたのか――


「はい!凪にプレゼントです!」

「え?良いの?」

「もちろん!ただ、改めて考えると凪の好きな物って分からなくて……気に入らなかったごめんね?」

「いやいや、そんな事無いよ!ありがとう!開けても良い?」


 月音から許可を貰った事で、早速開けてみると――


「マフラー?」

「う、うん……学校とかで寒そうにしてたから」

「すごい嬉しいよ!ちょうど、最近買おうかなって思ってた所だったから」

「良かったよ……喜んでもらえて!」


 俺の言葉にホッとしたのか、緊張してた顔を弛緩させる。


「じゃあ、俺からも」


 クリスマス仕様の包装紙に包まれたプレゼントを手渡す。


「ありがとう!開けても良いかな?」

「どうぞ、気に入るか分からないけど……」


 丁寧に開封していくと――


「わっ!可愛い!」

「初めてデートした時に目に入って、月音に似合うだろうなって思ってさ」

「嬉しい……!ねぇ、凪が私につけてよ」


 ネックレスを受け取ると月音の首に手を回し、身につけさせる。

 月音は、トットットッと自室まで走っていくと――


「え、すごい可愛いよ!大事にする!ありがとう!!」


 どうやら、自室にある姿見で確認しに行っていたようだ。気に入って貰えたようで何よりだ。


 その後はテレビを観ながら、会話に花を咲かせていたが、不意に会話が途切れる。


 どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねる。

 一回二回とソフトに口付けをした後、今日はもっと深く踏み込んでみる。


「ん……んぅ……な、凪?」

「ごめん、少しがっつきすぎた」

「ん~ん、びっくりしただけ」


 今度は月音から俺の首に手を回し、舌を絡めてくる。

 何度も求め合い、次第に恍惚とした表情になっていく月音を見ていると、少しずつ理性に抑えが効かなくなってくる。


「えへへ……私からも沢山しちゃった、凪はもう満足?」

「満足……じゃない……!」


 ソファに押し倒し、キスをしながら髪を撫で、細く綺麗な身体の線をなぞりながら、ゆっくりと服の中に手を進入させる。

 双丘にたどり着く寸前で、俺の手を優しく掴み――


「や……凪……」

「……流石に早いね」


 少しばかりの不完全燃焼感を覚えながらも、身体を離そうとすると――


「場所……変えよ?」


 興奮を隠しきれないか細い声で、続きを求める。

 その夜、俺は今までよりも近い距離で月音を感じていた。


 ◇


「凪……好きだよ」

「なんだよ?改まって」

「ふふっ……凄く言いたくなった」

「そっか……俺も好きだよ」


 うっとりとした表情で伝え、月音は俺の手を握りながらスヤスヤとねむってしまった。

 俺はそんな月音の髪を優しく撫でながら、目を閉じる。

 そのまま、二人だと少々手狭なベッドで眠りに落ちた。


 ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 第二十四話 「聖夜」


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