誰にも懐かないはずの訳あり美女が俺にだけ懐いてるんだが?

水無月

プロローグ

 桜が満開に咲き誇る中迎える入学式。

 新たな出会い、新たな生活の幕開けに色めき立つ生徒を横目に、俺は自分の教室に入り席に着く。


 出来れば、窓側の席が良かったが苗字の都合で真ん中寄りだ。


 入学式は滞りなく無事に終わると今日はそのまま解散、そして、明日から授業が始まる。


「なぁ、皆!今日は親睦会をやらないか?一年間一緒に過ごすんだしさ!」


 俺の中学からの親友、神宮寺拓馬じんぐうじたくまが声を上げる。

 ノリが良い生徒が多かったため――


『良いね!やろうよ!』

『何やる?無難にカラオケとか??』


 と、賛同の声が上がる。


 結局、親睦会はカラオケに決まり、各々がグループを作って向かっていった。

 俺だけは、未だに自分の先に座ったままだった。

 そんな俺に拓馬は――


「凪!親睦会どうする?」

「ん〜……俺は良いや……そんな気分じゃない」

「……そっか、まぁ……!俺から適当に伝えとく!」

「んじゃ!また、明日からよろしくな!」


 そういって教室から出ていく。

 風で桜が舞う様子を眺めていたら、あっという間に時間が経ってしまっていた。

 といっても、三十分程度なのだが、いつまでも学校に残ってる理由もない。


(そろそろ帰るか)


 そう思い教室から出る。

 何となく他クラスの教室の中を眺めながら帰っていると、一人の女子生徒が教室に残っていた。

 机に頬杖をつき外を眺めている。


 背景の桜に見劣りしない綺麗な銀髪。

 横顔からでもわかる整った顔立ち。


 無意識に彼女の居る教室に足を踏み入れていた。


 彼女に興味を持ったのか……

 それとも、彼女の物憂ものうげな横顔を見てしまった為に自分の悪い癖が出たのか――


「ねぇ……こんな時間まで残ってな――」


 机二つ分の距離まで近づいた時に、不意に彼女がこちらを向き俺を見る。

 明らかな拒絶の目。

 まるで『これ以上私に近づくな』と言っているかのような……


 踏み出しかけた左足を後ろに一歩二歩……と下がり机三つ分まで離れたところで、ようやく緊張と警戒を解いてくれた気がした。


「ごめん、何してるのか気になったから……で、何してたの?」

「貴方に言う必要ある?」


 透き通るような綺麗な声。

 だが、それとは裏腹に拒絶の色が混じっている。


「……たしかに無いな、邪魔して悪かったよ」


 そう言い教室から出ようとすると――


「親睦会行きたくなかったから、こうして時間潰してる」

「そっか、同じだな」

「……え?」

「俺のクラスも親睦会をやる事になって、行きたくないから時間潰してた」


 そう、

 そして、視線を背後へ――


「桜は綺麗だよな」

「そうだね、私も桜みてた」

「綺麗なものは好きだよ、心が穏やかになる」

「それわかるかも」


 会話も終わったので当初の目的通り帰ることにする。


「ねぇ、待ってよ」

「ん?なに?」

「貴方……名前はなんていうの?」

東雲凪しののめなぎだ。東の雲と書いてしののめと読む」

「珍しいね?初めて聞いたよ」

「よく言われる、覚えやすいだろ?」

「そうだね、すごく覚えやすい」


 その後、俺はしばらく考え――


「君の名前は?」

雨宮月音あめみやつきね、よろしくね」

「うん、こちらこそな」

「じゃあ、雨宮さん」


 彼女は悩む素振りを見せる。

 俺は返事を待たずに教室を出ると、小さな声で――


『うん、またね東雲君』


 と、聞こえたが俺は振り返らなかった。


 これが俺と雨宮月音の出会いであり、最初で高校一年生最後の会話だった。


 雨宮月音とは、もう関わることも無いだろうと俺は思っていた。


 一年後、同じクラスになるまでは――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 プロローグ


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