第3話 そんな風に笑うのか
金曜日、俺が家に着いて数分後に
『時間は十時半、場所はのぞみ町の駅前で』
と、土曜日に連絡が来た。
男に対して苦手意識を持っていると認識していただけに誘われた事に驚いた。
当日、準備をしていると
「お兄ちゃん?珍しくお出かけ?」
「うん。友達と遊んでくる」
「そんなお洒落までして……まさか!デート!誰と?!」
「そんなに驚くか?デートか分からないけど……雨宮さんだよ」
「……へ?雨宮さん?」
予想外の人物だったのか呆気に取られていた。
最近仲良くなったことを伝えると
「何となくわかったけど……意外だな〜雨宮さん男の子と話してる所一回も見た事ないからさ」
「俺も見た事ないよ、ただ、せっかく仲良くなれたんだし楽しんでくるよ」
「わかった!楽しんできてね!私は、佳奈ちゃんと遊んでくる!」
そう言って桜は部屋に走っていった。
時間に余裕はあるが、妙にソワソワするので早めに出ることにした。
のぞみ町は最寄りの駅から三駅離れている町で娯楽施設やデパートなどが充実している。遊ぶには持ってこいの場所だろう。
待ち合わせ時間の十分前に到着し、周りを見渡すと遠くに雨宮さんが見えた。
声をかけようと近くに寄ろうとした時、雨宮さんは急にしゃがみこんでしまった。
体調が悪いのかと思い、慌てて近寄ると
「猫さんこんにちは!いい天気だね〜」
(ん?猫さん?)
少し距離をとって見てみると、野良猫と戯れているだけだった。猫の扱いに慣れているのか、喉や頭を優しく撫でている。人に慣れている猫みたいで逃げる素振りも見せない。
「君はここが好きなんだね?よしよし、もっと撫でてあげよう!」
待ち時間にも余裕はあるので、あえて話しかけず近くに美味しそうな生フルーツジュースのお店があったので、そこに立ち寄ることに。
テイクアウトして先程の場所に戻ると、まだ戯れていた。しかも、猫と銀髪美少女という組み合わせはめちゃくちゃ目立っている。ただ、当の本人は気にもとめず
「今日はね〜
ニャー??
「男の子は苦手なんだけど、東雲君は不思議と嫌な感じがしないんだ、なんでだろう?君はわかる?」
ニャっ!!
「人間の言葉は難しいか猫語なら分かるかな?」
「ニャンニャニャニャーン?」
「ごふっ!」
盛大にむせた。その音にびっくりしたのか、猫は逃げ出してしまった。
幸か不幸か猫は俺の方に向かって走ってきたので、猫を目で追っていた雨宮さんの視線は必然と俺の方に向く。目が合ってしまった。
恐らく、一部始終を見られたことを悟ったのだろう。
顔を赤くしながら俺の方に近寄ってくると
「……ねぇ、いつから居たの?」
「雨宮さんが猫に話しかけたあたりからかな」
「〜〜〜っ!」
恥ずかしさのあまり顔を押えて悶絶してる。
なんていうか、結構レアなものが見れた気がする。
キッ!っと俺を睨みつけたあと、俺が手に持ってた生フルーツジュースを奪い取って、飲みながら歩き出す。
「ごめんって、誰にも言わないからさ」
「当たり前でしょ!絶対に言わないで!」
「猫好きなんだ?」
「………好き」
まだ、頬を
歩きながら改めて彼女を見る。
白色のブラウスに薄いミントグリーンのフレアスカートにスニーカーという可愛らしい服装だ。
「今日の服装可愛いね、いつも私服はこんな感じなの?」
「いつもはもう少しラフな格好だよ、友達と遊ぶんだからこれくらいするよ」
なんてぶっきらぼうに答えるが、褒められて悪い気はしないのか少し雰囲気が明るくなる。
それはそうと……
「そのジュース美味しいよね」
「うん、美味しい!どこにあったの?」
「駅前にお店があったからテイクアウトで買った」
「その口ぶりは前に飲んだことあるみたいね」
「前っていうか……さっき初めて飲んだけど」
「……え?さっき??」
雨宮さんは自分が持ってるジュースに刺さってるストローと俺の口を交互に見て、段々と顔が赤くなる。彼女の表情がさっきからコロコロ変わるもので、見ていて飽きない。
そう思ってると、持ってたジュースをズイッと俺に突き出し
「か、返す!ごめん、飲んでるって知らなくて……」
「いや、返さなくていいよ、俺は満足してるから」
「で、でで、でも……これって、関節キ」
「恥ずかしくなるから言わなくていいって……そのまま、飲んでいいよ」
そういうと大人しくジュースをすすりだす。
「そういえば今日は何処に行くの?行きたい所があるって言ってたけど」
そう聞くと雨宮さんは口では答えず、スっと前方を指さした。指さした先には
『catカフェ』
というカフェがあった。
ドアの取っ手が猫の手になっており、その他にも店の外壁には、色んな種類の猫のシルエットが散りばめられており、簡単に猫カフェだとわかる。
「噂では聞いてたんだけど、一人でカフェって入りにくくてさ……良いかな?」
「良いよ、俺も初めてだから楽しみだよ」
「ありがとう!」
そう言うと雨宮さはお店に入っていった。続けて俺も入ると
「「「「にゃーー!!」」」」
猫が盛大に出迎えてくれた。猫カフェは初めてきたが……凄いな。
店員さんに席に案内され各々注文を終えると、待ち構えていたかのように猫の波に飲まれる。
膝に乗ってくる猫もいれば、足にすり寄ってくる猫、遠くから見つめる猫と様々だ。
「見てみて!東雲君!この子すっごいモフモフ!」
「ラグドールっていう猫で名前はアクア君らしいよ」
席のテーブルには猫の種類と名前が記されたカードがあった。20匹は居るであろう猫全員の名前が記されてあって、覚えるのも大変そうだ。
俺の膝に乗ってるアメリカンショートヘアーの子はジルって名前らしい。
「君はユキちゃんか〜女の子なんだ!可愛い〜♡」
(雨宮さんはそんな風に笑うのか。以前見た控えめな笑顔とはまるで別人だな)
注文していたレモンティーとアイスティーを少しずつ飲みながら、俺と雨宮さんは猫カフェを思う存分堪能した。
猫カフェを出るとお昼時だったので、近場のレストランに入り食事を済ます。
その後、この街でいちばん大きいと言われるショッピンモールで散策することに。
色々なお店を回っている途中、雨宮さんが一つのお店をチラチラ見てることに気付いた。
「次はあそこのお店行ってみない?」
「うん!私もあそこ気になってたんだ〜!」
そうして、提案したアクセサリー店へ入ると中は凄い
今日イチで忙しなく動いている気がする。
そんな中、俺はショーケースの中に入っている一つのネックレスから目が離せなかった。
(あのネックレス雨宮さんに似合いそうだな)
色味はシルバーで月をモチーフにしているのだうか。三日月の形をしていてその間に小さな宝石が装飾されていた。
近寄って値段を見てみると
(に、二万??流石に手が出ないな……)
改めて見るとすべての商品が良い値段だった。
調べてみると有名なお店で、静かに納得した。
「東雲君!ちょっと、こっちきて!」
そう呼ばれたので行ってみると
「このブレスレット東雲君に似合いそうだよ!」
「俺に?」
「うん!あんまりチャラチャラしてる物は好きじゃなさそうだから、控えめなやつ!」
「確かに……結構好きかも」
雨宮さんが指さしてるアクセサリーは、確かに余計な装飾も少なく色味もシルバーで俺好みだ。
俺もさっきまで似たような事を考えていたからか、少しだけ嬉しくなる。
「あ〜……でも、結構値段するね」
「ここ有名なお店らしいぞ」
「内装もオシャレだし、取り扱ってるものも凄いからそうだろうなって思ってたけど……」
その後も、お店全体を見て回って退散した。流石に、買いもしないのにずっといるのは申し訳ない。
時間は既に夕方になっていて、楽しかった時間は終わりを告げようとしていた。
帰るために使う駅は一緒なので、駅に向かいがてら今日のデートの感想を言い合っていると、急に雨宮さんの様子が一変した。
視線を前に固定したまま動かない。徐々に顔から血の気が失せていく。
視線の先に目をやると、コンビニの前に男二人女一人の計三人の学生がいた。見た目が派手な服装をしている三人で、距離が離れているにも関わらずここまで声が聞こえる。
視線を戻すと先程よりも顔色が悪い。
原因は明白だった。
(まずいな……とりあえず、ここは通れないから迂回して駅を目指すしか無いな)
そう思い、彼女の視線を遮るように立つと
「雨宮さん、迂回しよう。他の道からでも駅に――」
「あれぇ〜?もしかして、そこにいんの月音か?」
……………遅かった
先程の三人は、こちらに気づくと大股で歩いてくる。前を歩いてきた男は茶髪に染めたロングヘアーで耳にピアスを開けていた。俺の事を上から下まで値踏みするように見ると
「久しぶりの再会なのに挨拶もなしか??で、そいつは高校に入って何人目の彼氏だ?」
高圧的な態度。雨宮さんを舐め回すように視線を向ける。まるで、捕食対象を定めた肉食獣のような視線。
後ろの二人に目を向けると、目の前の高圧的な男と比べて随分と控えめだった。
雨宮さんは、先程よりも怯え顔は恐怖一色に染まっていた。
「聞こえなかったか?何人目だよ??」
「俺たちは付き合っていないし、彼女は高校に入ってから誰とも交際していない」
「お前に聞いてねぇよ、だれだてめぇ」
そう言うやいなや、間に入っていた俺を突き飛ばし雨宮と相対する。
男はニヤァと気味の悪い笑顔浮かべると
「昔みたいに一緒に遊ぼうぜ?可愛がってやるからよ。もう、デートは終わりだろ?来いよ」
「い……いや……行かない……です」
「はぁ??白けさせるようなこと言うなよ。おい、彼氏さん月音のこと貸してくれねぇか?」
静かに見ていた俺に話の矛先がむく
「お断りします。まだ、終わってないので」
「こんな時間で終わってねぇとか……どうせ、この後なんてただヤルだけだろ?」
「俺たちはそんな仲じゃありません。撤回してください」
「純粋な恋愛をしてます〜ってか?」
男は意味ありげな笑みを浮かべると
「なら、月音が今までしてきたこと彼氏さんに教えてやろうぜ?どうせ話してねぇんだろ?」
「ダ……ダメ……言わないで……」
「なら、来いよ?今日してきたデート以上に楽しいことしようぜ?」
「…………わ、わかり……ました」
雨宮さんは俺に泣きそうな顔で
「東雲君……今日はありがとう……また、学校でね」
「じゃーな、彼氏さん。月音借りてくわ」
頭は冷静だ。だけど、心の中はマグマのような感情が今にも吹き出しそうだ。それ以上に、雨宮さんにあんな表情をさせてしまっている自分が情けない。守らなければ……何がなんでも。
そう思うと、雨宮さんの手を掴み自分のところに引き寄せる。不意な出来事に、男に対して苦手意識を持ってる雨宮さんは体を強ばらせるが、優しく頭を撫で
「大丈夫」と伝え、俺の後ろに隠し、先程からずっと「観察」していて気付き始めたことを口にした。
「おい……なんだ?彼氏じゃねぇならそのまま引き渡せよ」
「メッキはいつか剥がれるぞ」
「……は?なんだお前」
「そんな小さな自尊心を守るために、他人を脅すのか?そんなに、自分をよく見せたいか?そんな事してるといつか痛い目にあうぞ」
その瞬間視界が反転する。左頬が熱い、口の中に血の味が滲む。
「東雲君!!」
雨宮の悲痛な叫びが聞こえる。顔は殴られた反動で背けているが目だけは、ずっと男を捉え続ける。
それが、気に食わなかったらしい。
「なんだ?その目は……もう一発ほしいのかぁ!!?」
「本郷君!もう、やめといた方がいい」
後ろにいた男が本郷という男に声をかける。周りを見てみると、色んな人達が遠巻きに俺たちを見ている。悪い意味で目立ちすぎている。
「チッ!冷めたわ〜行くぞお前ら」
そういうと、本郷は二人を連れ立って人混みに消えていく。去り際に本郷は俺の事を睨んでいたが、後ろの二人は気まずそうに俺らを見ていた。
「さて、帰ろうか?嫌かもしれないけど、家まで送っていくよ」
「………………」
そう優しく言うと、静かに頷き、俺の服の裾を弱々しく掴み静かに歩き出した。
雨宮さんの家は、のぞみ町から駅一つ分の場所にあり、しっかりしたマンションだった。
「後は部屋に入るだけだし、防犯もしっかりしてそうだから俺はここまでだね。その……明日学校で」
「いや……行かないで……今は……一人にしないで……」
そう、声を震わせながら、強く俺の服の裾を掴む。その後、雨宮さんの提案で部屋にお邪魔することになった。親御さんになんて挨拶をしようなどと考えていたが杞憂だった。
―― 一人暮らしだったか。
雨宮さんをソファに座らせ、俺は床にあぐらをかいて座る。
五分……十分……と、時間が経った時
「私ね……中学の頃虐められてたんだぁ……」
そう、泣きながら彼女は自らの苦しい過去を話し出した。
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