修学旅行編

第11話 もしかしたら……

 夏休みも終わり新学期初日。

 毎日気温が三十度を超えるという炎天下の中、俺とさくらは肌を焼かれながら学校に向かう。


「クソあちぃ……」

「あぁ……溶けちゃうよぉ……」


 やっとの思いでたどり着き、クーラーが設置されてる自分の教室へ逃げ込む。


 机に突っ伏しながら身体を冷ましていると、肩をポンポンと叩かれる。

 振り向くと月音つきねが立っていた。いつの間に……

 俺が月音の胸の中で泣きじゃくるという、醜態を晒した後、予定が合わずあれ以来月音には会えていなかった。


「おはよう!凪、体調悪いの?」

「この炎天下に負けたんだよ……暑いの嫌い」

「確かに、毎日暑いもんね?そうだ、これあげるよ」


 と、鞄から小さな銀色の袋を取り出した。

 それをビリッと破き、俺の頬にくっつける。

 ものすごくヒンヤリとしていて、ビックリしたが直ぐに慣れ気持ちよく感じてくる。


「なにこれ?」

「冷感剤入りのウェットタオル、一時間は冷たいままだと思うから使いなよ」

「でも、月音の分は……」

「予備で何枚かあるから平気!じゃ、後でね」


 そう言って自分の机に向かった。

 普通に話せた事に安堵している自分がいた。

 俺と月音が付き合い始めて――という噂――結構経ったが、教室の中でちゃんと話すのは初めてだったので、やはり注目を浴びている。

 羨望や嫉妬など様々だ。


 そんな視線など何処吹く風の俺は、もう一つのに意識を向ける。



 ――昼休み


 俺は、拓馬たくまと屋上で弁当を食べていた。

 暑いのは嫌いだが、日陰で風もあるお陰で幾分マシだった。


「俺の聞き間違いかもしれん……もう一回言ってくれ」

「月音に告白された……けど、返事をしていない」

「お前が俺に相談があるって言うから、嬉しかったのに……」

「立派な相談だろ、俺は困ってる」


 拓馬はずっと項垂うなだれている。


「雨宮さんはわかりやすいけど、お前はどうなの?好きなの?」

「友達としては好きだ。けど、異性として好きなのかはよく分からないんだよ……」

「お前自身恋愛なんて全くしてこなかったしな……」


「よし!想像しろ!雨宮さんに男友達が出来たらどう思う??」

「普通に嬉しい。少しずつ克服してるんだなって思う」

「あ〜……じゃあ、その友達と二人きりで遊んでたらどうする??」


 想像してみる。俺と月音がしてきた事。俺の部分を他の誰かに入れ替える……


 モヤァ……


 なんか気分が悪い。


「嫌だ」

「それが答えだろ」

「う〜ん……」

「焦る必要無いだろ、ゆっくり考えろよ」

「はぁ〜ダメだ」


 そういって、弁当を置き身を後ろに投げ出す。


「それか、修学旅行で何か起こるかもな」

「あ〜そういえば、午後は修学旅行の班決めだっけか」


 俺の高校は夏休み明けて一ヶ月後に修学旅行がある。

 そのために、夏休み明けすぐ班決めを行い、それぞれの班が自由行動で回る場所を決めていく流れになる。


「クラス毎で班を作るらしいから、運が良ければ雨宮さんと同じ班になれるな」

「……そうだな」


 そう言って、俺はウトウトとしてきたので、そのまま眠気に身を預けた。



 ※※※


 拓馬と話した通り、午後は修学旅行の班決め兼自由行動の時に行きたい場所を決めることに。

 班決めは各々組みたい人と班を組めるらしく、先生の合図で教室が一気に喧騒けんそうに包まれる。


 月音に声をかけようとした俺の肩を何者かが掴む。


「ねぇ!シノ!私らと班作ろうよ!」


 俺をシノと呼ぶのは彼女しかいない……

 振り向くとニコニコともニヤニヤとも言える表情をした橘結愛たちばなゆあがいた。

 制服を着崩し、校則ギリギリの膝下までスカートを上げた正真正銘のギャルだ。俺と拓馬とは高校一年からの付き合いになる。


 ちなみに、東雲しののめからシノだけ取ってそう呼んでるらしい。

 奥を見ると、拓馬ともう一人女子生徒がいた。


「橘さん?悪いけど、俺組みたい人がいるんだよ」

「んー?誰々?シノ自らの指名は珍しいね!」


 答える前に先に声をかけようと月音の方を向くと、既に彼女は班を決め終えていた。

 しかも、男子も含めた班。

 まぁ、暗黙の了解なのか男二人女子二人の四人で組んでる所が多数だ。


「ごめん、やっぱ班に入れてもらっても良いか?」

「もち!でもごめんね、話しかけたせいで組みたかった人取られちゃったみたいで……」

「いや、平気だ」


 ちなみに、もう一人の女子生徒は篠原楓しのはらかえでという名前らしい。……。

 茶髪のセミロングで、なぜ橘さんと仲が良いのが不思議なくらい大人しい生徒だ。


 橘さんと拓馬のお陰で思ったより、盛り上がりつつもスムーズに話は進み、俺や篠原さんの意見も取り入れてくれつつ計画が組み上がっていく。


「まぁ、こんな感じか?別に今日だけで決めなくて良いらしいから、残りはまた今度だな」

「思ったよりワクワクしてきた! ね?楓!」

「うん!不安だったけど、一緒の班お願いして良かったかも!」


「凪……俺ら、モテ期来たのか?」

「修学旅行マジックって言葉知ってるか?」

「……やめろよ……夢を壊すなよ」

「それは悪い事をしたな」


 と、軽口を言いあっていると午後の授業を終えるチャイムがなった。

 放課後になったが、結局この日は月音と話す事は叶わなかった。


 それから、二日、三日と時間が経ったが、何故かタイミングが合わず話が出来ない事に、妙に胸がザワザワする。


「東雲君?今良い?」


 声をかけられハッとして顔を上げると、いつの間にか篠原さんが立っていた。


「平気だよ、なんかあった?」

「いや、今日の日直の当番私達だから日誌と提出物を集めて出しに行かないと」

「あ〜……そうだった、忘れてたよ」


 職員室に向かう道すがら篠原さんとは色んな話が出来た気がする。


「東雲君って結構お話するんだね」

「傍から見たら無愛想だもんな」

「無愛想?みんなクールで大人っぽいって言ってるよ?」

「それは……ただの勘違いだ」

「私も東雲君と話してみたかったから、修学旅行の班お願いしたんだ〜」

「俺も篠原さんとはから、話せてよかったよ」


 そうこう話しているうちに職員室まで辿り着き、仕事を終わらせた。

 職員室前で篠原さんと別れ、俺も学校を後にする。


(結局、今日も話せなかったな……)


 歩きながら考えてると、ふと、展望台へ続く道の前で足を止める。


「今、展望台に行ったら……居たりして」


 なんて、淡い期待をしながら階段を登っていく。階段を上るといつも通りの夕陽が迎えてくれる……


「…………え?」

「遅かったね〜待ちくたびれたよ?」


 月音はベンチに座って夕陽を見ていた。

 無意識に小走りになって月音の所に駆け寄っていく。


「まさか居るとは思わなかったよ」

「ふふっ凪が駆け寄ってくるなんて初めてだね?」

「…………別にいいだろ」

「学校で会ってたはずなのに久しぶりな感じがする」


 そこからは夕陽を見ながら他愛無い話で盛り上がった。

 さっきまでイライラしてたのが嘘みたいに消えていた。


「凪のツンツンした空気無くなったね」

「え?そんな空気まとってた?」

「してたよ〜神宮寺君からも話聞いてたし」

「は?あいつなんて言ってたの?」

「凪がヤキモチ妬いてるって」

「……確かに話せなくてイライラしてたかも」

「私の事大好きじゃん!」


 ここから月音の弄りが始まったが、不思議と悪い気はしなかった。


 お互い満足するまで話をして、月音を駅まで送る。以前まで当たり前の行動だったので懐かしく感じた。


「また明日な!月音」

「……うん!明日ね」


 俺から「また明日」と言うことは無かったので、一瞬驚いていた。

 けど、直ぐに笑顔になって俺より元気に返してきた。

 いつも通り彼女が駅の中に消えるまで見届けてから俺も帰る。


 たった数日で話せないだけで、こんな不安になってる事が俺は心配で仕方が無かった。

 けど、それと同時に胸の高鳴りを感じていた。

 もしかしたら…………これが、そうなのかな。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 第十一話「もしかしたら……」

 読んで頂きありがとうございます!

 次回は、修学旅行編に移ります!

 凪の心境変化の自覚と2人を取り巻く環境が一時的に限定される中で、どうなってしまうのか……


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