第23話イチャ度MAXワンピースと捩れた赤い女の子

 買い物が終わった俺たちは店外に立ち、まだ試行錯誤を繰り返す生徒会長たちを待っていた。

 頭へ、お揃いであるデカい水色のリボンがついたカチューシャをつけて。


「いや、あの流れでカチューシャもペアルックのストラップも買うんだ……おかしくね? 嫌つったよな?」


 両手で頭のカチューシャを弄っていた苺谷が、ピョンっと胸を揺らしてこちらを向く。

 

「それでイチャ度が低いぬいぐるみだけで、全身フルアーマーの二人が出てきたらどうするんですか?」

「ゔぅッ」


 全身お揃いのキャラ服を身につけ、頭にはスヌーピーの帽子を付けて出た生徒会長と加納。

 眩しかった笑顔が俺らを見るや否、恥ずかしさで苦笑いへ変わり、踵を返して返品する。

 そんな光景が容易に浮かんだ。


「確かに、イチャ度が低いと『自分たちだけテンション上がって恥ずかしい』そう思う……かもな」

「そうです、だから買わなきゃ駄目なんです!」


 おい、イチャ度なんて単語出されて平然と会話しちゃったけど。

 いつグッズにイチャ度なんてRPGぽいステータスが増えたんだよ。

 なに、装備したら周りからどれほどイチャイチャみえるかの指数とかか?

 いいな、ぜひ数値化して値札の横にでも書いててくれ。


「ふぅ、100歩譲ってグッズは良いとしよう」


 ぬいぐるみを脇に挟み、俺は渋々カチューシャは受け入れる。だが、


「このワンピースなんだよ、誰が着るんだよ?!」


 俺は彼女から押し付けられた青いフリルだらけのワンピースを広げ。これだけは理解できないと広げて抗議する。

 少なくとも苺谷と生徒会長は綺麗な服を着てるし、必要になるとは到底思えない。

 後はデートの主役が加納ってことを顧慮すると必然的に、

 

「そりゃ先輩に決まっているじゃないですかぁ〜。これはイチャ度MAXの神アイテムでふ」

「イチャイチャ通り越してキチガイアイテムの間違いだろ」


 適当なことをぬかす、苺谷の口をワンピースで塞ぐ。

 こんなの着てたら盛り上がる以前に距離を置かれ、デートのサポートどころじゃない。

 しかし、貰った手前で捨てるわけにもいかないし、返品が妥当か。


「先輩先輩、口紅ついたので返品も出来なくなりましたね」


 服を剥がし、店へ戻ろうとする背後から不吉な言葉が届き。

 俺はゆっくりと持っていた服へ視線を注ぎ、それを裏返した。

 押し付けた服の背中の部分、そこへは確かに薄っすらとピンク色の口跡。


「なんで……なんで口紅なんかつけてんだよ!」

「そりゃ女の子ですから、そもそも先輩が押し付けたのが悪いじゃないですか〜。もう着るしかないっすね!」


 クソっ、返品という手段が失われてしまった。

 家ならまだオークションで変態たちが欲しがりそうだが、今は一体どうするのが正解だ?

 ぬいぐるみもあるし、デートで持ったままなんてことは論外。

 しかし、貰った手前で捨てるわけにもいかない。

 かと言って、テーマパークにこんな口紅が付いたワンピースを欲しがる女の子なんて。


「馬鹿野郎がっ、USJ、USJだぞ!? スーツで来る奴がいるか? クソッボケがよっ!!」


 突然、USJの入り口付近から騒がしい女声が聞こえ。

 その声量の大きさに、自分たちの世界へ溶け込んでいたカップルでさえ振り返っていた。

 俺も見てみると道の真ん中、そこでピンク色でシャツワンピの綺麗なお姉さんが怒鳴り散らし。

 赤髪を片方だけ軽く結び編んでいる女の子が、うずくまってなすがまま蹴られていた。


「女の子カップルの喧嘩か?」

「あー、あんま関わらない方がいいですよ。今回の目的はあくまで生徒会長なんで」

「まー、そうだな」


 苺谷の言う通り、難癖つけられないために見てないフリをするのが安全。


「ネェネが赤い花柄とかで十分って言ったから着てきたんじゃん」

「うわッ、汚っねえッ!? 花ってか、誰かのあぶら汁が付いとるやないか!」


 赤毛の子が、スーツへ付いた醤油のような赤黒い4つのシミを指差す。

 それを見たおねぇさんは一層声を荒げ。うずくまる女の子の上着を掴んだかと思えば無理やり脱がし、


「メイド服でもなんでも着てこいやッ、ボケかすッ! 脱げオラァァアアッ!!」

 

 ズボンまで剥ぎ取るとこちら側へ蹴り飛ばしてきた。


 おいおいッ、勘弁してくれ。

 俺はもう手一杯なんだよ、わざわざこっちへ蹴り飛ばさないでくれ。

 しかも白ワイシャツ一枚だけとか、噂でしか聞いたことない恥姿を晒しているじゃん。


「返してっ、一番綺麗に出来たいっちょうらなんだから」

「なにが一張羅だ、宝残すんじゃねぇよボゲぇ! 捨てるぞこんなもんッ!」


 服一式をゴミ箱へ入れられ、ガーンっと効果音が出そうなほど項垂れる赤毛の子。

 他には履いてないため、シャツ1枚を無理やり引っ張って必死に下着を隠している状況。

 そんな彼女を置いたまま、お姉さんは無常にもUSJを出て行く。


「メイド服たって、金は全部ねーが持ってるから買えねぇじゃん」


 前も後ろもギリギリ下着が見えていない。

 それをクルクルと確認した女の子は、とぼとぼ歩きながら店のショーケースを眺めていく。


「なぁ、あの子……どんどん俺たちの方へ来てないか? 余っている服とかないの?」


 話しかけたにも関わらず『何言ってんのお前』みたいな顔で他人のフリをする苺谷。

 少しずつ聞こえる足音は大きくなり、ちょうど背後から1歩の距離で止まった。

 っえ、なんで大勢がいる中で真っ直ぐ俺のところに来るの。


「——待て、いくらかっこいいとか、優しそうだからって見ず知らずの人に服を買ってあげるなんt」

「何言ってんの、にぃさん? そのワンピース着ないならくれねぇ?」


 っあ……そういや、もうゴミみたいな認識だったけど服持ってんだった。

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