第7話6億を見間違える馬鹿なんている訳ないだろ
苺谷の後を追い続けて到着した体育館、入り口の時計は昼休み残り半分を指していた。
「もうっ! 急に羽振りが良くなったとか、よそよそしくなった人とか、全然見つからないじゃないですか!!」
突然、苺谷が振り返ったかと思えば生徒会長との間へ割って入り。
何故か、俺を責めるようにジト目で愚痴をこぼしてきた。
「なんでおしゃべりしているんです? 効率考えないんです? もしかして手柄横取りとか考えてるんですかッ?!」
「お前……動こうとしたら指を咥えて見といてください、とか言ってたろ」
ほんの十数分前、自信満々に邪魔していたことを指摘するけれど、彼女は気にせずニコニコと体育館出口を指差す。
「はいはい、負け惜しみはいいですからっ! 手伝ってください!!」
今更、探す人が増えた所で状況は変わらない。その事は彼女も理解しているはず。
なら、これは俺の目を遠ざけることが本当の目的か。
「分かった分かった、出て行くよ」
色仕掛けとか、脅迫でも、どんな手段を使うか分からないけど、もし本当に見つけてきたら入部させ。
いっそのこと師匠として人気者になるコツを教えてもらうのもありかもしれない。
綺麗な花々が植えられたグラウンド、その逆に位置する薄暗い校舎裏。
塀と校舎の距離が近いため、そばの道路からも見えず、わざわざ通る生徒たちもいない。
まるで『綺麗な花の存在意義は人間という種が観測から』そんな学校の主張が伝わって来そうなほど雑草が生い茂る花壇。
「っえ……なんで俺の方に来たんですか? 生徒会長」
俺は振り返り、とことこっとヒヨコのように後をついてくる生徒会長へ向き直った。
「普通、この流れなら女子の方に行くもんじゃ?」
「人気のない方行くから何するかなって気になっちゃって……だめ?」
ドラマに出演するほどの可愛い女子が髪を揺らし、小首を傾げて許可を求める。
この状況で否定出来る男がいるなら、そいつは女だ。
「あっ、いぃや、俺は、そのどっちでもいいけど」
良い、そう言おうとしたけど上から目線で許可しているみたい。
その事がよぎった俺はぶっきらぼうに突き放し、判断を生徒会長へ投げた。
「んー、どっちでも良いならついてくわ」
その結果、腰の後ろへ手を回し、生徒会長は何が楽しいのか、へらへら笑って歩み寄ってくる。
しどろもどろに答えたことがそんな面白かったか、喋ろうと思えば俺だってちゃんと喋れるんだぞ。
「俺なら大金当たったら間違いなく人気がなく、落ち着いて隠れる場所を探す。それが理由」
ゆっくり丁寧に、ハキハキした声を意識して説明。
まぁ……この思考がハズレだったことは、誰もいない校舎裏が答えになっているけど。
「そっかぁ……うぅーーーん」
生徒会長は残念そうに息を漏らし、臀部をなぞりながらスカートをたくしあげ。
しゃがんだと思うと名前も知らない雑草の花を撫でて悩み始める。
「欠席や遅刻も可笑しい動きをする人もいない……もしかしたら本人も気づいてないとかかな?」
そして思いついた案をどうかなっ、と振り返って意見を求めてきた。
「こんな大勢が大騒ぎしているのに? あり得ないだろう」
「じゃぁ、カンマと小数点を見間違えt」
「——ッフ」
言い終わる前に俺は思わず鼻で笑ってしまう。
だってそうだろ? 高校生にもなってカンマと小数点を見間違う馬鹿な奴、そんなのがいるなら見てみたいもんだ。
確かに体育などで0
間違い無く、義務教育を強くてニューゲームした方が良い馬鹿だ。
「むぅ、そんな笑わなくても……6億741万8500円って大金だし、60万に間違うことだって」
生徒会長が頬を膨らませ、俺へ可愛く抗議する。
「わるッ、ちょっとツボにッ」
まず大前提に6億が当たったって騒がれている。
その時点で普通の人間なら、自分の賞金が6の数字の時点で敏感にならなきゃおかし……………………ん?
6億741万……6、7、4、1、8…………5?
見覚えがある数字の羅列に、一つ嫌な可能性が浮かぶ。
先ほどまで上下に激しく動いていた肩は、嘘のようにピタリと止まる。
まるで喉へホースを突っ込まれ、硬貨を流し込まれているような圧迫感が胸へ襲い来る。
「……っは、はっ、っぁ、はっ……はは」
必死に口を押さえ、我慢しようとしていた笑い声も。
今では不自然さを隠すため、無理やり肺を絞り出さなければ聞こえない。
「具合が悪いようだけれど、大丈夫?」
「いや、なんでもない。少し風邪気味だから来ないでくれ」
心配そうに歩み寄ってくる、これまで話したこともない生徒会長を手で制する。
——いや、話したことない、話したこともないんだからありえないはずだ。
「ちょっと、スマホで情報を集めるゴホッ」
申し訳程度の語尾でスマホを取り出し、今朝撮った賞金のスクショを開く。
【賭け恋愛財務部、607,418,500】
「……すぅ」
あれ、おかしいな。
おれのしょうすうてん……しっぽ、ほんの少しだけしっぽが生えているように見えるんだけど。
いや、本当に頭までクラクラしてきたし、風邪の可能性もまだ捨てきれ、
——————嘘だろッ?!!!! 当てたの俺!?
しばらく操作を行わなかったスマホは暗転し。
黒いスクリーンには冷や汗をかき、引き攣った笑みを浮かべた馬鹿面が一人映っていた。
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