第16話先輩だけずるいずるいずるいっ!

 で、でぇと……?

 いま、デートって言ったのか? 拷問じゃなくて?


「ごめん、全然状況が掴めないんだけどデートするのか?」


 加納は嬉しさを隠せない様子で、照れながら頷く。

 当てた人を生徒会長がわざわざデートに誘う理由が思い当たらない。6億持っている事を考慮したとしても生徒会長だってそこそこ稼いでいるはずだ。

 もしかして……賭け恋愛と関係がないのか?

 つまり完全な私情、私情でデート——生徒会長の本当の好きな人は偽物の加納なのかッ?!

 遊楽って言ったのも、遠回しに好きな人が『俺』へ設定されてたけど勘違いしないで欲しい的な奴か!

 

「あんな美人となんて……どうやってデートの流れになったんだ?」


 好きな人を当てた俺はあくまで偽物、本物は偽物の加納だった訳だ。頭が痛くなってきた。

 

「羨ましいだろぉ? いやな、動きのない男女を手早く進展させるにはどうするか、を耳元で聞かれてな」


 加納は照れくさそうにへへっ、と笑いながら自分の頭をさする。

 どう拷問から回避させるか悩んでいるのを羨ましがっていると勘違いされたか?

 まぁ、確かにデートに思うことがないと言えば嘘だけど。


「嫉妬させるのが良いんじゃないかって言ったんだよ」

「それで、デートに?」


 加納は当たりと言いたげにウインク、指パッチンで返事してきた。

 嫉妬のアドバイスを貰った直後に加納をデートへ誘う。それってデートっていうより、


「お手伝いじゃないか? 肝心の嫉妬させる相手は誰だ?」

「そう、そこが肝なんだよ、翔! 俺も疑問に思ったけど『居ても居なくてもどっちでも良いじゃない』だってよ!」


 他は居ても居なくても良い……加納とデート出来るならってこと?

 まじかっ、完全に嫉妬とか言ってるけど、加納とデートがすることが目的じゃないかっ!

 良かったっ、これなら加納へ濡れ衣着せたままでも拷問される可能は低いし、何より生徒会長が守ってくれる。


「会長の好きな人は完全にお前だな」

「っふはっ、っぱそう思うか? そうだよな、それしかあり得ないよなっ!? やべー、みんなに羨ましがられちゃうな」


 加納は「ありがとな!」と肩を叩き、スッキリした顔つきで椅子を傾けて遊び始める。


「もしかして終わり? 相談事はそれだけか?」

「そう悪いな、自慢みたいになっちまって。他人の視点で確信が欲しかっただけなんだ」


 なぁんだ、てっきりデートプランとか考えさせられるかと身構えて損した。

 最も、デートした事ない俺からのアドバイスなんて役に立たないと思うけど。


「もぅっずるい、ずるいずるいずるいずるいずるいッ!! なんなんすか、前も今回も連絡しないじゃないすかッ!」


 ドンドンっと廊下から響く不機嫌そうな足音。


「へへっ、もう怒りました、偉そうにいつも座ってる椅子へ画鋲でも置いてやります」

 

 ぶつぶつと聞こえてきた女の子の声にビクッと加納が反応する。

 今……画鋲って言った? 


「や、やけに機嫌悪い人がいるみたいだな。絡まれると面倒だし、いないフリしよう」


 ヒソヒソと加納は耳打ちしてくる。

 あー、勝手に帰ったとは言え、完全にあいつのことを忘れてた。

 しかもこそこそ金を貰ってると思ってるのか、休みの時と比べ物にならないほど怒ってる。

 多分、その機嫌悪い人はそろそろ入ってくると思うぞ。

 

「ゔぃぃぃん、ッパー————ッ」


 効果音を口ずさみ、部室のドアを勢いよく開かれ。苺谷と目が合う。

 

「っぅぉ……っふ」


 失言に気づいた彼女は目を泳がせ、水滴がついた真新しいいちごミルクで口元を隠す。

 そして上に注意が逸れている隙に、もう片手へ持っていた画鋲のケースをジャラジャラと背中へ隠した。

 多っ! めっちゃ多い! どんだけ置く気だったんだテメぇ。

 

 それにしても凄く恥ずかしいよな、帰って欲しいよな。

 これでようやく部室で初めて出会った時の気持ちが理解できただろ?


「お前も一人の時にテンション上がるタイプだったんだな」

 

 だから画鋲を置く悪意を向けられたがてら、俺も傷口に塩を塗ろうと意地悪をすることにした。


「わぁ、見たことないカッコいい人ですね、こんにちわっ!」


 でも、俺と違ったのはその後の切り替え能力だった。


「また恋愛相談ですか? まったくせんぱいっ! 私も部員なんですから除け者にしないで手伝わせてくださいよ!」

 

 苺谷はまるで何事もなかった様に人懐っこい笑顔で新しい空気を生成、そして生徒会長の椅子を持ってくると加納の正面へ座った。


「うぁぁ、本当にカッコいいじゃないですかぁっ! 私、苺谷 夕愛って言います」


 加納がまだ混乱している隙に彼女はニコっと愛想を振りまき。

 腕で自分の胸元を圧迫、強調して更に自然な流れで、そこへ視線誘導させるために手を叩いた。

 人の印象は初対面5秒で決まるのは有名な話だが、わずかその間に印象を塗り替えたのだ。


「部員……? お前っ、こんな可愛い子が部員なら教えてくれよッ!」


 それだけでさっきまでのことを忘れた様に加納は興奮しだす。

 ————洗脳、これは間違いなく一種の洗脳スキルか能力までに昇格しているサキュバスが使いそうな技ッ!

 いいなぁ……俺も使いたい。

 女子の前で股間を腕で圧迫強調し、股内で手叩いたら行けるかな?

 行けるな、刑務所に。

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