第17話デッド、でぇと?
「お前、金で集まってくる奴はなんとかって言ってたろ……こいつなん——ッ」
初対面のフリしているけど代表みたいな性格で、なにより噂を流したのもこいつだぞッ!
そう伝えようとしたところで足先を思いっきり潰され、大事な先輩たちのテーブルに膝をぶつけそうになる。
「大丈夫ですかぁ、先輩? もうっ、舌を噛むの何回目なんですか〜、うっかりなんだからっ!」
苺谷はウィンクしながら「キャピっ」と俺の鼻を人差し指で押し。
彼女の足は俺の足へ乗っかり、ジリジリと力強く踏み続けていた。
「先輩ってぇ、口足らずっていうかぁ、馬鹿って言うかぁ? うっかりさんですよねー、まっそこが可愛いんですけど」
可愛いと言ったタイミングで踏みつける足の力が強くなる。
所々本音を漏れているし、余計な事を喋るなって脅しみたいだ。
「さっきまで何を話してたんですか? 私にも聞かせてくださいよ」
「あー、んー、恥ずいけど、デートに行くけど脈があるかどうか? 的なをね」
「えぇ〜じゃ、相談料を先輩からぼったくられたんですか?」
「ぼったくられる?」と加納は苺谷の意味が分からず、首を傾げる。
ほー、カマをかけて金を払ったなら、それ以下の金額で奪おうって考えか。
「へへっ、冗談ですよっ! そんな人じゃないって分かってますし」
苺谷が笑い飛ばし、そのタイミングでようやく俺の足から退いてくれる。
やっと金は貰ってないと判断してくれたか。
「じゃ確認も取れたし、俺は帰るわ」
加納は何か感じ取ったのか、それともバツが悪いと感じたのか、もう部室を出て行こうとする。
拷問の危険が少ないどころか、生徒会長とデート出来てハッピーならもう大丈夫だろう。
「いやぁ、てっきり先輩が私をだし抜いてお金を貰おうとしてるのかと思いましたよ」
加納の足音が遠ざかり、苺谷は廊下にまで顔を出して念入りに確認する。
慎重だな、一度バレそうになったから当然か。
姿が見えないことを再三、チェックし終えた苺谷は安心したように額を拭い。
椅子に座って、ずっと持っていたいちごミルクを飲もうと力み始める。
おい、この部室は先輩たちが卒業してから飲食禁止だぞ。
「溢すと不味いから飲むなら廊下へ行け」
「そもそも小学生じゃないんですからぁ、溢さないですって」
けれど、苺谷は俺の忠告など聞かないとばかりにそのままパックを開け。
「——っあ」
汗、はたまた冷たい水滴か、どちらが原因でも関係ない。
彼女の手から紙パックが滑り落ち、その結果テーブルにこぼれる。
そして運の悪いことにちょうど先輩が書いた落書きに落ち、ドクっドクっと溢れでた淡い赤い色で上書きされる。
「っあ……あぁ……だから言っただろッ!」
まだ学校に馴染めなかった自分を部活へ入れてくれ「自由でいいんだよ」って書いて、引っ叩かれた先輩の落書きだ。
自分でもびっくりするほどの声量に、ビクッと苺谷の肩が揺れる。
「て、テーブルにこぼしただけじゃないですか。拭きますって」
そしてそれが不味かった。
俺の声が更に罪悪感を駆り立てたのか、彼女はポケットからハンカチを取り出すと熱心に拭き始めた。
見る見るうちに水性で書かれた落書きは掠れ、いちごミルクに飲み込まれていく。
「——やめっ、やめろ!」
苺谷を半ば突き飛ばすように押し退け。
やめさせた、けれどその時には……もう先輩の落書きは綺麗なまでに消えていた。
落ち着かなければいけない、彼女に悪意などない。
頭では分かっているはずだが、一度忠告した上での失態という事実。
それが冷まそうとする頭に灼熱の杭を打ち込む。
「頼むから……もう出て行ってくれ」
「な、なんですか? なんならテーブルの汚れが無くなって綺麗になったじゃ——」
何をそんなに怒っている、とばかりに睨み返してくる苺谷。
彼女には分からないだろう、ここは繋がりが全部無くなった俺にとって唯一残った場所だ。
残された何もかもが思い出で、それを守ることを任されたんだ。
それなのに先輩の絵を汚れ……汚れって言ったか?
「黙れ、出て行け」
つい我慢できず、今度は睨みながら放つと苺谷は少しだけ怯み。
「ッ、言われなくても出て行きますよ!」
不満げに鞄を乱暴に掴むと、バンっとドアを叩き締めて立ち去った。
「はぁー、誰かを入れようって思う事自体が間違いだったか」
ようやく戻った誰もいない静かな部室、一番落ち着く慣れた場所。
この部活を任されたのに、逆に汚してしまった事を心で詫びつつ。
俺は無くなった落書きを惜しみながら、取り戻した静寂に身を委ねる。
「…………あ、あぁ、あ、あ、あ、あー」
喉に感じた違和感、それを確かめるために発声してみる。
なんだ?
この長距離走を半ばまで走った時みたいに、喉へ乾いた空気がまとわりつく感覚は。
いつもの静寂な部室へ委ねた、委ねたはずの心がいつまでも落ち着かないどころか気持ち悪い。
さっきの行動は間違いだったか? いや、大事な思い出を汚されて怒っただけ。
思い返してみても俺は何一つとして間違っていない。
なら、さっきからなんで息苦しいというか、心にモヤがかかっているんだ。
「まぁ……今更考えたところで、取り返しがつくわけでもないし」
自問自答しても、心にかかった正体が分からない鬱憤。
それを汚された思い出と一緒に綺麗にしようと、俺は無言でテーブルを拭き続けた。
「あぁぁぁぁぁッ」
パソコンと恋愛攻略本が詰まった本棚、ベットと机しか置いていない質素な部屋。
そんな学校寮の一室で、ベッドへ横たわりながら枕に向かって俺は叫んだ。
もちろん、最近の賭け恋愛の件も加納のデート、苺谷も含んだ鬱憤を含んだものだ。
「加納は、デート……か」
羨ましくないと言えば嘘になる、仮にも生徒会長とデートだ。
マスコミへ嗅ぎつけられたらニュースになるし、大半の国民が羨ましがることだろう。
その前に俺はデートより愛や恋とかを理解する事の方が先か。
「はぁ……倍率でも確認するか」
枕を投げ、スマホのアプリを立ち上げる。でも、そこに映るのは不動の0.01倍率だけ。
そういや、加納は幾つになってんだろう? 6億を当てたならすごいことになってそうだな。
「3.2……? 低っく」
ランキングで加納と入力して出た数字にびっくりして、更新時間を確認したが12分前の19時。
仮にも6億を持っている男がこんな数字な訳がない、既に何人かに当てられて32分の1とかされた後だろうか。
加納が当てた情報まだ学校内だけに止まっているだろうし、そう考えると生徒会の誰かにしてたんだろうなぁ。
『テンッ、テケッ、テケテッテー、テテテテン』
持っていたスマホが突然鳴り、手からこぼれ落ちる。
ブーブーとバイブしながら、早く見ろとばかりにスマホが近づいてくる。
番号には全く見覚えがない、こんな時間に電話をかけてくる奴も俺にはいない。
「なんだ……ものすごく嫌な予感がする」
もし加納は既に安全という考えが楽観的で、彼女の親は当てた奴を拷問どころか殺しそうとしたなら……?
この着信は警察からの死亡連絡で、最後に会った俺へ対する事実確認だとしたら?
もしそうなら加納が当ててないと知り、罪を着せるのにピッタリだからって、会長の親が俺を犯人に仕立て上げているかもしれない。
今の時代、子供に対する殺人が重罪だってことは嫌ほど授業で見せられた。いやだ、死にたくないッ!
平然、平然を装え、何も知らずに生きていることを前提に会話を続けるんだ。
「も、もしもし……加納か? また電話をしろって言ったけどいくら何でもはえーって」
当然、電話の約束なんてしてないし、相手が加納じゃない事は分かりきっている。
これも全て死んだことに気づいてないと思わせるブラフだ。
「…………ふぅすぅ……ふぅ、すぅ」
スマホから聞こえてくる僅かな吐息。
あぁ、ぁぁーッ、加納はNOWで拷問されているんだ!
それで耐えきれず、6億の男じゃないってバレたんだ!
振り出しに戻った彼らは加納が打ち明け、生徒会長とも話すようなった怪しい俺を狙う。
でも、まだ生きているってことは俺が白状すれば助けられr。
「————初めて男の人に怒鳴られました。好きですっ、デート行きましょっ! せんぱいっ!!」
は……?
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