第22話500円のくせに
ホグワーツ城が遠くに見え、透明な屋根がかかった1940年代のハリウッド通り風な売店が並んだ大通り。
カップルたちがそこで買ったお揃いの服やグッズを身に付け、楽しみを胸に抱いて歩いていた。
ふむ、水族館とかじゃ最後にお土産コーナーがあるが……この立地。
なるほど、まずは『グッズを買って雰囲気から入れ』それもできない奴はくるところじゃない、って訳か。
「加納さん、これをつけてくれるかしら?」
「うんっ、つけるつける」
「一周回って色物枠で似合っている? でも駄目ね、違うのにしましょう」
見よう見まねで一つに入店した俺たちもまた当然、異世界の仲間入りするため、装備を物色していた。
「マグカップは帰りに買うものだし、服も寒くなる夜じゃないからまだ必要ないだろうな」
ということは、今の段階で買うべきものは無難な小物系でストラップとかの選択肢になるか?
「せんぱい、せんぱいっ!」
ちょいちょいっと服の後ろを引っ張られ、苺谷に呼ばれて振り返る。
「——まだ買ってない……よな、それ」
振り返ってまず目にしたのは二つのぬいぐるみ。そしてそれを胸に抱きしめ、ニコニコで楽しそうな苺谷。
どう考えてもスタート時に買う大きさとしては過剰で、思わず質問が口から飛び出した。
え、なに、普通に初めて遊園地来たみたいに楽しんじゃってません? この子。
「買ってないですよっ! この二つだと先輩はどれがいいと思いますか?」
右手はスカートを身につけたキティ、左手にはクマを抱えたミニオンを掲げてくる苺谷。
どれも良くないんですけど、どっちも最低30cmはあるんですけどッ!
でもなぁ……こんなウキウキしながら選択を迫ってくる姿見たら否定できないよなぁ。
「っちょ、冗談に決まってるじゃないですか〜」
生徒会長たちを眺めながら悩む。
そんな俺の視線を追った苺谷が目的を思い出したのか、ぬいぐるみを引っ込める。
「明らかに邪魔ですし、ツッコんでくださいよ。私たちはどうします? カチューシャ?」
すぐに気持ちを切り替え、キティのぬいぐるみを棚に戻そうとする苺谷。
あくまで目的は生徒会長たちを成功させること、荷物は最小限にすべき。
それなら雰囲気に溶け込め、さらにイチャつきが醸し出せるカチューシャやストラップが答え、答えだが。
デートの助っ人として来たけど俺ら……いや、苺谷も楽しめるならそれが一番のはずだ。
「いや、俺もっていうか、俺はそのぬいぐるみがいいと思うよ」
「っぇ、でも……その、邪魔じゃないですか?」
一旦戻したキティを再度手に取り、苺谷の胸からミニオンも奪う。
「カチューシャとか恥ずかしいし、それならこれでいい」
そして有無を言う前にレジで支払い、キティの方を苺谷へ押し付けた。
だが、彼女は俺を見つめてくるだけで、いつまでも受け取る様子がない。
「どうした? 欲しかったんじゃないのか」
「あの、先輩、買ってくれたのは嬉しいんですけど……個人的にはボブの方が欲しいかなーって」
ミニオンの方を指差し、遠慮気味に少しだけ笑う苺谷。
そういえば……猫を真っ先に戻していたな、少し名残惜しかったのか。
二つを交換して手渡すと驚くほど素直に受け取り、ギュッと胸に抱きしめ。
そして俺の方をパチパチと瞬きをしながら見つめてきた。
「なんだ、その目」
「先輩、あわよくば私で倍率上げようとしてます? 無駄ですよ、当てたところで500円の男には絶対投票しませんから」
「はぁ、普通にペアルックとか恥ずかしいし、ぬいぐるみの方が良いと思っただけだ」
そう、さっきストラップを一通り見たけど、一つ残らず2個で1つの合体するカップル用だけ。
そんなデートのフリをする時しか使えないものを買うくらいなら、家に飾れるぬいぐるみの方が良いだろう。
「っえへ、せんぱいってツンデレですもんね。そうゆうことにしてあげますよ」
全て見通している、そう言いたげなニヤつきを浮かべて馬鹿にしてくる苺谷。
割と本心から言ったんだけどな……まぁ、これで前の件が有耶無耶になるなら安いか。
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