第21話面白くない。面白く……ない?
「ほらっ、緊張して力強くなっちゃっているんですよ! ごちゃごちゃ言って手を繋ぎたがらなかった先輩のせいで」
少し怯えながら苺谷の後ろへ隠れると、責めるような細い目で脇を突いてくる。
馬鹿っ、違うってお前、絶対あの顔は怒ってるって。
「ほらっ、会長も加納さんの手を握りますよ」
うっそだぁ……あんな意見ありげだったのに従ってくれる訳がない。
でも一応、苺谷の肩越しから見てみると確かに会長は覚悟を決めたみたいに喉を鳴らし、
「デート、ですものね。デートと言ったのだから手を握るのが普通よね」
何故だか言い訳がましいことを呟いて手を伸ばすと、ギリギリ触れたタイミングで加納の方から握った。
「すごい……なんか、めっちゃデートって感じ」
「デートなんですから当たり前じゃないですか」
嬉しさを噛み締めているのか、プルプル震える加納はありがとうと口パクでお礼を伝えてくる。
よく分からないが結果的に上手くいったのか? 生徒会長も『手を繋げ』という遠回しなアピールに固まっただけで、別に怒ってなかったと。
「んー、言いたいのは甘酸っぱさ? そんな感じか」
「っあー、なら納得です」
まったく凄いな。
苺谷は服装といい、会長の考えている事が手に取るように分かっている。
やはり女の子同士ならでは、通じるものがあるんだろう。
「会長っ、会長っ」
苺谷も思い通りになったのが嬉しかったようで。
生徒会長へ良くやりましたね、その意味を込めて俺と繋いだ手を自慢風を装って讃えた。
それを照れ隠しで仏教面な生徒会長は眺め、
「んっ」
どうゆうわけか、空いたもう片方の手を俺へ差し出してきた。
っえ、何これ……一体どうゆう意味の手だ?
まさか、手を繋ぎたいわけではないだろうし、何か欲しいのか?
っあ……そういえばUSJの入場料を渡してなかったから、それか。
「USJ行った事ないけど、1万で足りますか?」
「毎年、親戚からチケットが送られてくるからそんなの要らないわ」
ポケットの財布を取り出そうとした俺を、会長は腕を掴んで制止。
「そ、そっか、ありがとうございます」
なにそれ、1万もするチケットが4枚も送られてくる親戚とかめっちゃ羨ましい。
それにしても差し出してきた手はお金が欲しかった訳じゃなかったんだな。
「っあ、そういえばチケット渡してなかったわね。すこし待ってて、今渡すわ」
俺の話で思い出したように会長は、肩に斜めがけしたショルダーバッグの中を片手で探り始め。
「あれ? 確かここの間に入れといたはずなのだけど」
だが中々、見つからない事で力が籠り。
その結果、胸の間を通っている紐が引っ張られ、身体へ押し付けられ、会長の谷間が際立つ。
「せーんぱいっ、っメ!」
すると手が握りしめられ、苺谷がわざわざ小声で警告してきた。
はいはい、そんな言われなくても他所を見るって。
「ん、もしかしてダメのメと目をかけたのか、上手いな」
あれ、こんなしょうもないこと言う奴だっけ。
でも、察しの良い俺だから気づいた事だし、褒めなきゃ可哀想だよな。
結局、あの件を根に持っているかどうか答えてくれなかったし、ここら辺で機嫌直して貰おう。
「ハァ……? なにバチクソつまらないこと言ってんすか」
眉を近づけさせながら不快感を露わにする苺谷。
「おい、やめろ。間違えただけだから、俺が面白くない奴みたいだろ」
「っぇ?」
「……え?」
なに、やめてくんない?
その『自分のこと面白いと思ってたの』みたいな純粋な驚き顔。
「あったあった。はい、これが二人の分ね」
俺だって面白いことの二つや一つ……タンスを買ったんすとか?
「ちょッ、先輩? 生徒会長がチケット渡してますよ」
「面白くないし……つまんな」
なんでダジャレしか、頭へ浮かばないんだ? もしかして俺って、つまらなかったのか。
なら、0.01倍率な理由もそこにあるかもしれない。
普通に考えたら一人でも外してくれたら、1に戻るのに永遠変わらないんだ。
つまり……誰も俺のことなんて気にしてない。
会話で笑ってくれていた子も全部作り笑いってことじゃないか。
「面白く……ないの?」
ピキっと首元に走る悪寒、脳裏に浮かび上がる拷問の2文字。
目と鼻の先には、生徒会長によって握りつぶされそうな2枚のチケット。
なんで俺が面白くない事で……こんな険悪な雰囲気になっているんだ?
「っえ、うん、苺谷が面白くないって言ってました」
「ちょッ?! 先輩何言ってるんですか。違いますよ! 会長!!」
何を言ってんだ、苺谷?
何一つとして違わなッ——違う。
会話は聴かれていないから現在の生徒会長が推測できる残された主語は……この状況。
つまりデートが面白くない、そう言っていると勘違いされてる訳か。
あーなるほど、なるほどね。完全に、完全に理解した。
まっずい、生徒会長がチケット握りつぶしているのも『なにデートへ水差してんの? つまらないなら楽しませるのが役目だろ、お前』そんな感じの脅しか。
あっはは、間違えて苺谷に流れ弾当てちゃったよ、やっばいなっ! …………どうしよ。
「俺、俺の話が面白くないって言ったんですよ」
「中田さんの話が……?」
誤解を解くためにも説明すると、会長のチケットを握りしめる手が少し緩む。
「チケットありがとうございますっ! 先輩が詰まらなくても、デートは私が面白くさせますから!」
その一瞬を見逃さず、苺谷が奪い取ると勢いと気迫だけでゴリ押した。
その態度は余計怪しまれるだけじゃないか?
実際、デートの悪口なんて言ってないし、堂々と説明すれば良いと思うんだが。
「中田さんはつまらない……なるほど。えぇ、頼むわね」
ちょっとっ、生徒会長もわざわざ本人を前にしてつまらない言わなくていいじゃん。
しかも納得げに頷いた上、面倒な甥っ子を任せるみたいに頼まないでくれ、後輩に。
くっそ、まじでこれまでの会話で既に面白くない判定されている訳じゃねぇか。
「先輩、何か言うことないですか?」
じぃーっと睨み続け、謝罪を催促してくる苺谷。
「ごめん、余計なこと言ってデートを壊さないことだけ気をつける」
なので、俺も心の底から他のことを考えずに注意しようと謝った。
「はぁ……部室の机とつまらない以外に地雷ワードとかあるんです?」
失望のこもったため息、腰に手をつきながら苺谷は呆れ顔で聞いてくる。
他、他か、別に考え込んだだけで『面白くない』も地雷という訳じゃないけど。
「絵は先輩との思い出だったんだよ、他は……特にないな」
「思い出……ふーん、じゃ何か報酬があったら集中できます?」
「なんだ、今回のデート依頼料の半分を分けてくれるとか?」
そっと差し出した俺の右手が、パッチーンとすぐさま苺谷に叩き落とされる。
「金はあげません、お金は全部私のですっ!」
ヒリヒリとする自分の手を撫で、俺は守銭奴が指を頬に当てて悩む様を眺めた。
拷問されないためにも成功させたい意欲は十分あるんだけどな。
これ以上、やる気になることなんか苺谷が出せるとは思えn。
「じゃー、私が倍率132.56になった手法をデート中教えます。それで頑張れますか?」
——なん、だと? この女神は今なんて言った。
モテモテになる技を伝授してくれる、そう言った?
もしかして今日で倍率0.01から抜け出せ。
他人に見下されることも、0.25の奴らから比較対象に出されて安心される事もなくなる?
「ぜ、ぜひッ、ぜひお願いします、師匠」
自然を装っていつか探ろうと思ってたけど、まさか苺谷の方から提案してくれるとは。
前の件でギクシャクしてたってのに、なんて優しい奴なんだ。
もう後輩だろうが関係ねぇ、全力で媚びる!
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