第12話希望は輝くもの『。』
理解が追いつかない、だって間違いなく会長の賞金が当たったのは俺なんだ。
おちつけ……落ち着け。
とりあえず、ここはシンプルに驚いたフリで詳しく聞き返して情報収集するべきだ。
「そ、そのぉ……つまり、見つけたって冗談だろ?」
「ふふっ、そんなバレる嘘ついたって仕方ないじゃないですかぁ。本当です、本当」
態度が変わらぬまま、苺谷はからかってくる。
こ、こいつッ!
部室に来た時と同じで勘違いして別人を見つけてきたんだッ!!
てっきり俺が500円だってことを笑ってるかと思ってけど、嬉しそうな理由は別だったのか。
「それじゃ入部は決まりだとして……先輩、報酬の話にしましょ!」
報酬……あまりにも見つからないから苺谷が他の奴をでっち上げたのか?
俺にとって身代わりになるカモフラージュが現れ、拷問される心配も無くなって嬉しい誤算じゃないか!?
「賭け恋愛部で先輩は稼いでいるでしょうけど、私は優しいから50万で良いですよ?」
そういえば昨日の終わりにそんな追加報酬の話をしていたな。
いくらなんでも……それは都合良すぎる。
パッと手を広げて金をねだる苺谷へ、疑いの眼差しを向けると少し目を逸らした。
なるほど、間違いなく電話をしてきた時点で苺谷は既に仕込んでたか、見つけていたんだ。
凄いな、俺だったら絶対嬉しくてすぐ言っちゃうのに報酬金額を上げる約束を真っ先にさせるのだから。
「小狡いというか悪知恵が働くというか……普通先に報告じゃない?」
お金主義と頭の回転速度もここまで行ったら立派な個性だな。
きっと部活に入ったら俺とは違う視点で相談に乗り、役に立つと思う。
苺谷は明後日の方向を見ながら知らんフリ。
伸ばしていた手がプルプルと震え、その白い頬は恥ずかしさからか赤みを帯びていた。
「はぁ、うるさいですねぇ……くれるんですか、くれないんですか?」
馬鹿にする意図は全くなかったが、守銭奴とも聞き取れる言い方は不味かった。
苺谷は不機嫌そうに手の甲でトントンっと机を鳴らし、催促してくる。
金と言ったら恐らく口座に入っている生徒会長の6億しかない。
でも、もし50万をポンっと出して出所を聞かれたら困る。
今まで一度も賭け恋愛で当てたことがない情報がどこから漏れるか分からない上、律儀に活動報告書へ相談者がいないことも書いているから生徒会は金が無いと知っている。
「約束は約束、渡したいけど……あいにくと口座も手持ちにも金はないんだ」
ポケットを引っ張り出しながらアピールする。
「はいはい、居ますよね。嘘つきな人間って」
そんな俺の行動に苺谷は呆れを通り越し、白けた目で捨て台詞を吐いて立ち上がり。
「もっとちゃんとした部活だと思ってたんですけど、いいっすよ。もう」
入部の気持ちも冷めたのか、部室から出て行こうとする。
もう二度と会わない、そんなピリピリした空気である事はここにいたら誰でも分かったと思う。
「生徒会長の探している人を見つけたんだろう? なら報酬はきっと数百万だ」
ポツリと呟いた言葉に、取手へ差し掛かった苺谷の手がピクっと止まる。
「直接……生徒会長から貰いに行きます」
「あくまで賭け恋愛部へ相談したのであって、君じゃない。部活に名前がない人へ報酬を渡すと思うか?」
苺谷は「ぐぬぬぅ」と分かりやすく狼狽え始めた。
「でも役に立ったからってくれる可能性もありますよ! ワンコイン先輩は何もしてないじゃないですしっ!」
もちろん、生徒会長が『一番役に立ったのだから彼女へあげるのが当然でしょう?』とか、そんな展開も十分にあり得る。
てか、個人的にむしろ高いと思う。
しかし、少なからず貰えない疑念・疑惑があることを植え付けるのが目的だから関係ない。
「従来から賭け恋愛部は一番役に立った人が報酬の配分を決める決まりがある。今回の場合は入るならお前だろうなぁ〜」
ゆっくりと手がドアから下ろされ、苺谷の顔が俺へ向く。
「それ、配分って10:0でも良いんです?」
えぇ……なんの恥ずかしげもなく独り占め宣言したよ、この子。
話の流れ的に俺もそうしようと思ってたから問題無いけどさ。もう少し、もう少し躊躇とかあった方がこっちも気持ちよくなるってもんじゃん。
「あぁ、もちろんだ」
「へぇ〜、ワンコイン先輩のくせに気前良いじゃないですかっ!」
良かった、50万払わずに気前が良い人という印象を与えられた。
うっかり上がりそうになる口角を手で隠し、エヴァのゲンドウスタイルでパァァァっと戻ってくる苺谷を迎える。
「もぅ、入っちゃダメって言ったり、数百万くれても引き止めたり……もしかしてツンデレなんですか?」
そして席へ座るなり、じぃーっと俺の目を見つめてまたペラペラと騒がしく喋り始めた。
「先輩、それ勘違いされ易いし、他の男に好きな人寝取られやすいっすよ」
ツンデレ、ツンデレか。
反応を見るに彼女は悪意を持って揶揄っている訳でも、イジっている訳でもなさそう。
「お気遣いありがとう、あいにくと他人を好きになった事はないんだ」
「へぇ〜、先輩印象薄いですし、わざわざ狙ってくれる女の子いなさそうですもんね」
それにしても機嫌が治ってきたようで良かった。
『異性から狙われたら、お前はイチコロで惚れる』みたいな言い方は後で追求するとして、とりあえず本題へ移ろう。
「生徒会長へ伝えて報酬を貰うためにも、誰が好きな人を当てたか教えてくれ」
勘違いされた奴が誰であろうと、騒ぎになったら拷問される。
だからその前に、なるべく穏便に済ますよう手を打たなければ——。
「っあ、もう来る前に伝えましたよ? 今頃グランドで会ってんじゃないですかね」
「伝えた……のか?」
苺谷は部室の出入りより向こうにあるグランドを指差し、
「もぅっ、伝えた瞬間に周りの人が集まって大変でしたよ。ねぎらってくださいぃ」
言い終えるとひと仕事終わらせたげに背中を伸ばして脱力した。
人が、集まったって?
来る時は静かな部室へ辿り着くことだけで頭がいっぱいだったけど……まさか。
嫌な予感に身を任せながらドアに近づき、俺はゆっくりと引いた。
「うぉぉぉおおおおおおっ!! お前がっ! お前が6億当てたのか!!! ずるいぞ」
「みんなッ! こいつがっ! このハゲ頭が会長を当てたみたいだぞッ!!!」
廊下の窓から見えたのは、魂が抜けたように立ちすくんでいる生徒会長。
その側に100人を超える生徒たちから胴上げされている一人の男。
その太陽に照らされ、キラッと光り輝く頭を俺が見間違えるはずもない。
「——よりにもよって加納かよォォォォオオッ!!!」
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