第28話ここまでお膳立てされたら誰でも分かるってもんよ
「っぁ……ごめんなさい。人違いでした、すみません」
流石に天野が可哀想というか……。
これ以上関わって嘘を見抜かれ、俺も同じ目以上に遭うのが怖いな。
「ヤダ、そんなのですね〜。てっきり彼女が
先ほどにも関わらず、面影を思い出せないほど別人ようなお淑やかな微笑みでお姉さんは喉を手放す。
設定は百合カップル、微笑は前も嘘をついたことを引き合いに出した脅し兼、謝罪拒否ってところか?
「——プハッ、はぁはぁ……誰だよ、お前ッ! テメーのせいでえらい目にあったじゃんか!! キェロッ!」
ようやく解放された天野は肩で呼吸を整え、ギッと睨みつけて吠える。
既に俺が中田と知っているし、自分がバラしてしまった事も理解している。
色々と想定外な事は起きたが、これで『バラされたくなかったら味方でいろ』というメッセージは十分伝わったと思う。
「えっ、あなた達もデートなんですか、俺もなんですよ! お互い頑張りましょう!」
だから、最終確認も込めた手を差し出し。
「ハ、ハハ、にいさん……」
天野は俺の顔面と手に何度か視線を向けると。
「デートの邪魔するとは度胸あるじゃないすかぁ、今度お礼しますよ。絶対」
優しく握り返し、俺の指をゴキゴキと波打たせ、乾いた笑い声を上げてきた。
目が、目がガンギマっててめっちゃ怖っ。
仕返しも怖いけど……今は何より無事にデートが終わることが先決だろう。
「遅かったじゃねぇか。これからどこに行くか相談していたところなんだ」
用も出して戻ると生徒会長たちはパンフレットを眺めていて。
俺へ気づいた加納は、ようやく来たとばかりに手招きをする。
「へぇ〜、やっぱデートなんだし、お化け屋敷とか行くのか?」
さっそく盛り上がるため、王道を遠回しに提案するとみんなの視線が集まってくる。
なんだ、そんな可笑しいこと言ったか?
「そうね……中田さん、少しいいかしら」
加えて会長までもが、怒鳴る前の先生みたいな含みな発言で近づいてくる。
っえ、もしかしてホラーが大の苦手で俺はこれから生徒会長に怒られんの……? お化け屋敷へ行くって言っただけで?
というか例え別の場所で怒られても、全員知ってたなら『あぁ、あいつ怒られたな』ってバレるじゃん。
その上、元親友と後輩に気を遣われる展開になったら心のダメージエグいって。
「ご、ごめん、非科学的なものが苦手だとは知らなかったんです!」
会長が何か筒状の物を振り上げ、殴られると思った俺は咄嗟に身構える。
けれど、いつまでも衝撃が来なかった。
えぇ……安心させといて目が開いた途端に叩きたいドSタイプなのか?
「んぁ……?」
怯えながら少しずつ瞼を開けると、会長は正面ではなく隣に立ち。
叩くどころか、少し申し訳なさそうに持っていたパンフレットを広げてきていた。
「申し訳ないんだけれど、ここにお化け屋敷はないわ。デートならあるところの方が良かったかしら?」
あーなんだ、USJにお化け屋敷が知ってたからみんな見てきただけか。
てっきり殴られるのかと思って恥を掻いた。
『ッグシャ』
それにしても、見張りがいる場所が理解出来ると俺の行動一つで殺気がビンビン伝わってるのが分かるな。
お姉さんが生徒会長の顔に反応したのか、持っていた水のペットボトルを握りつぶし。
「ぅぁップっ! ちょっ、せっかくアイス拭いたのにぃッ!」
その結果、中の水が全て天野の顔へとぶち撒けられ。
加えて口の動きからしてお姉さんが「静かにしろ、黙れ」と怒鳴り、頭を叩いたのが見えた。
「一番近しいのは……どれかしら」
髪を耳にかきあげ、パンフレットを指差す動作さえ、どこかドキっと華麗さが滲み出る生徒会長。
ん……待てよ?
よくよく考えたら、こんな事ぐらいで生徒会長が俺に近づいてくるのは可笑しくないか?
つまりこのイベントも、何か思惑があってのこと。
————ハ、なるほど!!
ここはちょうど加納にはパンフレットで隠れ、見張りからはまる見えな位置。
つまりこの欲情を誘うような髪をかきあげる動作も、今のうちに見張りへアピールしとけって生徒会長の命令か!
「じゃ会長、そこに行きますか」
だから、わざわざこの触れるポジションまで近づいてきたのか。
生徒会長が作ってくれたこのチャンスを察することもできず、無駄にしたら今度こそ怒られる。
意を決した俺は、パンフレットを指差して探すフリをする会長の手を優しく握りしめた。
「——ッな、なかたさッ」
遠くにいる見張りにはイチャイチャしている、そう見えるよう全力で微笑んだ。
それにしても流石、生徒会長だな。
テレビに出てるだけあってびっくりしたような丸い目も、赤くなってる頬も演技がめっちゃ上手い。
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