第27話首から谷間へ流れる白濁液

「ですよねっ、キティの魅力は男だろうが凌駕するんです!」

「っお、おう……なんか、地雷踏んじまったなら悪かった」


 加納、デート誘われたのに味方が一人もいないとか可哀想だな。

 これは俺らの味方をする事で嫉妬させる生徒会長の作戦か。

 それとも純粋にキティが好きだから苺谷と同じく反発したのか、どっちなんだろう。


 苺谷の気迫に押され、すぐ謝った加納はそのままトボトボと寂しげな背中で離れていく。


「加納、どこ行くんだ?」

「んー、トイレだよ。少し待っててくれ」


 聞かないでくれとばかりに加納は苦笑いをし、残った苺谷はミニオンを生徒会長へ見せびらかしていた。

 そういえば、二人はいつのまにか手を繋ぐのを止めてるな。

 ちょうどいい、側から見たら生徒会長が他の男と手を繋ぎ、俺が他の女と一緒なんて違和感しかないし。

 安心ついでに俺も催してきたし、後をついて行こっかな。


「そうなんです、小さい物が小さいものを抱いて可愛くないわけがないんですよ」

「そ、そうね? 可愛いと思うわ」


 一応、急にいなくなったと混乱を招かないために声かけようとした。


「っぁ……ぃゃ」

 

 盛り上がり楽しげに笑う二人、それが少しだけ賑やかだった部室の面影と重なる。

 

 思えば俺はいつだって受け身で、賭け恋愛部だって先輩たちから声をかけてくるのを待っていた。

 好きで、心地よくて、大好きな空間。

 だからこそ、自分勝手に割り込むとバランスが崩れ、壊れそうな気がして怯えてしまう。

 声をかけようとした手を下げ……俺は無言で彼女たちから離れる。

 変わってないなぁ……結局何もかも。


「あの時、加納に声を掛ければよかった……トイレの場所分かんねぇ」


 ちゃんと加納の向かった方に行ったはず、でも人混みに紛れて姿が見当たらない。

 っま、大体の方向に歩けばトイレの看板ぐらいは見つかるだろう。

 そんな時だった。

 あちこち回っていると見覚えのあるピンク、青の服がベンチに座っているのが見えたのは。


「うわっ……見覚えがある赤毛、あれってあいつらだよな」

 

 彼女らの視覚を意識しながら咄嗟に物陰へ隠れ、様子を伺った。


「大丈夫……だよな、まだなんもしてないし」

 

 アイスを食べていたようで、赤髪の手からは常に溶けた液体がポトポトと垂れ落ち。

 お姉さんは自分の手を皿にし、ずっと受け止めていた。

 

 あれ、怒鳴ってて怖い人かと思ったけど面倒見が良いし、めっちゃほのぼのしてる。

 もしかして痛めつけるとかなんとか言ってたけど、全部勘違いで優しい人たちなのか?


「案外、さっきのキティ騒動で会長が俺たちの味方をしたのが功を奏して、もう帰る相談でもしてたり?」


 和気藹々と笑う赤髪と、脚を組みながら揺らすお姉さん。

 賭け恋愛部の先輩たちに教えられた歩き方で静かに近づき。

 肩の荷が降りることを期待しながら、スマホを眺めている風を装った盗み聞きモードへ移行する。


「あのハゲ、デート相手を笑ってやがったぞ。6億あるからって調子乗りやがって、ゴミが」

「お仕置きっ? お仕置きするなら今から男子トイレ行って殴ってくるよ。ネーは車持ってきて」


 違った、穏やかな会話どころか笑顔で物騒な話してた。

 

「まったく、天野テメェはその加虐性をどうにかしろよ」


 やっぱり躊躇なく人を拷問できる、殺せる連中か。

 幸い、まだ行動に出てないけど、デートが不味かったら俺までやられそうな雰囲気だ。

 それにしてもぬいぐるみを揶揄っただけで言いすぎだろ、どう穏便に済ませりゃいいんだよ。


「それにしてもまっさか、この冴えない奴がデート相手ってっ! よく笑わないっすね」


 戻って作戦を考え直さなきゃ、と思っていた足が赤髪のご機嫌な声で止まる。


「はぁーあ、なんか特別なのかなって期待してたのに全然ゴミだし、これならまだ地下行ってた方が楽しい」

 

 俺がこんなにも悩んでいるのに……なんで嘘ついたこいつは楽しそうなんだ?


「任務は任務だ、言うこと聞かなきゃ地下だって行かせてもらえないぞ」

 

 あー、そっか……そうだよな。

 なんで思いつかなかったんだろう、なんで簡単なことが分からなかったんだろう。

 今の状況で難しいんだったら変えりゃ良いんだ。

 赤毛、そうか、君の名前は天野っていうのか。

 お前もそう思うよなぁ——嘘をついたってのに忠犬装っている、天野さんよ。

 

「っあ、もしかしてさっきの子? そうだよね、やっぱりっ!」

「——ッ、うぇぇぇぇぇぇぇ゛ッ?!」

 

 作戦を変えることにした俺はスマホをしまい。

 他の仲間が見当たらないことを確認してから天野の肩を掴み、話しかける。

 嬉しいことに彼女は姉さんと俺を何度も見返し、カエルのような悲鳴を上げてくれた。


「さっき……? もしかして、この可愛い可愛い天野と知り合いなんですか」


 混乱している天野に比べ。

 隣のお姉さんは態度をすぐに切り替え、満面の笑みで俺へ探りを入れてくる。

 アイスを貯めた汚い手のまま、天野の首をワシ掴みして。


「しらない、こんな奴しらないっ! しらないっすよッ! ねー信じブェッ——」

「黙れ」

 

 グッと爪がめり込むほど、喉元を押し付けられた天野は苦しそうに呻き。

 お姉さんの手から溢れた白い液体が首元を伝り、彼女の谷間へとねっとりと垂れていく。

 うっわ……怒られる程度かと思ったけど的確に気道を潰しているし、首をへし折りそうな勢い。


「んッあ……いやッ」


 ギロっと嘘をついているかどうか、俺を見定めようとするお姉さんの目。

 こっわッ、どうしよう……脅し程度のつもりで話しかけただけなのに殺されそうなんだけど。


「ゔぐぅッ! ゔぅぅぅぅゔッ!」

『グィッ、グィッ』

 

 不意にズボンへ違和感を感じ。

 見てみると涙を浮かべた天野が一生懸命、隠れながらズボンを引っ張ってきていた。

 顔色もだんだん白くなってくるし、心なしか口パクで『助けて』って救いを求めてる気がする。

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