500円の価値しかない俺が6億な生徒会長に惚れられているんだが

第26話落ち着け、落ち着けば…

　落ち着け、取り乱すな、俺。

　赤毛が嘘をついた以上、これは弱みになる。

　そうなれば嘘に合わせてあげれば人間なんだし、多少の恩を感じるはずだ。

「先輩、先輩」

　服を引っ張られ、振り返ると苺谷が背伸びしながら耳打ちしてくる。

「生きてたら10万あげましょうか？」

「10万？」

「10万」

　聞き間違えかと思って繰り返すと、苺谷は指で1と0を作ってくる。

　えぇ、すっくなッ……お前は500万貰うんだろ。

　普通は2:1で俺に300万か、1:1の250万じゃないのか？　こっち命かかってるんですけど。

「なんですか、その目。頼まれたの私ですし、股間蹴ってまで連れて来たおかげて貰えるんですよ？」

　軽蔑の含んだ目から察した苺谷は「じゅ、15万」と少しだけ金額を釣り上げる。

　まだ1割にも満たしてないけど……こいつの性格を考慮すれば十分、罪悪感を感じているんだろう。

「金はいらない。お前は知らないフリしつつ、デート盛り上げてくれた後にモテる方法を教えてくれればいい」

　俺の話を聞き終えた苺谷はきょとんっと間を開け、パァっと顔に花を咲かせる。

「500万を独り占めして良いとか先輩太っ腹ですねっ。任せてください、金を積まれない限りは裏切りませんっ」

　そして信じてください、とばかりに自分の胸をぬいぐるみを持った手でポンっと叩いた。

　ん、聞き間違えたのかな……？

　今こいつ、金を積まれない限りって言った気がするんだけど。

　そんな訳ないよな、仮にも500万全部貰う奴がまだ金で揺れ動く……そんなわけ。

「なぁ……苺谷、1万あげるから俺をあいつらに突き出せって言ったらどうする？」

「はいっ、喜んで突き出しますっ！　今連れて行けば一万くれるんですか？」

　指差しながら聞いてみると、ただの一瞬すら考えること無く、硬貨のごとく煌めく眼差しで苺谷は即答。

　そう、そうだよなぁ……お前ならするよな。

「デート終わったら5万やる。誰かに買収されるなら証拠ありで1.1倍出すから寝返ろ。当然、1.1倍上乗せがある事を喋ってはいけない」

「——それ、儲かるデートがさらに儲かるじゃないですかっ！？　会長の親様様ですねっ！！」

　様様じゃねぇよッ！

　まったく、どんだけ金に執着してるんだ。油断も隙もない。

　まぁしかし、金が絡んだ以上は味方だろう…………多分。

「恥ずかしいから、結局俺たちはカチューシャだけにしたわー」

　ようやく出てきた加納は、垂れ耳の白いカチューシャを手に持ち。

　横に並んだ会長は、黒い猫耳のカチューシャを頭部に付けていた。

　それだけ？

　なら、俺たちがストラップとか色々買った意味はあまりなかったな。

「お前らは……ゥハッ随分とテンション上がってんな！　ハハハッ！　なんだよそれ、似合わないし、デートの邪魔だろ」

　俺の持っていたキティのぬいぐるみに気づいた加納は、指を刺しながら笑ってくる。

　まぁ……でも買わなかったら笑われていたのは加納達かも知れなかったし、良かったのか。

「でもさ、丸っこい目とか、耳可愛くないか？」

「可愛いとか以前に似合わなすぎだろッ、ハッハハハハッ！」

　うんうん、いい感じに盛り上げ役のピエロが出来ているぞ。

　とりあえずこの調子でテンション上げていけば、二人も遠慮せずにイチャイチャ出来るだろう。

　——そんなことを思っていると、背後からガッと肩を押し除けられ。

「えぇ〜？　会長、先輩のぬいぐるみ可愛いですよね？」

　いつもより激しい足音を立て、苺谷が生徒会長へ同意を求めた。

　あー……ちょっと、ちょっと、自分が選んだお気に入りなキャラかもしれないけど暴走しちゃダメだろ。

「そうねぇ」

　ほらっ、聞かれた会長も俺らの様子を伺いながら困ってる。

　こうなった以上、苺谷と同意見だとしても彼女はデート相手である加納の味方するしかない。

　だから自然と生徒会長&加納、俺&苺谷のデート相手同士で対立関係になってしまうだろ。

　どうすんだよ、イチャイチャ+嫉妬の相乗効果どころか、ギシギシな冷めた雰囲気になるぞ。

「うん、とっても可愛いし、似合ってると思うわ」

「ッえ？！　いや、確かに可愛いけどそれは女の子が持った上的な感じ——」

「中田さんでも十分似合うわ」

　な？

　予想通り、会長が加納の味方へ回って怪訝な空気に——。

　ッなってない！？　なんでッ？！

　なんで俺らの味方になってんの！？

　正気か、加納はデート相手だぞ？　生徒会長がこっちの味方しちゃダメだろッ！！