第25話間違えてない?

「ポーズ、間違えてますよ?」

「っあ、っえっへ! 間違えた、間違えた」

 

 首を手で切るポーズをしていた赤毛に、苺谷がツッコミを入れると照れたように誤魔化す。

 こいつ……人が多いから言い換えただけで殺せって命令されてんじゃん。

 もし生徒会長の親なら拷問どころか、デートと知ってより過激になってんじゃん。

 まだ違う可能性はあるけど、加納の知らない所でどんどんピンチになってるな。


「あー、お前ら中田って奴知らね? 眼鏡にツインテールの可愛い子とデートしてると思うんだけど」

「——っえ?」

「——ッは?」


 面食らった顔をする苺谷に、加納の名前が出ると思っていた俺も固まってしまう。

 

 っえ……中田?

 いや、きっと聞き間違いで……違うよね?

 さっきは違う可能性があるって言ったけど、こんな違いは全く必要ないよ? 神様。


「か、かのうって言ったか? いや、そんな奴は知らない」

「いや、中田中田、な・か・たっ! って奴。なにその反応、知ってんの?」

 

 ————俺じゃねぇかよッ?!

 っえ、なんで会長のデート相手が俺になってんのッ!!

 っていうか、なに気さくに話しかけてんだよ、お前ッ!

 大勢の前で怒鳴り始めるお姉さんもそうだけど、ちゃんと見張る相手の顔ぐらい予習しとけよッ!!

 

 なに、俺は『加納を嫉妬させる』&『親を欺くカモフラージュ役』で呼ばれた当て馬ってこと?

 それなら不味くね? 不味いよね。今、別の女と一緒にいるんですけど。

 親の目線からしたらデート相手、他の女とペアルック身につけてイチャイチャなんですけどッ!!


「おもろっ、にいさん毒喰ったみたいに倒れんじゃん」


 のほほんとしながらきゃっきゃっと赤毛は手を叩いて騒ぐ。

 というか……めっちゃ笑ってるけど、こいつはこいつでターゲット知ったらまたお姉さんに怒鳴られるんだよな。


「もうどっか行けよ、俺はこれから本命とイチャイチャするんだ」


 変な宣言をする俺を、赤毛の子は変人を見るような眼差しの後に苺谷へ同情を送る。

 

「へぇ、勝手にすれば? 知らねぇなら知らねえでいいし、服あんがとねー」


 知らない、そう判断した赤毛はそのままゲートの方へ戻っていく。


「なんか全然流れ分かんないんですけど、あの子にもっと詳しく聞いた方がいいじゃふ——」


 これから怒られるだろう、哀れな阿保の子を呼び止めようとする金の子の口を塞ぎ。

 俺は苺谷の頭を無理やりこっちへ向かせる。


「いいか、あれは会長の親が雇ったヤベー連中。何故かデート相手を俺と勘違いしてんだよ」

「あー……だからあんなに金払いが」


 納得げに頷いた苺谷がしまった、とでも言うように口元を押さえる。

 金払い……?

 そういえば儲かるデートとかテンションが上がってたけど、金額までは聞いてなかったな。


「別に金は取らないけど、正直に言っていくらだったんだ?」

「ほ、本当に取りません? 後から撤回しても先輩にあげませんよ?」


 その後3、4回と確認してくる苺谷に、俺は何度も頷く。


「えぇっと……500万です」


 ——ッご、ごひゃく?!

 想像しなかった大金に、俺は思わず固まってしまう。

 

「そ、それは、加納を見つけた金額と合わせてか?」

「先輩を連れてデートした後の報酬だけで」


 は……たっか、先輩たちがいた頃でさえデートのサポートは一件、数十万がいいところなのに。

 キチガイな親が介入するなんて想像してなかったのか、少しだけ申し訳なさそうにする苺谷。


「ちなみに…………加納を見つけた報酬はいくらだ?」

「200万貰いました。でも、これは先輩が良いと言ったので絶対あげません!」


 6億当てた男を見つけることより、300万上乗せ。

 そんなの絶対、俺の命の料金が入ってるじゃねぇかッ!


「最悪、最悪だよ……金玉蹴られて手伝うハメになった挙句、親の当て馬だなんて」

「っあ、ちょっと先輩っ! 生徒会長たちが終わったみたいですよ、出てきますよ!」


 もういっそ正直に、さっきの赤毛へ加納がデート相手って言えばいいか?

 でも、そうすると依頼内容に反してしまい……生徒会長が泣いたら俺へ責任が来て不味いことになりそう。

 なら残された道は二人のデートを盛り上げつつ、誤魔化すために俺が会長ともイチャイチャしなければいけない……そうゆうことか?

 

「ハァーー!? こ、こいつらがターゲットなのッ?!」


 先程の赤毛の素っ頓狂な声が、遠く離れたこっちにまで轟く。

 いつの間にか戻ってきていたお姉さんが持っている紙を凝視しているから、ターゲットを確認したみたいだ。

 名前も知らないけど、俺を拷問・殺すかもしれない奴が怒られると思うと気分がいいな。

 もっと怒られろ、なんならお姉さんにバレて俺らを監視する計画も流されて消えてくれ。

 

 ——そうだ、その可能性も十分にあるじゃないか!?

 見張りが露見した状況下なら、いくらデートが成功風に見えても裏にはならない!

 意味がない。

 作戦は中止! 無効ッ!

 やったッ!! 全部、馬鹿な赤毛のおかg、


「い、いや……知らねぇっすよ。このワンピースも盗んだもんだし、こいつら探しにいきやしょう!」


 ————ッおいぃぃぃ!! 平然と嘘つくんじゃねぇよッ!!!!! テメェッ!!!!!!

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