第24話お前、気を許す相手をさ
「いいけど、サイズが合うかどうか分からな——」
最初から俺の返答などに興味は無く、最初から行動が決まっていたようで。
話半ばで赤髪の子はワンピースを強引にかっさらい、頭に通す。
そして器用に中のシャツだけ脱ぎ、額を拭うとゴミ箱へ捨てた。
「いやー、デート見張るってのに服装だけで怒られちゃってさー。参っちゃったよ」
「はは……それは災難ですね」
その子は地面の汚さとか気にせず、その場へ座、八重歯を見せながら話しかけてくる。
身体を左右に揺らし、呑気な表情からは気にするそぶりすら見えない。
あのお姉さんは喉が枯れそうなほど叫んだってのに……この子へ教えるのは色々大変そうだな。
「……ぇと」
周りの人が日常へ戻る中、無言のままで俺は赤毛の子は見つめ合う。
えっ、別にもう会話する引き出しなんてないんですけど。
服着たのになんでずっと座って俺を見てくるんだ? 気まずすぎる。
「い、苺谷」
空気に耐えきれなくなった俺は、視線で苺谷へSOSを出すと「はぁ」と吐息を出しながら前に出てくれる。
あぁぁ、めっちゃ助かった。
こうゆう時にコミュニケーション能力が高い、高倍率な人がいると助かるよ。
「ちょっと、どっかに行ってくれませんか。見て分かりません? デート中なんですよ」
苺谷はここぞとばかりに赤髪の子を冷たく突き離し、手でハエでも追っ払うかのような動作をした。
ちょっ、
逃げた手前で言うのもなんだけど、もっとオブラートに包んだ柔らかい言い方ってもんがあると思うんだがっ?!
そんな棘のある言い方したら、波風立てなく済むところにも大波が出来ちゃうだろ。
「っおぉぉ……ぁ? ッフ」
赤毛は歓声が混じった声を漏らし、そして苺谷を見て鼻で笑う。
あぁ、やめてっ! 売り文句に買い文句みたいになってるって。
この子も苺谷の発言にイラついてるって。
「デートね、デートってしたことないんだけど、じゃこんなことしたら嫉妬すんのか?」
よいしょっと両手で地面を叩きつけるとともに、赤毛は飛び上がり。
「——っは」
突然、俺の腕を掴むと胸を押し付け、まるで自分の方が大きいと挑発するように苺谷へ笑いかける。
なんか股間蹴られたり、変な女が現れたり、ずっと俺の知っているデートじゃないんだけど。
白ワイシャツ一枚でも全然動揺してなかったし……なんだこの痴女は。
「んー、ゴミ箱に抱きついてるネェネを見てる野郎たちと同じ目。君、デートのくせに微塵たりとも嫉妬してないね」
あくびする苺谷に小首を傾げた赤髪は「これならどうっ」とさらに胸の合間へ俺の腕を挟み込む。
なんだろう嬉しい状況のはず、はずなんだけど……エスカレートするほどモテてない事が分かって辛いかもしれない。
やっぱり、ぬいぐるみ買ってあげたぐらいじゃ部室の溝は消えないか。
「お金貰えるからデートしてあげてるだけですよ。言っておきますが賞金倍率0.01の500円ですよ、その人」
待て待てっ。
その言い方だと、まるで俺が金で苺谷のデート依頼した悲しい男に聞こえないか? 一応、手伝っている方なんですけど。
「っあっは! 0.01とか嘘付くならもっとマシな嘘にしな——っえ?」
心底ダルそうに赤毛を見下した後、小さくため息を吐いて俺を指差した苺谷。
追い討ちをかけるように赤毛の子は笑い。
そして俺を見ると豆鉄砲を喰らった鳩ような顔をした。
わぁ、ご丁寧に慣れしんだ反応をありがとよ。
分かっているんだ、次は哀れみが含んだ目になるんだろ?
「にぃさんって虐められてる上、好きな子を金でデート誘ったんだ……可哀想な人生送ってんね」
ほらほら、言った通りになった。
なんだ、なんだ、争っているフリしながら二人とも俺を煽っているのか?
公言出来ないだけで6億持ってんだぞ、こっちは!
はぁ……心の中で言っといてなんだけど、金しか魅力がないって自分で認めたようなもんか。
「お前らさ……実は仲良いのか? 喧嘩するならせめて互いに傷つけあえ、さっきから俺にばっか弾当たってんだよ」
否定するのも面倒になった俺は、無視する方向へ切り替え。
赤髪の子は何度か俺の視界に入ってこようとするが、全てを避け切る。
「金貰ったデートなのになんで追い払おうとしたのかなーって疑問はあるけど、まっいいや!」
ようやく諦めた赤毛は頭の後ろで両手を組み、苺谷の方へ意味ありげな視線を投げる。
「じゃ、そろそろネェネの機嫌も戻るだろうし、行くっ! まだ見張る奴も見せてもらってねぇし」
見張り……?
——そういえば、一番最初も『デート見張り』とか言ってなかったか。こいつ。
もしかして、いや……そんなまさか、違うはずだ。
「友達のデートが心配でさっきのお姉さんと監視か?」
「ん、違う違う、娘のデート相手がクソだったら痛めつけろって親から頼まれてんだ」
痛め……つける。
まだ大丈夫、まだ加納ではない可能性が残っているはず。
過激な言葉に、嫌でも一つの考えが浮かぶが必死に否定する。
まさか、会長の親が頼んだ見張りがそのターゲットの知り合いから服を貰い。
その上ペラペラと任務のことを喋ってくるとか……そんなアホなことしてる訳ないさ。
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