第43話蝶の羽ばたき

 赤と黄色を基調とした威圧的な垂れ幕が下され、踏めば足が埋め込まれるほどの真白い絨毯が敷かれた生徒会室。


「そんな不完全な擬態は許されることじゃないな」


 10メートルにも及ぶ黒木色な長テーブルとレザーチェアが中央に並んだ最深部、窓の明かりも届かない薄明りの下で。

 眩いばかりな白い制服を身につけた男子生徒は、黒いソファにもたれ掛かりながら俯く。


「生きていることすら嘘じゃないかと勘違いさせ、誰からの期待も受け止められる一流詐欺師の称号がこの体たらく」


 『生徒会長』そう書かれたネームプレートを撫でながら男は足を組み直す。


「誰からも理解されないと癇癪を起こすのは分かるが、Eクラスは余りにも不釣り合いじゃないですか」


 ネームプレートがギシギシと割れそうな異音を出し、男は微笑む。


「まぁ、全部大丈夫さ。僕は貴方を信じている」

 

 ガチャっという物音と共に生徒会室のドアが開き、三年の女子生徒が現れる。


「お疲れ様、調べ終わった?」

「はい、黒姫様の好きな人はEクラスの彼らではなかったです! 証拠もあります」


 女子生徒はカバンからスマホを出そうとするが、奥にいた男は静止し「そうか、ありがとう」とお礼を言って、眩いばかりの白い歯を覗かせる。


「なるほど……6億円を手にしたハゲが本命でも、他の思惑があったとしても楽しくなってきたね。どちらにしろ原因を潰したら正気に戻ってくれますか?」


 笑顔を向けられた3年生はどんどん頬を紅潮させ、ドアへ体当たりをするように生徒会から飛び出す。


「うぉっとっ?!」

「ご、ごめんなさい」

 

 遠くから聞こえて来た驚きと小さな謝罪、に奥の男は小さく口元を吊り上げた。

 特徴的な白衣に普段よりも胸元を開けてだらけた服装で現れたその人物は、しばし手を伸ばしたまま冷めた目で女子を見送る。

 そして部屋から吹いた風に髪がなびき、


「相変わらずくっさいなぁ……ここは」


 同時に鼻を押さえて入れ替わって部屋へ入り、奥の人物を見た。

 

「先生、底の底……地獄にいる人間は後悔して善良であろうとすると思いますか?」

「知らん、つまり何が言いたいんだ? 着飾った言葉で喋りかけてくるな、面倒くさい」

「例え地獄の釜だろうと、針の山だろうと、現状より下にならなきゃ人間は地獄ですら慣れて変わろうとしないって話ですよ」


 少しの沈黙の後、ぱち……ぱちと気の抜けた拍手が木霊する。

 

「ほー、素晴らしく哲学的だな。何をさせたいんだね」

「動かない人間を叩き、眠っているのか、死んでいるか判別したいだけですよ。死んでる人間がいつまでもベッドにいたら窮屈でしょう?」


 椅子に座っていた男は立ち上がり、ブラインドカーテンの隙間から見えるEクラスの校舎を見つめる。


「8月頭の旅行終了時、1.0倍率以下は全員退学にしましょう」

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500円の価値しかない俺が6億な生徒会長に惚れられているんだが にくまも @nikumamo

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