第41話盗み聴き

 先ほどの発言から考えるに苺谷自身は来たくて来たわけじゃない。

 つまり、誰かに呼ばれて来たということ。

 

「大事な物は謝ったところで、お金払っても変わりの絵を描いても……元通りにはならないんですよ」

「うーん、そうだね。大切そうだったし」


 生徒会長の声……か、話している内容は絵の話? 出来すぎている、俺がいない時間帯を調べた上で仕組まれた演技か。

 いや、いつもは12時20分ごろでこんな早く戻ってくる事はイレギュラーのはず。

 

「そんな自分がスッキリするだけの行為に意味はあります? だったら……だったら私はちゃんと恨まれることに徹します」


 ただの偶然……にしては神のイタズラがすぎるぞ。

 現状維持、それが自分にとって相応しい罰だと決め込んでたのに、苺谷は苺谷で罪悪感から悪態をついていたってのか。


「そっか……ならもう無理そうね。ごめんね、人目ない場所ってここしか思いつかなくて」


 俺だけが気にしている、俺だけが後悔している。そうゆう前提で今まで思考を築き上げていた。

 

「自己中のゴミ、か」


 ふいに先生からの言葉が頭の中を何度も巡り、口からも溢れ出る。

 なんで少しも考慮しなかったんだろうなぁ……俺が気にすると同じように、苺谷だって気にしたりするってことを。


「はぁ……」

 

 そこら辺が、やはり俺がモテない底辺たる所以か。


「けど、それならそれでどうしろってんだ」

 

 部室の壁に寄りかかり、廊下の床へ座り込む。

 知ってしまった以上、何も行動を起こさないことは道連れを善とする行為。

 怒鳴った俺はともかく、苺谷は罪悪感を感じる必要すらないってのに。

 先輩たちの絵はもう気にしていない……それだけ伝えられればいいが、できるならとっくにメッセージ送ってるし、会って話している。


「じゃぁ、残念だけど報酬は100万で……前の口座と同じで良いのね?」

「あぁ、はい、加納先輩が違ったのならしょうがないですので」


 金の受け渡しがここに来た理由か、しかし……100万?

 見つけた報酬ではなく、失敗でも加納とデートさせてくれたお礼の値段か?


「でも、それなら当てた人は誰なんでしょう? まだ探すんですよね」

「んー、とりあえずはもう良いかなっ。それほど急ぐ必要も無くなったし」

「あの後ですしね」

「あの後……? そうね」

 

 生徒会長の両親は先回りして、加納へしたように脅しでもかけるつもりだったのだろうか。

 けど本人が振られたことで、部下たちは探す事に執着する必要がなくなったと。

 苺谷はそれを理解し、生徒会長は部下がいた事を知らないから疑問風。


「それより苺谷ちゃん、前に貰ったシールなんだけど3枚も中に入ってたの」

「へぇーっ、結構入ってたんですね」


 俺は……どうするべきなんだろう

 苺谷をわざわざ呼び出さなくても良い、というのは確かに絶好のチャンス。


「だから記念として苺谷ちゃんにも一つあげる、どれが良い?」

「っえッ?! いいんですか、じゃその真ん中ので」

「元々、苺谷ちゃんのだしね。どこに貼る?」

 

 何事もなかったように入って『気にしてません』風に座れば……大体30%ぐらいの確率でナーナーになる見込み。

 残り70%は不機嫌になった苺谷が出ていく結果だ。

 でも、生徒会長もいる中で後者の展開になったら……かなり惨めという事も考慮しないといけない。

 

「じゃ、スマホの後ろにお願いしま————ッ」


 ひとまず退散するか。

 そう思って立ち上がる中、椅子が転げ落ちるような音が廊下まで響き渡る。


「ご、ごめんなさい……指から落ちちゃって。でも、そこまで驚かなくても他に同じのあるし、私から中田さんには謝って——」

「いや、いやいやいやッ! ヤッバいですよ、生徒会長ッ!! あのキチガイ、怒りまくりますよ?!」


 申し訳なさそうな生徒会長の声を、聞いたこともないほど荒らげた苺谷の声が掻き消す。

 何をそんなに慌てているんだろう。


「私が消した落書きだって、ここのテーブルなんですよ、そこにあった奴!」

「——っぇ、あ…………え、絵って……黒板とか…………紙に書いてあったのを汚したとかじゃ……ないの?」

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