第4話 平常と。ー海尋ー壱

テュルセルが誇る一等航海士モイチは名指し仕事の契約確認の打ち合わせと意見の付き合わせで港湾管理事務所の二階、階段を登ってすぐのひらけたスペースで仕事の依頼人エルマ・バルビエリとその護衛が同席する中、仕事の詳細とスケジュールを聞き、出航時期や期間、途中立ち寄る港の計画を立てていた。そこへ、職員見習いの若い娘がお茶とお茶菓子をこの間顔面を引っ叩かれた銀色のトレイに乗せてやってきた。銀色のトレイなんてこの辺りじゃ大国の王族や直近の貴族くらいしか使っていない、そもそも銀色ではあるが銀じゃねぇ、硬すぎる。おまけにトレイの上、日常使いの木の皿に乗っているのはこないだの甘重いミヒロんとこの菓子じゃねぇか!そういやこのエルマってヴラハの大商人であっちゃこっちゃの港湾都市に自分の商館持ってるような貴族御用達の商人だって噂が流れるくらいの大物だ。そんなのにこんなの出したらどんな反応するのか……非常に面白そうだ。

そんな考えを見抜いてか、階下へ降りる手前でトレイで隠した親指をグッと上げてきやがった。

 髭を蓄えた細面の紳士がどんな反応するのか、ちゃめっ気というには冒険が過ぎる。

一応言っとくがこちらの方は上得意の大商人様だからな、外海の向こうヴェルキア王国の王室御用達って噂もあるんだぞってお方が、

「これは珍しいお菓子ですな、包んであるのは「紙」ですか、それにこの皿、縁を摘んで持ち上げて、

反対側の縁を爪で弾くとチン、チンと硬そうな音がする。茶色っぽいんで木の皿かと思ったらボーレルの土を焼いて作った高級食器のような皿だった。ボーレルのは表面がツルっとして簡単な模様が入っているが、正面の大商人がまじまじと睨みつけているのは一見表面がザラザラして薄灰色の地に故意に凹みをつけ、その凹みに茶色が塗られているような……これもあいつ(ミヒロ)か!

ミヒロの事は他の都市や商人には内緒にしておきたいんだよ。そんな心配をよそに上品な手つきで

紙の包を破き、あれ?緑色?の輪切りを、これまた皿の上に置かれた艶のある濃い緑の小さなナイフで小さく切り取り口へと運ぶ。


「んん〜〜〜〜〜っ!うんっ!うんっ!んんん〜〜〜〜〜〜〜〜」


唸ってんだか喉につっかえてんだか分からん反応かと思ったが、


「甘いっ!実に甘いっ!とても甘いっ!」


良かったよ、「甘い」って認識は共有できたようだ。


「モイヒはんっ!ふぉふぃらばろひらふぉおふぁふぃ(モイチさん!こちらはどちらのお菓子)

!ぐはっごほっごほっ!」

 

大丈夫か落ち着け、そして食ってから喋れ。

皿の横に置かれたティーカップ(これはボーレルで普通に買える庶民向けの普及品だ)のお茶を喉に流し込んで喉のつかえを押し流すと

「おおおおおおおおお〜〜〜〜」

今度はなんだ?んそういや、俺の茶をみると薄い緑色だ。これもミヒロか?ミヒロん所のもので間違いないな!ちょっと言い聞かせにゃいけねぇな、こりゃ。悪気がないのは分かるが異国文化を独占してると思われちゃ非常にまずい。さて、どう取り繕うか。と言い訳を考える間もなく、

「モイチさんっ!これは新たに開発したお菓子ですかなっ!実に甘いっ!是非とも妻に持ち帰ってやりたいのですが、どちらで購入できるのでしょうか?それとこのお茶!お菓子の甘さとお茶の渋みがとても相性が良い!テュルセルは新しい航路と販路を開拓されたのですかっ!!」


「いや、向こうから菓子折り持って挨拶に来た」


とは言えず、ちょっと遠方から立ち寄った遍歴商人が挨拶に持ってきた菓子とお茶だと言ってやり過ごす。あながちウソではないので落とし所としては上々か。


「まだたくさんありますのでお荷物でなければ細君へのお土産にどうぞ。一週間位は日持ちするそうです。」


そう言ってメイピックが五つばかり重ねた箱をテーブルの上に置いた。


「おお、これは有難い!遠慮なく頂戴いたします。」


細君やら家族が喜ぶ姿を考えてか、狡猾で抜け目のない商人の顔が綻んだ。研ぎ出した刃物みたいな鋭い顔がこうも破綻するとは甘味のもたらす効果は恐ろしい。


ちょっと話は逸れるが、あれからしばらく経ったある日、職員の女どもの話を耳にした商館勤めの若い娘っ子どもから「是非とも食べてみたい」と拝み倒されるわ、ベルナデッタまでもが乗り込んできてメイピックに話つけてくれと中ば脅される形で泣く泣く俺もメイピックもミヒロに頼み込んでみたら、


「ちょっと待っててくださいねー」


と棚から酒でも出すような気軽さで答え。、それから少ししてまた頭の上であの悪魔が喉から搾り出す甲高いと建物を震わせるバタバタという音がしたかと思うと、真横に倒した緑色の衣装ダンスが宙に浮かんで音の立てずにスーっと扉を開けて入ってきた。その後ろに控えるように付き従う鮮やかな青い制服姿の女。歩み寄るミヒロの姿を確認すると、踵を鳴らして直立不動の姿勢をとり、敬礼?の姿勢をとり


「お待たせいたしました海尋様!お申し付け頂きました『榮太樓總本鋪』の『金鍔』二種、野戦保存設備と共にお持ち致しました!」


 軍隊じみた様式で受け渡しを行うと、「では受領証にサインを頂戴いたします」と呟きざま、ミヒロの襟首を掴み上げ、みるのも恥ずかしい熱いキスを強引にかましやがった。

 

 事務所に響き渡る空気を引き裂く黄色い絶望の大絶叫を他所にでは失礼いたしますとミヒロを床に戻し、くるりと回って扉へ向かい、視線だけでロビーを一瞥して手元で濡れた唇を拭いながら「フッ」と挑戦的な笑みを浮かべた。これから先は悲壮の坩堝なのでやめよう。

 

 閑話休題

エルマ・バルビエリは舌に残る甘さを茶で洗い、

「メイピック殿、その遍歴商人とはお取引なさるので?」


「えぇ、今どこに商館を建てようかと相談している最中です」


「おお、ではテュルセルに席を置くと?是非ともご挨拶させていただきたいものです」


大商人が下手に出るなんてどうにも気味が悪い。


「会合がてら今度ご紹介致しましょう」おいおい、メイピック??


「ほうほう、それはそれは楽しみですな。ここ最近、ダスキア方面はヴェルキアにやられっぱなしですし、アスタールの上は氷で手も足もでない。陸路もボーレルから先は盗賊だらけで我々は我々の協定圏内のみに抑え込まれておりますからなぁ。陸路に強い商人が増えるのは有難い……」


他人の発言を遮って口を挟むのは無礼なことだが、後から説明、修正すんのは面倒だ。


「いや、船だ。それもベシュキシュの海峡を難なく通り抜けられるってんだから、俺たちにゃ想像もつかねぇようなおっそろしい船かもしれねぇ。だからあんまり勘繰るような真似はしないでくれ」


あわよくば田舎者の新参を上手いこと丸め込んでやろうって顔が見えたもんだからつい素が出ちまった。「ほう、船ですか、どんな船なのですか?」なんて話になって、興味と商機が合致した商人の行動力は何しでかしてくれるか分からねぇ。今ん所、ミヒロの船はこちらでの荷運びに使えるように改修中でセンベス渓谷の辺り、銀の採掘場手前の入江に停泊させているとかで、暫くはその辺に仮の住居を構えるんんだそうな。


なんか恫喝したようでみっともないかは思うが、コソコソチョロチョロ動かれるのも気に触る。そんなこんなで水面下でつま先の蹴り合いを、机の上では航行計画を極めて穏便に話し終え、契約書にサインして握手して終了。飯でも食って解散しましょうか。と流れるかと思ったら、お土産の甘味抱えて護衛共々「では本日はこれで」と早々に引き上げていった。


俺は俺で護衛船団の連中に話し通すべ、と羊皮紙の書類を纏めて港湾管理事務所から港沿いの荷車や人の足で踏み固められた土の道を歩く。海側の道は石造りだが、商館や住居の前あたりはまだ土のままだで、雨が降ったりすると抜かるんで大変だが、こっちの方が俺は好きだ。


 目当ての護衛船団団長ダンジョー・アマカスが使っている酒場兼事務所に脚を運ぶ。元々商館の居並ぶ通りに通りに、こじんまりした潰れかけの酒屋があったのをこれ幸いと買い上げて護衛船団の事務所にしちまったのでほとんど港湾管理事務局の別館みたいになっている。


日中、夜中とほぼ船乗りが管巻いてるので港湾労働者や交易船商人などは通り一つ向こうのもっと小洒落た綺麗なおねぇちゃんのいる店に行く。酒場に入ると陽に焼けた人相の悪いツラで人を値踏みするような目が一斉にこちらを向く。いちいち挨拶なんてしてれないので早々に

「アマカス団長はいるかい?」と大声で尋ねる。


「なんでぇモイチじゃねぇか、最近新顔のすげぇべっぴんのお嬢ちゃんと仲良くしてるんで、もう俺らとは遊んでくれねぇかと思ってたぜ」


「アホ抜かせ。仕事だ。エルマの護衛。三ヶ月。金貨7万」


「随分ふんだくってるじゃねぇか、ヤバイ仕事か?」


「海峡出てダスキア方面で海賊の恐れありだ」


「まぁ座れよ。ちょいと聞きてぇ事もある」


さて、ミヒロのことでも聞かれるのかと思いきや、


「最近ヴァルキアやボーレルの連中がテュルセルの船狙って襲ってるってえ話なんだがよ、ありゃなんのつもりだい?」


「買うより奪った方が安いだろ。こりゃ半分冗談だが、外海とアスタールの方で不漁が続いてるのも関係してるのかもしれん、内海は変わりないが、なんにせよきな臭い動きがあることは確かなんだろな。ボーレルもセレネスと戦争になるかもしれん。銀の流通抑えようとしてる」


「厄介だねぇ、厄介極まる。争いごとしか知らねぇ野蛮人どもにゃ文化って物がたりねぇんだよ、

そらそうと、あのべっぴんのお嬢ちゃん、男ってマジか?」


そらそうと以降、やたら真面目な顔つきで聞いてきやがった。


「胸はぺったんこだった」


「覗いたのか、このすけべ!」

「殴るぞ」


「やめろ おっかねぇ。近所の娘っ子やら奥さん方が吐息混じりに「あんな綺麗な子はきっとどこか、違う世界のお姫様に違いないとか事務所受付の姉ちゃん捕まえて色々聞きまくったりで、おまけにこないだのアレだろ。うちの母ちゃんまで「ミヒロちゃん、うちの店にいらっしゃらないかしら〜〜〜」とか寝言吐かす始末だ。オペレッタの人気役者がボロ雑巾に見えるってんだからとんでもねぇ話さ」


「名前まで知ってんのかよ……」


「オメェンとこのツィツェリア嬢ちゃんとエルザねーちゃんがゾッコンみたいじゃねぇか。それはもう神降臨!とばかりに浮かれまくってんぞ。そのうち小綺麗なオペレッタの人気役者みたく追っかけ回されっぞ」


「仕事の話だがな。いつまでも与太話してるわけにもいかねぇからさっさと終わらせっぞ」


「エルモかぁ、あいつ大分ヴラハ貴族と教会に献金寄進してるそうじゃないか。ボーレルの連中に

眼ぇつけられてなきゃいいいんだが」


「ヴラハ登って毛皮仕入れて海峡渡ってヴェルキアで荷下ろししてその足でリュクセンテウスの鉱石積んでマルクト経由でダスキアで鉱石下ろして香辛料と茶葉積んでヴェルキア戻って終わりだ。」


「海賊どもは海峡超えてダスキア方面のあたりで足の速い小型船で待ち伏せしてるって話だ。

で、いつ頃でるんだ?食料やらなんやら護衛船団の準備で三週間欲しい」


「ばっちりだ。」


「仕事の話はこれで終わりか?ならどうしても聞きてぇことがあんだけどよ、、モイチ、お前ぇあのお姫様に投げ飛ばされたってのはホントか?」


酒場が一斉にざわついた。


あぁ、またその話か、最近聞かれなくなってせいせいしてたのに。クサクサするより意気揚々と


「おうよ、それがよ、なんでもお国のジュードーって体術でショイナゲって技だとよ。

こうよ俺っちの懐に入り込んで右手掴んで膝と腰落として俺っちが前のめりになった所で、膝と腰使って俺の腰下跳ね上げて、そのまま前に巻き込むように床に叩きつけられたんだよ。もう見事見事!

息つく間も無く天地がクルッと回って綺麗に投げられたぜ!あっはっはっはっは!ホントすげぇぞ、あの投げ技」

さも楽しい出来事のように喋り終わると同時に歓声と悲鳴が沸き起こる。金がどうこうって、こいつら賭けてやがったか。


酒樽担いで綱渡りするような奴が何やってんだよっ!と文句つける奴まで出てきやがった。わからんでもないが、俺を責めるな。

 

「よし、他に質問はないなじゃぁ俺っちは帰るぜ、」じゃぁなと言いかけた所で


「なんだよ飯食ってけよ。ウチのカァちゃんも喜ぶ」


「いい提案だ。アドニアの飯はうまいからな。ゴチになって帰るとしよう」


アドニアってのはアマカスの女房で元は海賊だったんだが、娘が生まれて海賊から商船護衛に鞍替えした。

「そういやヨアンナは元気でやってるか? もういい年頃だろ」


「ボーレルの騎士訓練所に叩っこんだ。操船はお前仕込みだから訓練所出たらウチの見習いだ」


「そいつはおっかね……いや頼もしい」


「だろ」


「はいよ、存分にやってくんな!」


ムール貝とエビのパスタ、タコの切り身を軽く油で揚げた付け合わせ、それをワインで流し込む。

飯食って酒飲んで馬鹿話して船乗りの1日が終わる。

 

 夕食の後、居間として使っている応接室(予定)の人一人が余裕で寝転がれる長さのソファに座って次女達から送られてきた報告書のレポートを空間投影された画面で確認しながらまずは何をすべきかと対策と手段を考える。レポートのほかに要望書や物資在庫、備蓄資材あれやこれや。

交戦的なクロンシュタットからは拠点の要塞化計画と内海の小国や大国領地を支配すべきとグイグイ

寄られている。


「考えるまでもありません。相手は所詮石と木程度の文明。鉄と火力で押し潰せば良いのです。」


と洗い物を済ませた割烹着姿の長身金髪のヴィータが隣に座り熱弁を振るう。偵察用ドローンから

地図を作り、高低差から地下資源の調査、戦力の分布など様々な項目で詳細な報告が上がって来ており、全てを俯瞰で一瞥できるのがありがたい。そして、「補足ですが」と頬がくっつきそうなくらいピッタリと体を寄せてくる。反対側からはクロンシュットが首に腕をガッチリ回しヴィータから引き離しながら自分の方にグイグイ引き寄せてくる。


「銀は鉱山ってよりは原始的な露天掘りだね、常駐の騎士はせいぜい500位であたしとクロンシュタットちゃんと私で楽に制圧出来るよ〜」


「でも分かんないのがこの武装。どう見ても騎士が持つ物じゃない」


言いながら力任せに足の間に割り込み、腿に頭をグリグリ押さえ受けながらセヴァスポートリがしたから見上げて話してくる。背後からサーシャが両脇のヴィータとクロンシュタットを払いのけ、胸を後頭部に押さえつけて足の間のセヴァスポートリを摘み上げソファの端に放り投げる。


そして自分の場所を確保すると、海尋の首に両手を回したまま、くるりと体を回しながら主の膝の上に座り、海尋の頬を撫でながら地形と(あくまでも仮設)の現拠点の進捗状況を説明する。艦隊再編には鉄資源が足りない事、動力はなぜか原子力、燃焼機関がガラクタとでも言わんばかりに対消滅エンジンとでも言いようのない謎機関に置き換えられ原理と構造を現在調査中であること、主機関の置き換えにより跳ね上がった出力に船体や最終動力系が耐えられない事などを海尋の頬を撫でくりまわしながら報告した。自分の体に当てられる胸やらお尻、耳元で囁くように吐かれる甘い吐息に、見た目通りの思春期突入したての男子なら下着の中で白濁が暴発しても、これは仕方ないよなぁ、と同情の色を見せるような事態になるのだろうが、一切顔色一つ変えず


「狭い?場所移る?」とだけ口にすると


「現状維持で構いませんので交代制で!」と口を揃えて物申した。


「あと三人来るんなら思考通信にした方がいいのかな?」


(すぐお側に参上致しますので是非是非そのままで!×3)思考通信で反対がきた。

 

 結局、総勢7人 ご主人様1名と、それを取り巻く一人を除き青い制服を着た美人のおねぇさん×7名が地図を表示した、ソファーに合わせた作りの机をぐるりと囲み思考通信で報告会を終わらせた。

「おかしい……」



               ー海尋 壱ー

(?×6)(どうした?)(何があった?)

「あなた方気がつかないのですか?侍女失格です」

(109クロンシュタット:そりゃないぜ)(1714カフカース:出戻りの洞察力なのか?なのか?)(102ペレスヴェート:誰が出戻りですか、後でちょっと顔貸しなさい)


「台詞だけ書いても誰が誰やらわかりませんので、私強襲揚陸艦ペレスヴェート・ヴィクトリアからご説明致しましょう。通常会においてはセリフを囲う鉤括弧「」

思考通信会話には丸括弧()となりまして、


(発言者艦船名または艦番号:発言内容)となります。

艦番号はまぁ、コールサイン程度のものと思って下さいませ。

一応下記に明記いたしますが、メモとらなくても結構ですよ。


00タイフーン級重ミサイル潜水巡洋艦ロマノフ:AIアレッサンドラ

102強襲揚陸艦ペレスヴェート:AIヴィクトリア

109 クロンシュタット級重巡洋艦 クロンシュタット

080 クロンシュタット級重巡洋艦 セヴァスポートリ

1706 オグネヴォイ級駆逐艦 オトヴァージュヌイ

1704 スコーリイ級駆逐艦 スコールイ

1714 スヴェトラーナ級軽巡洋艦 カフカース


となっております。旗艦として艦隊制御能力のあるAIには所有者による銘づけがされます。

私とアレッサンドラがそうですね。


現在、我らが主人、鎭裡海尋シズリ ミヒロ様の元には補佐官、として海尋様が所有する7隻の艦船と七名の各艦担当AIが作戦立案補佐や口頭命令での操舵や作戦行動指示を実行できるようシステムとして存在致しております。私が「強襲揚陸艦」と名乗った時点でそちら方向に造詣が深いお方は21世紀初頭から続く『War Thunder』『COLDWATERS』『World of WarShips』のような戦略シュミレーションゲームにアルペジオぶっ込んでホライゾン仕様パクったかと手厳しいご意見も御座いましょう。大当たりなのでお返しする言葉も御座いません。


なぜこうなったかと申しますとDMMO-RPGの発展とエロ要素がばっちり組み合わさって没入型「艦これエロ同人」になったと思って頂ければ話は早いかと。


 西暦23世紀末、もうじき24世紀になろうかという昨今では、ゲームという娯楽はコントローラー持ってモニター見ながらプレイするものではなく、通信機能を備えたゲーム機本体と体内に埋め込んだ極小サイズの電脳でお手軽に楽しめるものとなっておりまして、よりハードでコアなプレイヤーはデスクトップ型コンピューターを用い容姿、衣装などをカスタマイズしてより深くゲームを楽しんで頂こう、あわよくばスペシャルMODなんかも課金購入で他人よりも一歩進んだゲームライフを!なぁんてキャッチコピーの元、妄想具現化が擬似体験できるとなればエロ業界が手を出さない筈もありません。


より高額な有料プランで仮想現実内で理想の姿、理想の相手とゲームの世界で肉体言語の膝を交えた熱く激しい打合せを交わして、現実世界での性風俗を仮想現実に押し込めてしまえば色々煩わしい問題も解消できるとでも思ったのでしょう。


当たり前ですが、基本的な年齢制限と社会不適合者の制限は御座います。PC同士での強要行為やNPCの奪い合いは言わずもがな。仮想現実における我々人間型アバターAIに関する規定や規約が定められて行き、女性型、男性型ともに『人権』といったものが考慮されるようになった頃、(ここまでくるのに200年ほどかかっておりますが)我々の人格、容姿などを専門に扱う工廠、ブランドが立ち上がり、アフターマーケットや追加パッチなどで個性、個別化が促進してゆきます。


 私どもAIの進化同様、先の戦略シュミレーションゲームも大幅に進化いたします。仮想現実の中で一兵卒として塹壕戦から特殊部隊のスナイパー、戦車や航空兵器にパイロットとして乗り込んでの鉄と火薬の殴り合いから、知力戦略で戦場を塗り潰す提督、元帥として国家の存亡を担うも良し、な所を発展させ、システム、リアリティが魔法の如く進化いたします。


 脳と端末を無線、有線で繋ぎ、脳に信号を送るのですから、空の風、海の風、獰猛な地を走るエンジンの響き、肩に蹴り入れられるようなアサルトライフルの反動。激しい痛み、命に関わるような衝撃はオミットされますが、ダメージとして行動不能、アイテムを使っての回復などモニターに表示される情報ではなく、自分の体で感じることも可能になります。戦争といった破壊、殺傷行為をスポーツとして置換体験し、ルールを定めた娯楽として盛り上がっておりますのが戦場を玩具銃で撃ち合うサバイバルゲームに置き換えた物や架空のシナリオに沿って軍隊を駒のように動かして勝敗を競う様子をネット中継し視聴率や大会の賞金を稼ぐチームも結成され、戦争ゲームのネット視聴が消滅した野球やサッカーなどに変わって市民の楽しみとなりました。


 ゲームに勝つために各国力を入れてプレイヤーを育成したりゲーム内で使用できるカスタマイズされた兵器。そしてプレイヤーを補佐する私どものような自動人形の製造、プログラミング。他にもまだ多々御座いますが、主人と我々の関係をご理解いただける最小限の留めさせて頂きました。


 さて、本題はこれからです。一等航海士のモイチ様が主人の年齢を尋ねた際、私の同僚アレッサンドラが「大凡13歳」と申しましたのは我が主人鎭裡海尋は13歳の春の終わり頃に上級国民の娘とその取り巻きに両手両足を斧で切断され殺害されかけているのです。もとより鎭裡の家は国家の象徴たる天皇陛下が執り行われる祭儀の折、祭壇の場を清め払う舞を司る家系の巫女として、性別が男性ですので性転換手術が可能になる16歳に手術を受け鎭裡の家を継承するとなっておりました。

 

 23世紀の後半ごろ、田中角栄以降、国家主将たる立場の人間や政党による売国行為や国賊行為に憤慨した日本国民により天皇陛下の復権回復運動が起こり、日本国の元首は天皇陛下であり、私服を肥やす政治家などに元首の座は預けられぬと議会政治はそのままに、陰に隠れがちな、天皇陛下の国事を社会に広め、日本国の元首は天皇陛下であると国民に知らしめるため天皇陛下の祭事を公にしたため、鎭裡の家が継承してきた宮廷舞を京舞、歌舞伎舞踊、琉球舞踊同様の重要無形文化財と定め、演者たる海尋様は海尋様が襲われた際、その知らせを聞いた先代様が急逝されたため、後継として舞の作法を伝授さていたのは海尋様だけだった事から伝統技能の根絶を防ぐべく

なんとしてでも、と海尋様を機械につなぎ延命できる間、脳から舞いの様式、振る舞いを抽出しようとしたらしいのですが上手くいかず、「仮想現実内に義体を与え、記憶、経験を移し替え、電子情報として保存する」といった方法を取ったのですが、仮想現実の中に人一人落とし込むのも、インタラクティブな回路の構築があってこそ、外部SSDにOS入れて外部立ち上げなどとはいかず、

身体機能を機械で管理しつつ脳を機械に直結など技術的に問題ばかりで、まだまだ技術が確立されておりません。そこで、DMMO-RPGの技術が生かされることとなったのです。

 

月曜日の朝礼じみたつまらない話ですので結論のみ申しますと海尋様の電脳上義体はフルオーダーのオートクチュールとなっておりまして、制作にはかつてDMMO-RPGの初期に絶大な人気を誇った『Yggdrasill』というゲームでプレイヤーとしてもクリエイターとしても名を馳せた46人の中に

海尋様が懇意にして頂いている方のご縁がありまして、お仲間を数名亡くされた際に解散されていたのですが、縁あるお方の呼びかけにほぼ全員が再集結して医療の限界をあっさり飛び越え、これはもう『魔法』としか表現できないと関係者を驚愕と自信喪失の坩堝に叩き込み、お集まりくださった皆様は「せっかく集まったんだからゲームでもしようぜー」と軽いノリで『Yggdrasill』の制作会社による外伝的後継作品、エリック・ヴァン・ラストベーダーの「黄昏の戦士」の世界観を軸とした『SHYA AN SEI(シャ アン セイ』なるDMMO-RPGでの試運転、調整および教育を行なったのです。

その辺りの事は私ではなくアレッサンドラの方が詳しいのですが、『Yggdrasill』での

悪鬼醜魔だの狂人の集まりだの手を出してはならない禁忌の集団だのものすごい言われようの方々に薫陶を受け、すっかり馴染んでだいぶお変わりになられたそうです。その頃から自分の延命と治療に莫大なお金がかかっていると知り、現実世界に干渉せずお金を稼ぐ方法としてネットゲームの賞金目当てに個人参戦の枠で代理戦争として人気急上昇中の『COLDWATERS』『World of WarShips』等に参戦し、数々の功績をと人気を上げてついには世界ランクにまで上り詰め、運営の定めた条件を満たす選ばれた艦隊司令官級プレイヤーのみが参戦できる「ルナティック・シナリオ」に私共を伴って参加したので御座います。最終シナリオ、バルト海、黒海に進行している中華連盟の艦隊撃破に向かう最中、あるはずのない嵐に巻き込まれ、抜け出た先は地図にない海域でた。


暫くは地形と現状の調査とシナリオへの復帰を目指したのですが、嵐に再突入してきた道を戻っても地図にない海岸線があるばかり。

わかったことは、リアル同様ここは丸い惑星らしき星の海にあたるところでジュールヴェルヌの海底二万マイルもかくや言ったところでした。

 

 さて、長々とお付き合い頂きましてありがとう御座います。これでもだいぶ端折ったのですが、

一度本筋に戻らせて頂きます。ご精読ありがとう御座います。



          海尋  壱 終幕  

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