第35話鍛冶屋で乱闘ドンジャラホイ

階段を下りて宿舎の外に出て馬の所に行けば、クロンシュタットが馬に乗ろうとして悪戦苦闘しているダリアの横で必死に馬を押さえ込んでいた。特に嫌がっているようには見えず、馬のデモンストレーションの見えた。前後に、上下に大きく揺さぶられるその姿はまさしく荒馬を乗りこなすロデオといった具合で、手綱の長さのギリギリのとこまで跳ね回っている。しかしダリアは上手く乗りこなしている。良くもまぁ鞍もつけずにやるもんだ。ベアバック・ブロンコ・ライディングだっけか、そんなスポーツが大昔にあったとか、ダリアにはまだ余裕があるらしく、片手で鞍のホーンにかけ反対側の手は頭の上に挙げられて髪を振り乱して「イーヤッハァ」と声をあげている。つくづく見事だな、近衛騎士には乗馬のスキルも求められるんだろうか。

「おぉ、海尋ちゃん。見てくれよ、ダリアのこの勇姿。こんんだけの暴れ馬乗りこなせるたぁ驚きだ」


手綱を抑えて顔だけ僕に向けてクロンシュタットが言う。


「うん、凄い凄い、カッコいい。お楽しみの所申し訳ないけど、鍛冶屋につれて行きたいから、返してくれないかな」


「よーし、どうどう、なんだ海尋殿の馬だったのか、いやこれは失礼。やたら挑戦的な目ぇしてるものだから、つられて跨ったらこの有様だ、とんでもない暴れ馬だな、じゃじゃ馬なんんて言葉じゃ釣り合わん」


馬から降りながらダリアが詫びを入れる。


「いえ、僕のと言うわけではないのですが、成り行きで…………」


クロンシュタットから手綱を受け取ると、馬が僕の前でしゃがみ込んだ。


「海尋ちゃんには大人しいのな、こいつ、何かやったの?馬相手に全力で喧嘩とか?」


「そんなことやりませんよ、全力で洗っただけで」


「何ぃ、なんて羨ましい!海尋ちゃんに全裸で洗ってもらうとか、なんて羨ましい!」


「しませんよ、そんな事!どんな変態ですか、全裸で洗うなんて」


なんだ、クロンシュタットを見て、顔を90度傾けて舌出して煽り笑いしてるぞ、この馬。

「クヒッ、クヒヒヒヒッ」


「むかつく野郎だな、おまけに音声入りで笑いやがって」


「ほら、いい加減にして」


馬の顔を正面から抑えてクロンシュタットから視線を外させる。なんか納得いかないようで、

首を動かしてクロンシュタットに眼を飛ばす。

「なかなかの馬だな、こんな立派な馬どこで見つけたんだ?」

ダリアさんの言葉に救われた。

「騎馬兵の使ってた馬なんですけど、向こうでオトヴァージュヌイたちが洗ってたうちの一頭です」

「騎馬兵か……そういえば聞いた子ことがある。なんでもえらく希少の荒い黒い馬がいて、騎馬兵の先頭に立つはずが、あの「偏屈」がドヤ顔で乗ったら、振り落とされて病院送りにされて怒った「偏屈」が荷馬に回したとか、馬の扱い知らない人間が何やってんのか、医者送りで済んで感謝しろってとこだよな」

「それがこいつってか、…………やるじゃねぇかよ、お前、気に入った」馬の首に手を回して馬の顔を撫でるクロンシュタット。


「偏屈ってヴァンクス宮の前で撃ち殺された第二王子だっけ。「第一」ってどこで何やってるんだ?」


死亡者リストには第一王子の名前はなかった。


「あぁ、「世捨て」の事か、「世捨て」ならどっかでのたれ死んでるだろうさ、あの甘ちゃん」

王族に向けてえらいいいようだな、まぁいいや、王室のことなぞ僕には関係ないから早く鍛冶屋に行ってこよう。馬に顔を向けると、スッと立ち上がり待ちくたびれたと「ブルル」と嗎き手綱を持って馬に乗ろうとしたら、鎧に足すら届かない、仕方なく馬にしゃがんでもらって馬の背に乗る。ローンレンジャーと怪傑ハリマオのようにうまくいかない、第一身長が絶望的に足りない。ので大人しくよっこしょと跨ぐようにして馬に乗る。

「じゃぁ行こうか」と馬が立ち上がると視線がスーッと物凄く高くなる。しっかり手綱をにぎって前へと進む。

「それじゃぁ、ちょっといってきます」言うや否や、どっと走り出す。

「うわわわわわわわわわ。早い、早すぎるって、」その間、あおざめた顔色でクロンシュタッっとが心配そうに見ていたが、馬から降りて手綱を引いて歩いてゆく海尋を見てほっと胸を撫で下ろす。

「驚いたな、海尋殿は乗馬も出来るのか」

ダリアが一人ごちると

「ああん、大抵のことは出来るよ、なんてったってあたしらのゴシュジンサマだからな」腰に手をついてふふんと鼻を鳴らして「どうよ」とばかりに軽胸くをはる。

「それなんだよなー。どうにもお前達の言う「ゴシュジンサマ」ってのがようくわからん、絶対的な忠誠を交わしているわけでもなし、海尋殿に対する態度を見る限り服従している訳でもなし、一体どういった関係なんだ?」

「甘々おねショタラブラブビ〜ムな関係」そう言って胸を持ち上げる仕草を見せるクロンシュタット。一歳瞬きもせずに胸を持ちあげて巨乳アピールするクロンシュタットにダリアは絶句した。


「せめて瞬きはしてくれ」

   

  しばらく進んで、右前脚の動きが心配なんで馬の背から降りて手綱を引いて歩く。王宮の広場はとても広く、城門や城壁といったものは見受けられず、王宮と市街地の境目がない。しかし左手に見える一段高く広い階段が境目といった所だろうか、攻め落とそうと思えば案外楽かもしれない。一段高くなったところから王宮、宮殿の敷地になっているらしく、身なりの良い服装のご婦人やら紳士やらが時たま歩いていくのが見える。皆階下には目もくれずに歩いているのだが、やはりデカい馬は目立つらしく、こちらを見て驚嘆している。数奇な目を無視してそのまま道なりに進んでゆくと、右手に大通りが見える。王宮正面から伸びていることから

メインストリートだろうか、色々な商店が並んでいる、ちょっと覗いてみたい気もするが、今は蹄鉄だよな。王宮の真正面の道には高級食堂が並びその合間合間に食料品や雑貨店が並ぶ。

どれも高級な商品のようで店の表には看板が下がっているだけだ。おもしろいことに、酒場では外でも飲めるように酒樽と椅子が数脚置いてあるのに、カフェのような面にテーブルをだしている店は一軒もない。まだオシャレなカフェとかそう言う時代ではないのだろうか。しばらく歩くと鼻を刺激する焼けた鉄と油の匂いが漂ってくる。王宮側の通りの端っこに鍛冶屋があった。


  鍛冶屋に近づくと間断なく金物を叩く音が耳に響く。店の前で作業着姿の金髪センター分けが鉄を打っている。壁に埋め込まれた小さな炉と腰掛けた足の間に収まる金床にキンキンとリズミカルな音が耳に届く。

「ごめんください」

声をかけると

「うわっ、なんだお客か」

あたふたと周りを片付け作業着を着た、くすんだ金髪のセンター分けで目つきの悪い男が、姿勢が悪いからか、俯き気味にこちらを見上げるように、作業状態から接客できる状態へと移った。

「あぁ、すいません。この子の蹄鉄をお願いしたのですが、此方は馬の蹄鉄は扱っていらっしゃいますでしょうか」

やたらと丁寧な言葉使いと相手の身なりを見てちぢれた金髪を前から掻き上げて

「やべぇ、いいとこのお嬢様だ」と身なりを正す「苦手なんだよなぁ、「接客」ってやつは、あああ、いらっしゃいませ、蹄鉄ですか足の大きさに合わせます……んで……」と馬を見る。デカい、ここいらじゃ見ない種類の馬か、だいたいお貴族様なんぞはもっと小ぶりで細っこい馬使うだろうよ、だったら軍馬か?それにしてもデカすぎる。こんなデカい馬に乗るのって、一体どんな巨漢だよ」

改めて声の相手を確認すると、……ちっこい。子供か?しかも少女??なんでこんなデカい馬を少女が引いてるんだ。しかもめっちゃ美人。妙な着物着てるし、外国の従者かなんかだろう。布を横に二つ折りにして首を通す穴開けて頭を通したような服着て、髪の毛は薄荷色だし、しかも超がつく美人とくれば異国の少女かと思うのも仕方がない。


「ああ、蹄鉄ね、しかし、大きな馬だと馬に合わせるのにちょっとお時間いただきますが」


それだけ言うのがやっとだった。


「構いません、お願いできますか」


そう言って馬を引き、手綱を受け取り、前脚から見る。


「じゃぁ、お預かりしますんで、あ、お代は後で結構ですよ、あ、これ預かり証です」


目の前の職人から預かり証を受け取ると、それを懐に入れて、壁にかけてある剣だの盾に見入っている。ふと、ギルドに関する決まり事が頭に浮かぶ。

「確か、ギルドって同じ鍛冶屋でも「区分わけ」が激しくなかったっけか?同じ鍛冶屋でも

剣や盾、鎧なんかは細分化されて職種が決められてい筈だ、「何でも屋的」な扱いはしてなかった筈。軒下には馬の蹄鉄を模った看板が下げられているので、ギルドに加盟しているのは間違いないのだが・・・。


「おや、剣や盾に興味がおありで?うちは王室軍の装備を一手に引き受けてるんで、飾ってあるんですが、それもお終いでね。表に出しておけば好事家が買ってくだろうってんで、注文は受けたけど、代金もらえないのを表に出してるんですよ。いい客引きにはなるかな」


なるほど、立派な誂えの剣や鎧がい多い訳だ。装飾華美で実用性に欠ける。金属に花の模様とか鳥の羽とかまあ豪奢といえる彫金がなされている。いずれ「冒険者」の誰かが名前に箔をつけるためにこの手の「芸人衣装」じみたものを買っていくのだろう。ヴァンクス宮の置物にするにもいいかもしれない。

  ぼけらっと剣や盾を見ていると、傍でコツ、キィン、コツ、キィンと2拍子の軽快なリズムを刻む鋼の音が強弱強弱と行進する時のようなリズムを叩く、頭の中でお菓子の「スコーン、スコーン、○池屋スコーン」のCMが流れて思わず笑ってしまう、そういえば「鍛冶屋のポルカ」って曲があるけど、あれは金床をハンマーで叩く高い音色で軽快に鳴っていたが、此方1発目にガイィンと力を入れて、2発目は軽くキイィンと叩く場所を探すように軽く、そのためリズミカルな2拍子が生まれ、なんとなくIevan Polkkaとか歌い出しそうになるがここでやったら営業妨害になるので自重しよう。ネギ持って踊り出したら何事か?と店の人総出取り押さえられるぞ。しかし、口ずさむ歌は止めようがない、だが、牧歌的に歌えるようなもはなく、拍子を取るのがインダストリアル系の音なのでメタルパーカッションガンガン言わせて、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの廃工場で酸素ボンベやら何やらジャンクな鉄ぶっ叩いてリズムとってる感じだ。今ここで、いかつい顔したお兄さんが、ガニ股でギター構えて、「へい!らっしゃい」

と出てきそうな雰囲気はある。その一方、馬の面倒見ている店員さんは器用に足の間に馬の前足を挟んで蹄に荒めの鑢をかけて形を整えてている。すでに蹄鉄は出来上がっているので、赤熱している蹄鉄を馬の足に合わせると、蹄が焼けて、立ち込める白い煙で作業の手元が見えなくなる。そして蹄鉄を蹄に犬釘で打ちつけて、先が飛び出た部分をペンチで折り曲げて余分な長さを切り落とす。この辺の作業は折り曲げて切るところは一気にやってしまったので、どうやっているのかわからない。そして。鑢をかけて整えて、片足分終了。手際が良くて見事なものだ。装蹄師の仕事っぷりは見事なものだった。

「あの、すいません。同じような馬があと50頭ほどいるんですが、お願いできますか?」

「?おいおいおい、お嬢ちゃん。バカ言っちゃいけねぇ、つべこべ言わずに連れてこい!何頭だって面倒見てやらぁな」馬の蹄に鑢をかけながら店員さんが、失礼だが長いこと風呂に入っていない風体だがはかなりの職人気質だ、が答えると、

「おーいオリ!」と店の中に声をかけると、長身で頭の禿げた、(スキンヘッド)無表情の男がのそりと現れる。木版にチョークでコツコツと書き物をしながらだったので、腰だめでヴァイオリンでも弾いていれば、益々「森メタル」な雰囲気が上がりだす。

「ちょっとそこのお嬢ちゃんの話聞いてやってくれ」

とぶっきらぼうに言うと、自分は馬の蹄鉄を用意するのでまた鉄とハンマーを用意して、鉄が赤くなるまで炉にくべていた。その間、チャップスーーカウボーイが履く股下だけを覆うような履き物の両腿あたりに設けたポケットから蹄鉄に穴を開けるポンチを取りだしていた。


「で、話ってのは」しゃがれた低い声で男が尋ねる。簡潔にも程がある。


「はい、馬の蹄鉄を50頭分程取り付けと交換をお願いしたいのですが」


「どこにいる?」


木版から目を離さずに男が尋ねると


「マトリカ・ヴァンクスの離れで、。宮殿はずれにある別棟のような・・・」


そこまで言うと、一際大きくギャイィィィンンと打ち損じた鉄の音がして

目の前の無表情な男が目を細めたがすぐに気を取り直し、何事もなかったかのようにコツコツと木版注文内容を書き込んでいた。


「おいおいおい、マトリカ・ヴァンクスつったら、昨日物騒な騒ぎがあったところじゃねぇか!

なんでも王宮の軍隊が一商人にボコされたって事らしいがまさかこの馬、その騒ぎに乗じて掠め盗ったものじゃねぇだろうな?」


馬の蹄鉄を見ていた男が言うと


「建築ギルドの連中が「仕事の独りじめだっ」って酒場でぼやいてたぜ」


とつけ加える。


「物騒なマネしでかしたのは王宮の軍隊で、独り占めなのは彼らの技術が低くすぎて話にならないからです、そしてこの馬は騎馬隊の馬ではありますけど、騒ぎのドサクサに紛れてこちらで面倒を見てるんです、掠め取ったとは人聞きが悪い」


とため息混じりに答えた。


「ほうほうそれでそれで?」と食いつき気味に話にに乗るスキンヘッドに蹄鉄を叩く


手を休めずに話に乗る金髪ロン毛のセンター分け、髪の毛は洗っていないらしくゴワついている。

この手の話に乗ってくるのは娯楽の少ない所為か、別段隠すようなことではないし、大砲潰して芸人みたいな格好した兵隊を追い混んで、騎馬で一蹴して差し上げた事を面白おかしく話して、技術の違いは具体的な面をきっちり説明した上で、彼らギルドの技術では此方の要求を満たさない事を鍛冶屋の二人に話てーーといつの間にや、ら酒の入ったジョッキを片手にぐるりと周りを囲まれていた。


「なんだよ、馬50頭って軍隊の馬かよー」「あいつら馬の扱い知らねぇからおおごとだぜ」


などなど好き勝手に騒いでいる。

話が終わると、あれこれと質問ぜめに会い、ヴァルキア王家の主だっった、王家主体の軍勢が全滅して、これは内緒ですよと口元に人差し指を当てて、ヴァルキア王と王子が戦死した事を伝えると、

ブラボー!!と仲間内でジョッキを激しくぶつけ合い、一気に煽る。

「前々から気に入らなかったんだよ、あの「偏屈」!!」とお祝いムードになる。死んで喜ばれるなんて、一体何をやらかしたんだ、あの王子?


  「おい嬢ちゃん、終わったぜぇ」と馬の手綱を渡す。


「ありがとう御座います」と手綱を受け取り、「おいくらですか」と聞くと


「銀貨3枚ってところだが、後から大口の仕事もあるから一枚でいい」と言うと、


「面白い話も聞けた事だしな。あの偏屈の手勢が総崩れってんなら、晩飯がうまくなる。いや、面白い話を聞かせてもらったよ」


懐の巾着から銀貨3枚を取り出して手渡すと

「おいおいおい、2枚多いぞ。一枚でいいって」


「きちんとした仕事にはきちんとお代を払いませんと……………… 」


「子供が《ガキ》が細かい事言うもんじゃぁねぇよ、黙って小遣いの足しにでもしな」


子供ガキと言われて、表には出さぬが多少はムッとした態度で


「それじゃぁ。今度いっぱいお世話になるからその「手付」と言う事で」


「そうきたか、しゃぁねぇ、俺の負けだ。俺の名前はシャマーニ・サーミスってんだ、覚えておいてくれ」

「僕はシズリミヒロ言います。ヴァンクス宮で屋根の修繕やってますので、ーー」


「お前かぁぁっ!、話の火種わぁっ!」


ぐわーっと噛みつかれそうな勢いでガニ股の、汚いセンター分けが迫り来る。

さすがは鍛冶屋、「火種」とは旨いことを言う。


「あ、それと僕は「お嬢ちゃん」じゃありません。これでも男です」


それに今回も騒動だって、降りかかる火の粉を払っただけで自分たちからふっかけたわけでもない。第一、「お嬢ちゃん」は女の子に対して言うものだ。

きっぱり言い切った。それまでお祝いムードの中、酒を酌み交わしていた鍛冶屋の男たちの酒がピタリと止まった。シャマーニが隣の男の頬を軽く殴った。


「ははははははは、痛ぇな何しやがる!」「はっはっは、痛ぇか?よし、俺の頭は正常だな」「だからどうしたこの野郎!」今度はシャマーニが羽交い締めにされ殴られる。こうなるとあとはもう馬乗りになってボコスコ殴り殴られ。止めに入った奴までなぐりあいに参加する。


「わはははっははははは」笑い合いながら殴り合う。

「聞いたか、あのお嬢ちゃん、男だってよ、はっはっは」「ちくしょう、あんなべっぴんが男だなんて世の中どうにかしてやがる」「なんだ、惚れたか、はっはっは」


「ばか言え、あと10年もすりゃいい女になるぜ、あっはっは、ちくしょうっ、男にゃ見えねえ、みえるかってんだよクソッ、」

 

  殴り合いもコミュニケーションの内なのか、なんだかんだで楽しそうだなと思ってしゃがんだ馬の背に乗り、


「それじゃあ、馬の蹄鉄お願いしますね」


「おう、明日か明後日に一度状態見にいくぜ、わっはっは」


団子になって乱闘しつづける作業着姿の男達、

酔っ払って拳で友情を語る男達。ワイルドすぎてどーしたもんか、とは思うが、どーしようもない。しゃがんだ馬の背に乗って馬に任せて、トコトコ歩き出す。挨拶はするべきだろうが、それどころではない。「あー疲れた」とか言って、最後は全員青痣作ってテーブルについて、酒を飲み直すんだろうか?

「大丈夫かなぁ」と思いつつ、馬は街中を歩き出す。特に何もせず、馬の好きなようにさせる。

自分はただ背中に乗って、手綱を持っているだけだ。

「時間もあるし、街中見て回るのも悪くはないか」と呑気なことを考えていると、馬は人通りの少ない道をカッポカッポと気分よく道幅の広い通りを進んでゆく。全舗装になってはいるが石畳のところどころで石が浮いている。これは雨でも降ったら大変だなぁ。石を敷く前に

しっかり踏み固めないと、柔らかい所に石がめり込んでいって段差ができる。そうすると、つまづいたり、馬車などの車輪の痛み具合も早くなるし、乗り心地にも影響してくる。王都がこれではかっこ悪い。視界が高い所為か、足元が見難いけどおかげで全体はよく見える。道の中央に向けて両側から傾斜をつけて水が流れ込むように、道の中央を下さげて、そのまま天雨水を流し込んでいる。ちょうど王宮が丘の頂点にあり、王宮に至る道は緩い下り坂になっているので、自然と下流へと雨水が流れることになる。地形を生かしてうまく作ってる。中央部分を暗渠にしてしまえばもう雨水がどこへいっているのかわからない。流しているのは雨水だけで、住人の生活排水は別に水路でも作ってあるのだろうか?

にしてもどこまでが王宮なんだこりゃ、鍛冶屋に服屋に靴屋、調度品などが王宮正面の道沿いに、まっすぐ軒先を並べており、店の作りも豪華になっている。何かこう、これだけ上等な店を召し抱えているぞ、と言ってふんぞりかえる王の姿が見えるようだ。大きな通りだと言うのに道ゆく人はまばらだ、たまに城下の人と見られる姿が見受けられたが、用事のついでにこの道を通っただけで、生活感がない。まるでビジネス街だ。そんで、場違いな自分に対して、なんだあれは?と好気の目に晒される。数は少ないが、その分じっくりと観察するようにジロジロと見てくる。馬も視線を感じ取ったのか、少し早歩きになる。

そりゃぁでっかい馬に奇妙な服きたちんまいのが乗ってりゃぁ何かと思うわな。

「いいよ、気を使わなくても、堂々としてりゃぁいいさ。」かれこれ5KMは歩いただろうか、

左側の一段高いところがなくなり、右側が石作りの白い建物の側面を見せ始める。大方、「王宮に対して横を向くとは不敬であろうが」って考えかもしれない。器が小さいねぇ。しかし、左側の柵はなんなんだろうか。見たところ、だだっ広い丘陵地帯になって、ずっと先まで柵が道を隔ててその向こうに大きな門のようなエルベ湖からソリス川へ流れる川の出口と若干の森が見える。そして森の中に金属が反射する光を見つけた。

「ふうん、こんなふうになってるんだ」空から見た地形は知っていたが、こうしてみると「演習場にはもってこいだな」なんて考えが浮かぶ。

再編成した王家の軍勢の再教育にはちょうどいい場所かも、と考えていると、アレッサンドラから量子通信が入ってきた。

(008:海尋様、今どちらですか?選抜部隊の選出が終わりましたので、お耳に入れたい要項と運用に関してご相談が)

(00>008:いいよ、今聞く)選抜部隊の半分は概ね海尋が思った通りで、残り半分がキモだがアレッサンドラは実によくやってくれた。

(00>008:オーケー、オーケー。Всё ништяк!《フスョー ニシュチャーク》!

うん、すごくいいね。きっと大物が釣れる!ありがとう!)

(008>00:勿体なきお言葉、侍女としてより一層の忠義に励みます)

「よし、それじゃぁ戻ろう」

そう海尋が言うと、馬は踵を返してトットコ、トットコと駆け足で来た道を戻り始めた。

(>008 それじゃぁ、装備はM-1ガーランドとサーベルで、フルオートはまだ早いから基礎をしっかりやってからにしよう、それとファティーグよりはマルチカモで、いかに自分たちが目立つもの着てたのかわかってもらおう。A -TACS FGに訓練だからポーチがあればいいでしょう。それで人数分揃う?なければ別物のポーチでいいや。え、特別にもう一人?いいよ、サーシャが選んだのなら僕が口挟むことじゃないし、うん、うん、そう、それじゃぁ宜しく)









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