第36話 侍女様ブートキャンプ

  まず、前装式の旧型のことなど忘れてしまいなさい!マトリカ・ヴァンクスカに喧嘩吹っかけてボロクソに負けた俺達がヴァンクス宮の離れにある「極光商会」宿舎の一室に集められて、渡された服に着替えるように言われて、王の元に仕え、王のために死ぬのではなく、聖上様、ヴァルキア帝国民としてヴァルキア女帝のために死ねと言われ、こんな古臭いオモチャではなく、やたらと重い木と鉄の銃といくばくかの弾薬をもらって使い方を徹底的に仕込まれた。魔図クリップに8発の弾を込め、ポーチに入れておき、中の乗ると絵を引いてクリップごと上から押し込み、ボルトを閉じる。すぐに使うなら安全装置はかけねくても良いが、戦場でなければ自分の、ひいては味方の為安全装置は掛けること。などなどを、どう言うわけか侍女服きた銀髪の姉ちゃんが時間をかけて得々と説明した。

  

  俺は王宮側の兵士で戦列歩兵なんてのについていたんだが、あれよあれよと言うまに二転三転する状況に頭がついていかない。俺たちは負けた、一方的に、ボロクソに。第一、なんでヴァンクス宮に喧嘩ふっかけたのか、それすらもわからずただ上官の言うまま、銃口をヴァンクス宮に向けて前進しただけだ。もっぱら改装中のヴァンクス宮に。そんな大した武装も兵士もいないはずだから楽勝もいいところだ。俺の名前はマークス・モッデガルド、戦列歩兵に席を置いていたから銃のことはわかるが、なんだこりゃ。マスケットよりも重くて前から弾を込める必要がないだけでもの凄いアドバンテージだ、俺みたいな無学な人間でもこの銃一つで

極光商会ってところがものすごい所だってこたぁわかる。しかし、斜め向こうのお偉いさんにはどうにも釈然とこないらしい。服装からして指揮官か、参謀といったところか、銃を手に取って眺め回していたかと思うと、その重さに早々に机の上に下ろしてしまった。引き金のブロックを本体から抜き取り、木製の銃床から金属の本体を外してひっくり返してクリップをすっ飛ばすところを引っこ抜いて外す。固有名詞なんてのはわからないから言われる通りに銃を分解してゆく、可動箇所に油を引いて再び組み上げて完成、と。正直訳がわからん。こんなことがなんの役に立つのか、銀髪の侍女様はこのくらいのことは目を瞑って出来なければというが、そんなの無理だ。おまけにまだこの先があるそうで、銃は一人一人に差し上げますから、この辺のことを繰り返しやるように。といって休憩の時間に入った。

  

  ここに集められた敗残兵15人、明らかに人種、いや性別が違うのが一人いる。金髪の女で

軍人のせいか、かなり女としてはかりな立派な体格だおまけに背も高い、こんなやつ連隊にいたっけか?それにど見てもヴァルキア人に見えない四人の男、かなり顔の造形が深いから南の方か?どいつもこいつもおし黙って中の分解組み立てを繰り返している。それに加えて、お前本当に軍人か?と聞きたくなるような、背が低くて腹が突き出た奴。


「俺は司令部付きの会計だぞ、なんんでこんなことせにゃならん。おいお前、代わりにやっとけ」ついには銃の重さに耐えかねて、隣の兵隊を小突いて丸投げする。やってらんないねぇ。

軍隊には平等なんてものはなく、厳しい上下関係があるのみだ。だけど集められた敗残兵なんだから全部チャラになってもおかしくない。


「もうここは王宮の軍隊じゃぁないんだ、自分でやれ」

 

おお、言い切った。そうだよな、うん。眼力がものすごい。

そして、侍女様が戻ってくると、反動と照準になれるため実際に撃って貰います。といって廊下に出されて、廊下の先にある人形の的に弾を打ち込んだ。構えはマスケットと大して差はないが、照準器というものを初めて目にしがとんでもない発明品だなこりゃ。銃口の真上あたりに一本突き出た棒があり、それを後方の丸い穴から覗く、それだけのことなんだが、いきなりやれと言われても丸い穴を覗いて、先端の棒を探して目標に合わせて、なんて一連の作業を瞬時にこなすには慣れが必要だ。そのためにまずは正しい構え方を習得しないと難しい。マスケットで中の構え方は大体分かってはいたけど、銃床を肩と頬につけてグッと構える方法はなんとも上半身が、首の筋が疲れる。もう夜だというのに廊下は明るく標的もよく見える。


「まぁ今日はこの辺までにしときましょうか」


そう侍女様が言って、今日はお開きになった。ライフルはお持ち帰りだ。王宮の宿舎に帰り着いて、飯を食ってそのまま横になる。宿舎と入って敗残兵が収監されている監獄みたいなものだ。もっとも監獄などと言ってはバチが当たる。快適とはいかないが、6人部屋でベッド一つの、街の雑魚寝部屋よりはマシだ。ライフルなんぞをかついで部屋にもどっったせいか、見せろ見せろと喧しい状況になった。そのうちの一人が、ボーレルの最新型じゃねぇか、どこで手に入れたんだ、こんなの。

「え、そうなのか」

「おうよ、マスケット連隊の中でも王の側近が使う最新のやつで、俺たち下っ端にゃぁ回ってこねぇやつだよ。こないだ侍女さんのちっこいのに渡したばっかだ、可愛かったなぁ、薄荷色

の髪の毛が光に透けてなんとも言えなーーなんだよ、急にマジな顔つきになりやがってがってよお」

「お前ら解ってんのか?ボーレルがいかに産業が発展してるからって、こんなの作れるわきゃぁねぇ。金属をこんな正確に加工する技術なんてないだろうがよ」

本当にそうだ、自分でも言っててなんだがこんなに金属を正確に加工する技術なんてのはこの時代にありはしない。しかも15丁あったってことは大量生産出来るって事だ。こんなのに、今ボーレルに攻め込まれたら負けるぞ、まぁ実際負けたけど、侍女様一人に。


  翌日は射撃から訓練が始まってこの銃の集弾性の良さに驚いた。俺の恐怖はだんだんと大きくなり始め、ついには侍女様に声を出して聞いてしまった。すると侍女様は、

「まぁ何人かは戦い方を知っているでしょうが、ほんの一握りです。あとはあなた方と同じ烏合の衆、一山いくらにもならない無価値な連中です。同じ陸戦なら戦う技術がある分、こちらが有利です」と言った。戦いに技術?技術なんてあんのか、その時はそう思った、同じライフル持ってる同士、ライフルの数が多い方が勝つに決まってるじゃないか。それを覆すような方法があるのか?「それをあなた方にお教えするんです。そしてあなたが他の兵隊たちに教えて

軍隊が出来上がるのです」ニヤリと笑う侍女さんの顔はとんでも無く恐ろしかった。その笑みが俺たちに向けられた時、俺たちはどうなってしまうんだろうか?きっとロクな目に合わない事は確かだ。ーー実際そうなった。俺たちは重いライフルを担いで、ヴァンクス宮の裏柄にあるエルベ湖をぐるりと走らされた、大体15kmぐらいはあるところを、重いライフルを担いでのランニングだ、侍女さんももちろん並走している、ってぇか、あれを並走と言っていいのか、スカートに裾を乱さずにては腰の高さで組んだままスゥーっと滑っているように見えるんだが?案の定、司令部付きの会計とかほざいたやつが遅れてくるてヒィヒィ、ゼェゼェいって本格的に遅れ始めると。「オラ、走れ。死にたくなかったら走りやがれ」と笑顔でライフルをブッ放す。冗談じゃない!剣持って追いかけらたほうがナンボかマシだ!となるのだが、

「頑張れー」と馬に混じって女の子が手振ってくれている、馬だって!凄いな、大体50頭くらいはいるんじゃないか、それはもう天使のような笑顔で微笑みかけて手を振ってくれている。臙脂色の侍女を着ているからあの娘らも極光商会の侍女なんだろうか。後ろを見れば、

司令部付きの会計が侍女様に口汚い言葉で罵られている。人格を否定するかのような激しい

言葉責めに顔を上気させて気持ちよくなってんじゃねぇのか?ヤバい方向にいかなきゃいいけど。

足並み揃えてイッチニッ、イッチニッ、と走り込む。まだまだランニングってくらいだろう。

ランニングってなんだ?左にエルベ湖、右手に王宮の土台部分、お散歩道をひた走る。

もうじき、雑木林に差し掛かろうとする時、侍女様からの”お告げ”がきた。

「全員走ったままで聞きなさい。林の中で待ち伏せが3人ほど隠れてあなた方を狙っています。訓練用の模擬弾をつかっていますが、当てればとっても痛いです。うまく隠れなさい。それと8発に1発の割合で実弾が混ざっています。当たればどうばなるか、解ってますね。では健闘を祈ります」


なんだってぇ!待ち伏せっつったか、今。どうするどうする雑木林つっても湖畔のお散歩コースに生えてる茂みたいなもので、見通しは良い、四角し隠れるところは十分にあるし相手の人数もわからん(よく聞いてなかった)。となると、雑木林の中を全力疾走するしかない。そう気づいた奴らが、大きく息を吸って息を止める。そして猛ダッシュで雑木林に突っ込んでいく。タン、タン、タン、タン、と小気味よく廊下で聞いた発泡音が聞こえると、先陣切ったうち四人が膝を抱えて転がった。えーと、なんだっけか昨日の講習では、頭低くして、地面に伏せて、なるべく被弾面積小さくして、射撃手を探して対策考える、だっけか。失敗したなぁ。道のど真ん中に伏せちまった。道の両側に藪があってそこに隠れて進めば、あるいは、なんて考えは甘かった。藪を抜いてまた一人、横っ腹抱えてのたうち回っている。戦列歩兵やってた連中はジリジリと進んで、あの金勘定は


「全く、何をやっておるのだ。進めぇっ進めぇっ!」


と口ばかり達者だ。誰もが伏せてじっとしていると、痺れを切らせてこともあろうにあの馬鹿は、「ふぅ、やれやれ」とか言って立ち上がって服についた誇りを払い、

「いいか、ボンクラども、この先は曲がり道だ、一体どこから撃ってくるというのだ」

金勘定の言うとおり、この先は緩やかな曲がり道になっていて、散策用のコースっぽくなってしかも両脇は藪になっている、いくら”最新式”の銃とは言っても狙えなければと思った矢先、

タンッと音がして、金勘定はひっくり返った。後3発でクリップの交換にななるから、そう思ってか、後ろの誰かが、大きくのそりと動く。タンッと音がして頭の上を弾が飛び超えていく音が聞こええて、慌てて頭を引っ込める。弾は確実に前の藪を抜いてきている。自分の前方にまだ見ぬ射撃手がいるとなると、戦列歩兵としては密集陣形組んでマスケットにスパイクつけて突撃かましたくなるところだが、そんなことをすればたちまち狙い撃たれて残りの全員が

道に転がことになる。焦ったい、頭を上げた瞬間には藪を抜いてくる。あちらは間抜けな俺たちが動くのを待っている。残っている奴らに援護を頼めればなんとかなるかもしれないけど

同連携をとったものか、最初に銃声がした時にめいめいが自分勝手に散らばって連携もクソもない状況を作り出してまった。最初っから詰んでるいる。銃を縦に抱えてゴロゴロ転がって、

道の端の藪に潜り込む、何かを察したのか、後ろの奴らもそれに続く。そのまま藪を掻き分けて進んでいくと曲がり道の向こう側が見える。それでも射撃手の姿は見えない。しばらく道沿いに藪を這いつくばって進んでいく。ベキベキ、パキパキ、ガサガサと枝を折って、落ち葉をかき分けて、出口を目指して進んでゆく。しかし相手も音を立てて進む俺たちを見逃すわけもなく一際大きな音を立てた奴から弾の餌食になってゆく。射撃音の後、キーンと小さな金属を弾く音が聞こえると、俺は一気に出口めがけて走った。勝った!と思ったその時だった。

頭の後ろゴツンと銃口を突きつけられる感触があった。

  



そこにいたのは、臙脂色の侍女服でもなきゃ、俺たちと同じ薄茶に緑の黴が這い回ったかのような色の服を着た、リル・リーメイザースだった、しかもこいつの銃は何か黒い筒のものが銃の左側にくっついていた。いや、左側から立ち上がって、弾をクリップで突っ込むところの左側に本体に沿うように黒い筒状のものが装着されていた。


「お前っ、いくら訓練でも正面から仲間撃つなんて正気かっ!」


「よかったな、訓練用の模擬弾で、本物なら全員仲良くあの世行きだ」

 

言ってることは正しいが、その言い方が気に食わない。胸ぐら掴んでぶん殴ってやろうかと思ったが、何かこう、いい言葉が見つからない。胸の中にどす黒い感情が湧き上がっては、ぐちゃぐちゃとこね混ぜて胸の奥にぎゅうぎゅう詰め込んでやっとの思いで飲み込む。

「すいません、僕が頼んだんです 納得いかないでしょうが、ここはひとつ、懐の深い所を見込んで溜飲を下げては頂けませんか?」

なんだ、えらくちんまい綺麗な女の子がこれまた丁寧な言葉使いで、腰低く話しかけてきた。めっちゃ美人に流石にこうまで言われては、折れたほうがよかろう。まだ子供でも、だ。


「ま、まぁ訓練だしな、あはは、あの気に入らん金勘定野郎がひっくり返って、いい気味だ」


「おや、マークスさんは金勘定する人間がお嫌いですか、これは困ったな、せっかく良い関係築けそうだったのに」

「え?」俺なんかまずい事言った?目の前の薄荷色の頭したカワイコちゃんがどことなく寂しそうな顔をみせたもんだから、慌てて両手をバタつかせて


「いやいや、そうじゃない、そうじゃないんだ。ただ妙に威張り腐ってこちらを下に見るからよ」

「そうでか、ああ良かった、これからもどうぞ宜くお願いしますね、あ、僕はシズリ・ミヒロと申します。「極光商会」の責任者です」


そう言って微笑みながら握手を求められた。俺は差し出しかけた右手を引っ込める。地べた這いずり回って土やら木っ葉やらで汚れていたから。ところが、そんなことかまいもせずに俺の手を硬く握って嬉しそうな顔して上下にブンブンと振り回す。んでその手をはたきもぬぐいもせずにその間、俺は驚きのあまり膝の力が抜けそうになっていたが、なんとか止まって、ギクシャクとかわい子ちゃんについていった。

「いや咄嗟に伏せたのは良かった。と中から藪に転がって入ったのも良かった、あそこでリルさんの目からの逃れてマガジンチェンジの隙をついて一気に走ったのは実にお見事でした」


「はい、ええまぁ、いやいや、そんなことはないですよ」とか気の入らない空返事ばかりをしていた。いまだに頭の中でパニクっているので勘弁してほしい。だって、「責任者」だよ、

ってことはあの侍女様の上の人間で、そんなことおくびに出さずに俺なんかとくっちゃべって

るんだよ。おまけに何か褒められてるっぽいし。りるも何やら調子がおかしいし、妙に畏って「ーー様」付で呼んでいる。一体何者でどんな人物なんんだ、この齢10〜15歳くらいのお嬢様は?あれ、でも一人称が「僕」ってことは「僕っ娘」なのか、う〜ん壁が歪みそうだな。


  「じゃぁ、お二方ともお昼にしてください、僕は向こうでアレッサンドラ手伝ってきますから」

とか言ってどっかに行ってしまったので、俺は俺で飯をパクつきながら、リルに聞いてみることにした。俺たちがなんやかんや喋っているうちに他の連中は一足先に飯食ってやがった。どこへ行けば貰えるのかと探せば緑色のでっかい鉄の箱に臙脂色の侍女服えを着た可愛い女の子が3人並んでいる。そこで、デカくて広い銀のお盆を受け取って、食い物が乗せられていく。どれもが暖かい!マジか!!??いや間違いじゃぁあない。湯気がたちのぼって、湯気と一緒にうまそうな匂いまで登ってくる。丸く焼かれた薄いパンのようなものと、焼いたばかりの肉に茹でたての豆のスープ。軍隊飯といえば豚の血で煮込んだ肉や、野菜、の冷えた物と相場が決まっていたのだが、目の前の食事に驚きいて目を丸くしつつ、リルがそうしていたから、薄いパンに葉っぱを乗せて、肉を乗せて包んで食ってみた、滅茶苦茶に旨い!肉の油と、茶色のタレが薄いパンに染み込んで、味が広がる。こんなに美味い飯食って良いのか?いくら兵隊が食いっぱぐれなしとは言っても、残飯みたいな残り物か、臓物の煮込みで、どちらともはっきり言うて、食えたもんじゃねぇ、それでも食えるだけマシと思えば喉を通る。しかしこれは・・・

涙を流しながら、次々にかき込んだ。豆のスープに鼻水が入りそうになり、


「おいおい、泣くか食うかどちらかにしろよ」


とリルに言われる。


「だってよ、こんなに美味い飯食ったことなくて・・・」


「あーわかるわ、それ。昔はフライパン背負って行軍してたもんな、侍女様々だよな」


そう言っ飯に向かって手を合わせ、拝んでから、侍女様に向き直って侍女様を拝む。


「おかわりいかがっすかー」と薄桃がかった金髪の侍女様が声をあげると、半数くらいが群がった。


「お前はいかないのか?」とリルが聞いてくる。


「これからの訓練内容が怖いんで、実に惜しいけどパスだ。生きてりゃもういちどありつける。」

「それよか、あんた「極光の連中」とは知り合いみたいだけど長いのか?


「ん、まあまあかな。ヴラハで薄荷頭メンソルヘッドに喧嘩売って、そのままズルズルとーー世話になりっぱなしだ。


「ほーん、で薄荷頭メンソルヘッド、ってなぁミフィロ、あれ、メフィロ?発音が難しくて分からん!えーと、極光の責任者様か?」


「ああ、そうだな」と笑いながら答える。


  昼からの訓練だが、まずはライフルの反動と照準に慣れろということで、昨日の続きから始まった。50mの距離で人を模った木の板の標的に向かって立ったまんまで銃を構えて心臓と頭を狙って打つ。俺はきのう廊下で撃てなかったけど、同じマスケットの隊にいたコーバックに聞いてみたところ、とにかく衝撃が凄まじいとのことで、肩よりもやや内側、胸に銃床を当てがって撃つようにしろと内緒の伝言が回ってきたのだが、あまり役には立たなかった。というのも、銃を構えたまま腰を落として歩くなんてことをさせられたからだ。5歩あるいては撃ち、10歩歩いては撃ち、最後は号令と共に伏せて撃つなんて真似をさせられたからだ。午後からはこの訓練をみっちりやらされた。おかげで、ズドン!という発射音の中にキーンと金属を弾く音が聞こえるほどだ。そうすると、ポーチから弾の詰まったクリップを急いで取り出し、親指で押し込め、可能な限り再び構える。陽が落ちて、オーロラが輝き出す頃。ようやく

訓練が終わった。ほぼ中腰で銃構え歩いた物だから腰が痛い。汗もベタベタだ。案の定、昼間に食い過ぎた奴らは訓練中に戻していた。宿舎までライフル抱えて走って戻ると、風呂があった。いやもういたせりつくせりだな!美味い飯に熱々の風呂!!もう言う事なし!なんだけど、まさかあいつも一緒にってこたぁねぇよな、よくみたら王族専用の風呂じゃねえか!!

広い浴槽に不必要なまでに装飾過多。王族の奴らこんなに広い風呂を一人で使ってやがったのかよ、リルはいなかったが侍女様が背中流しにくるとかあったらいいなー。それはさておき、1日の汚れを落として暑い湯に浸かって気分もさっぱりとリフレッシュして、明日に備えて眠るとしようか。

  

  だだっ広く簡素なベッドが15台部屋にぎっちりと詰まってベッドの両端にかろうじて人一人が歩けるスペースがある。誰がどこのベッドを使うかなんて決めるのはめんどうくさいので適当に任せて俺はあした使う弾を紙の包みから取り出して、1発ずつクリップに納めていく。ベッドの順番はその日は早い者勝ちで眠ってしまった。


  「あれ、どこの連中かなあ」

明日の訓練設備を設営業中の海尋がエリシケの方をみながら呟く。

「どれですか?はて、軍艦のようにも見えますが」とアレッサンドラが海尋の肩に手を置いて同じ方向を見る。エリシケの港にいかつい帆船が入港して、なにやらこんなよこんな夜更けに荷下ろしをしているようだった。


「この距離だとかなり画像がボケるな、サーシャはどう?」


「私もダメです。セバスポートリなら或いは。ってところですね」

「うーんダメかぁ、ま、暫くすりゃわかるでしょ。親切な人が現在ヴァルキアに王家は存在してませんよってふれ回ってくれたんでしょ」


「国王の葬儀はもうやっちゃったじゃないですか」


「てっぺん取りたい奴らはいくらでもいるさ、早く一人前になってもらわないと」


「海尋様、深さはこれくらいでしょうか」


「うふふ、上出来上出来、にゃっふっふっふっふっふっふ」

「海尋様、悪い顔になってますよ」


「それはいけないな。皆に嫌われる」

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