第34話 敗者の黒い馬
第34話 敗者の黒い馬
さて、王様の追悼式を終わらせて、大聖堂が燃え終わる頃、ようやく次の仕事に着手できた訳で、一体誰がヴァンクス宮に攻め込んで、あわよくば女帝暗殺なんてことを考えたのか、大体あの戦力差でも攻めてこなきゃぁならん理由があるのだろうし、足りない戦力をどこから借りたのか、あれこれ思いつくけど、ひとづつ解消してこう。
まずは武器弾薬、マスケット以外はボーレルかららしいけど、ボーレルってそんなに軍事大国か?他国に武器を供給しているけれど、自国での軍隊で他国に攻め入るために使ってる訳でもなし、何しろボーレルの採掘場に二号戦車なんてシロモノもあったしな。
僕としてはもうテュルセルに帰ってバクホーデルに本腰入れたいのだけど、あそこも不穏な空気があるから僕が行きたい。檜の机の上で書類に目を通して、承認の印を押していく。
ヴァンクス宮の落成式を行う上での酒や料理、その他細々したもの、本来なら完成の翌日には落成式と行きたかったのだが、先の動乱のお陰で国王、王子、と継承権のある者が死んで、喪に服す意味合いもあって、ヴァンクス宮の離れ、右翼側の建物の延長線上ににある4階建ての建物を僕らの借りの根城としてつかわせて貰って仮の事務所としている。で、そこの2階のエレベーター降りて左側の部屋、何故かそこに僕の執務室が設けられ、書類に目を通す仕事が僕の仕事になっている。こんなこ事するくらいならさっさと河川敷の工事に回りたい。そもそも、僕らが落成式になんて出席する必要なんてないんじゃないかと思う。
「ちょっと外の空吸ってくる」
そう言って執務室を出る。階段を降りて1階から表に出ると、ライフルを持った男--派手な制服を着込んでいるので、歩兵だろうか?ーーがその向こうの角に隠れて大勢の同じ歩兵がいる。青のジャケットに赤のエポレットに青のカラーを首に巻いているので戦列歩兵のようだ、ライフルを大事そうに抱えて、
「君、済まないが、こちらの侍女様に取り次いでもらえないだろうか?」
と、問うてきた。武装解除令が出ているので、おそらくはライフルの回収だろうと思って、回収担当のペレスヴェートに聞いてみる。
(00>077:ペレスヴェート、ライフルの回収で、兵隊さんが持ってきてるんだけど、どこに持っていけば良い?)
「少々お待ちください。今聞いてみますので」
(077>00:少々お待ちください、すぐ受け取りに伺います、宿舎の4階でアレッサンドラが仕分けしてるんですが)
(00>077:いいよ、手隙だから僕がやっとく。仕事の邪魔しちゃ悪い)
「ライフルの回収ですか」と聞いたら
「いや、こいつの使い方を教えて欲しいんだーーもうマスケットなんて使っていられるか!俺達は使い棄ての駒じゃねぇ!ーーあ、すまん、思わず怒鳴っちまった」
そう考えるのもわかる、戦列歩兵が次弾装填に時間の掛からない銃を目にしたら、どうなるのか、想像するに容易い。しかしながら、敗残兵の再武装なんていい事ないぞ少々困った顔つきで考える。
「ちょっと拝借」
と言いながら銃口を下に向けてM1ガーランドを受け取り、ボルトを少し引いて残弾を見と残弾0、クリップ交換する前にに射手が死んで戦場にほっぽり投げ出されたか。傷だらけのストック以外、大きな損傷もないので、このまま使っても問題はないだろう。
「弾ぎれですね、弾入れれば打てますよ」
兵隊の野党化の恐れもあるから、弾は渡さず状態だけ確かめて返そうとすると、一歩下がって受け取らない。怪訝な顔をして相手を見返すと
「ああ、いや、いいんだ、そのまま回収をお願い出来るかな。お手を煩わせて申し訳ないが、
こちらの「女中様」が回収されていると聞いたもんで。あー、うん」
どことなくまだ何かあるようだ。ひょっとして目当ては「極光の侍女」か、だとしたら悪い事をした。臙脂色の侍女服でハイヒールに黒のストッキングで走り回って、そらさぞかし神々しい事だったでしょうよ。ライフルの回収にかこつけて一目お目にかかろうって魂胆かな。
わからなくもないよ、うん。しかし甘かった。角に隠れている連中に耳を向ければ
「おい、すげぇ美人だな、ロリの部類か?あれは、撃ち合いで見かけてないけど、後から馬で襲いかかって来た方か、スレンダー美女、胸もぺったんこ、だが、それがいい」などと好き放題言ってる。男はまだ何か話したかったようだけど、
「それでは僕はこれで失礼致します」と頭を下げてライフル担いでスタスタとその場を去ると
「おい、「僕」って言ったよな、じゃ「男」か、ええ〜〜嘘だろ!あれで男は、いや「男」だからこそか、「「あんなに綺麗な女の子がいるはずない」」と全員納得したようだ。
袂にガーランドのクリップがあるから、今からでも遅くない全弾腐った頭に叩っこんでやろうか。とか考えつつ宿舎に入って4階にあがる。ついでに作ったにしちゃあ手摺なんぞはいい出来だ。太い手摺を支える手すり子も一本一本、しっかり作り込まれている。なんと言ったっけか、昭和レトロだったっけ。明治、大正、昭和の木造建築物を模倣した様式のそんな雰囲気の階段を4階まで登って保管所を探すと、青ざめた顔をしたアレッサンドラが手前の部屋から出てきた。
「アレッサンドラッ!具合悪いの?しばらく横になる?」
慌てて駆け寄りその手を取る。
「ああ、海尋様、丁度いいところにーーこれをご覧下さい、この刻印なのですが、」
そう言って、マガジンクリップの底、刻印が入っている所の映像が視界に乗る。
「IS」「WEP「SA」「BRーW」の刻印が入っている。「IS』はインターナショナルシルバー社、「WEP」はウェイドエレクトリック社」「IS」は「スプリングフィールド造兵廠」「BRーW」は「ボルグワーナー社」のものだ、どの刻印も小さめの文字であることから1943年〜1950年、第二次世界大戦からベトナム、朝鮮戦争時に生産されたもので、あとAEC社のものがあればマニアが泣いて喜ぶ。
「つまり兵器そのものは僕らみたいなゲーム上ではなく、現実のものである」と
「んで、この鉄の塊どないしよーか?」
「遊ばせておくのも、勿体無いですから再利用しましょうか、人手も十分にありますし」
「で、弾は?」
「ありません」
「はぁ、クリップだけ持ってて、肝の弾がないってどういうこと、まさかクリップの交換ってものを知らないとか?」
「おおむね、そんな感じですね。彼らの認識では火薬を入れてから球体の弾を入れる。弾と火薬が一体化して、使い終わった薬莢がーーセミオートマチックなんて考えもつかないでしょうから」
「そこからか……うん、私用の軍隊が欲しい訳じゃないけど、使える武力はあったほうが良いしね、みんなの負担も減るーー減るって言えば、ヴォルクさん達は?彼らに手伝ってもらおう。考え方も同じだし。」
僕らにあれこれ言われるよりも、同じ時代の人間の方が、まして男の方が良いだろう。と判断しての発言だったのだが、か彼らは彼らで、手も足も出なかった臙脂色の侍女服の彼女達を絶対の存在として捉えていたとは思わなかった。すなわち、侍女様、女中様、女神様ともはやそれは神格化と言っても良い。おまけで僕も「侍女様の上に立つ者ーー上位者ーー」として扱われ、どこをどうこじらせたのか、「戦神」として祭り上げられていた。
それはそれとして、ガーランドの刻印の何が問題かというと。以前ブローニングオートマトックライフルの件で指摘したことだけど、一丁ごとに刻印が違う事で明らかにそれらの生産がリアルワールド、僕らのようなゲームの世界のものではなく、現実世界のもので、作られた年代からいつ頃のものなのかが大体判明する。そして、元の持ち主はどこへ行った?他の装備品は?なんにせよ、ボーレルがどこからこれらを入手したのかが気になる。色々気になることもあるけれど、それはこれから少しづつ追い詰めていけば良いだろう。
「所でサーシャ、香水変えたの?」
「あら、わかります?ーー寝る前にちょっと瓶を間違えまして」
鉄と油の匂いが立ち込める部屋だけに、鼻先にふわりと広がる、なんとも言えない良い香りが広がると気が削がれていけない。
「お気にに召したのでしたら、夜はこちらにしましょうか?」そう言って軽く笑う。
「え、うん、あー、」とこちらが返答にモニョるとサーシャがピッタリ体をくっつけて絡み付いて来た。
「あわわわわわわわ」とたじろぐと、ニヤリと笑ってから首筋から指を這わせて顔をなぞって左の頬を押さえると右側からは耳元にその吐息を感じる程、唇の動く音が聞こえる位近くで
「お望みとあらば朝までこの匂いに包まれてみます?」そう言って舌先で耳をなぞって、耳たぶに甘噛みをする。
「それも良いいけど、僕はサーシャの匂いの方が好き」そう言うと、腰をずらして後ろに回り
込みアレッサンドラの拘束を解き、身長差の所為で背中にピッタリと頬をつける形で
「いつものサーシャの匂いがしないと眠れないよ」と囁くように小声で呟きながら、そのままアレッサンドラを背後から抱きしめる。
「で、兵士の再編成とまずは教官クラスの訓練、先ずはジェネレーショギャップの溝を埋めないと」
「それでしたらちょうど良いのがいます。クロンシュタットの方にその手のものがおりまして」
「じゃぁそれで。まずは銃の扱い方とパラダイムシフト、考え方からまるっと変えられる人間から選んで」
「それはまた大事。テコンサッカーしか知らない韓国人に正当なサッカー教えるようなものじゃないですか」
彼女達は韓国人をこ事の他嫌がる。というのも、日本だけでなく世界中から徹底的に爪弾きにされた韓国が事もあろうに、慰安婦問題をロシアになすりつけたからだ。
1993年8月4日の日本国の内閣官房長官の河野洋平による所謂河野談話にて日本の関与を認め、帝国陸軍による慰安婦の強制連行が行われたとか言う妄語が、証拠資料がないにもかかわらず産経新聞により流布されてから日本に寄生して賠償の名目で金を吸い上げてきた韓国が、2000年代になって、河野談話はインチキである。強制連行などなかったし、韓国李承晩率いる才一共和国主導によるによって起こされた事件であり、全ての責任は韓国側の問題で、補償と賠償なら韓国政府に求めるのが正しかろうと言うの世界統一の意見になっている。これで、日本に集れなくなったちょうど韓国はウクライナ問題で疲弊したロシアに矛先を向けて、難癖をつけだし、お得意の歴史改竄で朝鮮戦争時代に韓国国民が強制連されて、虐待や暴行を受けたと嘘の歴史を作り出しの「NOロシア」だの「嫌ロシア」だのやり始めた。が、そんな事が上手く行くはずもなく、結果、韓国は世界中から爪弾き者となり、全国で韓国人排除の波が吹き荒れた。そして23世紀の大陸断裂が起こると、各国に助けを求めるが、どれもこれも無視されて、難民としても認定されない。と言った有様で、アレッサンドラ ーー彼女達AIからも毛嫌いされている。
失敗したなぁ、例え話でも韓国人を連想させることは言うべきじゃなかった。機嫌が悪くなっては困る。
「いやですよ、
「ふえっ?…………あ、ごめん、とっても気持ちよくって、つい」
「おやまぁ、嬉しいことをおっしゃて下さいます事」
サーシャの腰から手を解くと、待ってましたと、もう待てませんと、言わんばかりにこちらに向き直り、僕の腰を抱えて、顎クイではなくうなじから抱き上げるように唇を重ねて舌を滑り込ませる。ひとしきり舌を絡ませて、
「ふう…………、御馳走様、続きは今夜」
と唇を離して耳元で囁き、後ろか抱きしめられた。
「あら、御免なさいませ、海尋様、ヴォルク達から連絡が……」
「じゃぁ、僕は戻るね」
そう言って部屋を後にする。
「блядь《イエービ》 良い所だったのに…………」
妙に残念がるアレッサンドラを置いて。保管場所とかした一室を出ると、板張りの廊下と年月を経た様に磨きこまれた柱に老舗の旅館並みの風情がある。何を参考にして作り込んだのか、扉に使っているガラスの片面に模様にの入ったすりガラスが使われている。
階段を降りて一階の渡り廊下を渡ってヴァンクス宮へ向かい、2界の劇場を抜けて螺旋階階段を登り、中2回階の踊り場に立つ。ここから2回部分の劇場作りが見渡せる。小規模な劇場と言うよりはコンサートホールに近い、背面から覆い被さるように聳え立つドーム型の壁と天井は音の反射を考慮して、舞台の方へ向かって傾斜のついた床と相まって、どこが境なのかわからなくなる。規模としては二百人前後の小ホール程度だけどこれが聖上様お一人のために作られたとしたら実に勿体無い話だ。中2階の扉を開けるとちょっとした半円状のホールになっている。そこを歩いて3階への階段を登ると、だだっ広いホールにポツンと佇む事になる。白い床、白い壁、白い天井と、木造とは思えない白さで、どこに扉があるのかわかりゃしない、なんて言っても”からくり”をわかってしまえばどうってことはない。この仕組みを知った人間はさぞや驚くことだろう。
四階と言っても屋上のガラス張りの円形の建物が聖上様の住まう御殿になる。パルテノン神殿風の庭を備えたその御殿、庭の真ん中をずんずか突っ切ると、聖上様がベッドチェアに寝っ転がって、お茶を嗜みつつ読書に興じていた。ブックカバーを見ると、萩尾望都先生の「ポーの一族」だった。なんんかご趣味がやばい方向へいってないか??僕の方を一瞥もせず、本から目を逸さずに
「おお、海尋ちゃんか。なんだようやくお姉さんと寝る気になってくれたか」
この手の冗談にはウンザリなんだけど、これもこの人なりのコミュニケーションなんだろうかと軽く遇らう。僕はそんな風に見られているんだろうか。
「いえ、その気はありませんので、その話は一旦他所に置いて」
そう言って物を置くジェスチャーをした後
「先日の動乱の際に生き残った兵隊なんですけどこちらで預かっても良いですか?」
とさっさと本題に入る。一応は捕虜として聖上様の扱いになっっているのでお伺いを立てる。
「なんじゃ、そんなモン好きにするがよかろうよ。大体、一応国王派としとこうかの、訳もわからず大群で押し寄せて返り討ちに遭っているのだから、朕は知らん。勝手に負けた責める相手もよう知らん兵隊なぞ野党の類と変わらん。」
冷たいなあーこのお方は、でもまぁ言ってることは分かる。
「でも一応僕と言う事になっていたはずですが」
「相手の容姿も知らんでか、「極光商会の鎭裡海尋」とだけ知っていても話にならんよ。第一相手にしたのは侍女さんが方じゃろがい、それもワンサイドゲームで手も足も出んとは情けのない、そんな連中をいったいどうするっちゅーんじゃ?」
ようやく本から目を離して山積みになった本の上に置いて、お茶を啜る。置いた本がBL要素含んだ全寮制のギムナジウムものじゃなけりゃぁ、と他の本の山に目をやれば、さらに濃厚なBL物が竹宮恵子先生の「夏への扉」などが重ねられている。「はぁ」とため息をつき
「僕のところで再訓練して僕らの時代の兵器をを使える軍隊を作りたいのです。そこそこの人数が揃っているのに遊ばせとくのも勿体無いし、彼らも生活があるでしょうから、農民とするよりも軍人としての覚悟が決まっているのならば、それに越したことはありません」
「朕のところならばもう間にあっておるぞ」
「近衛の方々ですね、一人で大軍相手に戦えても仕方ありますまい」
「…………うん、わかった。全部持ってけ。好きに躾けるが良い、書類は後で回しておく」
「はい、ありがとう御座います」
ところでその本は誰のおすすめですか?と聞こうとしたけれど多分ペレスヴェートのものだろう。アレッサンドラだったらもっとエグくて薄い本が……あったわ、ありましたよ、よりにもよって。
「なんだ?気になるかえ、線の細い男の子が年上の女に組み敷かれるのはたまらんのう」
「「夏への扉」でしたらハイラインの方が僕は好みですし僕は同性愛者は嫌いです」
興味ありませんと言った風にしらっと答える。
「なんじゃ冷たいのう、そういえばこれ、「魔都上海の娼年」だったか、薄い本を手に取って「この名のない少年」、どことなくお主に似ておるのう」
「他人の空似でしょう、僕は黒髪じゃありません。それじゃぁ失礼します」
そう言って下がる。話に付き合っていたら何を言われるかわからない
「降り着く島もなし……か、冷たいのう、じゃがs歩の方が燃える!」
足早に聖上様の前から立ち去ると、量子通話であれっサンンドラに繋ぐ
(00>008:オーケー聖上様の了解は取れたよ、好きに躾けて良いってさ)
(承知しました!海尋様!:ヴォルク04先程言った通りに全員を準備させなさい!)
あらら、だいぶ舞い上がってるなぁ、嬉しそうな声のトーンが跳ね上がるアレッサンドラはどんな表情で準備しているのやら。相当頭に来ていたようだからなぁ、その辺は戦術が違うからどうしようもないけれど、突っ立ったまま銃を構えて狙って撃つなんてことは言語道断で遮蔽物に身を隠しすこ事から教えなきゃならないだろう。
等々考えていたら、馬の嘶きが聞こえた。それとキャーキャー燥ぐ黄色い声。そう言えば、騎兵隊もいたんだったか。 捕獲した馬はスコールイ達が面倒見てるらしいけど。庭園の向こう側、エルベ湖の湖畔というか、波打ち際に馬を洗う姿が見受けられる。この世界の人間ではない事は、黒いボディスーツ状のものがスクール水着だというところで…………三人ともキャッキャ言いながら楽しそうに馬を洗っている。だがしかし、その馬が大きかった、サラブレットよりも筋肉質で、脚も太い、そんなのが順番待ちで三列で並んでいる。馬が大きいから一体何の集合だろうか?と思うわな。列の先頭で馬がスクール水着の女の子に体洗ってもらってるんだから、見る分には訳がわからない。黙って近づくのもナニなので一応声をかけてから近づくと、さらに黄色い悲鳴をあげて馬の後ろに3人とも隠れてしまったので、なるべく視線を背けて話そうとすると、一際大きな黒い馬が、他の馬よりも三回りくらい大きい僕の前にやってきて3人との間を遮断して頭を押しつけてグイグイと後ろへ軽く追いやる。それまで後ろの方でギャーギャー言ってたオトヴァージュヌイが
「その御方はええんやで、覗き見みに来たんとちゃうから」
と言って、頭を押し戻そうとすると、僕の体を横へ押し出す形になる。あんまりくっつくと水着に包まれた体が、おまけに水着がピッタリと張り付いた体のラインが、あ、ぜんぜん胸がないな。柔らかな丸みを帯びてなだらかで柔らかそうな膨らみが馬の頭を抱え込んで押し潰されて変形している。オトヴァージュヌイは「貧相な」とか言ってるけど、後ろから手のひらで包み込むようにあてがえるち丁度い大きさの胸がちゃんとある。今だって、押し潰された胸が横からこぼれ落ちそうだ。
「海尋ちゃん、何黙りこくって邪な眼ぇで人の胸見とんねん」
ジト目で僕を睨む。
「いや、柔らかそうだなー、と」
しばらく沈黙して「マズかったかな」と思ったら
「やだもう、海尋ちゃんのえっちぃ」
と胸をてえ隠すようにして満面の笑みでバッシィ〜ンッとフルパワーで叩かれた。
見ればオトヴァージュヌイはニコニコ笑顔でをがっしりと僕の腕を組んでブンブンと左右に振る。
いかん、捉えらえたいいおもちゃだ。このまま連行される?!と思いきやスコールイまで後ろからしがみついて来た。
「オトヴァージュヌイだけズルい、私も」
「じゃぁ私も」
カフカースもかよ!何だろう、スク水美少女3人にもみくちゃにされて四人んでわちゃわちゃやってるところに、黒い馬が頭を押しつけてきて、3人とも「ばっしゃ〜ん」と馬に押し倒されてしまった。
「これは好都合。馬に隠れて見えないだろうしヤるなら今。海尋ちゃん、お覚悟」
とまぁ、本心とも冗談ともつかないスコールイの言葉をスルーして起き上がる。
「あ〜もう着物がびしょ濡れだよ、ダメだな、こりゃ」
と着物を直そうとして帯に手をかけて、帯を緩めて襟元を正す。
その仕草を息を呑んで黙ってじぃーっと見つめる三人娘に馬一匹。
水に濡れて張り付いた髪が頬の線の細さを際立たせて髪を濡らして水滴が滴り、濡れたまつ毛に引っかかる。それを手で払い、髪を掻き上げて顔についた露をはらう。
「濡れそぼち 馬も息呑む 美しさ 我が主人は、艶やかなるかな。あかんなぁ、麗のつく言葉総動員しても安っぽくなるわぁ」
カフカースが一句読んで諦めて放り投げる。
「何レオナルド・メディチ・ブンドル情報局長みたいなこと言ってんのよ」
「対抗馬 アドルフ・フォン・ルードヴィッヒ。悪の美学に陶酔せよー!」
3人揃って何やってんだか、わざわざフルネームで言うたところでわかる人間が果たしてどんだけいるのやら。僕って悪なのか?それよりもこの馬、しっかり座り込んで下ろした首と頭を僕の後ろから肩に預けてグルグルとの喉を鳴らしている。どうにも「さぁ、撫でろ!」と言わんばかりの体勢だ。肩越しに頬を撫でてやると、グルグルと低く唸り「もっと気合い入れて撫でんかい」と威嚇してくる。そうかよ、やったろーじゃないの。
「スコールイ。ブラシ貸して…………」と言うことで、「ホレホレここか?ここがええのんか?」と田舎のすけべジジイみたいな事言わずに両手にブラシ持って馬の首辺りを中心にブラッシングして撫で繰り回す。首周りから胴体へ、脚もやっとっこか?と全身くまなくブラッシングを終えると、想像以上にデカい。立ち上がって、手を伸ばしても背中に手が届かず屈んでもらわないとダメだ。そうこうしていると、馬の方が屈んでくれる。背中に乗って両手で抱え込むようにブラシをかけるとさも満足と言ったふうに、頭を上にむけて「いいぞ、その調子だ」とご満悦の様子だ。しかし立髪の長い馬だな、まとめてわしゃわしゃ洗うとやたらと鼻息が荒くなって
首の喉元から下の方に向けてブラシで擦ってやると首を垂れて二、三度唸ってから立ち上がる、馬から降りる際に改めて馬を見上げると、デカい図体だなほんとに サラブレットよりも二、三回り大きい、そしてまた首を垂れて額をゴリゴリと僕の胸に擦り付て前脚を差し出してくる、「こっちも洗え」という事だろうか?
「海尋ちゃん、馬に使われてる?」
馬の脚をわしゃわしゃ洗う僕を見てスコールイがニコニコと笑って言う。
しっかりと使われている身としては返す言葉もない。乾いた愛想笑いくらいしか返しようがないよ。脛の辺りも長い毛が生えていて、筋肉質の逞しい脚を覆っている。サラブレットのように細くスラリとしてはいないが、蹄を見ると蹄鉄がない。不思議に思って3人の顔を見やると
カフカースが
「ん、蹄鉄?このこの子達蹄が頑丈やからはめてないのと違うん?」
しかし、この馬の蹄は割れているしすり減り方も嫌だな。蹄球の泥を落とそうとしても踏み締められてかなり硬くなっているので12.7mmの先端でガリガリで刮ぎ落としてブラシで細かい土を落とす。
「はい、反対の脚出して」
と言い出す前に「フンス」と鼻を鳴らして反対側の脚を出してきた。こりゃ完全に下に見られてんな。まぁいいか、と今度は後脚に取り掛かる。と、その前に尻尾の毛をまとめてブラッシングしてやると。歯を剥き出してぐるるるると「そこはよさんかい」と言わんばかりの受けた。とそういえば、馬のお尻からはコードバンていう上質の革が取れるんだっけか。硬くて艶のある革で、主に靴のつま先や上質の革細工に使うんだったなと思った矢先、ペシッと尻尾で軽くビンタされた。
「この野郎…………」待て待て待て、馬に責任はない。反射か何かだ。
と馬の顔を見れば、「……やっちまった、ヤベェよ、ヤベェ…………」とでも言いたげに、微妙に目を逸らして申し訳なさそうにしている。
「はい、足の裏見せてねー」と右の足の裏を見る。擦り減り方が酷いな、まぁ軍馬だし重いものを引くこともあるだろう。やはり蹄鉄は必要か?
最後に軽く全体をブラっシングして手綱をつけようとすると、自分から手綱を持ってきてくれた。
「ありがとうねー」と言って頭を撫でてやる。額から鼻筋に沿ってまっすぐに白いラインが伸びて地下の黒と混ざって銀色に見える。うん、精悍でかっこいい、立髪が若干巻毛なので、それを前に垂らすと筋肉少女帯の大槻ケンジさんのようになる。
「うん、美形美形、額以外は真っ黒なんだ」
黒い毛並みがなんとも美しい、濡れた毛並みが銀色のような光沢と艶を持ち、神々しさすら感じさせる。と、馬に魅入っていると、馬の鼻息が荒くなる。手綱を引いて岸へ上がり日当たりの良い所へ連れて行く。頬の辺りが痒いのか、しきりに僕の顔に擦り付けてくるんだけど、妙に懐かれたな。カフカースらはあいも変わらず次から次へきゃっきゃと馬を洗っている。数が多いので流れ作業になる。
「ちょっと僕鍛冶屋まで行ってきます」と断ってからその場を離れようとするも、馬がじゃれついてきて、離そうとしない。「もっと遊んでくれよう」と頭で僕を制し、頭と首を使ってハグしてくる。
「鍛冶屋行ってお前の足を見てもらうんだから離してくれなきゃ見てもらえないじゃないか」
と馬を宥めるが一向に聞こうとしない。むしろ「鍛冶屋がここに来い」と言いたげに僕の前に立ちはだかるが、そのまま座り込んだで、ぼくの顔をじっと見つめる。
「そうか、そっか、僕が悪かった。一緒に行こう」そいういって手綱を取り、馬の背に乗る。前がやばいな、跨っておっ広げるから下着が丸見えだわ。と言っても黒いスパッツなのでどうってことはないけど、流石に前をがばっと開きっぱなしってのははしたない。馬を引いて宿舎に戻りがけに
「ごめんなー、僕は乗馬なんてやったことがなくて、馬に触るのも今日は初めてだし」
と言うと、ヴルルルル小さく嘶いて前を歩く僕の顔に頬を擦り寄せてきた。顔を撫でながら
「名前がわからないってのも難しいものだね、「お前」呼びじゃぁ上から目線で気に入らないし偉そうで気に入らない」
これだけ立派な馬なのだから、さぞや良いポジションにいたのだろうと言うのは、僕の勝手な妄想か、いや、かっこいいじゃないか、最前線にその姿を誇示して指揮官と共にある姿は十分絵になるし、めちゃくちゃカッコイイ!そうは思いませんか?思うでしょう、思いますよね!!…………ふう、あかん、暴走した。とにかくこの格好で馬に乗るのはマズイいので、ずぶ濡れたことだし着替よう。
「ちょっと待っててね、すぐに着替えてくるから。」宿舎の2階へ大急ぎで駆け上り、自室へ向かい、乗馬のできる服に着替える。流石に前をガバッと開いて馬に乗るわけにもいかず、しょうがなく袴を履いて行こうとしたら、
「でしたら狩衣などいかがでしょう?」と上気した顔でアレッサンドラが鼻息荒くして着せ替え人形の如く用意し始めた。どこにこんなたくさんのと思うくらいの衣装に唖然とする。
「馬を待たせてるから…………」
と言っても聞かない。次から次へと着替えさせられては細かいところまで吟味の上、
「まぁ、この辺でしょうか、いや、やっぱり菫色の
なんで和装なんだろうか?みんなは洋装の服があるのに、僕は和装に拘りがあるわけでもないのに、動きやすさから言えば、様相の方が断然上だろうに。
「ありがとう、アレッサンドラ、ーー」
「「兵隊」のことでしたら、万事お任せを。」
花咲くような笑顔でにっこりと言われると、背筋を冷たい汗束の間流れたが、多分僕の気のせいだろう。
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