第32話ヴァルキア王家の終わり(あっけない)

バクホーデルの外れ、ベリス川と接する場所に小舟くらいなら接舷できそうな木造の小さな船着場があり、辺り一面雑草ぼうぼうの荒れた場所だった。とは言ってもまだ手遅れではない。

まだ草刈り程度で済む夏場の土手くらいなものだ。そこから30メートルくらい離れたところに水面から喫水線が見えるくらいの所で停泊していた。艦橋に近いところのIVBM発射管が開いているので物騒な事態か?とも思うが何やら運び出しているようだ。パレットに乗せた苗木がパレットの上に並び、パレットがそのまま動いて甲板を滑り降りて川を渡る。パレットの上にには黒い小さな鉢植えの茶の木の苗木が10×10で整列して乗って乗っており、川の上を滑るように渡り、桟橋から向こうへ消えてゆく。


「まぁ、こんなもんかな」

海尋はパレットの後を目で追うと、そう言ってICBM発射管を閉じて


「メインタンク抽水、艦水平でダイブ、ダイブ、ダイブ、潜望鏡深度まで、とロマノフ号に指示を出す」


「指パッチンでも良かろうが、わざわざ口に出さんでも」


とロマノフ号から返事が来る。

艦橋横のタラップを登り、艦橋てっぺんの観測所に入る。


「この辺まででいいかな、「なんか水面から建ってる」で誤魔化せないかな」


「いや、無理だろうよ、自慢じゃないが、大きすぎる」


「そういえば、昨晩はお楽しみでしたねぇ」


「…………」

海尋の鋭いジト目と無言に耐えきれず


「い……いや、これはだな、女と部屋にしけ込んだ旅の勇者に対して宿屋の主人のセリフで、……そう、挨拶、 挨拶みたいなものだ……だから決して「揶揄からかってっているとか冷やかしているわけではなく」

地雷を踏み抜いたかのようにあれこれ言い訳する。


「いや別にいいんですけど、」

頬を赤らめてそっぽを向くと、下からカフカースが登ってくる。


「おはようカフカース」「おはよう海尋ちゃん」

と挨拶を交わすとカフカースの顔に不機嫌な様子が見える。

これは早めに退散するに限る。

「じゃぁ、僕は先に行ってるね」

と艦橋にの段差を乗り越え、飛んで、桟橋に降り立った。

「どうした、カフカース?何か不満でもあるのかね、それとも眠れなかったのか」

ロマノフ号が興味本位で尋ねるとクワァッと口を開けて


「どぉーこの世界に侍女より早う起きて朝飯まで準備して一仕事終わらす「ご主人様」が

おるっちゅーねん!しかもウチの好物のクロワッサンのホイップクリーム乗せにホットチョコレートだと!おまけにカスタードプリンまでつけよってからに!ふざけとんのか、あああ、もう自分の存在価値が音を立てて崩れてゆく、ウチの価値が下がって行くぅぅぅ!」


頭を抱えてそこいらへんの機器に頭を叩きつけるカフカースだが、どんなに機器に頭を叩きつけても壊れるのは機器の方で、カフカースの頭にはカットバン張っとけばいいくらいである。


「いい主人じゃないか」とのロマノフ号のツッコミにカフカースは

「最っ高の主だよ、際っ高すぎてウチには勿体無い位のいい主やで、海尋ちゃんは、だからその主人のお役に立てないのが情けないっちゅー話やで、だいたい優しすぎるんよ、海尋ちゃんはぁっ!昨日渡したパンツかて、今朝起きたら洗濯して枕元にあったし」

もうやめたげて、カフカースのメンタルはズタボロよ。誰かが止めに入れよ!入ってやれよ!!

結局、監視機材の下に頭を抱えたまま潜り込みいじけるカフカースに

(00>1706:カフカースちょっといい、手を貸して欲しいんだけど)

と海尋から量子通信が来た。

ドゴォッと通信機器を跳ね除けて、艦橋から飛び降りて。ちょっと待て、お前何メートルあると思ってるんだよ!甲板から環境に繋がる盛り上がりの部分をけって桟橋まで大ジャンプかまして桟橋に降り立ち、そのまま海尋の所へ馳せ参じた。

そこはミハエルの家から離れた荒れた道が続く手付かずの荒地だった。一応、道との境で柵があり、柵の内側では海尋が土の具合を確かめて

「うん、大丈夫。痩せはいるけどなんとかなるでしょ」

そう言ってポストホルディガーと呼ばれる柄の長いシャベルを向かい合わせにしたような物で竪穴を掘り始めた。


「カフカースは土を整えてもらえる」


海尋が穴を掘流側からぱれっとについたアームが茶の木の苗を植えていく、その上からカフカースが土をかけて根っこの部分まで土で覆う。流れ作業であっという間に2列50本の苗が

柵に沿って綺麗に植えられた。その耕された後のある荒地にはテーブルビーツの種が蒔かれ、アーチ型の防虫ネットがはられて、一段落着く頃には陽も高くなり、もうじきお昼だが、朝の遅いここら辺では朝ごはんの時間である。


「ん〜そろそろミハエルさんとこ顔出してもいい頃かな」


「?なんで海尋ちゃんがここまですんのや?」


「僕は土地を借りてるだけだからね。で、あとは畑の世話をお願いして、たまに様子見て、何かあったら相談に乗ればいい」


  僕らの仕事はそれで充分だ。あとは収穫を待っていればいい。


「そんなうまいこと行くんかな」


「いってくれなきゃ困る。まずはお手本見せて、やってみせれば大丈夫だよ。細かいノウハウはやりながら教えていけばいいよ。山本五十六も言ってる」


「やってみせ、言って聞かせて、ってやつかいな、してどう褒めるん?」


「それはこれからでしょう。まずは・・・あ、いけない忘れてた」


海尋は荷物の中から四角い小箱を散り出すと蓋を開けてあたりにばら撒いた。


「何?肥料やったら一緒に植えといたけど」


「蚯蚓」海尋の声にカフカースが「ひっ」と一歩下がって固まる。


「へっ?蚯蚓ぅ、なんでまたそんなもの撒きよるん?」カフカースの片眉が上がる。語尾が若干震えている。


「土地が痩せてるから、少しの湿気と音ばがあれば、活躍してくれる」


「ふーん、そっか、で蚯蚓なんてどっから持ってきたん?」カフカースの顔が顰めっ面一歩手前だ。


「元からいたよ、それを繁殖させただけ」


「何処で?」雲行きやばいなー


「ロマノフ号の中」……カフカースが爆発した。


「アホかーっ!狭い船ん中でこないなもん繁殖さして逃げ出したらどうすんじゃい、」


「カフカース、もしかして蚯蚓が苦手?」


「得意なんがおったら聞きたいわ!」握った拳を下に下げ「ムキーッ!」と喚く。


「大丈夫だよ、蚯蚓に開けられる程単純なロックはかけてない」

しれっと海尋が答えると、その前に気密壁のロック開けられる蚯蚓がいたら教えて欲しい。


「そういう問題ちゃうわボケェッ!夜中に運用にウニョウニョと這い寄られたら失神するわ」

 

「それは嫌だな。おはよーございまーす」

ミハイルの家に着くとちょうど朝食を終えたところでミハエルが片付け物をして娘のジャクリーヌが手伝いをしていた。

「おや、スズリ殿、おはよう」「おはよう御座います」


「畑の方は言われた通りにしといたけど、いいのかねぇ。何にもないところに灰混ぜて耕すだけで」


「充分ですよ、さっそく植えてきました」


「なんだってっ!どんだけやる気あるんだよ」

早速畑まで行ってみると柵沿いに腰のあたりまで伸びた茶の木とその向こうには半円形のネットに覆われたところが三列並んでいる。

「ほう、こりゃすごいな。」

っつうか昨日までなんもなかったところにいきなり完成品が並んで吃驚していると娘のジャクリーヌが

「パパ、これは何」

と聞いてくる。何もクソもあったもんじゃない。海尋に助けを求めるも海尋の説明は学術的すぎてジャクリーヌは余計に顔を顰めてしまったが、おつれの侍女さんが小さい子供にもわかりやすく説明してくれた。

「これはお茶の木や、ジャクリーヌちゃんが毎日飲んでる紅茶やな、ここの葉っぱ一番端っこの新しい葉っぱを摘んで蒸して揉み込んで乾燥させるとお茶の出来上がりや、乾燥させる前醗酵させると紅いお茶になるんやで。ほんでこっちはテーブルビーツを植えてあるんよ。収穫まで二ヶ月くらいかな。土の中で大きくなるんよ、茎が膝丈くらいになって真っ赤な身が握り拳
くらいになったら収穫時や、それまで虫に食われないようにこうして網かけておくんよ」

「へぇー」とか「ふぅーん」とか相槌を打ちながら興味津々である。

「じゃぁこのうねうねしてるのは?」

と一匹の蚯蚓を手に取ると、見みるみるうちに青ざめるカフカースの顔、冷や汗を流しながら

引き攣った顔で

「土に養分を与えるんよ、お仕事あるからはよ戻したらんとな」

そう言ってジャクリーヌの手の中の蚯蚓土中に戻した。

「あとは毎日水撒いてたまに余計な虫を潰せば美味しいボルシチが食べられるで、」

カフカースがジャムリーヌに説明している間、海尋はより詳しくミハエルに説明していた、

「当面の間は落ち葉を撒いておいてください。それから水やりは地面が軽く湿る程度で充分です。

両方とも害虫には気をつけてください。、大麦と小麦にも有効です。土はだいぶマシになってますので他の作物も様子見て作るのもいいかもしれませんね。」

元々痩せた土地にこうも簡単に作物が育つようになるとは、そう思うと、目頭が熱くなってくる。

「なぁ、これまでの事を他の連中に教えればバクホーデルはもっとよくなるんじゃないか?」

「それには実績作りませんと、今の時点でこうすれば、と教えても誰も信じちゃくれんでしょう」

「もっともだ、しっかしまぁ、声かけてくれれば手伝いに来たのに、朝からやってたんだろう、よくここまで出来たもんだな、まだ昼じゃないか、一体いつ頃から始めたんだ?」

「日の出と一緒に、カフカースも手伝ってくれましたし、苗木はパレットに摘んで運びましたから楽なものです」

ミハエルが理解できねぇって顔して

「楽なものですってお前、何にもなかった荒地がこの変わりようだ、一晩でこの変わりよう、妖精さんが寝ているうちにやってくれましたっって誤魔化すにも無理がある」

「ま、滅多に人通りもありませんし、もうちょっと広げても良くありませんか?」

「外れっちゃぁ外れだし人目もないし、誤魔化しようはいくらでもあるか」

悪い顔してんなーとカフカースが聞き耳を立てていると、切り株だらけの土地を見て、海尋が

「この辺一帯なんかいいですね」とか言い出した。

「でも今手をつけたところがひと段落してからの話にしましょう」


今後の事を楽しげに話す3人と少女が一人、和気藹々と未来に向けて話が弾む中で。遥か海を超えたヴァルキアでは侍女たちがそれぞれの担当区分の寄木細工によタペストリーの作業に取り組んでいた。あたりには木工用ボンドの酢酸の匂いが立ち込め、スコールイなんかはマスク装備で貼り付けた木材を集めてさらに模様が広がるように端面を上にして木材を接着していた。黙りこくって黙々と淡々と作業に勤しんでいた。……ように見えるのなら一回眼科の門を叩くことをお勧めする。何かこう、彼女達は目の前の仕事に己が不満をぶつけるかのように鬼気迫るように、木材を接着しては端面を薄く削って幾何学模様のになった木材の端面を一枚のシート上、壁紙のようにしていた。


「ご主人様の射精したスパッツ洗いたい」

スコールイがボソリと口走った。一斉に他の侍女がスコールイの方を向く。


「なかなかエグいマネしよんな、あのアマ、騎乗位と見せかけて、そのまま擦り付けるたぁ、けしからんやつだ」


「パンツの上から擦るのとブラしたまま胸でするのとどっちがいいかしらぁ〜、そのあと顔射よね、やっぱり」

胸を持ち上げてセヴァスポートリが挟射の構えをとる。


「甘いわね、すかさず(海尋様のスパッツ)剥ぎ取ってお口でご奉仕して、泣きが入るまで攻めの一手でしょうに」ペレスヴェートが呟く。


「こえぇ、いつもそんなことしてんのかよ」と顔を背けるクロンシュタットに、


「海尋ちゃん搾り取られてカスカスに干からびる」と手で十字を切るオトバージュヌイ。


「何を余計なおしゃべりしてるんです。たかだかそれしきの事で腰砕けになるようなヤワな教育(調教)はしてません!」とアレッサンドラが言い放つ。


何気に一番恐ろしいことをさらりと言いよる。

「カフカースもこれでやっと指揮官装備。どう化けるか楽しみだわ」

アレッサンドラのまともなセリフに

「戦力の増強として、どこまで相手にできるかしらねぇ」

ペレスヴェートが答える。

誰もが肯定的に捉えている一種異様な空間にブランが顔を出した、


「あれ、海尋ちゃんいない?」


「主でしたらカフカースとバクホーデルに出向いておりますが、何用でしょうか?」


作業台が並ぶヴァンクス宮の一階で途方にくれるブランに何ごとかとアレッサンドラが歩み寄る。

ブランはしょーがねぇーなぁーと言った顔をして

「いやさ、この国の次男坊が船と空飛ぶ鉄の箱寄越せってほざいてんのよ、これ見てちょうだいな、まぁ上から目線で好き放題書いてやがるわ、あの短小野郎」

「恐れ多くもこの国、ヴァルキア王家の次男坊ですよね。いいんですか、好き放題言ってますけど不敬罪とか言われません?」

「大丈夫大丈夫、構うこたぁないわよ、ヴァルキア王家はカシス様のみ、今の王は所詮適当にあつらえた置き物。何を勘違いしてんだか」

ため息混じりで締めくくるのとアレッサンドラが逆鱗に触れたような顔になるのはほぼ同時だった。あまりの形相にブランが一歩遠ざかる。

「いぃーい度胸じゃぁねぇか、ここまでコケにされちゃぁ黙っていられません、総員先頭準備!オールガンズフリー!」アレッサンドラが叫ぶと勢員手にした木材を置いて、薄ら笑いを浮かべAK-47だのAKS47Uだのを手にゆらりと立ち上がった。

「向こうから憂さ晴らしがネギ背負ってくるなんてなんて好都合、いやご都合主義。」

「うふ、うふうふうふ、うふふふふふ……で、なんて書いてあんの」

「何書いてるかもわからんで嗤っとったんかい」とツッコミを入れたくなるブランだったが、そこにカシス女帝とリルが顔を出した。

「あら、賑やかね。なんか面白いことでもあるの?」とはカシスの弁でAK持った侍女たちが薄ら笑いを浮かべている時点で先日のトラウマがぶり返して泡吹いて倒れた。

そして不幸にも女帝様の目の前で書簡が読まれる事になる。

「えーとなになに、たかが商人風情が鉄の船三席持ちとかふざけるんじゃねーよ、献上させてやるからありがたく思え、強いては今日の正午まで待ってやっから大人しく全ての装備を渡しやがれ。従わない場合は実力を持って徴発する。ですって」

侍女がその意味を咀嚼するのにたっぷり3秒たったのち、一斉に大声で笑い始めた。

「あはは母は、ああ、おかしい、剣と弓だけの未開人がどの面さげて献上を許すなんて言ってんだか、冗談はテメェの腹だけにしろ」

やはり一際大笑いしたのは実際に読んだアレッサンドラで、次に笑ったのはペレスヴェートだった。そして女帝様の一声、「やるんだったら、二度と馬鹿な気お子さんように徹底的にやってやれ、なんなら潰しても構わん」


自分の身(船体)に異変を感じるクロンシュタットとセヴァスポートリ。

「剣と盾持ってアンカーの鎖よじ登ってくるんだけど、何しようっていうのかしら」

クロンシュタットとセヴァスポートリは腹抱えてアンカーに鎖をよじ登って落ちる兵士の存在をセンサーで感じ取ってアンカーの鎖を緩めたり巻き上げたりして、慌てふためく兵士を弄び

「ほらほら頑張れ」と声援を送ったりしている。

スコールイとオトヴァージュヌイは遥か向こうヴァンクス宮のはるか向こうで盾で身を守りつつ野戦砲引っ張って設置している兵隊に

「そんなもので何しようっていうのかねぇ」と相手を嘲笑いながらAKS47Uを握りしめてはよ殺らせろとまだか、まだか、まだか、開始の合図を待っっている、ブランは瞼を押さえて阿呆の子達の行く末を神に祈った。

 

ヴァルキア王家次男クイージ。ソルベックは部隊を展開させると、天幕を張って、騎兵に囲まれて陣地の中のふんぞり帰って自分の馬に近づいた

「まさか王宮の庭にこんな陣地作って攻城戦の演習やるとは思わんかった、あの婆さんにどんだけの兵力があるかは知らんが、この俺様の兵隊と、ボーレルから買い付けた最新鋭の兵器があればないて降参するだろうさ、なぁ、おい」

とわざわざ説明的なセリフを吐いて手に持ったジョッキに酒を並々と注いで余裕綽々で側近のケルケ・エボンにドヤ顔でそういった。


クイージが、船に兵士が取り付き、砲兵隊の展開が終了した事をケルケから伝えられると、砲撃の合図を送る。

一斉にラッパが鳴り響き正門前に設置した左右に車輪のついた木組みの架台に砲門が一本載せられた大砲が凄まじい轟音とともに黒色火薬の煙を巻き上げ、それを皮切りヴァンクス宮を取り囲むように配置した訪問が火を吹く。

「せっかく綺麗に建てたのにもったいねぇなぁ、ま、俺様が使ってやるからありがたく思いな」勝ち誇った顔でジョッキの酒を一気に煽り、自分の馬の騎乗する。黒色火薬の煙の中、

「殿下!酒を飲んでの騎乗はなりません!」ケルケの進言など意に解さぬように笑って足蹴にする。その直後、ケルケの頭が爆発したが、黒色火薬の煙がそれを隠す。


 「あいつらやる気あんのか?なんだあの大道芸人みてぇな服はよぉ、狙ってくださいってもんだろうが!」

モシンナガンのスコープを覗きながらクロンシュタットが半ば切れかけて毒づいた。言葉通り、彼らは黄色い飾りの紐のついた青い肋骨服を着ている。火薬の煙が漂う中、ケルケは静かに崩れ落ち、それを見て悲鳴をあげて、狼狽えるクイージ。

一方大砲から放たれた砲弾はヴァンクス宮にの壁にいとも最も簡単に弾かれた。続いて歩兵、銃士の進軍。クソ長いライフル、マスケット銃を持って並んで前身して、片膝ついて膝射一斉射。ヴァンクス宮をぐるり一回りとり囲んで、包囲してからじわじわ進んで全員揃ってからの射撃。遮蔽物に隠れるような真似はしない。逃げる者を逃さず確実に仕留めるといえば、かっこいいが、その実意味はない。ただ揃って並ん撃って、単発撃ちの、それもライフリングの施されていない先込め式の滑空式歩兵銃だ。精度も飛距離も何それ、美味しいの?と言った具合のシロモノで、そんなものを持った歩兵がざっと500人はヴァンクス宮を取り囲んでいる。それに野戦砲の人員300名あまりがヴァンクス宮を囲んでいた。それに加えて桟橋向こうの船に直接取り着いた連中を合わせれば1千人近い兵力だ。

 断続的に鳴り響く砲火とマスケットの射撃音に

「ああ、喧しい、ちょっと行ってあいつらシメてこようか」

「いえ、聖上様のお手をわずわらせるまでもありません」アレッサンドラが答えると、

PGMへカートII対物ライフルを手にしたペレスヴェートが遮蔽物、入り口前の廊下にある腰の高さの壁に隠れて野戦砲を狙撃していた。

ちょうど装弾が終わったところだったのか、まともに12.7ミリを背中に受けた装填手は臓物を撒き散らしながら、上半身を空中に舞わせて残された倒れる下半身から脊髄の一部と腸の一部を残して転がった。人体を貫通した50口径の弾は火薬の詰まった砲身後ろに当たり、大爆発を引き起こした。大砲が真上に飛び上がり、周りの人間の上体を吹き飛ばした。

「これで三つめ❤️」そう言いながらも次の標的に隠れながら近づいてゆく。

クイージは馬に乗って騎兵を指揮する。剣を抜いて進む方向を指し示し、騎馬隊を進軍させる。ガラ空きの一階に雪崩こみ、そこを待ってましたとばかりにスコールイとオトヴァージュヌイのAKS47Uの一斉射が襲う。指切りで上手くコントロールして馬上の騎兵だけを撃ち殺す。のけ反って馬から落ちる騎馬兵に容赦なく弾丸の雨が降る。

「馬に罪はない、生類憐れみの令」

「人間の命のが安いのかよ」

「馬は可愛い」

クイージは一目散に元の陣地に戻る。

5.45mmの弾は騎士どもの紙装甲を難なく貫き、落馬して後続にの馬に踏み潰される者。巻き込まれて馬がこけて落馬する者。どちらも容赦なく5、45ミリの弾を浴びせられ、死屍累々。馬だけがヴァンクス宮の広場をあてもなく彷徨う。左翼を回って裏手の庭園に馬を連れてゆくと、庭園の裏手から三階テラスに続く曲がり階段のあたりに生首と手足が転がっている。あたり一面、吹き出した血で真っ赤だ、後臓物も。別働隊か何かだろうか、いや、船を襲った連中の残りだろう。船を襲った連中は今頃甲板上でセヴァスポートリのおもちゃになっている。

「侍従長さん、侍従長さん、」裏手の庭園で植木の手入れをしているマセラッティに声をかける

「おお、お嬢さん方ここは危険ですぞ、賊が襲ってきましたでな」

「ああ、賊ね、うん」困った顔をしてスコールイとオトヴァージュヌイが顔を見合わせる。

「賊って、これ王家の軍勢じゃないの?」スコールイが聞くと

「王家?はん!こんな貧弱な小僧が?ちゃんちゃらおかしいですな。王とはすなわちカシス様、カシス様の軍隊名乗るのならばこの程度ーー」スコールイたちの後ろ側から襲おうとした雑兵が、アッパーレシーバー側を肩に乗せ、マガジンを上にした状態で一斉射喰らって、のたうち回って倒れる。

オトヴァージュヌイは横から上段に振りかぶって袈裟斬りにしようとした男を、顔色ひとつかえずAKS47Uをピストルのように横方向に構え一発、脳天をブチ抜いた。男は、そのまま後ろに込む。

「こいつら着てるものが違うねぇ、」売れない芸人のような服ではなく、黒一色の服を着ている。

「あぁ、暗殺用の服ですな。真昼間に黒服なんてナメてんのか。いずれにせよ、カシス様狙いで御坐いましょう。ところで、お二人はパーティーの最中では?」

「ああ、うん、馬の世話、貧乏くじ」

そう言って馬が顔をだす。後から後から現れる。

ヤバい気配を感じて奥に隠れていたのか、ヴァンクス宮の影からゾロゾロ出てくる。

「うへっ!こんなにいたっけか、ちょっとこの数はきつい」

オトヴァージュヌイが馬を引き連れて行こうとすると、馬達はおとなしく一塊になって庭園の後ろっ側、湖の辺りに落ち着いた。

「やっぱりお利口」そう言ってスコールイと戯れていた馬の一頭を離すと、馬は大集団の中に帰っていった。

そんな湖を見やると甲板上で大騒ぎしている。

「あっちも頑張ってんなー」と正面に戻ろうとすると、

(099>1704:オトヴァージュヌイ、ちょうどいい、あれなんとかして)

(1704>099:どうしたん、クロンシュタット)

(099>1704:セヴァスポートリが、まぁた悪い癖出して踊ってんだよ、あのバカタレ)

(1704>099:ごめん、無理)

  

すでに甲板上は死体の山、山、山。血が少ないのは決定打が刺殺によるところか。

44式騎銃を槍のように構え、クロンシュタットは次の獲物に標的を定めると、いきなり槍のように構えた44式機銃の銃身部分を掴んで、逆手持ちで銃床の底辺で相手の顎に一発入れて面食らってふらつくところに、くるりと44式機銃を回して喉にに一付き入れル、44式騎銃の先端部に設けられたスパイク状のバヨネットで喉に一突き入れ止めをさす。足で蹴りを入れて相手を甲板に転がすと、次に備える。セヴァスポートリを囲むように剣を抜いた大道芸人(騎馬兵)が迫り来る。

「つまんないわぁ〜、弱っちくてお話になりゃぁしない。でも船に取り憑いたクソ度胸だけは褒めてあげるわぁ〜」

と妙に間延びした語尾で騎馬兵を煽る。騎兵が一塊になって逃げ腰になる。

「だから、苦しませず殺してア・ゲ・ル」

妖艶な笑いをう浮かべて舌なめずりして、トカレフを片手撃ちで眉間を撃ち抜いていった。だが、恐怖に駆られてか、騎兵が一人、「うおおおおおおっ」と剣を振り翳し、切り込んで、44式騎銃のスパイクに顔面を貫かれて死んだ。

(099>080:気ぃ済んだかぁ、のべつまくなしブチ殺しやがって、最後の一人が砲台の裏側にいんぞー。)

(080>099:あらほんと)

ツカツカと砲台裏に歩いて行って、トカレフの銃声が2発響いて

「はい、おしまい」

と呟く後ろには、刺突されて死んだ騎兵が30人ほど、クロンシュタットに狙撃されたのと合わせて、50人

(099>080 :あたしのほうが多かったわね。約束通り海尋様のおぬうど写真もらうわよ)

(080>099:今あたしのスコープに赤紫の頭のやつが入ってんだけど)

(099.080:オーケー、話あいましょ。ところで、いいお茶があるんだけど)

(080>099:いいね、こっちは秘蔵のチョコレート、海尋様の作ったやつがあるぜ)

(077>099:ちょっと、そっとち片付いたんなら、こっち手伝ってくれない?、数が多いのよ)



「場末の芸人はおとなしく舞台裏でじっとしてなさいっ!」

PGMへカートII対物ライフルを手に遮蔽物に隠れながら野戦砲を狙う。いまだに野戦砲はバカスカと、弾ごめが終わるとぶっ放してくる。右翼側の総掃討が終わったと思ったら、今度は左翼側だ。PGMへカートII対物ライフルを抱えて走る。奴らの射撃が飛んでこないのは、アレッサンドラが援護してくれているからだろう。

  次々来る歩兵どもの頭をRPDで薙ぎ倒していく。ボックスマガジンをもう三つも交換してバレルもいい加減限界だろう、騙し騙し撃ってはいるが、銃身からただならぬ熱が出ている。

  マスケットを構えた歩兵が、後から後から腰のドラムを鳴らして歩いてくる。ズラリと横位一列に並んでズンタタタ、ズンタタタとドラムの音に合わせて行進して、一定の距離になると伏せて銃を撃つ。野戦砲の影に隠れて様子を伺うと、射列が伏せて次の射列が後ろに控える。アレッサンドラとペレスヴェートのみごとなコンビネーションで広範囲に前線を押し留めている。時折、黒色火薬の爆発音と煙の中から、軽機関銃の音が聞こえてくる。奴らあんなものまで持っているのか?

断続的に短い間隔での連射音と単発射撃の音がマスケット銃の音の中に混じり始める。

気づけば、ラッパとドラムの音が変わっている。ズンタタタ、ズンタタタ、ズンタタタ、

からズンタタッタッタタター、ズンタタッタッタタター、ズンタタッタッタタターと跳ねるようになり、BARやM1ガーランドを持った兵士が前に出て、甲冑を装備した騎兵が下がる。

(そういえばリルって言ったかな、空撃騎兵という兵科の連中はBARを所持してたっけか)

「ええいっ女一人に何を苦戦しておるのか!」という怒声が聞こえてくる。

  

  だんだんと中央から後ろへ後ろへ、左側へと後退を余儀なくされていた歩兵が前へと進む

そこへ、スコールイとオトヴァージュヌイが馬に乗って馬に乗ってAKSー74Uを乱射する。

「騎兵隊だー!(棒読み)」のスコールイが伏せてる連中を撃ち下ろし、オトヴァージュヌイが馬上からの狙い撃ちで猛攻をかける。ただしに足が届いていないので不安定だ。しかし、その後ろから騎兵のいない馬が、馬の波が後から後から押し寄せる。踏まれて蹴られて転がって、石畳の上に転がる派手な衣装の屍の上で非発佯狂ひはつようきょうにもがきまくる。

その混乱に乗じて、一気に指揮官たるクイージのもとに駆け寄るアレッサンドラ。

 突然、目の前に現れたアレッサンドらに剣を振り下ろすクイージ、RPDの長いバレルで防ぐアレッサンドラ。

 剣による必死の猛攻も虚しく、攻撃手段の剣を、RPDのバイポッドに絡めとられて明後日の方向に飛ばされる。一瞬、何か言いかけたクイージの顔面にマカロフを思い切り突き立てる、前歯をへし折ってマカロフの銃口を咥えさせられて、みっともなく慈悲を乞う表情になりかけるも、無言で引き金を引く。後頭部から割れた頭蓋骨と脳漿を撒き散らかし、ヴァルキア王家(ボルモン王家)王位継承権第一位、第二子クージ・ソルベック(偏屈)は命乞いすら出来ずに死んだ。死体は無様に石畳の上に転がり、大小失禁して白いズボンに染みが浮き出ていた。

クイージの死を境にヴァンクス宮を攻めていた王族派は武装を放棄して一箇所に集まり始めた。降伏を知らせるラッパの音が虚しく響き渡る中、一頭の馬が王宮のある方向から走ってくるのが見えた。ボルモン・ソルベック(肥満)王である。

「今更何をノコノコ出てきてんだか、詫び入れるにゃぁ、遅すぎますわ」

そうう呟いて、ペレスヴェートはPGMへカートII対物ライフルの引き金を絞った。














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