第20話 Once in a Lifetime

 「冗っ談じゃないっ!!」


ロザリナの大声に意識がブッ飛んだ居間の四人は飛び起きた。


「金貨1000枚ですって!軽く地方都市の豪邸買える金額じゃない!職人の技術ナメてんの!?」


「いいかげん落ち着きなさいロザリナ!」

と叱責するエルマ。


「まぁまぁ、大凡の値段ですから。実際取引としての販売価格ならその2倍、3倍になると思いますよ」


海尋が床にちょこんとお座りしているボイチェクの頭から尻尾のあたりまで撫でつつそう付け加えると、


「まだまだ足らんわぁっ!」


かえって燃料を追加してしまった。 一体何に怒っているのか分からない。


「職人の手元に一生作品作りに集中できるだけの金貨支払ってこそでしょうがぁっ!そんなこったから貴重な技術や文化的技能が失われんのよぉっ!ん、はむはむ、やだこれ美味しいっ!」


熱弁を振るい叫び続ける燃え盛る情熱の炎が荒れ狂う窯の焚き口と化したロザリナの口に横から楊枝に刺した芋羊羹を薪の代わりに焼べると少しは正気に戻ったようだ。


「あら、ごめん遊ばせ。すっかり熱く心中語ってしまいましたわ」


カフカースの手から受け取った小皿に乗った芋羊羹を平げ、「おかわり下さいまし」と空き皿を返す。

だめだ、まだ壊れてる。


「妻がいれば、こんな時、こう拳を回して脇に構えて腰を回して、肘から突き上げるように腹に一発かますんですが」


だめだ、何言ってんの、このオッサン。

「壊れてんのはあんたの方や!」とカフカースに叱られる作者。


産業の発展による大量生産に打ち負かされて伝統手工業や工芸品の職人技が、廃れ消えていくのは既に自分の世界での歴史で証明されている。草履一足編むにしても技能保存の民間愛好会あっての事で、藁が手に入らないので古着を細く切った布を編んだり、講師を招いてお年寄りの集いでボケ防止の手慰みだったものが細々と残っていたりで23世紀末でもなんとか演芸衣装としてのて体裁を整える事ができた。しかし、専門の職人がやっても一人1日何足作れるか、技能系継承者一人ならともかく、。江戸時代のように住人拗ねて新城渡させることを短期間で可能にするには、職人を揃えて大量に作って需要を十分に満たしたところで職人一人頭の賃金がいくらになるのか等々、科学、工業、流通の発達がもたらした大量消費あってこその大量生産と工場生産。それらが全く当てはまらないこの世界。なんかちょっとぼんやりとした目的とやる気が出てきた。


ロザリナの理想には共感できるが、それをやってしまっては単価が跳ね上がって益々商品としての幅と文化的発展を閉じてしまう。幸いA I制御の自動人形の体なら人間よりは長い期間、世の中を見続けられるだろう。割といい加なノリと勢いで「極光商会」なんてものを立ち上げたが、「理念」というものが思考の霧の向こうに見えてきた気がする。嫉妬と妬みで級友と言う他人に殺されて樹脂の基盤とシリコンの回路に押し込まれて電気を餌に自分で自分を演算し続ける集積回路と成り果ててからと言うものの、総てを諦め、ただ漠然と水面を流れる木の葉のように流されるだけだったが、流れに逆らう理由ができた。自分の死とその経緯を否定する事がでできた。


さて、それじゃぁ本腰入れて考えよう。「極光商会」のなすべき事を。

そのためにはもっとこの世界を勉強しないと。


「はい海尋ちゃん、ちょっと腋上げてー」


カフカーフの声に起こされると周りは風呂だった。いや、正確に言えば「風呂」のような、何かの作業場にも見える。板張りの床と部屋の隅に設置されたキャンっで使う薪ストーブのような煉瓦作りの小さい窯とその横にある石作りの井戸と木製ポの手押しポンプのある部屋で薪ストーブ横の大きな盥、足首の高さほどのぬるま湯が貼られた盥に膝を抱えるような格好で座らされて、カフカースに背中を流されていて、言われた通りに腋を上げると、肌触りの良い布で腋から腕の内側を擦った後、胸の方へ手を回し、抱きしめるように密着された。


「カカカ、カフカース!!??」


「考え事しとる間にセッティングさせてもろたよ。んっふふふん。お風呂当番からの夜伽添い寝のフルコース。待ちに待ってた出番が来たぜ。覚悟おし!」


海尋の肩に顎を乗せ、耳元で小声で「美味しく頂きます」と宣言される



「苦節半年位?海尋ちゃんが艦隊指揮官昇進してからだけど、んなもんまぁいいわ、ずっと待ってたんよ、こうして体重ねてご奉仕する時を。そりゃ、規則で旗艦装備のない船のAiはプレイヤーと「えっち」しちゃアカンのは知っとおよ。でも「ここ」には運営の目もないし、突撃してくるアレッサンドラもペレスヴェートもおらんし、ウチかて海尋ちゃんの落とし胤欲しいんよ」

「だからってこんなところで、せめて家のお風呂とか」

「拠点のお風呂だと間違いなく強制介入されてスリープさせられるかカチンコ持ったアレッサンドラのカット入るやん?外にヴォルク全員は配置しとっから覗き対策も対策済みやけど、声だけは堪忍してぇな」


左手で腹部から左腿へと滑るように左手で円を描くように撫で回し、胸の肌を撫でる指先と手の平で鎖骨、首筋を這わせ、左の頬から口元へ手の平を滑らせて唇を指先で擽ぐりながら寄せてくっつけた頬をずらして右の耳元で囁き、柔らかい耳たぶの感触を唇で楽しんでから甘噛みする。「ーーーーッ!」耳の裏側を舌先で擽ぐると背中の筋肉を強張らせてビクッと体が震える。後ろから海尋の躰を抱きしめているので、背中と自分の胸をぴったりとくっつき、背筋や腰のあたりの動きが体を伝わって、艶かしい声を楽しめない代わりに快楽に震える体の感触を楽しむ。胸を撫でる手の平に硬い感触を捉えると、両手で胸を包み込むように這わせて指先で硬くなった先端を指先でつねるようにして強めに撫でると「ーーーーーッーー!」抱きしめた上半身顎と背中を逸せ、腰を前に突き出して、硬く閉じていた腿とが開く。そこへ手を滑り込ませ、天を仰ぎ硬くなった海尋自身に先端から被せるように指先と手の平を這わせ、そっと握り込み、指と手の平で擦るように弄ぶ

「ーーーーーッ!ーーッ!ーッ!!」吃逆でもするように体と腰を振るわせる。内腿に挟み込んだ柔らかいお尻を窄めるように腰を小さく前に突き出し始め、内腿の筋肉に力が入って硬くなる。手の平と抱きしめた体の反応から「そろそろかな・・・」と自分の唇を舌先で濡らして耳の付け根から首筋までゆっくりと濡れた唇を這わせて

射精して、海尋ちゃん、ウチの手に射精して」耳元で艶かしく囁くように「おねだり」したと同時に

「ーーーーーーッ!ーーーーーッ!ーーッ!」

細い身体を3回激しく仰け反らせた後、脱力してぐったりと前のめりに倒れそうになった身体を引き寄せて手の平を握ったまま抱きしめる。海尋の肩越し、わざと視界の隅で見えるように手の平で受け止めた淡く粘り気のある樹液のような胤を舌で舐め取ると、そのてで自分の股間から湧き出した蜜を掬い取り、海尋の口元に運び

「海尋ちんも舐めて」と海尋の口元に運び、それを呆然とした海尋が口に含むと、


「これでウチも海尋ちゃんのオンナや」


とさらに強く白く細い身体を抱きしめた。


同時刻、テュルセル西に構えた極光商会の拠点。かねてよりの懸念であるここより西側のセンベス渓谷、銀の採掘場を占拠したボーレルの野盗騎士の群れをどう「処分」するか、拠点一階の広間でアレッサンドラたち侍女一同とヴァルキア近衛の3人が食後のデザート付き座談会めいた雰囲気の中、あれこれ案を出し合っていたのだが、ヴァルキア帝国女帝、ハーメット・ネフ・カシスの認可を得て━ヴァルキア帝国の名の下、近衛3名による正面切っての強襲案━に決定となるはず、だった。これには侍女達一同も概ね賛成で、そのために近衛3名の訓練に日を費やしたのである。


のだが、突然アレッサンドラ、ペレスヴェート、クロンシュタット、セヴァストーポリの4名が隠す事なく不穏な空気を拡散させて、近衛3人に「行きますよ」と告げたまま階下に消えた。階下の格納庫から階段と廊下に反響して増幅された5.8リッターV8エンジンの腹の底から響くような吠える排気音が轟き渡る。ナンカヤバい事が起こったと食べかけのデザート(甘みの強い芋を使ったケーキ)を胃袋に放り込み、取るもの取らずで後に続いて格納庫に降りると、自分たちの使う訓練用のサスペンションやパイプ溶接のフレーム剥き出しの車体には、強化樹脂の装甲と防弾処理の施されたポリカーボンで剥き出しのコクピットが守られ対人装甲車両で車体両側にM61 20mmバルカンを備え、左側の運転席の横にШGsh-30 130×165mm航空機関砲、どちらも21世紀の航空機、米F14〜F22、露Suー27〜37に採用されている殺る気漲りすぎる人間に使ったらえらいこっちゃで済まない兵器だ。それと第二次大戦初期ポーランドが使って待ち伏せ戦法で進撃してきたドイツ二号戦車を撃退した実績のあるた豆戦車TK/S、がすでにエンジンの暖気を始めていた。その隣にあるBTR-90の開け放たれたサイドハッチからフワフワした銀髪のスコールイが

「3人ともこっち」と手招きする。


いつの世にも、どこの世界にも、タイミングが悪い、やる事なすこと裏目にでるって神にも世間からも見放された挙句、これでもかと不運の上から悪運塗りたくられる輩がいるもので、ボーレルの海軍学校校長、ボッキャオ・パビリウスもそんな男だった。まぁ、此奴の場合、自業自得の積み重ねを有償リセマラしているようなものではあるが。


 少し前、テュルセルの街でペレスヴェートに卑猥言葉でセクハラカマした事で学校生徒からボーレルの恥と罵られ、学校から追放され、癇煩(浮浪者)のような扱いを受けたことを逆恨みし、テュルセルを燃やしてやる!と不適なドヤ顔浮かべる自信の顔を描いた旗を持って、先ずは密輸を見逃している海賊連中を頼ってテュルセルを逃げ出したものの、

今度はみっともない有様を笑われた、馬鹿にされたと憤慨しては、センベス渓谷を不法占拠の上、暴力で実効支配しているボーレルの野盗騎士に、もうすぐテュルセルの連中が外国からの戦力(海尋達)を使ってあなた方を一掃しに来ますよと、嘘の情報を手土産に野盗騎士共に取り入ったのである。ツイてることに海軍学校の教官時代に散々世話を焼いて(馬鹿にして虐めた)やったボーレル貴族の出来損ないお坊ちゃんがいたので雑用係程度の仕事と食べ残しを漁れる程度にはなったものの、何かにつけ下っ端連中に剣の持ち方がなってないだの騎士の甲冑が汚いなどと文句をつけ、ボーレル人らしからぬ背の低い腹が出たガニ股の連中に媚を売って調理場から食べ残しや僅かな酒をくすねる自由を手に入れていた。


そこで自分たちがこんな暮らしをしているのはすべて、貿易の利益を独占しているテュルセルとその商人達が悪いなどと難癖に等しい安いアジテーションで下っ端連中を煽動し、本国では見た事のないでっぷり太った騎士団長に「自分の部下」もやる気充分だから挙兵しましょうと色々嘘だらけの特典をつけて、騎士団長の椅子に座るどう見てもボーレル人に見えないエラの張った顎と嫌らしい細い目をした腹のでた男に申し出て、50人程度の手下と数人の見張り役を従えて、便乗する他の下っ端を集めて、異国の戦馬という鋼鉄の塊のてっぺんに立ち、テュルセルに奇襲をかけるべく採掘場の底に兵を集め、夜のゴツゴツした岩が剥き出しの岩場が目立つ荒地を進軍しようとしていた。


「利益独占する港を焼き払えーっ!」「商人どもを殺せーっ!」などと物騒極まりないシュプレヒコールを挙げているもだから、「害虫」認定されて潰されても仕方のない事で、その様子を定時偵察中のドローンから映像を受け取り、席を立ったのがアレッサンドラであり、ペレスヴェート達侍女達だった。決してカフカースが主と出張先でのお風呂においての「おねショタっくす」で自分よりもエロくて羨まけしからん行為を楽しんでいたからではない。


その不運に塗れた男はいつか忍び込んで生意気な金髪女を犯してやろうとこっそり探らせていた異国人の住処が手下からの報告で巨大な乗り物が朝に出たっきり帰ってこないので全員で出払っているのだろう、今のうちに強奪、占拠してしまえば此方の物とばかりに大嘘八百で挙兵を決行したのだった。


簡素で安っぽい石積みの敵陣境界を楽々乗り越え、又は破壊して極光商会から害虫駆除に駆けつけた侍女達一行。消えかかったオーロラの緑の光と白い月の光に照らされ、V型エンジンの轟を潜めて荒野に並ぶは完全武装(魔改造)のロックバウンサー2両、20mm機関砲を搭載したTK/S豆戦車1両、23mm4連装対空機関砲を取っ払い、みんな大好き作者も大好き我らが軍神ルーデル閣下の化身、近接航空支援機サンダーボルト搭載のGAU-8アベンジャー 30mmガトリング砲を無理やり乗っけたZSUー23-4シルカ自走式高射機関砲1両。なんで米軍のアベンジャー?と思ったあなた。アベンジャーで群がる歩兵を蹂躙してみたくありませんか?私(作者)はやってみたいです。指揮通信偵察系統を増設強化したBTR-90が1両の5両。


露天掘りの底で篝火を焚いて高揚の雄叫びを上げる害虫の姿をディスプレイ越しに睨みつけつつ「相手の戦力は?」 アレッサンドラがつぶやくように問いかけると

BTR-90で偵察用ドローンからの映像を解析しているスコールイの半分寝ぼけた声が返ってくる。


「戦域はちょっと大きめのコンサートホール程度のすり鉢状の竪穴、底は観客席のない日産スタジアム程度」、「貧相な騎馬隊含む歩兵500、それとー、ど真ん中のシャーマン上に見覚えのある顔がいるー。その後ろにエンジンかかってる二号戦車2両、歩兵の装備は剣盾と弓、に混じって二時大戦後期のサブマシンガンとライフル、めんどい。全部流すよーチャンネル開けてー」


「あら、これ、この間のすけべ小男」


中央に立つ小男を見てペレスヴェートが唾棄するように言うと


「それじゃぁ、この小男に全部ひっ被って貰いましょう。言動行動の録画録音して頂戴。こいつだけ捕らえてあとは皆殺しでいいでしょう」とアレッサンドラ。


「ありがとうサーシャ。それで少しは溜飲下がるわ」

「なぁによー、結構根に持ってたんじゃなーい」

ZSU -23-4対空戦車シルカに乗ったセヴァスポートリが軽口叩くと「あ゛」と濁点付きでドスの効いた低い声が返ってきた


「止めろポーリー、同乗している私にまでいらない被害が及ぶ!」


シルカの操縦担当をするクロンシュタットが止めに入るも

「被弾が怖くて引き金引けるか、機首と同軸あべんじゃぁああああああああああああっ!」

とA-10訓のアレンジを詠唱している。


「ダメだこりゃ」額を抑えて諦めるクロンシュタット。空と地上の違いはあれど、アヴェンジャーの魔力に囚われることに天も地も違いはない。皆等しくその魔王たる破壊の力に頭を垂れ跪くのだ。


「サーシャ、鏖殺の号令はよ。セヴァスポートリが正気保ってるうちに。クロンシュタットが我慢できるうちに。二人揃って暴走したら止められない」


嫌に冷静なスコールイの声にアレッサンドラがロックバウンサーのアクセルをベタ踏みしたV8エンジンの咆哮で一喝する。


「天にまします我らの父(V8)よ。 願わくは御名(みな)をあがめさせたまえ。 御国(みくに)を来たらせたまえ。 みこころの天になるごとく、 地にもなさせたまえ。讃えよV8、V8を讃えよ!」

「Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!」

「なんだこいつら、何かの宗教か?」

BTRの中、狭い装甲車の中で肩寄せ合って慄く近衛3人。

負けじと

「V8がナンボのもんじゃぁっこちとら30mmの鉛弾だぜっ!我等、地上の破壊神、機銃上等、ミサイル上等!被弾が怖くて侍女がやれるか!!」

「お前らそろそろ真面目にやろうぜ」あくまでも冷静なスコールイの冷めた一言。


書き忘れたが全車、ディーゼルターボV8エンジン(魔改造)である。

V8エンジンの猛獣のような咆哮を上げロックバウンサーのアレッサンドラとペレスヴェートが露天掘の底に集結したボーレル野盗の両側から中心のボッキャオキを囲うように回り込んで急斜面になった階段状の内壁駆け降りる。遥か上、ボッキャオを正面に捉えてTK/Sがい直線に駆け下りながら魔改造ついでに車体両脇に取り付けたスモークディスチャージャー(煙幕弾発射装置)から暴徒鎮圧用に威力を抑えたマスタードガス弾を発射する。


右往左往する烏合の衆目掛けて斜面を少し降りたところで俯角をとったシルカのアベンジャーが「ブゥオオオオオオオオオオオン」と横薙ぎの一斉射で闇と烏合の衆を切り裂く。鉛弾に掘り返されて剥き出しの土にひっくり返した食器棚からブチ撒けられた鍋や食器のように人間の「部品」が転がる。


肉から骨が剥き出しになった手足だった物、底に穴の空いた鍋かと思えば、腹から上下に分かれてかろうじて骨で繋がる上半身、下半身、身につけた甲冑は形を保ってはいるものの、穴の空いた甲冑の中身は鍋に内蔵ブチこんだスープのように細切れの肉と滴る血で臓物鍋「1名分」として転がっている。

露天掘りのすり鉢状の底に湧き起こる阿鼻叫喚。逃げようにも掘り返した斜面を四つん這いになって這い上るか、距離を取って後ろに下がるか、襲いかかる獰猛な鉄の獣に剣だ弓だでどう戦ったらいいのかなど誰にも分からず、結局斜面を這い登って逃げるしかない。


いきなり上方から白い光に照らされたかと思えば頭上から野太い咆哮をあげて斜面を這い降りるように襲いかかってくる未知の物体。すり鉢状の斜面に設けられた通り道の段差を物ともせず、巨大な黒い腕を激しく上下に動かして雄叫びを上げながら糸の巣を這い降りる蜘蛛のように、火花を吐き出し、低い轟音を撒き散らしながら襲いかかってくる。


諦めれば肉と臓物を撒き散らして踏み潰されて誰が誰かも分からぬ鍋の底に残った肉と臓物の千切れカスになるだけだ。


必死の思いで反対側の斜面まで走ってかけ登れば、向こうの斜面から火の玉が富んでくる、斜面の底から猛獣が這い上がってきて火の玉がと飛んで来る。運良く斜面を登り切ってもどこからともなく飛んで来る火の玉を受けて転がり落ちてくる。かろうじて骨で繋がっているだけで肉と臓物を引き摺って斜面を転がり落ちてくる、転がり落ちてきた、誰かもわからぬ頭を拾い上げると、顔を覆う鉄に穴がいて、中にはぐぢゃぐぢゃになった脳漿と肉をこね合わせたような、どろりとした目玉の浮いた血のスープだった。血に浮いた目玉と目が合った瞬間、肺の奥から喉をまっすぐに通った人とも獣ともつかぬ悲鳴をあげ一心不乱に斜面をみっともない四つん這いで這い上り、斜面の淵に立つと、光る目玉に捉えられ、その眉間から吐き出される「ダッダッダッダッ」と断続的に聞こえる音を最後に肩と腕のついた胸から上が千切れ飛び、地獄と化した大地の壺に落ちていった。


「三人とも、そろそろ出番」

BTR-90の狭い車内でドローンからの映像を見ていた近衛三名がスコールイに声をかけられ困惑する


「もう充分だろう、相手はもう戦意喪失してるし、武器だって格が違いすぎる。一方的な蹂躙、虐殺じゃないか!」


「甘い事抜かす童貞か?奴らは非武装の集落を襲おうとした。奪おうとした。ならば自分たちが無様に刈り取られても文句は言えまい」


柔らかく落ち着い声で、しかし煮えたぎる腹の底から染み出してくる怨嗟の籠った底冷えのする冷たく低い声。


「腹ぁ括んな、あんたらの持ってる火薬の詰まった鉛と鉄の塊は慈悲も情けもない一方的な断罪を齎す文明って名前の鞘に入った悪魔の刃なんだ。私達兵器は虐殺の権化。その片棒担いで仲良くしたけりゃ騎士がどうだの誇りだのと下らないものはさっさと捨てな。」


弾倉マガジン叩きこめ、ハンドル引いて薬室チャンバーに弾こめて安全装置を外せ、目の前の奴も足元の奴も等しく敵だ撃ち殺せ」


教習中に何度か手合わせしたが、リルを除く二人は剣士としてはかなりの手練で結構な数を斬り殺している事だろう。だが、今彼女たちが持っているのは剣じゃない。心構えも何もなく、ただ引き金を引くだけで銃口向けた相手を無作為に殺せる非常な武器だ。「斬り殺す」のと同じように「撃ち殺す」ことにも慣れてもらわなくては。ゲームで人を撃ち殺せても生きた人間を撃ち殺せなければ仕込む意味がない。


下地のライトグレーが見えないほど濃い青と灰色でまだら模様に塗られた軽装甲服と暗視機能のついた鉄鏡のマスクをつけたことを確認すると、露天掘りの最下部、何のためにわざわざ運用に厄介な機動性の悪い戦車を置いてあるのか、斜面を横に走る螺旋状の通路で跳ね飛びながらBTRをすり鉢の底まで一直線に走らせて、シルカの30mmとTk/SのA/wz.38重機関砲に貫かれて炎上している二号戦車の後ろ、唯一まともな戦力M4シャーマンの砲塔上部では口汚い言葉で誰かを罵りながら砲塔上部の入り口から無理やり中にんり込もうとするボッキャオの姿があり、その後ろには剣も盾も投げ捨てて、サブマシンガンと木製ストックのライフルを構える怯えの色が濃い細い目をした背の低い痩せた黒髪の兵士達。


今も尚、動き回るTK/Sを狙おうと砲塔を左右に振って出鱈目に弾を撃つシャーマンの砲塔。一向に銃弾の一発も飛んでこないところを見るとよっぽど教練がなっていないのか、今日初めて持ったのかは知らんが、後ろで一塊になっている兵士ごっこしている連中は素人の民間人以下だ。BTRのドアを開け「ついて来い」とだけ言い残し我先に飛び出して嫌々と左右に首を振るシャーマンの砲塔に飛び乗ると、ハッチから手を突っ込みボッキャオの襟首を掴んで引き摺り出して地面に転がす。

「そいつは拘束、あとは殺せ」とシャーマンの中にピンを抜いた手榴弾を転がすと、砲塔から飛び降りる。

RPK軽機関銃を構えて躊躇していたダリアとブランの近衛二人は、無力化したボーレル野盗に顔色ひとつ変えずFNーMAGを掃射するリルの姿を見て吹っ切れたのか無言で引金を引く。

弾倉一本撃ち尽くしたら即座に交換、チャージハンドルを引いて又掃射。


3本目の弾倉を交換しようとした時にズドン!と地面から響く音と共にシャーマンの砲塔が吹き飛び、空いた穴から火柱が上が離、虐殺後の折り重なるように横たわる人馬入り混じった屍を赤く照らす。


屍の一つを無作為にブーツの裏で転がして、今はもう世紀の宿らぬ虚な目をした屍の顔を燃え盛る炎で照らし、

「これはボーレル人の顔?」カフカースが近衛三人に問う。


造詣が浅くのっぺりとした平面的な顔に細い目に黒い瞳、薄い捲れ上がった唇。くすんだ黄土色の肌に黒い髪。どう見てもボーレル人の顔ではない。癇煩とか蛮鄧、モゴロ、大陸東側の異なる文化圏の遊牧民に似ている気がしないでもない。


「こいつらの持ってる武器も見てご覧よ」


「私たちが使ったのと同じなのか?指をかけるところを引けば弾が出る・・・」


「一応正解、年代的には50年近くの隔たりがあるけどね。そこで質問。こいつらがテュルセルなりあなた達の故郷ヴァルキアに攻め込んだらどうなる?まぁ答えは言うまでもないけど」


二人の顔が思い詰めた表情に曇る。トカゲ乗りは自分が持つ武器のヤバさ知ってるから抵抗感なかったみたいだけど、あなた達二人の騎士道精神?はけっこー問題」


「だから虐殺行為に慣れろ、と?」


「私達は底まで優しくない。自分で考えて」


「それよりもこいつらの正体。ここいら辺の土着じゃないなら・・・」


そうカフカースがまとめにはいった所で斜面の上から火のついた布が突っ込まれた樽が転がってきた


「車戻ろ」


ゆっくりした口調とは裏腹に狙いをつけるリルの後ろ襟掴んでズルズルBTRまで引っ張って行った。ダリアとブランの二人は樽が転がってきたと同時にBTRの屋根にくくりつけていたボッキャオにひと蹴り入れてBTR内に戻っている。

「車内に戻って回線をリンクさせると、穴の周りを人馬まとめて800ほどの「おかわり」が取り囲間れていて、転がり落ちて壊れた樽から溢れ出す油に火が燃え移り、瞬く間に周囲が炎の海と化す。


「サーシャごめん、お嬢様方の面倒見てたら対応遅れた」


「大丈夫。「おかわり」ならもう確認済み、ここは全員揃って一斉射しましょ」

「了解、感謝」


露天掘りの底に転がり落ちて燃え盛る炎の海をバックに獲物を求め土の斜面を掻き毟り一斉に斜面を駆け上る血に飢えた鋼鉄の猛獣達。


「全車弾が無くなるまで打ち尽くせ!弾がなければ轢き殺せ!上手くできたら海尋様との同衾までは保証してやる!そっから先は上手くヤれ!」アレッサンドラの言葉に

侍女一同が湧き上がる。

「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa(ウラーーーーーーッ)!!!!!!」

さっきよりも気合いの入った侍女の雄叫びと共に弾丸と薬莢をばら撒いて肉と血の畑を耕す鉛弾の雨。早々に弾切れを起こしたのはクロンシュタットとセヴァストーポリのZSU−23−4シルカ。


いつ銃身が破裂してもおかしくない程真っ赤に焼けて、それでも尚履帯が外れんばかりの勢いでボーれる兵を踏み躙り、文句なしのMVPだった。


意外と少食だったのがアレッサンドラとペレスヴェートのロックバウンサーで。車体左右にマウントしたM61ガトリングの射線が激しく上下するサスペンションとタイヤに重なってタイミングを見計らってブッ放すのが難しかったからだと言っていたが、その代わり、人の背丈程の大きさのぶっといゴツゴツしたタイヤで甲冑ごと骨肉粉砕して後方に吐き出して個人スコアで言えば両者がダントツ。


TK/Sのオトヴァージュヌイは固定砲台に徹し、数こそ少ないものの、撃った弾数あたりの射殺数は彼女が一番多かった。


妙に吹っ切れて面白い戦い方をしたのが近衛三人組を乗せたスコールイのBTRで、車体上部の2A42 30mm機関砲と同軸のPKT 7.62mm機関銃をフル活用した挙句、車体両側の乗り降り口を開け放ち、半身を曝け出してハコ乗り状態でダリア&ブランのFN-MAGによるシカゴギャングのような乱れ撃ち。トカゲ乗りは二人のサポートと手綱のようにBTRに引っ掛けたスリングを持って体を支え、ストックを脇に挟んでのFN-MAGの片手撃ち。戦場をドリフト大会のように掻き回すスコールイのドライビングテクニックによくもまぁ終始仁王立ちでいられたものだ。


空の色が濃紺から薄い青に変わりつつよが明けるはずが、どう言うわけか空一面を真っ赤に塗りたくった赤い雲が浮かぶ地獄の空のような朝焼けの夜明けだった。


拠点格納庫。白い岩を削って地下に設けられているので、天井に設置したLed照明で灯りを取っている。そのLEDの白い光に照らされてボーレル野盗排除に活躍した洗浄を終えた車両が並ぶ、その横でヴァルキア帝国(隠居)女帝ハーメット・ネフ・カシスがすぐそこの物陰で吐いてきましたって感じのげんなりした顔で出迎えていた。隠居したとは言え、

女帝としての威厳もあるので就寝直前に建物が震える程の「魅惑のV8サウンド」で叩き起こされ朝もまた陽も登らぬうちに「滅びのラッパ」もかくやと言ったやかましい音に叩き起こされ」「散々じゃ」と言った体裁だが、

洗浄前の血塗れ肉片まみれの車体を見て起き抜けの気だるいテンションが跳ね上がったのも束の間、洗浄ブースで高圧洗浄水に洗い流される肉片、白い床一面真っ赤な川になった有様を見て一番最後のBTRの洗浄が終わる頃には流石に気分が悪くなっていた。車体裏側の何処かに引っかかっていたのだろう、ボーレル正規兵の鎧と小指薬指の千切れた肘下の「部品」を爪先で突っついて


「ふん、何処ぞに出たのかと思うたら採掘場に巣食うボーレルの餓鬼共かまこっと大義であった。ところで、これ本当にボーレル兵かの?血抜けとは言え妙に黄色いし体毛も黒い」

「聖上様、それなのですが」

BTRのサイドハッチから出てくるなりしゃがみ込んだ、げんなりした顔のダリアが


「それなのですが、どうやらボーレルの兵ではないようです。蛮鄧ばんだんかモゴロ、汚らしい癇煩かんばんとも同じような特徴が見られる者がおりました」


「ほ〜ん。ダリアよ、随分良い眼になったではないかえ?ガチの虐殺は初めてだったか。祝!童・貞・卒業。カカカカカ」


「笑い事ではありません!あれは虐殺惨殺、いや、一方的ななぶり殺しです!」


「まだ言うか、皮被りの童貞マスかき小僧に逆戻りじゃ。カカカカカ、アレッサンドラ殿、すまんが後ほど記録を見せてもらえんかの?カッカッカッカッカッカッ」

悪者アピールじみた笑いを残し地上へのエレベーターに乗る女帝様。

ブローニングM1918の代わりにFN -MAGを使った感触をオトヴァージュヌイと話つつ、いくらなんでも、と女帝に少しばかりの反感を覚えたリルだったが、

「さすがカシス様!全土の覇者とはそんなにも吹っ切れているものなのか!!」

と感動していた。反感の感情が「どいつもこいつもイカレてやがる」に変わった。

ダリアの言い分も尤もだが、こんな後味の悪い戦は一生に一度で十分だ。

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