第15話お披露目 揚陸艦



「ようこそ我が主、海尋様。初の乗艦、このペレスヴェート心より歓迎いたします。まずはCIC(戦闘指揮所)、艦長席までどうぞ」主の背中を押しながら格納庫をエレベーターへ向かって歩く

 「しかし、一体どうやって乗船されたのですか?ポーチャーの船影もありませんし」

「製材所でボート借りて船が止まってる間にこっそり乗り込んだ」


「はぁ・・・仰って下されば全てのロック外しましたのに。」


「だって、ヴィータが痺れ切らしてズカズカ軍舎に行っちゃうし、余計なことせずフォローに回った方がいいかなーと」


「あら、私そんな怖い顔してました?」


「ん〜絶対なんかやらかすだろうから、客観的事実の公表と、クソ野郎のケツに蹴り一発入れるくらいはしたいじゃない」


「・・・海尋様。お口が悪う御座いますよ」


「あわわ、ごめんなさい」

口を塞いで艦橋へ向かうエレベーターに入り込むと、後を追うようにヴィータも入り込む。

ヴィータが乗るスペースを開けるようにエレベーターの側壁寄ると、口を塞いだままの海尋の両手の手首を掴みエレベーターの側壁に押し付けて、少し上を向いた海尋の唇に腰を屈めて唇自分の唇を重ねて舌を滑り込ませる。舌の先が触れ合うと、海尋の方からつま先立ちで舌を絡めてきた。不意を突いて主人の唇を奪う事はあっても、海尋の方から舌を絡めてくるなんて事はなかったので驚いて

掴んでいた海尋の手首を離すと、今度は自分の首に手を回して奥深く舌を差し込み強く唇を重ねてきた。軽いバードキスで済ませるつもりがとんでもないフレンチ・キスになって下着が不味いことになりそうだ。本当に不味いことになる前に引き剥がしたいが、柔らかい唇と艶かしく滑らかに舌をくすぐる主の下の愛撫をもっと味わっていたかったが無情にもエレベーターがCICの階に止まる。

寝所でもこのくらい求めてくれると嬉しいのだが、しばらくは夜伽の番があるかどうか。

唇を離して平常心を保とうと人間っぽく深呼吸でもしてみるかといたが無理だった。

唇を離す時に引いた透明な糸を舌で絡めとるように唇の周りを舌先で舐め取って

「今度はもっと濃いのが欲しいな」と口の端だけで笑みを作る。

この主人、エロすぎる。こんなビッチみたいな真似どこで覚えた?最っ高じゃないですか。夜伽の際にはたっぷり可愛がってさしあげましょう。

「んん」と小さく咳払いをして

「海尋様、どうぞ艦長席へ」とCIC最前列右側、足置き付きの高い位置にある黒革張りの椅子を勧める。高さを調整した後、肘掛けに両手をついて尻の位置を調整しながら適度な位置に落ち着くと、

高さを調整して艦橋の窓から周囲がよく見渡せ位置に固定する。これで、次からは自動的に同じ位置に来るよう記憶される。

「さて、ここを離れる前に正面に砲弾の五、六発でも叩き込んでおきましょうか?」

視覚は共有していたので相手のナリは把握している。

「いいよ、あの手の小物なら余裕持たせれば援軍引き連れてお礼参りに来るだろうからその方が後始末が楽でいい。鉱山占拠してるボーレル騎士団にでも泣きつくんじゃないかな?」


「それでしたら報復行動も考えてマヌエルに盗聴器を仕掛けさせておきました」

パン!パン!パン!とゆっくり手を叩き楽しそうな笑みを浮かべる。


「あっはっは、最高最高、上出来だよヴィータ」

そんな話をしていると、残りの侍女達がエレベーターでCIC入り口前に上がってきた。


「海尋様」「全員入って貰って」「承知いたしました」

入り口の電磁ロックが外され6人の侍女達が入ってくる。

「あー流石に揚陸艦はCICも広いねー」

「艦橋低くね?」


と、見たまんまの感想を口にする。


「さて、それじゃぁ港湾事務所まで戻って女帝様達とタイフーン回収して帰りましょう」

海尋の指示に全員口を揃えて

Да-с.了解!」


と答えたものの、レーダーだのソナーだのかくじ役割分担があるでなし、周囲警戒のつもりか眺めの良い窓際で周囲に点在する帆船や港の野次馬にキャイキャイ言いながら手を振ったりしている。


「さて、艦橋とかCICの描写おかしくね?と仰る目の肥えた読者の方。正解です」

その辺ちょっとご説明というか、言い訳したいので暫しお話の流れを止めまして。

カチンコを持ったアレッサンドラが「はいカット」!とカチンコを鳴らすと、時間が止まったように窓から見える風や波が動きを止め、窓の向こうを眺める侍女達の動きも止まる。


 ではまずは簡単な方の言い訳から。カチンコ片手にアレッサンドラがカメラに向かって話だす。

私どもはMMORPGでの海戦シュミレーションにおける20世紀初頭の戦争に使われた船なので、

「艦橋」というところは目視による付近の警戒や操舵に関わる所でしかありません。各情報の集まるCIC(戦闘指揮所)などは船の中、装甲で固く守られた内部に存在します。通信手段も進歩していますので艦長が艦橋の艦長席に座ったままCICないしは艦隊旗艦からの命令を受けて作戦行動を行うことになります。しかしまぁ、いくらゲームとはいえ、実際の軍艦の中身をそっくりそのまま再現するわけにも参りませんし、何より「男のロマン」「宇宙戦艦ヤマト」や「キャプテンハーロック」のようにガラス張りの環境で船外の海で燃える敵艦や撃墜される敵機をバックに艦長席にでんと身構えて「ヤマト発進!」とか「弾幕薄いよ!何やってんの!?」とかやってみたくありませんか?、

やりたいでしょう??そんな時のMMORPGです。

最もこの手のは「誤った表現」とされ、近年では「宇宙空母ギャラクティカ」や「スタートレック」のエンタープライズ号のような独立した室内で壁や天井に表示されるスクリーンを見ながら指示を出すのが正しいとされております。


この辺が緊張感ある娯楽要素としてネット配信される際に艦長が指揮台に立って指揮棒をタクトのように振って指示を出す「星海の紋章」ゴースロス艦長型がかなりの人気を集めております。

特に我が主人海尋様は私アレッサンドラと旗艦アクーラ級設計戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦(タイフーン型原子力潜水艦)のCICにて指揮棒の代わりに扇子を持ち、着物姿の袖が舞う指揮スタイルが日本や欧州の方々に大っ変人気がございまして、おっと、これは主自慢ですのでお気になさらず。

ともかく、プレイヤーの好みに合わせて映画のセットのように艦橋やCIC作ることができるので実際の軍艦内部の描写とは違うのですよ。そもそもこの文自体作者の妄想垂れ流しでフィクションなのですから細かい所はご寛恕くださいませ。


で、難しい方の理由としては、なんぼゲームだからと言って全て本物通りに再現できないものもあるあるのです。私共の時代、23世紀で20世紀の船再現するのに問題あるのかといえば、正直ありません。逆に再現することが出来ないのです。当時の公開可能な映像資料等からきっちり再現出来る所は再現されておりますが、わからん所は時代に合わせてエンタメ要素を混ぜてカッコイイ見栄えにするのもデザイナーの腕の見せ所。かなりのアレンジと23世紀の理屈に合わせた改変がなされております。


では本筋戻りましょう。

「はい、スタート!」再びアレッサンドラがカチンコを鳴らすとそれまで止まっていた時間が動き出す。

「港の新区画までタイフーン動かすのは結構遠回りだねぇ」

空間投影された港辺りの地図を見ながら

「港湾事務所の正面、旧区画の倉庫前に船停めて選手のラダー下ろそうか。ついでにワインサップさんとメイピックさんに艦内見てもらおう。コントロール、ヴィータに任せる。」


「承知致しました。では港内速度のまま後退の後取り舵、船首を港湾管理事務所敷地に接舷し、タイフーンおよびオブザーバーを回収致します」


「周囲に船影なし・・・海尋様、ダニが帆船で向かってきますがいかが致しましょう」

なだらかな曲線を描いて船首を接舷させられる距離を後退して稼いだあたりで軍舎横の船着場からボーレルの国章と斜めに構えて片眉顰めた不敵に笑う学長、ボッキャオ・パビリウスの顔をデカデカと描いた旗を張った釣船程度の小型船にハンドキャノンを担いだボッキャオがゲラゲラ笑いながらこちらを指差して後ろで船を漕ぐ教師だが学生だかに何やら叫んで向かってきていた。

「ちょっとカメラズームして・・・あれって中世辺りのマスケット?ブランダーバス?見たことないな」


先端部分に2ℓペットボトルをくっつけた戦列歩のもつマスケット銃のようなもの、フリントロックのマスケットのようだが、それで何をしようと言うのか、少し考えて、

「・・・放っておこう」


相手するのも馬鹿馬鹿しい。それに横風、あんな大きな旗を小舟に掲げたら・・・あ。転覆した」

材木置場横の砂浜で揚陸艦ペレスヴェートを追っかけて見ていた商館の従業員や港湾労働者達が大笑いしていた。ボーレルの海軍学校関連者は当分の間物笑いの種だろう。既にペレスヴェートとの会話で醜態を撒き散らしているので恥の上塗りだ。

ボーレルには火薬使う武器があるって事か、武力占拠されてる銀の採掘場も調べてみようか。



海尋達がボーレルの海軍学校でやらかしている最中、女帝様と護衛の3人、それとモイチの5人にはバンゴの店で船を呼ぶからと港湾管理事務所で待っていてもらうよう頼んだのだが、港湾事務所に向かう最中、空にボッキャオとペレスヴェートとのやり取りが聞こえたので「あいつらまたなんかおっ始めやがった」と額を抑えるモイチを他所目に「なんじゃまた面白くなってきたのう」と喜び勇んで見物に向かう女帝様一行。しかし、一番興奮したのはモイチである。なにしろ、今までどこの国や領地でも見たことないような馬鹿でかい帆のない船が軍舎前の砂浜にめり込ませた船首をガバッと開き、そこへ材木を素手で投げ込む見慣れた侍女達そっちのけで、とにかく船に関心がいっていた。その様は初めて船を見た子供用だと女帝様は言ったが、長さだけでも今まで自分が乗った事のある船の3倍近く、高さは倍以上、しかもそこに「窓ガラス」というものが嵌め込まれており、帆船のマストよりもさらに高いところから眺める水平線はどのように見えるのだろうか。


沸き立つ興奮に一歩、また一歩、体が、足が野次馬を掻き分けて船へ船へと近づいてゆく。

ボッキャオとペレスヴェートのやり取りなんかは耳に入ってもいなかったのだが、アレッサンドラが放った銃弾の音に我が身に帰ると、後ろへ下がって船首を港湾事務所の方へ向けた時、ようやく海尋達と港湾事務所で落ち合う話だったことを思い出す。


船が好きかと問われればもちろん「好きだ」と答える。しかし、幼少期から少年、青年期の始まり辺りまで、今のモイチが乗るようなマストが2本、3本あるような大きな分ではなく、せいぜい父親や村の漁師が使う横幅の広い一本マストのヨット程度のものでしかなく、母親と一緒になる前の父親は船乗りで、大陸沿いの航路を辿って

穀物や木材、鉱石などを運ぶ船乗りで、いく先々を白い布に書き込み、海流や風向きを記録することでより安全な航海ができるよう尽力していた。よく父親からその白い海図を見せて貰いながらここは潮の流れが早く、風に乗って進めば他の船よりも早く目的r地に到達できるとか、ここらの人間はまだ未開でこれからどんなふうに発展空いていくのか楽しみだ、等々、漁がうまくいって上機嫌の父親が話してくれる海と航海の話が好きだった。船乗りになりたいと言う自分の希望を認めてくれなかったのは、「船乗り」と言うものがどれだけ危険なのかよくわかっていたからなのだろう。そんな父親と喧嘩別れすように家を飛び出し、流れ流れて青年期が終わる頃には一端の航海士としてたくさんのづねに乗るようになった。そんなふうに。海と船に育てられた男なので、まだ見知らぬ船を見ると乗ってみたい、操ってみたい潮風を感じながら水平線を目指したいと心が躍る。


「なぁ、モイチ。お前子供の頃は港に入港する船追っかけて走った口だろう?」と揶揄い半分んでリルに声をかけられた。


「いいや、俺っちのところにゃでっかい船が入れるような港はなかったさ。せいぜい川だ。まぁ、船追っかけてどっちが早いかなんて競争はしたがな」

「だろうな」


「で、聖上様は何をお求めになったんだ?」


「随分と見ておられたようだが、自分のものは何一つ買わず、私たちにサイドチェストを一つづつ」


「本気であそこに逗留するつもりか」


「お前の所はどうなんだよ。部屋は広くてベッドの寝心地もいい。ソファとクッションも比べ物にならん。兵士の基本 野宿ができなくなりそうだ」


「まぁ、俺っちは家も部屋も借りてねぇからなぁ。基本素泊まりの船乗り用宿舎か船の中でハンモック一丁の生活だし」


「なんて生活だ!?船乗りってのはみんなそうなのか?」


「まぁだいたいそんなもんだろよ。大事な物は管理事務所に預けてある」


そんな事を話しながら旧区画の商館を抜けて港湾管理事務所の前まで来ると、そこにはもう古い桟橋の真横にその巨体を浮かべ、大口開いて巨大な鉄の車を飲み込んでいる先程の船の姿があり港湾管理事務所からは女帝様と護衛の二人、青い顔したワインサップとメイピックがゾロゾロと出てきた。


「おお、丁度いい、モイチお前からも話を聞きたい」ワインサップから声をかけられ、


「なんだ、なんかあったのか?」と軽く答えてしまった。


「なんかあったのか?じゃねぇよ!、ボーレルの軍舎に石投げたってなぁマジか!」


「へ?んな事あったか?」と。隣のリルに同意を求める。


「ほんっと呆れたや奴だな。石かどうかは知らんが、私のより強力な何かだ」

リルがやれやれといった具合で答えると。


「事の次第は聖上様から聞いたし、こちらからも正式な要請出した上で学長が欲を出したってぇだけだから明日以降ボーレルの役人呼びつけて軍舎の縮小と港湾使用料増額してやろうかと。あのボキャオとかいう小男、前から素行と女癖悪くてその手の店で問題起こしてるんだよ」


と、メイピックが擁護の言を唱えると、横からワインサップが「よくやってくれた」と言わんばかりに


「俺もこの目で見たかった」と言い、女帝様は「もうちっと近くで見たかったのう」と残念そうに呟いた。


 海尋を先頭に、事もなかったかのようにペレスヴェートの格納庫を案内されるメイピックとワインサップは驚きの連続でひっくり返りそうになっていた。まず、船の中がこんなにも明るくなるのかと天井と壁の照明に目をみはる。そして床、床が木材じゃない、と言うより木材がない!そして知らない言葉の雨霰、


くれーん?こんてな?ふぉーく?パレット、はまぁわかった。酒や穀物などが入った樽や袋をどう運び入れるのか、船員は船内でどう過ごせるのか、海賊に襲われた場合、対抗手段はあるのか、と開運上の安全や積み下ろしに関わる必要設備、全て確認するだけ無駄だった。


信じられないことに、彼らの常識を服についた埃のごとく軽く払い捨てるかのような、全てにおいて最高グレード。フリストス同盟始まって以来の荷運びの船として最上級の評価が与えられた。

ただ、残念なのは「、同じ船が作れるか?」との問いに「無理」ときっぱり言い切られた事だろうか。一番ショックだったのは、この船を動かすのに何人人員が必要かという問いに、長身金髪の侍女が「私一人で充分です」と自信たっぷりに即答された時だろうか。船員の食堂に案内された時の事だが、だいたい30人から50位は入りそうな食堂を見て、食堂に入る分の人員が必要なのだろうと

思ってのことだったのだが、一人で十分ならなんでこんな大きな食堂が必要なのかとの問いに返ってきた答えは狭いと掃除のしがいがないではありませんか」とバッサリ言われた時は神を頼って海に飛び込みたくなった。余談ではあるが、海尋の私室がばか広く作られているのもこのためである。


ちと話はそれますが、これらの何が重要かって、極光商会の運賃、極光商会、ペレスヴェートを使う際の輸送費用算出のためである。この世界にAmazonプライムや送料無料サービス、無償綜合警備事業の巨乳美少女なんぞおらんのですよ。陸に囲まれた内海から外海に出れば、海賊の襲撃にも遭うし、悪天候で船が沈没、遭難なんてこともある。ぶっちゃけ、安心安全=(イコール)金なのです。

そのため、大商人と呼ばれる商人たちは護衛の私有艦隊持ってたり、アマカスのようなフリストス同盟傘下で会社としての護衛隊を雇う訳です。積荷と有金全部巻き上げられるよりは安くつくギリギリの値段設定なんかも考慮せにゃならんのがフリストス同盟たる枠組みの中で折り合いつけるのがメイピックの仕事な訳で、まずは基本料金を設定した上で船主と依頼人とで交渉して下さいね。


ってのがこのあたりで言うところの商談であって、あとは船の血統書、何処の造船所で作られて誰が所有して、どんな航海をしていたのかなど、『信用』もかなり重要視される。初仕事でヴァルキア女帝のマトリカ・ヴァンクス建替請負など華々しい功績に思いがちだが、ヴァルキア女帝との繋がりを勘繰られて良いことにならないとも限らない。あれこれ考え巡らせるメイピックだが、いっそモイチを専属にして少女にしか見えない若すぎる船主、商会代表が同盟加盟国の商人たちに甘く見られないようにせにゃならん。ああ、もうとにかくシズリ・ミヒロって責任者が若いのと美少女にしか見えないところが全部悪い!モイチに丸投げしようかと思ったが、むしろワインサップから極光商会の対応を丸投げされて頭抱てる時に馬鹿が余計な事をしでかす。


ペレスヴェートの視察を終えて港湾管理事務所に戻ると新旧区画の商人共から質問攻め合い、あれは何処の船だ?とかこないだの薄荷頭の嬢ちゃん絡みか等々、かなりの大きさだが荷物はどんだけ積めるのか、順番待ちは解消されるのかと、答えられる事は全て事実を話したし、後ろ盾にヴァルキア女帝の存在も仄めかした。だのに、だのに、なんで!?


「なんでヴァルキア帝国時代のサナリが逃げ落ちた大陸の反対側で国を興し、神話時代の、太古の文明引っ提げてその末裔が帰ってきたなんて話になってんだ?」


原因は多々想像が付く。あんなデカい船が帆も貼らずにどう動いているのか、巨大な空飛ぶ箱に風のいらないさらにデカい船。巨大な空飛ぶ箱なんて、腹の下に岩盤地帯から切り取った巨石な石の塊ぶら下げて一日四回、ヴァルキアとテュルセル往復するのがここ最近んの日課の一つだった。

原因の最たるものはそこらあたりに日頃使わない想像力ってものを逞しく発揮したからだろうが、

そこに拍車をかけてるのが「海尋ちゃん」本人だ。当初訛りながらも「スズリ様」とか「海尋殿」とか読んでる者もいたが、もう最近すっかり「海尋ちゃん」で定着している。これはうちの職員とモイチの影響だろう。本人が全く気にせず、むしろ喜んでいるのが年齢相応というか、ようやく様々な見知らぬ技術の困惑が和らいだ頃、ボーレル海軍学校の主席でエベル・ヴィエレとかいう士官候補生がワインサップの紹介状を持ってメイピックの元に現れた。


かのペレスヴェートに向けて発砲した海軍学校のボッキャオ・パビリウスの事で早急な相談があるとの事だったのだが、安定性の悪い小舟でご大層な旗広げて転覆した間抜け野郎だったか、ペレスヴェート女史との会話は「ろくおん」されたものを聞かせてもらったので、こちらに負い目は一切なく、極光紹介側の対応も当然のことだと言えるのでたいして気にも留めていなかったのだが、小舟を転覆させた後、陸地に引き摺り上げられ、男前な自分の旗を背負わされて衆人環視の中、

「ご婦人に対して賄賂として性交を要求するなどボーレルの男の、いや、軍人のやることか!恥を知れ!!」「貴様それでもボーレルの男か!」等々、日頃自分が成績の芳しくない学生に対して行なっているような罵声と恫喝を日が暮れるまで取り囲んだ学生たちに浴びせられ、泣き喚いてみっともない姿を晒した上、鎖で学校入り口に繋がれていたのだが、それが誰かの手引きでもあったのか、鎖の錠を壊して逃げ出したので身辺に注意して欲しいという話だった。よければ我々学生が警護を引き受けたいとか言ってきたので「全く心配はないし、その必要もない」とお帰りいただこうとしたのだが、この学生が中々にしつこく食い下がり、

「惚れた女にお近づきになりとうて執着するのは分からんでもないが、お主そろそろみっともないぞ。ボーレルの小僧。」と後ろに回った女帝様に黒塗りの扇子で軽く頭を叩かれるまで熱弁を振るっていた。

「こっ、小僧とは失礼な!この私を誰だと!」

激昂して振り返り、女帝様の姿を見た瞬間、


「これは大変失礼いたしました、お詫びいたします」

と急にしおらしく引き下がる。


「ふん、どっちじゃ?どっちが意中のおなごかの?」


「そ、そ、そ、そんな事はない!私はただ!!」しどろもどろに弁明しようとするが、これはもう女帝様のペース。いいように弄られて暇つぶしのオモチャだな。極光商会の面々が忙しくて構ってくれないと駄々捏ねて護衛もつけずに遊びに(暇つぶしに)くるのだが、ちょうどお迎えが来た。


「『お嬢様』(年齢的には『奥様』の方が良いのだろうけど、長寿命の精霊種、『お嬢様』の方が若くてかっこいいから市民の前ではそう呼ばせている)お迎えに上がりました」


「おお、ペレスヴェートか。ご苦労。あの二人はどうじゃえ?」

近衛のマノンとブランは現在運転技術の教習中の為、クロンシュタットを教官にロックバウンサー(鉄パイプで箱を組んでそこにV8エンジンとか「車」に必要な機構組みつけた切り立った崖や渓谷など、崖崩れでも起こったような斜面をV8のモンスターパワーとぶっといタイヤで登ったり走行するクレイジーな競技で使うクレイジーモンスターな車。


(YouTubeで「ロックバウンサー」で検索するとクレイジーでスリリングな「おまえら頭大丈夫か?」って動画が結構出てきます。)


「お二方共流石ですわ。リル様の方は「乗る」より「跨る」方が性に合っておられるようで、二輪車でヒルクライムの教習中に御座います」


「なんかエロい言い回しよの。お主の口からそんなエロい言葉が出るとそこの童貞坊や大変なことになるぞよ」


ニンマリとエベル・ヴィエレをねっとりと眺める。真っ赤になった顔を背けて、それでも視線はペレスヴェートの方へと泳ぎ、


「そ、それでは。それではこれで失礼する!」


声がひっくり返ったので言い直し、あたふたとメイピックの執務室から出ていった。 

「時にお嬢様、プルシュカ・イグニスの譲渡手続きの方は如何でしょうか?」


「ああ、サクッと終わって茶ぁしとったところじゃ。そこへ今の男、・・・はて?なんと言ったかの?そうそう、主もあの男は知っとるじゃろう、そら、」


「いえ、全く見覚えがありません」


「即答かよ。あの男、それ知ったら首括るか腹切るか、じゃな。」


ま、どっちでもええわいと譲渡関連の控えが入った木箱をペレスヴェートに渡し、


「では邪魔したの」

執務室を後にすると、メイピックの執務室を後にする。そこへ続くペレスヴェート。階段を降りた辺りからロビーにたむろする港湾労働者の中から数人が二人の後に続こうと動き出す。港湾管理事務所の扉を開いて表に出ると、四角四面の無骨な車ではなく、丸みのついた縦長で長方形の箱に四つの黒い輪っかをつけてそれを大きくうねる曲線が覆ったグラマラスかつ実直そうなペレスヴェートの私物である真っ赤なベントレーMK VIが停まっていた。左手首に巻いた金属のリングを右手の指でさわると、ガチャガチャ、バシャバシャと音がしてエンジンが回り出し、左右のドアが開く。女帝様が左の席に乗り込み、ペレスヴェートが右の運転席に乗り込むとこ、湾事務所と商館倉庫の影からわらわらと「私共はチンケな盗賊でござい」と言った様相の男どもが手に手に棍棒やら斧やら持参でニタニタと嫌らしい笑いを浮かべて近寄ってくる。


無言でギアをバックに入れ、アクセルベタ踏みからクラッチミートの加減だけで後ろに向かって

急発進させると釣られてアホどもが走り出す。すぐさま右に切って釣り出されたアホどもに車体右側をむ向けて車を止めると、右側の窓からVZ65スコーピオンを持った右手を突き出してゴロツキ共の足元にひと掃射すると、大袈裟に両足をバタバタ上げ下げして不恰好な踊りを披露しながら後ろに下がる。そこへギアをセカンドに入れて猛スピードで車を突進させると、大慌てでゴロツキ共が左右に割れる。逃した獲物に悪態と舌打ちしてコソコソと隠れるように新区画の倉庫商館区画に逃げるようにゴロツキ共が去っていく。

「果て?癇煩とはまた違った野党、強盗の類でも住み着いたんでしょうか」

「商館、倉庫の取り壊し反対派とかではないのかえ?」


正式にテュルセルの商人として商売できるようになった以上、港湾区画に商館を用意しようとなったのだが、如何せん、テュルセルの商館、倉庫はすでに満杯状態かつ鼠や蝿等害虫による被害なども尋常ではなく、低レベルの文化状態では当たり前っちゃぁ当たり前だが、それにかこつけて

衛生状態に気を使わないのは怠惰と言うものである。ぶっちゃけ、極光商会の商館兼倉庫として

割り当てらる予定だった物件を見たペレスヴェートが不潔不衛生極まりないとキレたのだった。

窓の桟を指でなぞって小言を垂れる姑の如くダメ出しの連続に叱責の雨霰。奥様キレる旦那もキレる、がそえも最初のうち。清潔に保つ方法や日々わずかな時間で絵切るところから改善していけば

面倒な掃除に時間を取れる事もなく、生活の知恵や工夫で如何様にで状況は改善できるのだと実演

して見せれば「出来る女」として尊敬が集まったりもする。それで「口うるさい生意気な姉ちゃん」

から「頼りになる侍女様」と商館倉庫の奥様、旦那様方の好感度が跳ね上がった。


だが、築10年も経てば、老朽化や鼠害、シロアリなどによる建築物の被害も馬鹿にならず、防蟻や防鼠などの対策もされていないような建築物にとてもじゃないがお預かりする商品や荷物は置けない、と少々棘のある物言いかもしれないが、清潔、衛生的であることは商売の鉄則。そこらへんちょっとお話ししましょうか?っといったことはあったが、現状、極光商会の面々はかなり好意的にテュルセル市民に受けいられているのでゴロツキ共に襲われるようなことはないだろう。

まだ幾分清潔さはあったので癇煩共の同類ではないし、処分するゴミが増えただけの話なので、気にはならないものの、主には報告しておくべきだろう。それと、アルルカン4人組の教育も急いだほうがよかろう。


マトリカ・ヴァンクスの建替工事は外見だけなら80%程完成している。この辺はカフカース達の活躍がある。土台や外壁などは自分がで拠点の渓谷から切り出して加工した石材をMi-6の下に吊ってヴァルキアまで空輸して空中投下した後、カフカースたちが重力制御をフル活用して図面に指定された箇所に落として積み上げてゆくリアルテトリスのようなもので、床材を敷く梁はあらかじめ石材に開けられた穴から角材を差し込むか、工法としてはこの世界の現状に習って、されどチート技をフル活用して一週間足らずで、後は屋根の瓦を敷くだけとなり、手隙の時間で人材の近代化を図っているのである。ただ、アレッサンドラと主人は本来の旗艦であるロマノフ号の改修にかかりっきりなのでなんとも寂しい限りだ。旧区画から農地を抜けると登り交配の小石が散らばる荒れた道に出る。

道の両脇には背の低い雑草が目立ち、岩肌の露出した荒地の中にぽつりぽつりと牧草の生い茂る部分が出てくる。野っ原草っぱらとして子供達が遊び回っていれば牧家的な風景なのだろうが、牧畜も子供もその姿がない。治安が悪すぎたせいもあろう。癇煩どもに牧畜を盗まれ喰われ、子供なんかを遊ばせておいたら骨が見つかればいい方だったらしい。そんなところの近くに主人の拠点を作っていいものかと右のドアに肘をかけて左手のみでハンドルを転がす。峠道のような極端な曲がり屋うねりがないのでひたすら一本調子の運転になる。車幅もタイフーンより狭く、通行人に踏み固められた箇所に収まるのため、ちょっと車のサスペンンションとフレームに手を入れただけでも、

そこそこ穏やかで快適な乗り心地になるようで、左座席の女帝様は早くもウトウトと微睡んでいる。

これが主人ならどれほど良かったか。


しばらく車を進めると、白い石を積み上げた壁が見えてくる。ウォールなんとかと言ったご立派な壁ではなく、単にここから先は私有地であることの境界線のようなもので、せいぜい山羊や羊が飛び越えられない程度の高さで、その上には軍事基地よろしく鉄条網が人間の侵入を拒むような作りになっており、趣がないのは彫った削った切り出した石を積み重ねているので暇ができたら整えれば良い。まずは主人が快適に過ごせる館を作るのが先だ。そのために女帝様居城を完成させねば。


 「次は階段や装飾用の木材とガラスと瓦の手配かぁ。」

拠点最下部ドックの奥、仕切りを作って排水したドライドックに固定された全長173メート全幅23、3メートルの巨大な鉄の鯨の中、CICの指揮官席にでろれんと座って現在手掛けているすべての進行状況を指揮官席周りの空間にドーム状に展開されたパネルを見ながら呟いた。超絶弩級無燃機関ぽじとろにっくえんじんの制御系パネルの追加と有り余る出力をどこに逃すか、色々とアレッサンドラと二人で検討した結果、常時ロマノフ号の周りにバリアのような不可視非実在の反物理エネルギーで包み込んでそれでも余るエネルギーは自分の体に流し込むことに決めた。「半物理エネエルギー」ってなんじゃい?というと、プラスの磁極に対してマイナスに磁極が反発するように外部からの力をすべて反発させてしまう倫理障壁みたいなものだと説明されたが、正直全くわからない。説明してくれたアレッサンドラ本人にも、理屈はわかるがなんでそうなるのかはわからないと、ロマノフ号のストレージ内に見つけた超絶弩級無燃機関ぽじとろにっくえんじんの説明書似合った応用編の通りに回路構築して繋いだだけなので原因と工程すっ飛ばして結果だけを物理法則にねじ込む空想具現化みたいなものだからどんな副作用があるのか皆目検討つきません。と言われたものの、眼前に浮かぶパネルでエネルギーの発生からその流れに数式の乱れもなければ倫理回路の破綻も見当たらない。


 しばらく自分の体で試したら侍女のみんなにも使って貰おうかとも思えるほど良好だ。

 

「海尋様、お加減は如何でしょうか?」

機関室の地チェックを終えてアレッサンドラがCICに入ってくる。


「んー、どうかな。いいかな。うん、すこぶる良好。」

ドーム状に展開されたパネルを消して指揮官席を通常位置に戻す。席から離れると自動で通常状態に戻って床が平らになる。


「試運転まであとちょっとかな」


「是非とも頼む、そろそろ運動不足で腹が出てきそうだ」


戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦ロマノフ号。ゲーム運営委員がほとんどノリと悪ふざけで造った艦隊戦シュミレーションゲームではほとんど使い道のない船である。そのせいか、他の船が独立AIの自動人形に船体のコントロールを任せているのに対してロマノフ号は独自独立AIでコントロールは同時開発のアレッサンドラと譲渡先の海尋にセットされている。海尋がコントロールを持つ際はポーチャーのように音声入力での操艦、先頭行動が可能であるし、アレッサンドラを通しての操艦、戦闘行動も可能である。独立AIを積んでいるので喋る。暇な時はストレージ内に記録されている書物も読む。

その中でエンジンの取扱説明書と改造手引き書を見つけたので海尋とアレッサンドラがかかりっきりで改修して原子力エンジンの代わりに使っていた補助用ガスタービンから超絶弩級無燃機関ぽじとろにっくえんじんへの移行も目星もついたし耐圧試験もやっておきたい。しかし、現在手をつけた事柄でまず優先すべきはヴァルキアでマトリカ・ヴァンクス建て替えにかこつけたあの気持ちの悪い連中の調査も進めたいのだが、そこへ商館物件の下見に出ていたセヴァストーポリから、

どこもかしこも不潔不衛生極まる次第でとてもではないが主に見せられたものではなく、可能ならば建て替えもしくはボーレルの海軍学校の敷地をごっそり頂戴して再開発してしまいましょう。

などと空恐ろしい報告書と鼠の始末に使った9×18マカロフ弾の使用弾数報告書が上がってきた。


「律儀というか、しっかりしすぎと言うか・・・」ため息混じりの独り言に


「どうなされました?」とアレッサンドラが返すと、


「みんな手持ちの武器更新したの?ペレスヴェートから9×18マカロフ弾使ったから補充の申請来てるんだけど、マカロフ弾なんて僕のマカロフだけじゃない。護身用でスチェッキンにでもしたのかな?」


「あ、それでしたらクロンシュタットの提案で各自護身用に使うのにVz61スコーピオンの380ACP仕様かマカロフ弾仕様のVZ65かCZ61Sで選んでくれとの提案がありまして、評価試験用でVZ65選んでましたね。ナガンリボルバーではリル様のように現用兵器を持つ連中相手だと数で攻められたら苦しくなりますのでSMGかショートバレルのアサルトにしようかと」


「サーシャは?・・・サーシャは何にするの?」


「それなんですが、海尋様?先日蛭人間吹っ飛ばした時にどの口径でブチちかましました?」


「重装甲歩兵用の454。常用の9mmじゃダメだったんで切り替えた。

GwHGun’s with Hand’sのノックバック補正で弾き飛ばせはしたけど、中まで通そうとしたらもうちょっと考えないとダメだなぁ」


「ならば12.7より14.5の方が良いでしょうか。先日ボーレルのダニをASVKで撃ったのですが、いやいや、アレはかなかよかったので候補の一つだったんですが、細身のアイアンマンマーク1みたいな奴の装甲カチ割ろうとしたら14.5でしょうか」

「ん〜〜、確かにアレをカチ割るなら対物ライフル・・・RT20の20mmあたりかなぁ。でもあれ、

鉄じゃないから一枚剥ぎ取ってくれば良かったよ」

「オトヴァージュヌイを呼びますか?」

「いや、僕らが行こう」

CICを出て艦橋への梯子を登る。自分が先に登らないと、丈の短いスカートから見えてしまう下着が見えてしまう。「淑女」を絶えず呼称する彼女たちではあるが、自分に対してはギリギリ淑女のラインを保つ範囲でわざと見えるような位置どりをしたりする。今更下着が見えた程度でどうこうといったことは無いのだが、こちらが恥ずかしいそぶりをすると、1)からかわれる、2)強引に迫られる 等々良い事なんて一つもない。加えて生前は祖母の弟子として鎭裡の家に寄生する「良家」のお嬢様方に散々虐待された身としては女という生物に対して嫌悪感しかないのだから視覚的要素が体の反応に直結することなどない。

殺される直前の10〜13歳程度になる頃にはむしろ異性から遠のくようにもなっていた。

その辺、アレッサンドラを始め、侍女一同わかっているはずだが、それが彼女達なりの好意の示し方なのだから嫌な気分にはならないし、好きな年上女性にからかわれるのはこそばゆい感覚がある。

艦橋最上部の監視所に出ると、後から梯子を上がってくるアレッサンドラの手を取って引き上げる。

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