第29話カフカースの乙女事情
エジレイ桟橋につけて、コクピットから這い出してフロートを足がかりに桟橋に降り立つと
「ちょっとこっちに来てきてくれないか」
トカゲに乗っていた白い甲冑が桟橋の中程まで来ていた。二人組が背後を通って反対側に立つ。剣に手をかけていないがいつででも抜けるよう準備はしているようだ。その証拠に外套が剣の後ろに回り込んでいる。
「すごいなぁ、こんな乗り物初めて見るわ、どうやって空を飛ぶんだ?」珍しげに覗き込んでくるのが一人。後ろ手に手を組んで入るが右手は脇から離れて直ぐにでも剣んの塚に手を回せる位置にある。
「何か御用でしょうか」
と尋ねると最初に声をかけてきた甲冑が
「いや、ただの事上聴衆だ」と答える
「まずこの空飛ぶ乗り物はなんだ、そして空を飛んでた理由はとかまぁ色々とあるんだが」と一通りの疑問を並べた後、海尋をじっと見て
「失礼だが、貴殿男か女か」と聞いてきた。「お前誰だ」とか「身分証を出せ」ではなく。単なる性別を聞いてきた。拍子抜けした海尋が
「僕は鎭裡海尋と申します。こちらのハーメット・ネフ・カシス様にヴァンクス宮の建て替えを依頼された商人で御座います」
相手が礼儀と敬意を持って接するならば。こちらも礼儀と敬意を持って返すべき。と軽く一礼して答える。
「俺はロベルト・アシュレイ、空撃騎兵団の団長だ。近衛に抜擢されたと思ったら、ヴァンクス宮立替するからしばらく実家に戻ってろ、と自宅待機を仰せつかって今日、ヴァンクス宮が完成したからこっちに来いと連絡もらったんで、団員引き連れて来たんだが、どこ顔出せとか
なんも仰せつかっちゃいないんだよなぁ」と要らん事までくっちゃべってこれでよく団長が務まるなぁ、と海尋の素直な感想だった。人相が見えないので余計に不安が募るばかりだがさてどうしたもんかと思い悩んでいると
「団長!」と声をかける者がいた。軍隊とはかけ離れた宮中メイドの格好をしたリルだった。
「んお、リルじゃねぇか!何やってんだよこんなところでそれにその格好はなんだ?いつから宮中侍女に鞍替えしたんんだ、似合うじゃねぇか。、いつもズボンだったがスカート姿ってのもそそる」言い終えた瞬間、盾が飛んできた。正確には盾で殴りかかって来た。これはいい塩梅に「入った」なと海尋が思うと。見事に盾の底辺が顔面にクリーンヒットせずにスッポンのように首を胴体に引っ込めて、状態を後ろに逸らせて交わす。そしてほとんど空振りに近いリルの一撃は力のコントロールを失って中を遊ぶよう、に右の腕が伸び切った。そこに団長さんの左手がリルの右手を掴み腹に手を置くとそのままパワーボムでリルをひっくり返して大の字になってしまった。
「あいたた。団長、こちらは聖上様お抱え商人の鎭裡海尋様でソリス川の調査を行なっていたのですよ」
大の字から起き上がりざま団長にそう伝えると、
「ソリス川ってぇと、氾濫か、そりゃ空から見た方がわかりやすいよなぁ、でアレか」とエジレイに目をやる。
「なぁリル、後ろのでっかい船はなんだ、鉄かありゃぁ?」
と、何事もなかったように聞いてくる。
リルもリルで「聞いて驚け、あそこの3隻全部シズリ殿の船だ」勝ち誇ったように言うと。
団長の目が点になった。
「え、マジで、マジであれ全部・・・・お前冗談は休み休み言えよ」
この時代、船一隻を個人所有することがどんな事かといえば、とんでもなく大金持ちか、権力を持っているかだ。それもただの大金持ちじゃない、帆船一隻4億から5億円と考えて貰えばわかるだろうか。商人で帆船もちといえば大体王侯貴族がバックについて、貿易がもたらす利益を目当てに船を作り、商人に貸し与えて操業させるのが普通だ。それを個人で所有、しかも3隻!とはいえ帆がない。団長はもう何が何だかわからなくなってきた。それを見てリルが満足でにフフンと鼻を鳴らす。
「そりゃそうと俺たちは一体何処に行けばいいんだ?」団長は建て替わって大理石の壁が白く美しいヴァンクス宮を見ながらつぶやいた。
ヴァンクス宮の一階、ルッキーノによって大広間に集められた団員たちは、壇上の左端に座る女帝から目が離せなかった。一体何が始まるのか、全員整列してただこの重っ苦しい雰囲気に浸かりながら黙って女帝の言葉を待つ。しかし、なんでリ小隊長があっち側なんだ?と思う団員。身観ればリルが宮廷侍女服着て聖上様の側に控えている、ダリアとマノンと一緒に並んで。
一際大きな椅子から聖上様が立ちあり、前に出て演説を始めた。
「諸君、ご苦労。着度早々自宅待機とは申し訳ない事をした。だが、それもそこにおるシズリ殿のおかげでこんなに早く再建が終わるとは正直驚いておる。なんにせよ貴様らは今日より朕の近衛として、と言うよりこのヴァンクス宮の守護として諸君らの働きを期待しているぞ。ここ落とされてヴァルキアのお仕舞いじゃ。まぁ目先はなんもないから訓練になるがの、そこでダリアとブランの2名を付ける。宿舎の方はヴァンクス宮の右翼を使う技が良い異常じゃ。」
などとカシスが挨拶垂れている最中、海尋はオエレスヴェートの一室でエジレイでとってきたデータを見て解析にかかっていた。
「特に川の氾濫に繋がるような危険な地域はないなぁ。川の流れもスムーズだし土砂の堆積で流れが堰き止められるようなところもなし」
机の上の銀色に輝くiMAC型のコンピューターを見ながら傍に置いたマグカップから一口、コーヒーを啜る。
「あ、そういえばミハエルさんとこの様子はどんな具合かな。アレッサンドラ、今大丈夫?」
インカムでアレッサンドラを呼ぶ。
「はい、只今」そう答えが返ってくるのとドアをノックするのとほぼ同時だった。ドアのノックは3回、
冷や汗流す間もなく「はい、どうぞ」と答えると
「失礼致します」と断ってから臙脂色の侍女服をきたアレッサンドラが現れた。
「ちょっとこれからバクホーデルまで行ってくる」
「はい?バクホーデルですか、なんでそんなところまでーー。あぁそう言えばお茶の木とビーツを植えに行くという話でしたっけかそれと土壌改変のお仕事もありましたっけか」
言うが早いか。タブレットを取り出して状況確認しようとすると、あらやだ。電波が入りません、おかしいですね、こちらと拠点とを無線で繋いであるはずなんですが」
彼女たたち侍女一人一人がwi-HIルーターのような役目をし無線LANの役目をしているのだからこんな事にはならないはずだ。量子通信の様子が悪いとは思えない。
「あ、うっかりしてました、海尋様の部屋に仕掛けたカメラに繋ぎっぱなしでした」
「ちょっとそれどう言う事!」
しれっとすで答えるアレッサンドラ。
「いえ、海尋様の寝姿とか寝顔とか、それはもう、あられもない姿をじっくりと観察するため
に、二十四時間いついかなる時も目を光らせております」
「そのくらいなら、まぁ、いつも寝顔見られてるけど、他に見るようなものあったっけ。」
「一人エッチとか一人エッチとか一人エッチとかーー」
「そんな事しません!第一、みんなして僕に触りにくるじゃない」
「他の誰かとヤッてるのも勉強になりますので」
「冗談はこの辺にして茶の木の育成具合はどう、苗から成長剤使ってどの辺まで育ってる?」
「もうだいぶ育ってますよ。もう一歩で収穫できますから、植えてほっときゃいいだけです」
「そんなに急速に育てて大丈夫?」
「はい、1回目は捨てです。あとは土に馴染ませてからが本収穫ですね」
「なら大丈夫か。それをドローンで車に積んでもらって飢えるだけか」
「誰を同行させましょうか?」
「この手のはセヴァスポートリが上手いんだっけか。んーー」
少々考える仕草を見せて、
「カフカースに同行頼もう、バクホーデルの人達に顔が知れてるから、余計な気を使わない」
実際、ミハエルさんの細君と一人娘にも顔がしれてるから自由に動きやすい。確かジャクリーヌだっけ。
その間にアレッサンドラはタブレットに命令を打ち込んで
「他に何かご入用のものはありませんか」
とお伺いを立てる。
「後はなさそうだね、残りの者は装飾用の組手細工をよろしく」
マトリカ・ヴァンクスはもう90%の仕上がりであとは内装だけなので実際一番手の掛かるところだけとなっている。だから海尋が動いても良い訳で、壁の装飾や欄間に使う組手細工を作るには3mm程度の厚みの板を縦横斜めに組み合わせることで多種多様な模様を作り出していくのである。本来職人の手でも結構手間暇かかる細工で、ここヴァルキア含めテュルセルの木工職人が見たら腰抜かす事請け合いだ。
「じゃぁ、後お願いね アレッサンドラ、ちょっとここ座ってくれる」
今まで自分が使っていた椅子をアレッサンドラに渡して
「なんですか、一体」
椅子に腰掛けるアレッサンドラに顔を近づけ斜めから腰に手を添えて引き寄せて唇を重ねる。
「ん……ん……はむっ……」
そのまま椅子に押さえ込まれるアレッサンドラ。しかし、海尋を受け入れて海尋の腰に手をまわしてグイッと自分の方に引き寄せる。目を閉じて送り込まれる舌の感触を味わう。唇が離れてそのまま海尋の体を抱きしめた。アレッサンドラと海尋の頬が触れ合い、海尋も体をアレッサンドラに預ける。暫くの間抱擁に身を任せると名残惜しそうに体絵を離し、
「じゃぁ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
と挨拶を交わすし、海尋が部屋から出ていった。
アレッサンドラが口もとを軽く拭って
「内密のお申し付けとは穏やかじゃぁありませんねぇ」
そう言いつつ、満面の笑みを浮かべた。
(カフカース、ちょっといい)
(ん、何か用)
量子通信でカフカースに連絡をとると、カフカースは寄木細工で壁紙を作っている最中だった。三角や四角の色んな木材を縦横斜めに組み上げて、その断面が幾何学模様を表す。かなり大きなもので作業台に収まらず床に置いての作業になっている。小さい物なら作業台の上でできるのだが、あまりの大きさのたオトヴァージュヌイとスコールイが手伝っている。
「ごめん、いち抜け。海尋ちゃんからお呼びだし。」
カフカースがそういった瞬間、二人の目が猫の目になってキラーンと輝く
「おお、ついにお呼びがかかったね」
オトヴァージュヌイが言うと、
「ついに憧れの指揮官装備?やったね!」
とスコールイが続く。
「どうする?どうする?」と二人とも手を取り合っての大はしゃぎである。端を斜めにカットした薄い板を溝に合わせて差し込んでのりでくっつける。
「あんなぁ、しょーもないこと言うてミスしなや。海尋ちゃんがお呼びったって、そうと決まったわけじゃなし、第一・・・あの海尋ちゃんがこんな時間から一発やるわきゃぁないでしょう」
カフカースが、半ば諦めたような口調でいうと量子通信で
(008>1706 カフカース、海尋様とバクホーデルよ。今度はしっかりやりなさい。)
とアレッサンドラから短いメッセージが来る。
「あーもう!どいつもこいつも好き勝手抜かしくさりよってからに!ほっとけや!」
だいたいうちの方が年齢設定高いねんで、なんで年下の男にーー海尋が13歳の設定で身体を構築しいているのに対して、カフカース以下駆逐艦の彼女たちは15歳相当で体を構築している。死んだその日から成長を止められたということになる。
「第一、ウチはクールなお姉ちゃんやねんで・・・」とにかく「年上」(クールな)「おねえちゃん」を前に出して否定するも顔が緩んで今にも「うえっへっへっへ」と大口開いて笑いそうになる。
「そいじゃ、後よろしく」といってその場を後にする。
「しっかしロマノフ号てうちの管轄やないで。それに兵装が全然違うからーー」
専任A Iアレッサンドラがいるではないか、しかもとっくに指揮官装備の上旗艦装備もち、それ
を外して自分にロマノフ号を任せるとはどういう事かなどと同僚から煽られて色んな妄想がつい頭の中に浮かんでしまう。
「まぁ、いいか」
と、その辺は思考の隅に追いやっていつも通りの顔でヴァンクス宮離れの極光商会が使用する
二階建ての家から中庭を覗き、桟橋へ行く。その途中、ヴァンクス宮の右翼の建物がやたらと騒がしい何をやっているのかと見れば、部屋割りで揉めているらしい。
「アホくさ」と桟橋まで来ると3隻の船と水面から突き出たロマノフ号の艦橋がカフカースの到着を待っていた。カフカースは身軽にひょいひょいと重力制御を併用して環境に登るとそのままCICまでのタラップを降りて、CICへ入るとすでに海尋が全面スクリーンを展開している。
そこにヴァルキア島の地図が映し出されて中心にエルベ湖、分割された小さいモニターにエルベ川が映し出されている。何かのマークアップがいくつか、それらが消えて
「早かったね、カフカース」
海尋の声が上から聞こえた。
ちょうどCICの真ん中を隔てるように壁がそそり立ち、その上に海尋の司令官席が壁から生えたアームで前に突き出ている。
「組木細工の途中だっていうからもう少しかかると思った。ごめんね。作業中呼び出して」
「ん、なんてことはあらへんよ、作業は二人に引き継いできたし、んで、行き先はバクホーデル?拠点は経由するん」
「うん、そろそろ十日だしね。ミハエルさんとこの土も先に渡した肥料が馴染んでくる頃合いだろうと思って」
アームが降りて先端の椅子に海尋が座っている海尋が首をめぐらせて言葉を続ける。
「それじゃぁ」と前方右側の椅子に座ってヘッドフォンを耳にかける。
「同期取るから時間ちょうだい、潜水艦なんて乗ったことない」
だが海尋からは
「いいよ、艦の操舵は僕がやるよ。カフカースはソナーお願い」
と帰ってきた。
「ウチがソナー?海尋ちゃんウチの使い方間違ってへん」
「ロマノフさんが外洋でUボート見たんだよ、耳なら僕より君たちの方が良からね」
と再び前方に全面スクリーンが投影され、ヴァルキアとテュルセルの周りが映し出される。ヴァルキア本土付近、からや離れたところで4隻、それがまとまってテュルセルの方へ向かっている。
「出所当たろうと思ったのだがだいたい予想だな、で怪しいところを見回ってきたのだが、それらしい設備はなかったよ」
とはロマノフ号の言で、ヴァルキア本島の北側に位置する離れ島にスポットがつく。そしてUボートの予想航路が映し出されるが、これらはヘシュキシュ海峡のあたりで消えている。
「我がわかるのはここまでだ。この先どこへいったのかは不明だ。いきなりバッタリ出くわすのは避けたいな」
「そんな訳だからソナー頼むよ、カフカース」
「同期すっからちょっと待っててなーーん。これでよし」
「じゃぁ、行こうか」海尋が司令官の椅子に座り直し両側の肘掛けに手を乗せて、
「全ハッチ閉鎖確認、微速前進、港湾速度ーー潜望鏡深度ーー湖底に気をつけて腹を擦るなーーヴェラッツァーノ川を通って海に抜ける」
ゆっくりと鋼鉄の巨体が進みながらその身を沈めてゆく。艦橋まで完全に沈むと船首をヴェラッツェーノ川へ向ける。ヴェラッツァーノ川は真南に向いた広大な川で川幅が2〜3キロ、
深さは500メートとかほとんど海といっても間違いではない。そんなんだから漁船が網を使った漁をしている。おまけに川の水が綺麗なものだからやたら見通しがいい。漁船から見れば眼下にでっかい鯨か何かが泳いでいると見えなくもないだろう。足元で巨大な影がゆらゆら
動いていたら怖いだろうなぁ、思いつつ海尋が指示を出す。
「川底までの深さは?大丈夫なら潜ろう。深度50、下げ梶180、両舷出力1/4、」
「海尋ちゃん、これはアカン」カフカースからの進言に何事かと聞き返すと
「魚群の群れに突っ込んだ。ソナーが役にたたん」
「え」
海で鰯や味の小魚が群れをなして行動するのは知っている、回遊魚としても海の話だ。
「まぁ暫く放っておけば消えるでしょ」
そうは言っても、大きく蛇行する川で前が見えないのは怖い。
「ああっもう!邪魔や!クソが!」悪態を吐きながら口汚く罵る、まだFU○Kが出ないだけマシだろう。
「カフカース、もうちょっと上品に・・・」
「おFU○CKですわよ!この野郎」
「もう好きにして」
最後はと小声で頭を抑えてブン投げた。世の中には「お」をつけても美化、丁寧語にならないものがある。
しかし23世紀のロシアまで生き残るとは「お嬢様」ギャグ凄いな、あな恐ろしや。
笑いを堪えて椅子に深く座り直すと、
「そろそろ海に出ますわよ、気をお引き締めになって」
あ、カフカースがずっこけた。椅子に座ったまま足が頭の上にくる。ストッキングを履いているので伝染してなきゃいいけど。
「ちょっ!海尋ちゃん、反則やで、そないなカッコでそんなん言われたらどうしようもないわぁ」
椅子の上でズッコケてるカフカースが居住いを正して文句を言うが、海尋の方は「なんの事」と言わんんばかりに自分の格好を見る。
いつも通りの着物姿で臙脂色に桜柄の着物姿だ。
ある意味、ここで「お嬢様」という単語が意味するものに一番近いのは海尋かもしれない。
さて、海に出るまでの間、3回ほど魚の群れに戯れつかれたロマノフ号だが、ようやく鬱陶しい小魚の群れを引き離し、海中を進むことができる。
「進路このまま、深度200、全艦哨戒に入れ」海尋の号令とともに司令官の椅子の周りを囲むように小さなパネルが表示される
「ソナー索敵、広範囲音調」海尋の指示をきいた瞬間、カフカースの頭には海中の様子が我が身のように感じ取れた。未だロマノフ号にまとわりつく数匹の小魚が自分の体を啄んでいる。
ツンツンと自分の体を突き回している。海流の流れが頭から足元へ流れる水のように。首から背中を通して尻や太腿を優しく撫でるように。それは脚を撫でで爪先へと消えてゆく。まるで前進を愛撫されているような、だがそれも束の間、「視える、音が、わずかな、小さい音が」遙か彼方の様子がすぐに手を伸ばせば、そこにあるかのような、そしてロマノフ号が中心にあって、自分の中心がそこにあって、そこから手足が伸びて、意識が伸びるような。そんな感覚に身を捕われる。これが旗艦装備の潜水艦?とんでもないパフォーマンスだ。意識が船に飲み込まれる。
「カフカース!しっかりしてカフカース!」
ガタガタと体を揺らされて半分寝ぼけたそぶりで気がつくと肩を海尋に掴まれて揺さぶられていた。
(綺麗やなー、シュッとした鼻筋と薄桃色の柔そうな唇、目尻が少し上がってまつ毛も長い。
頬も赤みを帯びてーーんにゃ)と気がつくカフカースの目前に海尋の顔が映る。
「ん、海尋ちゃん?」と言葉を発すると
「カフカース!」心配そうな顔から一気に嬉しそうな顔になって背中に手を回されて思いっきり抱きしめられた。
「ちょお!あかんて!離れや!」両手も一括りに抱き締められているのでもがきようがない。
せいぜいが顔を真っ赤にして噛み付かんばかりに声を上げるだけのカフカースに
「ああ、よかった。いきなりぐったりしたから何事かと思ったよ、大丈夫?」
「んあ、あーなあんか頭がクラクラする。ウチどうしたん」
まだ意識がハッキリせずとも海尋にことの仔細を聞く。どうやらロマノフ号と同期をった際、思いもよらず、広範囲に広がる感覚の制御にやや難があったようで感覚が広がった分、他の感覚までその範囲を広げてしまう。この場合広がったのは感覚ではなく感度だ、普段ならどうと言う事のないものでも感度を上げられればーー、そんなわけで股を閉じてモジモジしていると、
海尋から「今日はもういいから休んでよ」と言われてしまった。なんたる屈辱。主に仕える自動人形としたことが情けない。これしきの事でこんなにフニャフニャしてしまうとは、
「そうさしてもらうわ、ごめんな。」とヘッドフォンを外して椅子から立ち上がろうとするも
足が震えてしまって上手く立ち上がれない。よろよろと出口まで向かうと、
「ウチはどこの部屋使えばええのん」
「出口でて正面に僕の部屋があるからそこ使って」
「おおきに」と礼を言って海尋ちゃんの部屋!余計にヤバい!どっかで頭冷やさんと、ただでさえヤバいのにと一旦トイレに向かう。内股が濡れて気持ち悪い、欲情しているわけではないがお尻の方まで濡れている早くどーにかせんと。
「ううう、情けない」トイレを探しつつ、旗艦装備ってこない凄いんかと思う。あのソナーの範囲の広さは半端ではない、何しろ意識を絞れば動く魚のヒレすらその動きが分かる。おまけに体を流れる水流。唇が舌が体を撫でるように這う感触。あんなもんずっと感じてたらたまったっものではない。時間にして僅かな間だが、その短い時間で”開発”されてしまった。どうせなら海尋ちゃんの唇と舌で”開発”されたかった。トイレの中に入り込み個室の鍵をがっちり閉めた後、ドアに背中をつけてストッキングをおろして、下着の中に手を入れると
「うわ、濡れてる、嫌やわぁこんなん」
まるで漏らしたように濡れている。自動人形は小用を足さないから、別に漏らしたわけではない。と言うことはやはり”開発”されてしまったと言うことか、確かに気持ちよかったが、触手か機会姦じみたものではないか。自分にはそんな趣味はない。とにかく濡れている場所を拭いて代わりの下着を用意しないと、下着の方クロッチからお尻を覆おう部分まで濡れて染み渡っている。ダメだこりゃ。ストッキングの方も同じでエロ漫画よろしく濡れてビッチャビチャになっている。とりあえずノーパンで我慢するかとパンツとストッキングを丸めてランドリーに・・・ランドリーってどこや。とりあえずトイレットペーパーで内腿を拭うとパンツとストキングを丸めてワンピースのポケットに入れるとチトイレを出て艦長室へ向かう。
「股がスースーする」自然と内股になるこのフロアは大きく上へ向かうタラップを境に、前後二つに分かれているようで、進行方向に対してタラップの前側がCIC、戦指揮所でそこから後ろには生活ブロック乗組員のことは考えなくて良いから、せいぜい食堂か娯楽室くらいなもので海尋一人のために存在する。ぶっちゃけ、この艦丸々一つが海尋のために存在すると考えても良い。海尋の部屋にどりつくと、そこは旅館の一部屋のように純和風の空間が広がっていた。畳敷の部屋にちゃぶ台とブックスタンド、ノートパソコンが一台。そうか元々日本人は床の上で生活するのだなと思う。座布団を一枚壁際に置くと、壁にもたれかかって座り込む。暫くボケェ〜としていると、時間は11時を回っている。ヴァルキアを出たのが正午くらいだったから警戒速度で進んでいるなら丸1日、テュルセルまではあと暫くと言ったところだろうか。
そこへいたって侍女としての役割が込み上げてくるが、今更食事でもあるまい。やっべ〜と言う大切な約束をすっぽかしたような後悔のねんが込み上がる、どうしよう何か軽食でも作っって持って行った方が良いだろうか。よっこいしょと腰を上げると、もうフラつかないから大丈夫だろうととりあえず、食堂に行けばキッチンがあって何か作れるだろう。そう思って食堂に足を向けると、すでに海尋が食堂のキッチンにいた。
「あ、カフカース、もう大丈夫?だいぶ深いところまで”繋いだ”みたいだから」
「心配あらへんて、ウチは海尋ちゃんの侍女やで、今度はもっとあんじょうやるしな、所で海尋ちゃんはどしたん?」
「もう海峡越えたから大丈夫かなって」
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