第30話 機嫌を取るのも楽じゃない
第30話 機嫌を取るのも楽じゃない
海峡を越えて、襲撃の心配がないとみるや、早々に拠点のドッグに入って、荷物の積み込みを行い、簡単なメンテナンスをして魚雷を2発補充し終えたら、一度組合事務所に顔を出しておこうと海尋が言うので、お付きの侍女としては何ら問題なくこ事を運べるように準備と支度するだけである。とはいえ、どから手をつければいのやら。ロマノフ号関連の事は拠点のドローンに任せておけば良いし、バクホーデルはといえば茶の木を選んでもっていくことになるから育成具合のいいものを選別して、全部で何本になるんだ、苗木の状態で運ぶには無理がないか。
畑一つ分なんてトラックでもなきゃ、積めないだろう。港湾事務所の方は大体予想がつく。
こないだの強襲の被害と損害補償まとめてわ渡しゃぁいだろう。
とまぁこんな感じでお思いつくもの全てをさっさかさーとやって、主の声を待つ。
これで完璧、できる侍女はツライね〜。などと妄想していたら、苗木の選別、種の用意、
ロマノフ号のメンテ、全てご主人様がやってくれやがりましたよ。
「あ、うぇ、ーーはい」
ほっとくと一人で何でもやってしまうので侍女の立つ瀬がない。なのでこんな時は、猫目になって「しゃぎゃーっ!」と威嚇のうえ、仕事を手伝っって終わらせのが侍女の役目だし、
「頼りになるなぁ」と侍女ポイントも上がる。侍女ポイントが上がりきったその暁には、
「ウヘヘへへへ」嬉し恥ずかし極甘の目眩く官能の世界が待っている。とは思ったよ、思ってしまいましたよ。実際には敗北感しか残らない。
港湾事務所に顔出すからと車の準備をすると
「ありがとう、カフカース」と感謝された。ここに来て、やっとお役に立った。(ここは
ウチの後ろに花飛ばすとこやで)
「んで、何用で港湾事務所まで行くん?」と隣の席に座った海尋ちゃんに聞くと
「この間ボーレルの連中が押し寄せてきたでしょう。その説明と被害報告ーー損害状況と排除したボーレルの兵隊とその報告」
「ああ、それならこっちに纏めてあるで」
カフカースがA4の紙束を渡す。相手の規模と使用した武器、どのように動いたかが事細かく書かれていた。
「あ、わかりやすいね。すごく助かる、ありがとうカフカース すごく助かるよ」
横に座るご主人様に褒めてもらえてニコニコ顔のカフカースだった。1934 年型Packard TwelveCOUPEのエンジンをかけギアを一速に入れる。
「いややなぁ、海尋ちゃんが喜んでくれれば、それでええんよ。これだって」
「Packardの車体を指し海尋ちゃんが普段使うから言うてわざわざ用意してくれたモンやし、それ考えたらウチら十分優遇されとんな、思うてんねん」
実際「Iron Impact Of VORTEX SEA」で基地内での移動は歩こうとおもへば歩けるような距離だし、街中に出るとしたら車は必需品となる。だからと言って、侍女のだけ車を揃えるような事はせず、運転手一人決めて相乗り状態で済ませば良いことで、海尋のように、侍女一人に専用の車を与えるのはよほ自己顕示欲の強いトップランカーで、ゲーム中でも車持ちの侍女なんてそうそういない。と、言うより侍女が車持ちってのがいない。どんなに人間に近づいても
彼女たちはプレイヤーの”持ち物”なのである。どんなにドレスで着飾ろうが、見栄えが良かろうが、所詮は持ち物かつ戦艦のインターフェイスでしかない。自分のパソコンがどれだけ可愛いい女の子でも車を運転させようとは思うけどひとり一人一台専用の車を運転させようとは思わないだろう。「それを何か欲しいものはるか?」と聞かれて「車が欲しい」と答えたら「それならこのカタログにあるやつから選んで」とやたら古い車のカタログを渡された。時代が真っ逆さまに逆行したそのカタログはかなりのマニア向けの小冊子でガソリン規制やら、排気ガスにかかる税金などで今はもう所持するだけで莫大な金額のかかるとんでもなく古い車だ。
「こーゆーのが好きなんですか?」と問えば「今の車は四角四面で面白くもない」と返ってきた。面白い主人だ。とその時はそう思った。そしてテュルセルまで石灰岩の荒地を進んでいく。テュルセルに入ると人通りが増えている。時間も時間なので買い物客だろうか。それにしては事務所の橋向こうまで人が歩いていると言うことだ。川を渡って港湾時事務所に渡ると、
「いつもの門番が出迎えてきた。車の窓を開けて「ご苦労様です」と海尋が声をかける。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞあちらへ」組合事務所手前の馬車停めスペースに白い豪華な馬車が停まっている。その横に来車を止めると車外に出る、どうやらアレッサンドラから聞いたならず者はいないようだ。最もアレッサンドラがやらかしたから襲っては来ないだろう。みひろもドアを開けて車外に出ると、帯とスリングバックの重なり具合がを正してく組合事務所のドアをを開き、「こんにちわー」と元気の良い挨拶ととももに中に入ったら「海尋ちゃあああああああん!」と職員の一人が抱きついてきた。それを回るようにいなして傍に置く。
挨拶もへったくれもない。何事かと突っ込んできたツェツィリアは半べソかいて海尋を見つめている。
「どうしたんですか?ツェツィリアさん」と声をかけるとツェツィリアが大泣きして抱きついてきた
「うわーん海尋ちゃん、海尋ちゃん海尋ちゃん海尋ちゃ〜ん!」
と、とりつく島もない。
カフカースも手伝ってツェツィリアをひっぺがす。
ぐしぐしやりながらでは話にならない。周りををみればエルザ以下他の職員が、胸を撫で下ろしたような顔つきをしている。しかし、どうやってカウンターを超えて飛びついてきたのだろう。
「騒がしいな」と言ってメイピックでも出てきてくれりゃぁいいんだけど、どうにも2階が静かだな。と思った矢先、
「ツェツィリア、いいな加減になさい」
エルザがツェツィリアの首根っこをつまんで、ーー。受付のカウンター周りが多少ざわついたがみな静かに仕事に戻った。
「失礼いたしました」
と奥の部屋へと行ってしまった。いったい何なんだろうと乱れた着物を正すと、帯の間に金鍔の包み紙が一枚挟まっていた。こっそりとその紙を覗き見ると、書き殴った文字で「ボーレル、役人、注意」とだけ書かれていた。
着物の合わせ目から扇を取り出し静かに扇ぎながら、に事務所の二階へと上がる。途中、数人の男どもが上から覗き見ようとするが、カフカースの神ディフェンスにより未然に防ぐことができた。そんなこんなで
「全くやらしいおっさんばかりやな。頭ん中女の事しかないんか」
「しょうがないよ、船乗りって女っけ全くないし、仕事の期間イコール禁欲期間だし」
だからっつうて覗き見されて平然としとるのもおかしいわ!」
「僕男だよ?」海尋が手にした扇子で唇を突いて答えると
「だから余計に腹がたつ!海尋ちゃんの裸見ていいのいはうちら侍女だけやねんで」
「じゃぁ、カフカースも見たい・・・僕の裸?」
「背中流す時に堪能させてもらっとる」即答だった。
「野郎が男の娘の裸見てこう興奮するなんざおかしいっちゅーねん。男の娘の裸っちゅーもんは女が見て上半身の細いエロさとか、うなじから背中からお尻にかけての曲線を楽しむ物ーー」
熱く論んじるカフカースの口が止まる。海尋がジト目だった。
「そんな目で僕を」「見てたんだ」海尋の責めるような声に
「ちゃう、ちゃう、あくまで一般論、上級の腐ったお姉様方による貴重なご意見でーー」
しどろもどろのカフカース。こんだけ狼狽えるのも珍しい。
メイピックの執務室の前に来ると、海尋が手で制する仕草を見せたので一歩下がって大人しすると海尋がノックをした後
「失礼します」と静かに執務室に様子を伺いなが入り、後に続いてカフカースが入る。
部屋の中には偉そうにふんぞり返ってメイピックの椅子に座った男と後ろで手を組んで窓の外を眺める男と足を組んで机に座って座る男の3人がいた。全員単発で甲冑を着込んでいる
ヘルメットを外しているってことは、そうそう切羽詰まった事態ではないのだろう。
「貴様がスズリ・メイフェローか」足組みして座っている男が訪ねてきた。恐らく発音と口に開け方からだろう訛りというよりも自信満々に言い間違えた小っ恥ずかしい老害だ。
「いいえ海尋ですミ・ヒ・ロ、そしてスズリではなく鎭裡、シ・ズ・リ・です」
「ええい、名前などうでもいいわ!」
間違いを指摘、訂正されて怒り出す。老害そのものだというより、まだどそんな年齢じゃなかろう、老害一歩手前。
「んで、僕に何かご様ですか」
「貴様には我がボーレル軍の軍事施設破壊行為の容疑と軍人殺害容疑がかかっておる。この場で処刑だ。だが、条件によって見逃してやってもいい」
というだけ言って格下の人間を見るような目で睨みつける。
「おい待て、話が違うぞ!」それまで応接用の椅子に座っていたメイピックが椅子から立ち上がって庇うように立ち塞がる。
「喧しい!その場で処刑されんだけでも、ありがたく思え!」
「状況説明もなしに即処刑ですか、呆れてものが言えない、捕まえたわけでもないのに吠える吠える。」
「口のへらないガキだな、軍人殺しはその場で処刑と決まっている。だいたいガキの分際でーー」
「よさないか、まだ状況も聞いていない」
椅子に座っていた男が制す。
「すまない、私はコンラート・ベルガーと言う。一週間ほど前、我が軍が警備している鉱山で
何者かが虐殺行為を行なって、我々が調査をしているんだ」
海尋がスリングバックから紙束を取り出しコンラートとた男に手渡す。
「だったらこれに全部まとめてあります。ボッキャオ・パビリウスの反乱行為と武力侵攻」
それを受け取り、窓際に立つ男に目配せすると窓際の男は海尋達の後ろに周りドアの鍵を閉めるとコンラートが受けとった紙束を放り投げ「有罪確定だ」と懐から70式拳銃を取り出して銃口を海尋に向ける。が、海尋の方が早かった、中折れ式のSmith & Wesson Smith & Wesson Model 3通称Russian Modelのバレルを5インチに切り詰めたというやつだ。1発をコンラートの腹にぶち込み、眉間に一発,44口径なので即死だろう。今もまだハンマーの起きた状態で銃口を椅子に座った男に向けている。後ろに回った男にはカフカースがCZ-63 スコーピオンの銃口を向けている。
「オッサン動かん方がええよ、床に転がる羽目になる」
男の手は腰の剣に触れていた。
「わかった、わかったからその物騒なものを置いてくれ」
完全に腰が引けている。腹を抑えて机の上の男が机から転がり落ちる。
「行儀が悪いなぁ。躾がなってませんよ」と言いながら放り投げた紙束を拾ってそのままメイピックに渡す。その間、の銃口はピッタリと残り一人に向け向けられている。
「さてと、現状報告行きますか」
メイピックの椅子を占拠するボーレルのオッサンを海尋が声を発して銃口ちらつかせてどかしてから応接セットの椅子に座るメイピックに視線を移すとメイピックはページを捲り上げて紙束を読んでいる。
「海尋様お茶などいかがでしょうか?」
手持ちのティーセットから湯呑みを二つ取り出すと、海尋に一つ、メイピックに一つとお茶を入れて、縄で二人の男を縛り上げた。流石に職員がお茶をもってこれる状況ではない。
「すまんね、海尋ちゃんにが顔出したらおかえり頂くように言っておいたんだが」ページを捲りながらメイピックが言うと。
「そうは行きませんでしょう、ヴァルキアに一週間の予定で出払ってたんですから。で、この人達なんですか?」
後ろでに縛られて、足首もしっかり縛ってある、おまけに靴紐を片方の左側ともう一人の右側の靴紐を結んであるから逃げづらい。ルパンと次元のように2人一脚で逃げろっつうても無理だろう。あの動きはアニメならではの動きで、実際にやろうとしたらまず無理だ。
「そいつらはボーレルからの調査員だよ、ちょうどこの紙束に書いてあることが欲しいんだろうさ」
「でもいきなり処刑とは穏やかじゃありませんね」
「いきなりブッ放すやつに言われたくはない」
椅子にふん反り帰っていたやつが口を開く。
「黙れ」とカフカースの蹴りが顎に飛ぶ。いやそこは殴るところじゃね。オッサンの顎砕けてない。いや歯の一本や2本は折れてるまぁいいやちょっと見とこうか。いやまぁ今のでこちらの立場ははっきりしたからよしとするか。
「まずは自己紹介からお願いできます?」左手に算盤を持って勢いよく算盤を鳴らし「あんたのお名前ーー」
カフカースが左手と後ろから羽交い締めて止める。
「海尋ちゃん、それはあかん、人様の芸をパクるのはド三流か売れない芸人のやるこっちゃ、バカやっとらんと空気読んでさっさと尋問しいや」
出鼻をくじかれて(初っ端からスベった)仕方なくModel 3の銃口をオッサンの口に捩じ込み
まずは「官位、姓名を名乗ってもらえます?」と聞いたら後ろからどつかれた。
「落差が激し過ぎやろ!強と弱しかないんか!」カフカースが怒ってる。
「それじゃぁ指を一本一本切り落とすとか、ナイフ首元に突きつけて脅すとか??」
「やりすぎや言うとんねん!最初からトバしすぎなんよ。見てみいオッサン完全にブルってしもて半べそかいとるで」
「あー、うー」としどろもどろに困った顔をする海尋。尋問なんてやった事がないし間接外してあらぬ方向にひん曲げればだいたいは上手く行く程度の認識しかない。めんどくさいから”やって”しまおうか、そうこう考えている間にメイピックが口を挟んだ。
「おい、どうやら鎭裡殿こう言うことが不得手らしい。とっとと吐いち待ったほうが怪我しなくてすむぞ」
そしたら吐くわ吐くわいらん事までベラベラと、たまに海尋なりカフカースなりが少し手を動かしてやるだけで余計なことは言わなくなる。
お茶が無くなる頃には二人とも疲れたようにゲッソリしていた。メイピックの椅子に座っていたオッサンはマルチェリーノ・カンナヴァーロ、窓際に立っていたオッサンはギュンター・ミューラーと言い、階級は監督とかそういうものらしい。今月分の鉱山からの納品が遅れているので上に言われて催促に来たら、もぬけのカラになっていたので、付近を調査したら破壊された住居があったので何か関連があるのかと調べていた所、さっぱりわからんのでこの住居が誰のものか調べて港湾事務所を訪ねたら極光照会と責任者の名前が出てきたので帰ってくるまで待たせて貰ったと言うことらしい。ちなみに腹と眉間をぶち抜かれたマヌケはコンラート・ベルガーで貴族で結構なご身分らしい。と言うよりもこいつら全員ボーレルの貴族らしい。
そんなことよりも何故コイツらが70式拳銃なんてものを持っているのか、その出所は?
ボッキャオあたりなら異世界人から貰ったで済むが、”そこそこ”の身分の者にそれ相応の武器があてがわれているのはどう言うことか、もっと突っ込めば定遠級戦艦の入手経路も分かるだろうか。それとも三下風情に聞くだけ無駄か、70年式拳銃のをいじくり回しながらマルッチェリーノを見ると露骨に目を逸らしてしまった。ダメだなと考えて話題を変える。
「それにしても非道くないですか、こちらの言い分も聞かず、即処刑とか」
「何を言うか、当たり前だろう。平民の軍人殺しは見つけ次第即処刑と決まっている」
「それが家の壁を壊して強盗まがいの行為をしても?」
「我儘を言うな!「行軍の邪魔になるなら破壊する。お前ら平民は進路を塞いで申し訳ありません」と頭をさげるべきだだろう」
なるほど。ボーレルというところは徹底して貴族社会といったところか。軍人を貴族に置き換えれば面白い理屈が出来上がる。
「それで、その平民に生殺与奪を握られるのってどんな気持ちです
「ぐっ」
余計な命乞いをしないのは、”出来ている”というか覚悟完了してるというか、あくまで己が信念に殉ずるつもりか、
「まぁいいや。それじゃぁ話題を変えてこの70年式拳銃どうしたんです?ボーレルにここまで鉄を加工する技術はないでしょう。実はヴァルキア行く時に見たんですけど、鉄の船2隻をヘシュキス海峡で見まして、ずいぶん大きくて立派な船ですね」
「はははははは、あれを見たか、”最新式”の戦艦だぞ、お前ら木造の船なぞ、いや、こんな辺鄙な街など綺麗さっぱり燃やして草木一本はえぬ荒地にしてくれるわ」などと豪語した後
「正面から挑んだ尻尾逃巻いてげちゃったんで追っかけて沈めちゃいましたけど」
それを聞いたマルッチェリーノとギュンターの顔が青ざめる、相手は拳銃をも持っていた、ならば口ぶりからして、戦艦を所持していてもおかしくはない。
「そしてこういったものがありまして袂の中からマカロフを取り出してマルッチェリーノによく見えるようにすると、青ざめた顔が絶望の色に染まった。グリップが赤茶だし遊底の左側にノブがついている。引き金の形も違う似て異なるものである事がよくわかる。
「最も、僕の方は32口径ではなく9mmですけどね」
マルッチェリーノの顔が諦めたように絶望一色になる。
何より鉄を加工する技術があるというか、それも手の平サイズで
この少女の言うことが全て本当なら、ーー
ここでギュンターが口を挟む。
「貴様ら木造の船が勝てるわけがなかろう、閣下,戯言に耳を傾けてはなりません」
「自分達だけが鉄の船を持ってると思わない方がいい。他の武装にしても朝鮮戦争ぐらいかな時代が違うんですよ」声のトーンを落として凄みを利かせるも女顔では迫力に欠ける。
海尋が戯言の上書きをするように畳み掛ける。ここは軽く「フッ」と笑って顎引いて不遜な態度で押し切るべきだろうか。今度アレッサンドラたちに聞いてみよう。
だがマルッチェリーノには効果覿面だったようで 思いっくそビビってる。色っぽく流し目くれてやれば完全に終わりだろう。
「銃は、土色の揃いの服を着た不潔な連中から巻き上げたらしい、どいつもコイツも臭くて汚れた奴らばかりだったそうだ、詳しくは知らんが使い方を教え終わったところで、弱って死んだとか聞いてる」
(敗残兵からブン取った後は知らねーよ。とまあそう言うわけですか。)
ま、こんなものだろう。土色の服ってところが微妙だな。時期がわからない。ただ臭くて汚れたと言うのには判断が分かれる。まぁ敗残兵って所だろう。剣と弓しか持たない相手にフル装備でやる気のある兵隊が無条件降伏するなぞありえないことだ。
マルッッチェリーノが言葉をなくして項垂れる中、もうお前に興味はないよと言わんばかりに
メイピックの方へ向き直り。
「ヴァルキアでの仕事はほとんど終わりましたので、これからバクホーデルへ向かいます。予定は大体一月ほどを見てください。」とこれからの予定を軽くメイピックに伝えると、メイピックが驚いたような顔をしている。
「おいおいおい海尋ちゃん。ヴァルキアでの仕事が終わったぁ、城一つ建て替えるのがこんなには早く?おいおいおい」(馬鹿も休み休みいってくれ)と繋げようとしたが、相手は海尋だこんな常套句が通用するわけもないとりあえず落ちうこうとお茶を一口。
「時自分で言うのもなんですが、かなり良い仕上がりになたと思います。外観は言うまでもなく内装は素晴らしいの一言に尽きる。今後1000年は追従するものは出ないでしょう、最も後一ヶ月はかかりますが」
メイピックはだ黙って口に含んだお茶を飲み込んだ。そして気を失った。吐き出さなかったのは心構えが出来ていたからで、見た目平成を保てたのは覚悟していたからだ。
その姿を見て海尋とカフカースは
「気がつくと面倒だから、このまま行こう」とアイコンタクトでそそくさと部屋を出た。
ドアを閉める際にギュンターから「おい、待ってくれ、縄を解いてくれ!」と聞こえたが
あえて無視してドアを閉じた。
廊下に出るとお茶とお茶菓子を持ったがエルザ
「海尋ちゃん!大丈夫だった、なんか変なことされてない?」真顔で聞いてきた。彼女なりに心配しての事だろう
「何時からここに居たんですか?」
見やれば、エルザの後ろ槍と盾で武装した番兵が二人所在無げに突っ立っている。
「発砲音がしましたのでこちらで控えておりました。おまけにやたらと女性職員に触ってくるのが居ましたのでどんな目に遭っているのかと思うと。胸とかお尻とか触られてませんか」
「すいません、中に死体が一つ転がっているので処分して頂けますか」
エルザの事などお構いなしに番兵に死体の処理を頼む。海尋に無視されたと思って落ち込むエルザに海尋が
「ご心配おかけしてすいません。僕は何もされてませんよ」
と頬に軽く触れるものがあった。柔らかく、ほの温かい感触と残り香に、頬を抑えてくちをぱっくり開けてヘナヘナと座り込む。
「カフカース、時間食ったから少し急ごう」手を繋いだまま階段をダダダダッーと駆け降りてその勢いのままスイングドアを潜って表のPackard に乗り込んだ。
港湾事務所の二階廊下メイピっくの執務室前で座り込んだエルザはパニックを起こして
座り込んでいた、だが顔は終始ニヤついたり真面目になったり、と忙しい。
(あらもうやだわぁ、年の差が・・・ダメよ海尋ちゃんそんな事、もうちょっと大人になってからーーうん。いいわお姉さんが優しく教えてあげるーーなんちゃって、きゃー、やだわー
もう。)とかなんとか脳内妄想ダダ漏れで一人遊びをしている。
「どーするよ、アレ」
「どーするもこーするもなかんべ、さっさと正気に戻してやらんとよ」
「ってかもう30だろうよ、何時までも夢見る乙女やらかしてると私たちまで疑われっちまう」
「あああ、エルさん、仕事の重圧に耐えかねてついにお薬に手を出しちゃた」
エルザから離れてヒソヒソと話していたツェツィリアとリオネッラが意を決してエルザに近づき
「ご機嫌じゃねーかエルさん、なんかいい事あったんかい」とツェツィリアが声をかけるも
「駄目だこりゃ、完っ全にいかれちまってる」
遠いめを潤ませて頬を赤らめ、一人妄想の世界に入り浸るエルザに匙を投げると、
「正気に戻れーっ」と後ろから思い切り後頭部を叩いた。
「何よあんたたち、今いいところだったのに」後ろ頭を抑えて抗議するエルザに
「いい歳こいた三十路女が一人廊下で何やってんすか、側から見たら危ない人にしか見えませんぜ」
「あら、ごめんなさい。そんなにヤバかった」
「そうれはもう、なんヤバイ薬キメてんのかっつーくらい」
「そんなにヤワじゃないわよ、失礼ね」
「んじゃ、何があっったのさ」
ツェツィリアが聞いた瞬間、急に真面目な顔になって、ニヤケだし、またトリップすんのか?と思った瞬間また真面目な顔つきになる。ただし目を潤ませて、ほおを赤あらめ
「それがさ、キスされちゃったのよ」
「よし、センソーだ、このやろう」
「覚悟しやがれ、このびっちが」
ツェツィリアもリオネッラ目がマジだ
ちょっ待ちなさい、二人とも、話せっていったのはそっちじゃない」
必死にの抵抗も虚しく、エルザは廊下をズルズルと引きずられたいった。
カフカースの操るPackard は石ころがの荒れた大地に赤い艶ありのボディを輝かせ、V8のドロドロと腹の底に響く排気音を響かせて走っていた。しばらくすると、丘陵地帯を右へ左へと曲がりくねった道になる。おまけに未舗装で小砂利が浮いている。カフカースはそこをスピードを落とす事なく、むしろスピードを上げて突っ込んでゆく。踏み込むアクセルとクラッチでエンジンを演奏して、時折ブレーキで強弱をつけて右へ左へ派手に尻を振り、四つのタイヤが荒地にへばりついて車体を安定させる。
海尋は左右に激しく揺れ動く車の中でカフカースを怒らせるような事をしたか考える。
思いつく事がないーーこれ大事な問題だ。今抱えているどんな問題よりも大問題だ。ここで
(何か怒らせるようなことをしたっけかと聞くのは帰って逆効果だろう)
普段は使わない街道だから道は荒れ放題、キャラメルタイヤになってなければズルズル滑るだろうけど、無理無理やりシャーシーから新造してV8エンジン乗っけてるついでにタイヤも今の規格に合わせて作り込めれている。だもんでタイヤやサスペンション周りも可能な限り外観を損なわないような改造を施されている。とはいえ、み海尋もカフカースも派手に右へ左へと揺さぶられ、三半規管が通常の人間のものだったら悪酔いしている事だろう。「タクシー」の後部座席に乗った人間のように右へ左へと吹っ飛ばされる、だけどこの車は2シーターなので左に行ったらカフカースにぶつかって、右はドアだ。BGMにPump Itかけたいくらいだ。
30分も走れば余裕で着くところを10分足らず拠点に到着。わざわざ土埃で車を汚すこともあるまいに。いったい何が彼女の気に触ったのかと考える。車を地下のガ」レージに入れ、
最下部までエレベーターで降りるその途中。
「全く現地人に甘すぎやで」とカフカースが呟いた。ああ、エルザさんのほっぺにキスしたことか、(そんなことで怒ってたの)なんともしょうがないことでこうもプリプリ怒るものだなと考えて、エレベーターのおり際にカフカースにキスを一つ、お見舞いすると、多少は雰囲気が和らいだ。
「機嫌治った」と海尋が聞くと
「こんなもんじゃ誤魔化されへんわい」と顔を真っ赤かにしながら両手を振り上げて
「でもまぁ、悪い気はせんから許したる」
と、小声で呟いた。
ロマノフ号に向かえば、もう積み込みは終わっている。サーシャの指示通り、充分育った茶の木が100本。ビーツの種が袋いっぱい、あとは小麦と大麦の種、それらを積み込んでさぁ出発だ。
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