第13話 忍ぶ思いは肉体言語(サブミッション)
翌日の朝食後、早速テュルセルに向かうことになったのだが、地表一階物置で女帝様を無骨な軍用車両に乗せるのはどうかと言うことで、黄土色で大変羨ましい肢体を強調するような作りの制服?に身を包んだヴィータ女史とアレッサンドラ女史の間で議論が執り行われていた。
私たちには何の事だかさっぱりだが、農耕用幌なし馬車に乗せるようなものだと言われて「それはひどい」と遠慮したい気持ちだったのだが、銀髪でほよよんとした雰囲気の次女が
「心配ご無用!こんなこともあろうかと!一晩がかりで高貴なお方ように改造したのさー」
地表一階部分、表口横の物置から黒くて四角いレンガを並べて丸くしたようなバカ太い車輪が合計六つもついたとどデカい緑色の箱がゆっくりと姿をを表した。
「僕らだけならKamAZ(カマズ)の53949 タイフーン-Lでいいかなと思ったんだけど、SUVクラスの大型車2台よりいっそ全員乗れる兵員輸送用の大型車一台の方が未開人の方々には威圧感少ないっしょ。って事でKamAZ(カマズ)63968 タイフーン-Kにちょっと改造施して一部座席にVelaro RUSサプサンのクロスシート使って(ぶっちゃけ新幹線のシート)強化したサスペンションと合わさって多少の荒地ならリムジン並みの乗り心地(予定)なのさっ!」
と慎ましい胸張ってどうだ!とばかりに得意顔しているんだが、何のことやらさっぱりだ。そもそも馬や駱駝でどうやったらこんなデカい箱引けるんだ?いや、これも自分で動いて来たしな。空飛ぶ箱やポーチャーと言う船同様、頭で思った通りに動くんだろうな。そろそろ驚きの度合いが少なくなってきた。モイチがやたら静かなので様子を眺めてみると、どうにも顔色が宜しくない。
「何だモイチ、どこか体の調子でも悪いのか?」
と聞くと陸の乗り物は苦手で、馬や駱駝は平気だが馬車の類は気分が悪くなるらしい。
前横3面に透明な板がある方が前でほぼ垂直に切り立った鉄のドアがある方が後ろで、前に3人、ヴィータ女史と海尋、アレッサンドラが乗り込み後ろのドアが傾斜のついた昇降用タラップのように下向きに開くと、内部はつまづかない程度には明るく、左側の側面に簡易な椅子が七つ、中央を通路見立てに奥に前方との仕切りと連絡口のような潜り口があり、仕切りに背を向ける形で二人がけの両側面の椅子よりも格段に座り心地の良さそうな椅子が備えつけられていた。椅子の上に明かり取り程度の小窓があり、外の様子がかろうじてわかる。
「ほれほれ、はよ乗った乗った。女帝様が一番奥の二人掛けな。んで、あとは好きに座り」
女帝様の席の横には大きな半透明な板があり、外の景色がよく見える。
「筋肉のおっちゃんはいっちゃん後ろな。肩幅広うて真ん中だと窮屈やで」
オトヴァージュヌイが仕切って座席を指定して円滑に全員座席に着く。
「一応安全の為到着まで我慢してな」と女帝組(女帝様、ダリア、ブラン、私)が座席につくと体にベルトをかけられ
「
仕切りをバンバン叩いて前に伝えるとさささっと席に戻り文字が書かれた小さな白いタイル
が並ぶ板を膝に置き、その板の上側に光る文字や線が多数浮かび上がり上下左右に動く。
一度前非方向に大きくガクンと揺れるとそのまま前方方向に動き出した。
仕切り板のに設けられた潜り口の上に黒っぽい板があり、そこに進行方向の景色が浮かぶ。
ついていけない状況にダリアとブランの目がまんまるになってる。
側面の小窓は見ていると首が痛くなりそうなので、仕切りの黒っぽい板を見る。前の景色だよな?どういった仕組みなんだかからんが女帝様まで体を捻って黒い板を見ている。
「「はいはい、ちょっとごめんよ」」オトヴァージュヌイが女帝様のベルトを外して一旦n席から立たせると、女帝様の特等席がくるりと180度水平に回転して背もたれが後ろに回り横に流れる景色と正面の景色両方無理なく見られるようにした。
「これでいいやろ」再び女帝様を席につかせてベルトを掛ける。
「ねぇねぇオトヴァージュヌイちゃん。これどーなってんの?」と黒い板を指差して聞くと
「前方監視カメラの映像をこの黒い板、「モニター」って言うんだけど・・・」
腕組みして眉間に皺を寄せて少し考えて、
前の「カメラ」で見てる景色を「ここ」黒い板をコンコン叩いて「に映してる」
「
毎度のことながら全っ然分からん。まぁ、前の景色がここから見えるって事はわかった。
とは言っても、行けども行けども岩の道。ごく稀に遍歴商人の馬車が通る道だろうから多少は道らしい跡がある程度で雑草がちらほらと生えている程度で道はかなり凸凹している。
それでも揺れは静かで少々退屈になる。
女が複数その内5人は(年下男の娘ご主人様)持ちなのだから下ネタ方向のネタ振られるのもさもありなんといった具合に下ネタ話に花が咲くかと思いきや、クロンシュタットとセヴァスポートリが敷居の向こうに向かって「
下ネタ話は右から左だろう。試しに声をかけてみると万能がない。
一番近い銀髪侍女のスコールイが
「寝てる。モイチのおっちゃん」と教えてくれた。
「ヴァルキアの近衛の二人は猥談がお好きなようで」
タイフーンの運転席に座るヴィータが言うと、
真ん中の海尋を挟んで
「このまま急ブレーキ踏んでおしまいなさい」
とサーシャが続く
「寝所で主との睦言を吹聴しそうになったから一発カマしてやろうかと思ったんだけど、下りの悪路でやったら戦車のドリフトより始末が悪いからやめたわ。夜番の交代なしをチラつかせて大人しくさせましたけど」
「お話中悪いんだけど、そろそろ僕の太もも撫で回しながら運転するのやめて欲しいんだけど」
「まだ服の上からですのセーフです」「何がっ!」
「いえ、こうも荒れ野が続くと運転も暇で暇で。海尋様の御御足がちょうど素晴らしい位置にあるものですからこれ、はご褒美という事で」
「うんうん」とう頷きながらサーシャもサーシャで僕の太もも撫でながら
「オトヴァージュヌイはなかなかいい仕事しますね。サスペンションもミッションも実に快適です。さすがはKAMAZ、これだけの悪路でも揺れが僅かに感じる程度です。リムジンとまではいきませんが、聖上様もご機嫌麗しい様子」
「やたらクロンシュタットとセヴァスポートリに海尋様の「抱き心地」とかシモのアレとか聞いてたようだけど聖上様もそっちのケがあるのかしらねぇ」
テュルセルに入る石橋を渡るあたりでヴィータが悪態つくように海尋様に手ェ出したらシメる。と締めくくる。と言うのも、テュルセルに入ると買い出しなどで通りを歩く人が見え始めたからだ。無理からぬ事だけど、道ゆく人々からは奇異の目で見られ、小さな子供たちが車の周りに並走して早歩きで並ぶ。
「ああもうっ怖いったらないわ、未開人ども!真横で転んだら巻き込むでしょうが!」
空ぶかしで威圧するのも優雅ではないし、かといって脅かして本当に転ばれでもしたら大変な事になる。結局徐行でいつでも止まれるように走らなければならない。
「ここって右側通行で良かったのかしら?まぁ、まだそんな決まりはなさそうだけど」
法律や条例でそのような事の取り決めはないが、道の両端を歩行者が歩き、道の中央を馬車が使い、対面した場合は空荷の方が道を譲るということになってはいるが、免許もクソもないので歩行者轢き殺さず馬車同士ぶつからなければ問題はないので問題にはならないだろうが、この図体の,しかも馬も駱駝も牛もなしに『自走』する巨大な箱に怖がって向こうから道を譲ってくるだろう、子供をのぞいて。
テュルセル管理事務所のある旧区画へ続く石造りの橋を渡ると、橋の両脇に備え付けの警護員の詰所から黄色いジャケットの港湾管理組合衛士が近寄ってきたので運転席のヴィータが海尋の青札を衛士に見せると
「申し訳ありません!大変失礼いたしました!」
戦々恐々と後退り、
「所長よりシズリ様がお越しの際にはそのままお通しするよう言使っております。どうぞこのままお通り下さい!」
右手の中指と人差し指を合わせてピシッと伸ばして爪を額にあてる敬礼の姿勢をとり後ろ歩きで詰所まで戻り再び敬礼の姿勢をとり通り過ぎる車を敬礼のまま見送る。
「?この間は(二日前)誰も居ませんでしたのに?」サーシャの疑問に
「(暴徒と化した癇煩のせいで)それどころじゃなかったからねぇ。」
材木商人バンゴの店に向かう前にテュルセルの港湾管理事務所の横に車を停める。
その途端に野次馬の人集りが出来る。港湾労働者や用事で外出中の職員、商館倉庫に挟まれた屋台の並ぶ通り(癇煩駆除で機関砲掃射した道)からワラワラと集まってく住民。なぜか野菜や果物捧げてお祈りしてる人も複数見える。
「後部ハッチ開きます」とヴィータの声と共に搭乗口のドアが下方に開く。真っ先に地面に降りたのはモイチだった。「ぐあーーーーーーっ!」と伸びをすると、首から吊っている左手が途中までしか動かせず、伸びをしたまま上半身を左右に振る。
「なんだ、モイチじゃねぇか、またえらいモンで帰ってきたな。左手の具合はどうだ・・・」
「グハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!なんだ、どうしたその格好!うはははは! お前がそんな格好してると雪でも降るんじゃないかと心配になるぜクハハハハハハハハハッ!」
「全く、どいつもこいつも失礼なやつばかりだぜ。よぉ〜うメイピック、お前の顔を見るとクソな日常に戻った気分で塞ぎ込みそうだ」
「バンゴの細君から伝え聞いたんだが、左手の具合はどうだ?異形の巨人と取っ組み合いやらかしたって聞いたぞ」
「それはちょこっと置いといて、中で話そうや。大事な話がある」
「多そうか、そうだなまぁ中で話そう。その前にちょっと待ててくれ、中の奴らが卒倒しちまう」
手のひらをモイチに向けてちょと待ってろと身振りで引き留め、事務所に入って数秒、
扉を弾き飛ばして緑色のコルセットスカート姿の女性職員が一斉に表に躍り出てモイチの周りを取り囲む「結婚?お見合い?相手の両親に挨拶!?」黄色い嬌声と質問攻になる。
「なんじゃ、やかましいのう」と車の後ろからお祭り好きの女帝様が顔を出す。車内では近衛3名が必死にお止めしようとしたが、あっさりとすり抜けられた。今は女帝様の体にしがみついてなんとか引き留めている。そのせいで後部から降りられなくなった後部座敷の侍女5名は天井のハッチを開き、屋根の上から飛び降りる。手にはそれぞれ好みの得物、いずれもロシアのアサルトライフルAK-7のバリエーションで銃身が短く携帯性の良いAK-74Uと反対に銃身を長くした分隊支援火器仕様のRPK74で武装はしているものの。それが武器だと分からなけりゃぁ騒ぎが治るわけでなく、かといって空に向けて発砲するわけにもいかず、
しょうがないから肩にかついで周囲を警戒する。
目ざとく顔を出した女帝様を見つけた女性職員の嬌声が一層激しくなる。
「今の人!、今顔出した金髪美人が結婚相手!!??」
それを聞いたリルがキレた。
女帝様を押し退けて車外に降りると腹に溜めた息を一気に放出して
「貴様らいい加減にせんかぁあああああっ!!」
怒声一括。凪の海のようにそれまでの喧騒が静まり返る。わらわらと事務所内に戻る女性職員を出迎えたのは、入り口に立右手に砂時計を持つエルザ・アダーニだった。
「各自机離れた分は給料から差っ引くからね」
自事務所の壁に木霊する湿ったため息は、襟と肩のあたりの薄い桃色から薄い広く着物の襟から垂れ下がった袖と裾まで下へ行くほど濃い桃色に変化する色合いの生地に大きな花のような模様の入った着物(振袖)を薄紫の帯で留めた海尋の
「おはようございまーす」
と、明るい声に打ち消された、というより再び嬌声が上がった。
「あああ〜〜〜〜、朝っぱらから翠玉の姫様の御姿を見られるなんて今日早番でよかったぁ〜〜〜」だの「うわー、ほんとに綺麗!」「本当にあれで男の子とか信じらんない!」等々賛美の歓声が起こる。それに続いて細く腰周りを絞って体のラインを引き立て、裾は魚の尾のように広がり、踵の細く尖った赤い靴と細い足首を魅せ、肩口から胸元にかけて肌が透けて見えくらいに荒く編まれた生地で変化をつけた仕立ての葡萄色のワンピースと見たことのない花を使ったコサージュをつけた小ぶりの帽子を波打つ金髪の頭に乗せたとんでもない(ナイスバデイ)な美女が現れ
「ハーメット・ネフ・カシスと申す。急ぎの要件で参った。クリメント・ワインサップ殿に面会を所望する!」と入ったと同時に腹に力の籠った大声で要件を示すと、続いて入ってきた黒を基調としたヴァリキア王宮メイドの服を着た長身の女が二人とその後ろに頭一つぶん背の低い紫色のワンピースを着た膝丈まで伸ばした金髪の女が続く。更にその後ろには、
きている服の色と形は違うが多分我らのお姫様『翠玉の姫』「鎭裡海尋」ちゃんの侍女だろう。が並ぶ。モイチとメイピックは逃げる算段を考えたかった。
ヴァルキア女帝とはお首にも出さず、だが、尊大な態度は崩さず、それで正体隠せるのは
ここら一帯がかつては「ヴァルキア帝国領』であった事を知らない世代ばかりだからである。今では外海の向こうの大きめの島に閉じこもってかつての領地は放りっぱなしでせいぜいが海の向こうにヴァルキア王国の島があってフリストス同盟と貿易競争しているといった程度の認識しかない。
それより翠玉の姫様だ。換気と明かり取りを兼ねた開けっぱなしの小窓から吹き込む潮風に
乗って姫様の方からほんのわずか甘い匂いが漂ってくる。それだけでも寿命の最高記録を更新できるような気がする。普段なら、この時間は人手集めの船主や仕事を求めて港湾労働者が集まっているのだが、皆入り口の向こうから中を眺めるだけで中に入ってこようとはしない。ナイスバデイの目つきが切れ上がったおっかなそうな美人がテュルセル市長のワインサップを出せと豪語し、その脇を一瞬で癇煩の群れを駆逐した恐怖の美少女とその一行が取り巻いているのである、その中に平然と入っていけるのは間違いなく勇者だ。その勇者は案外側にいた。階段乗りてきただけだが。
「おうおう、お前ら、ワインサップ呼びに行かせたから2階に上がって待ってろ。いつまでもそこで構えていられっちゃぁ職員のねーちゃんたちが仕事出来ねぇ」階段を降りて
尖った目つきの金髪ねーちゃんとそれらご一行に臆しもせず至って平常、いつものモイチが
いつもの口調でおっかない連中を2階にしまい込んだ。扉の向こうからわぁっ!と歓声が上が離、潮と汗の混じった船乗り独特の匂いと見かけ上のむさ苦しさが入り込んでくる。さすがはモイチだ!全く場の空気読んでねぇ!と好き勝手に褒め貶しが入る中、
「おう、なんだよモイチ、その左腕?」と包帯巻いて首から吊ってる左腕を指して尋ねると、
「あぁ、ちょいと出先で化け物に襲われて、な危うくおっ死ぬところだったぜ」
右手で左腕を軽く叩いて、さも大したこたぁねぇよとアピールした上で
「んで、その化け物を一撃で吹っ飛ばしたのが」2階を指差して
「あの『ミヒロ』ちゃんだ」
「うっそだろぉおおおおおおおおおおおお!!!」
「おいモイチ!冗談は今着込んでる綺麗なおべべだけにしとけ!」
「いくらなんでも盛りすぎだ!」
驚く者、笑う者、異界が沸点突破して後ろから足でガッチリ胴を挟んでしがみ付き、ぶっとい首に裸絞め(チョークスリーパー)を仕掛けるツィツェリア
「テメェ、このクソ航海士!ウチらのお姫様、なんちゅー所に連れ込んでんだゴラァっ!」
ギリギリ首を締め上げるツィツェリアを全く物ともせず。
「あいあい、悪かった悪かった。もうちっとおっぱい大きくなってからやってくれ。その方が気分が良い」
右手でポンポンとの右肩あたりを軽く叩く。「降参だから放せ」の意思表示だが、一言多いのが火に油を注いだ。
「テメェっ!最近おっぱい大きな女に囲まれてるからって大きい方がいいのか!いいのか、おい!こんちくしょうっ!」
涙目で更に強く締め上げる。
断っておくがツィツェリアは標準的な大きさであって決して小さいわけではない。ここ数日ボン!キュッ!ボン!に見慣れたせいでモイチの感覚がおかし口なっているのである。
階段上の手すりから様子を眺めていた海尋が階段を降りつつ
「ツィツェリアさん、それじゃぁ技欠けても効果ありませんよ」
といきなり正しいやり方(殺り方)の指導が入る。喉仏絞めて窒息させるか首の両側の・・・
「おいおい、やめてくれミヒロちゃん。この女、マジで殺りに来る」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ全っ然効いてねぇこの筋肉首まで鍛えてんのか、コイツ!んん?ねぇねぇ、モイチっつぁん、髪の毛随分柔らかくなってね?潮と日差しででゴワゴワチリヂリになってたのに、艶もあるし」
髪の毛を一本抜いて爪の先で表面を挟んで引っ張ると小さくクルクルと丸まってゆく
「うっそん?」
「いてっなにしやがんだコイツそりゃ反則だぞ」
「なぁなぁモイチっつぁんよぉ、一体何処で髪の毛のお手入れなんぞしたんだい?」
「なんもお手入れなんざしてねぇよ、ミヒロちゃんとこで風呂借りただけだぁな。いいかげん降りろ。パパに戯れ付く小娘か」
「ねぇねぇミヒロちゃん?ミヒロちゃんトコって髪洗う時なに使ってんの?」
モイチの胴を脚で抱えたまま上体をぐいんとのけ反らせてイナバウアーみたいな姿勢にのままモイチの髪の毛をピラピラささせて眺めながら海尋に声をかける。
「なにと言われても商品名と成分のお答えになってしまいますので、実物使ってみます?」
「おお、あれか、海尋殿の湯殿にあった洗髪液かえ。あれは良いな。とても良い。みてみい、姦しい小娘ども、この滑らかさ」
女帝様が会話に加わり、両手で後ろの髪を払い上げるとフワッと広がり、一枚のやらかい布のように広がり綺麗な波を描く。それと同時にあたりに柔らかく微かな花畑の匂いが漂う。
それをみた女性職員が一人、ガタッ!と大きな音を立て、受付カウンター向こうの椅子から立ち上がると一人、また一人とがガタッ、ガタガタガタッっと目を見開いて立ち上がり、「是非譲って下さい!」と声を揃えて海尋に詰め寄る。その横から海尋の後ろに控えていた短い銀髪の侍女がスススと周り込み、手に持ったヌメヌメの昆布をツィツェリアに渡差し出す。未だモイチの胴を脚で抱えて仰け反ったままだ。というよりもうだらーんとぶら下がっている。その状態から腹筋の要領で状態を起こし、モイチの肩に手を乗せて体重をかけると足を離してストンと床に足をつき、一体この昆布は何処からパチって来たんだろう?なぜ自分は昆布を手渡されたんんだろうか。それも今海から採って来たばかりのヌメヌメの新鮮な昆布を。
「それが原料。作り方は簡単だから自分で作れる」
そう銀髪侍女から聞くと、昆布を一掴みにして髪を洗うモイチの姿を連想してしまい吹き出しそうになるが、なおも頭上に「?」記号を大量に浮かべ昆布眺めて混乱する。
「鍋で煮出して小麦粉入れてトロみが着いたら出来上がり。簡単」
食物モンばっかじゃねーか?
「モイチのおっちゃんは相当酷かったから一回全部剃る事勧めたら駄々こねたんで散髪整髪トリートメントのフルコース薬漬け」
なんじゃそら?
「泥は使わないの?お貴族様は泥で漬け込んで流すだけってのが流行ってそこの市場で結構いい値段の泥売ってるけど」
「泥質が問題。海底の泥なら養分があるけど、その辺の土に水加えても効果なし、ぼったくり、詐欺まがい」
「うえぇぇ、そうなんだ。ありがとー、早速試してみるよ。で、この昆布どっから持ってきたの?」
「表で干してた」
「ああ、そういえば造船所の方から木屑が飛んでくるからって漁師さんが干してたっけ」
「あー悪い。一段落ついたんなら通して欲しいんだけど」
中年真っ盛りの長身でやや猫背気味の男が手刀斬切ってツィツェリアと銀髪侍女の間を通離、その先にいる海尋を見つけると
「いやー君が話題沸騰中の『美少女男の子』「鎭裡」海尋ちゃんかな?いやー会えて嬉しいよ。私はここの市長やってるクリメント・ワインサップというんだ。いやーよろしくよろしく」
と友好的かつにこやかに右手を差し出して握手する。
「はて、おっかない美人が首取りに来たって聞いたんでとりあえず首周りだけ綺麗にして来たんで遅くなってしまったよ。首取られなきゃならないような事はした覚えがないんだがなぁ。モイチとメイピックは2階かな?ああ失礼、続きをどうぞ」そう言い残して二階へと登っていき、海尋と銀髪侍女も後ろに続いた。
2階の所長室前、ワインサップがドアの前に差し掛かると内側からドアが開き、にこやかな顔のままスタスタと入っていく。
「いやーお待たせして申し訳ない。市長のクリメント・ワインサップです。本日はようこそお越しくださいました。・・・た?」
にこやかな顔が引き攣り額から冷やせが吹き出す。ワインサップの正面、部屋の中央で女帝様が腕組み仁王立ち獲物を狩る肉食獣の眼で睨みを効かせていた。
驚愕の表情を浮かべるも、口と態度にも出さず、
「久しいの、ワインサップ。尻の青い童貞小僧が随分偉くなったもんじゃのう」
部屋に入ってきたに入ったワインサップを口の端を釣り上げ顎を引いて伏せ目がちに睨め付ける。
「これはこれはハーメット・ネフ・カシス様、このような場所にわざわざ足をお運び頂き、このクリメント・ワインサップ、感激に打ち震えております」
女帝の前で跪き臣下の礼をとるワインサップに
「たわけが、見え透いた世辞なぞいらんわ。だが良い、良い、うん大変良い、よくぞここまで成長した。」
怒ってんのか喜んでいるのかわからない態度だが、ワインサップは平然としている。
「べつに怒っとらんしカチコミに来た訳でもありゃせんので楽にせよ」
「カシス様も相変わらずですねぇ」
どうやらこの二人、旧知の中のようだ。
「本日足を運んだのは他でもない。こちらの鎭裡海尋殿に大層世話になってな。テュルセルの材木商人バンゴ・ブリザット殿と一等航海士のモイチ殿には怪我まで負わせて多大な迷惑をかけてしもうた。その詫びと賠償じゃな。バンゴ殿とモイチ殿には怪我と体調の戻って仕事が出来るまでの補償と慰謝料を後々本国から運ばせるとしてまずは海尋殿じゃ。
一番の功労者と言っても過言ではないが成人しとらんのと、こちらに来て日が浅いので商売始めるにしても信用がなかろ?なので朕自らが海尋殿の後見人となろうと思うての。
で、すまんが手続きを頼む。それと仕事の依頼じゃ。朕の居城マトリカ・ヴァンクスの立て直しの全てを依頼したい」
「カシス様、大変名誉な事では御座いますが、まだ鎭裡殿は商人登録の途中でして。バンゴの細君より事の次第はメイピックのところに来た報告書より」
「たわけっ!おおかた裏取って確認中との事じゃろうが裏なんぞとっくに取れとるし、今動けば帰って彼奴等は首引っ込めて動かぬ亀になりよるわ。それにアレに勝てる者なぞ海尋ちゃん意外おらんわい。事務方が下手に首突っ込むでないわ。あいっ変わらず要領得ないやっちゃな、お主は。まぁその辺はおいおい出てくるじゃろうから今はそれの備える時じゃ。」
腕組みのまま指で二の腕をトントン叩きながらイラつきを隠さない女帝様。
「その辺、今は置いとけ。せいぜい土壌の様子伺う程度で良いわ。それより、海尋ちゃんの信用がないのなら作れば良かろう、そのためのマトリカ・ヴァンクス立て直しの全件委任じゃ。そのために海尋ちゃんの個人商会として「極光商会」の屋号登録とマトリカ・ヴァンクス完成の暁には『黒札』の位を与えたいと思うのでよろしく頼む」
「しかし、船はまだ改装中とか・・・」
「やかましいわ。海尋殿の邸宅に足運んでみよ。ぶったまげてひっくり返るぞ。船が必要なら朕のプルシュカ・イグニスでも使うが良いわ」
「いや、カシス様。あれは戦列艦で商船では」
「治せば良かろう!細かい事抜かすでないわ!」
「事務方舐めるな!ワンマン女帝」
イラついてだんだんとテンション上がる女帝様を抑えるように馬力上げるワインサップ。
上司と部下の言い争いのような雰囲気の中、少し離れたところでヴィータが海尋に何事か
進言してアレッサンドラがそこに加わり、両者無言で睨み合う。
「あのー、とり合えずは使える船の登録でもよろしいですか?」
「おお助かる!助かるぞミヒロちゃん!」くるっと女帝様から海尋の方へ向きを変え、
肩をがっちり掴んで
「で、船名は?大きさはどのくらいだ、酒樽どのくらい積める?」
ずいっ!とヴィータが一歩進み出て
「船名はロプーチャII級揚陸艦ペレスヴェート・ヴィクトリア。全長112、5m、酒樽程度なら1000から1200程度は軽く積み込めます。ざっと、現在こちらの港に停泊中の最大帆船の2倍近くの長さと、積載量は条件次第で2倍から3倍はいけます」
と口上を述べてフンッと胸を張る」
「マジか!?どんだけデカいんだよ!?」
モイチが驚愕の声を上げる
「なんじゃ、空輸はせんのかえ?」
残念そうに女帝様が仰る。「運送業より遊覧飛行でもよかないか?」
メイピックがサささっと手早く羊皮紙にまとめると、
「『
「ほいきた」と羊皮紙にサインをしてメイピックに戻す。さて。鎭裡殿、こちらにサインを
貰えるかな。カシス様こちらに承認印をお願いします」
個人商会としての屋号と責任者名、船籍及び船名、港湾都市テュルセル市長クリメント・ワインサップの名の下、ロプーチャII級揚陸艦ペレスヴェート・ヴィクトリアでの海運業を許可する。羊皮紙に書かれている。船名の上が一行空いているのは現在改修中の糞rのために開けてある。個人で輸送船を何隻も持つ船主なんてそうそういないので大抵は旗艦一隻登録すれば良いのだが、アレッサンドラから異様な圧力を感じたので一行開けた。しかしながら、ここにる海尋一行を除き、『揚陸艦』という船がどんな船なのか知るものは誰もいない。
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