第40話 どうしてこうなった。
第40話
さて、エリシケの港での騒動の後、僕等はトリスン領、ブラバム侯の収めるエリシケの港からブラバム侯直々に首都エニークでの歓待を受ける事になり、一路エニークへと向かう事になった。エリシケの混乱から四日後の事である。
僕等が医療用に使っているテントを畳んでも、いい加減もう大丈夫だろうかという頃に、随分と豪華な馬車が来て、これまた礼儀正しい初老の男性がモロクを尋ねてきた。誰だっけ、そんな奴いたっけか?と考えあぐねていると、ハンクが「隊長は負傷しまして現在療養中に御座います」と初老の男に答えた。あの男そんな名前だったのか?
(00>099:クロンシュタット、右手切り落とされた男の容態はどう?)
(099>00:ああ、あのヒゲおやじかぁ。もう動かして大丈夫だよ。切断面もすっぱり綺麗だったから綺麗にピッタリくっついたよ)
(00>099:それなら問題ないか、お客さん来たからそっちに回すよ)
約束を取り付けたので道案内に一人割いてモロクの元へ遣り、僕は消耗した薬品関係を調べる。消毒薬と生理食塩水が少ないな、まぁ十分な量はある。ちょっとテントの方に補充しとこうか。
(099>00:承知いたしました、して、お客ってどんな奴?きっと碌でもねぇ奴なんだろな)
(00>099:クロンシュタット見たら誰だって理性の歯止めが効かないよ)
(099>00:海尋ちゃん、いつからそんな女口説くようなセリフを吐くようになったんだい?おねぇちゃんそんなふうに育てた覚えはなくってよ)
(00>099:領主のブラバム侯の使いの人だからそこそこの役職だと思うよ)
しっかし、御招待なんつってもブラバム侯の城ってどこにあるんだろうか。こういう時の作法なんか知らないぞ。実は、平民後如き招待してやったんだからありがたく思えって感じなのかもしれない。身分の上下に厳しいからなー。
地図と言ってもまともなものあるでなし、描いてもらった地図を見ながらお茶を啜る。
「これなら一旦海に出てからはハンヌ川に出た方が早いな」
ブラバム侯の居城であるエズラバーグはエルベ川の支流であるハンヌ川沿いに建てられていて、丁度ハンヌ川もエリシケの港に近い所に流れついているので、そちらから回ればいいか。
と考えていると、何やら物凄い勢いで遣いのエルンストさんににつけたコーバックが帰ってきた。
「おや、どうしましたコーバックさん」海尋が聞くと
「どうしたもこうしたもねぇよ、このオッサン、船見た途端に気絶しやがった」
「クロンシュタット見て腰抜かすようじゃ、まさに”こちら”の人って感じだな」
だいぶ感覚ズレてきてたが、そうなんだよな、最近どうにもマヒしてたけど、こっちの世界はまだまだ木造帆船がメインなんだよな。そりゃぁ、クロンシュタットの船影見ただけで腰抜かしても致し方がない。クロンシュタットが全長270メートルでエルモさんトコの快速帆船が全長90メートルくらいだから3倍近い長さを持ち、おまけに船の上には3連装砲が2機前面に配置されて、聳え立つ鉄の艦橋を見ればそりゃぁあ腰も抜かすわ。そうなると次に来るのはーー、
「鎭裡どのおおおおおっ!」
恐怖からくる絶叫。コーバックに支えられて、かろうじて立っているエルンスト。足も腰もガクガク震わせて裏返った声で海尋に疑問を投げかける。
「あ、あれは、な、な、な、なんですか?まるで海上に聳え立つ鋼の城、いや要塞わぁ!!」
思った通りの反応にしれっと答える。
「船ですが、何かおかしなところが御座いましたでしょうか」
「おかしいもクソもあるかぁっ!あんなものが船な訳あってたまるかっ、なんだあの空に向かって聳え立つ城のような建物はぁっ!一体何人・・・ゼェゼェ。」
ああもう五月蝿いな。気付けにペパーミントでも飲ませて、頑張ってもらおう。リゲインとかユンケルとか昔の日本人は自らにドーピング施して疲れた体に鞭打ってお仕事頑張ったとか。
完全に腰が抜けてズルズルと地べたを這いずる使者殿に小さな瓶を渡すと同時に
「大丈ですか掴まって下さい」と手を差し伸べる。どうにかこうにか立ち上がると、僕の顔をみるなり
「ひいぃぃぃぃっ鎭裡殿おぉぉぉぉぉっ!」
とまぁ、ひどく怯えた様子で、縋りついてくる。
「大丈夫ですから、これでも飲んで落ちついて下さいな」
ひったくるように小さな瓶を奪うと、一気にそれを飲み干した。
「ぷはーーーーーっ!・・・ぐおおおおおお、なんですか、これは口の中でシュワシュワと後から後から喉を駆け上がってくる、ぐうぇっぷ、それでいてこの清涼感は今までにない感覚だぁっ!いや恐ろしい、素晴らしい、鎭裡殿のお国にはとんでもないものがありますな、いや羨ましいどうやって作るのですか?」
驚くんだか感動するんだか製法聞くとか、どれか一つに絞って欲しい。わずかな量だが、炭酸飲料の誘惑には異世界人でも勝てないらしい。なんでもすんごい昔に悪の手先だった黒い衣装着込んだ女幹部(FLESHプリキュアのイース様)が炭酸の誘惑に負けて光堕ちしたとかなんとか、恐るべし炭酸飲料。これだけで、この世界の地図が変わるんじゃないかな。
それはそうと、クロンシュタット見ただけでこんなになるなら、今のエルベ湖に並ぶ船を見たら心臓止まるんじゃぁないだろか。
「落ち着きましたか?エルンスト殿」
パイプ椅子に座って息も絶え絶えの使者殿に声をかけると、くわっと目を見開き、
「おお、鎭裡殿。これはみっともない姿をお見せして申し訳ない、もう大丈夫です」
ばつが悪そうに瓶を片手に持って照れ笑いをしている。おかしいな?偉そうに「ん」とか言って、瓶をこちらに渡すか、そこいら辺に放り投げるかと思ったら案外まともだぞこの人。そばで控えているコーバックに「もういいよ」と伝えて避難民の警備に戻す。現場の保存じゃないけど、こんな時に怖いのは復興の手伝いにかこつけて盗みや強盗、いわゆる言葉通りの火事場泥棒ってやつだ。兵達にはその点を説明して砲撃跡の警備と片付け、一応、家主かご家族の方に確認をとって家財道具などを一箇所に集めて、管理して、落ち着いたらそれそぞれ元の持ち主にお返しする。人手が全く足りない、それでも守備隊と住民の手も借りてなんとか回している。こんなのにいつでもかかずらわってるのはごめんん被るのでさっさと要件済ませてお帰り願いたい。あるよなー、こういうの。現場がクソ忙しい時に上からの査察とか、特に重要でもないけど、無碍にはできない来客とか、確かあの御方もそんなことで頭を悩ませていたっけか。それはそれとして、今度は僕が都度説明しながらクロンシュタットの中に入る。すると、「海尋ちゃぁ〜〜〜〜ん、」と涙目でクロンシュタットがしがみついてきた。
「暇で暇で暇が暇に暇すぎて暇の二乗かける暇イコール暇すぎて、ちょっとはあたしにもかまってよおぉぉぉぉぉぉっ」と泣き叫ぶ。泣き叫びながら「クンカクンカあああああああっいい匂いいぃぃぃぃぃぃっ!もう離さないんだからねっ!ずっとこうして抱きしめてあげるぅっ、海尋ちゃん、海尋ちゃん、海尋ちゃん、三日も放っておいて今夜は寝かさないかんね」艦の保全とモロクの容態を診てもらっていたのだが、「ちょっとクロンシュタット!、ステイ!ステイ!お客さんの目の前だから控えて控えて」
半年ぶりに飼い主に会う大型犬のように海尋にじゃれつくクロンシュタット。クロンシュタットは背が高く、180センチはあろうかというもの、のしかかられて、いいように顔じゅう舐め回すように匂いを嗅がれ、なすがまま、うなじから後頭部、前に回って鎖骨から鼻の頭を添わせるようにしてスンスン鼻を引くつかせるクロンシュタットに最初のうちは手足をバタつかせて拒否していた海尋だが、お姫様抱っこをされてクロンシュタットの頭を抱え込むようにしてクロンシュタットの頭を撫でている。諦めと言うよりはもうどうにでもな〜れ。
「ん〜もう、お客さん来てるから後でゆっくりと。ね」と諭すような口調でクロンシュタットを宥めると、
「じゃぁさ、あたしのお願い一つ聞いとくれよ?」と海尋に尋ねると、即答で
「うん、いいよ、何すればいい」と色良い返事がもらえた。すると
「きゃっほーい!やったやった!」と一際楽しそうに満面の笑顔を浮かべて両脇から腕を回して抱き抱えた海尋をブンブン左右に振り回してご満悦のクロンシュタットが、不機嫌を顔から噴出させているエルンストに目をやり
「お客様ってあれ?」
と一気にボルテージが下がり、能面のような表情になるが、エルンストは完全にブチ切れていた。「貴様ぁっ!主人に対してその態度はなんだっ!早く鎭裡殿を離さんかっ!」
思ったより激高してるな、まぁ身分制度に厳しい国らしいからクロンシュタットの態度にはご立腹なさるだろう。でもここは彼女の領域で、彼女は僕の侍女なのだから、何を言われる筋合いはないだろう。
ってな事があってから数時間後、クドクド説教続けるエルンストさんの矛先は僕にも来て、その気になりゃぁ、いつでも殺せる。と思って辛抱して説教に耳を傾け続けて、静かに黙って拝聴していたら、やれ平民がどうの、生まれが卑しいと育てた親の顔が見てみたいだのと言い出した。そこまで言われにゃぁならない程の無礼を働いた覚えはないし、矛先が僕に向いているからまぁいいか。好きなだけ言ってろ。とまぁ理不尽な叱責に甘んじていると、もう昼を回って夕方に差し掛かろうという頃に、この野郎、叱責の矛先をクロンシュタットに変えやがった。そしてこともあろうにクロンシュタットを「あばずれ」呼ばわりしやがった。そこまでの事はやってないのにいい加減にしろ。そう思うや、僕の右手が動いていた。
「もういっぺん言ってみろ、大人しくしてりゃぁ、エスカレートしやがって、馬鹿も程々大概にしろよ」と低い声で脅しをかけて、エルンストの喉を掴む。とは言っても、僕の身長じゃぁ手が届かないので、重力操作で、首を掴んで持ち上げる。空気を求めて暴れ出すエルンストを無視して、もがくエルンストをさらに持ち上げ、締め上げる。両足をバタつかせて
「放せ平民!、こんなことをしてただで済むと思っているのかっ!」どうやら、もうすこし痛い目に遭わないと現状が見えないらしい。「悪かった、私が悪かったと、いうておるのだっ!
げはぁっ、げへぇっ、ゴボッ、ゴボおっ」自分の喉を万力のように締め付けるものを取り払おうとしてそこに何があるわけでなし激しく己の喉を掻きむしるエルンストは白目を剥いて「ゲヘッ、ゲヘエっ」と咽び込んでいる。「海尋ちゃん、それ以上やったら死んじまうよ、海尋ちゃん、海尋ちゃんってば、おい海尋っ!海尋ってば」クロンシュタットにビンタ一発もらって正気に戻る。恐ろしいことに僕の頭の中では「人間は三十秒間脳に酸素が回らないと死ぬんだっけか、まだ29秒、後1秒あるな」なんてことを考えていた。なんたることだ。感情エミュレーターの故障か?冗談じゃないぞ、キカイダーじゃあるまいし、「不完全な良心回路」みたいな爆弾抱えて生活なんて無理だぞ。と自己診断していると、ダッカムという役職のエルンストの書記、ようは彼の記録係、に支えられて、ゲヘッ、ガハッ、と喉の奥から空気を求めて喘ぎながら、すぐ隣のモロクのいる部屋へと歩いて行った。
「申し訳ありません、海尋様」クロンシュタットがえらくバツの悪そうな顔して僕の前に来て頭を下げる。
「いいって、いいって、口うるさいクソジジイに一発かましてっやったぜ、ちょっとスッキリしたかな」とわざと悪役じみたセリフを言って悪くなった場の空気をやらわげる。
「ごめんよ、本っ当にごめん、あたしのためにキレて」
「「卑しい平民の女が侍女なんてに未分不相応なことをするから」だっけか、つまらない人間風情の分際で良くもまぁ恐れ知らずなくちを叩けるものだよ。ごめんね、嫌な思いさせちゃって」
喉元をさすりながら彼のダッカムに支えられエルンストはモロクに悪態をついていた。
「一体何者なんだ、あの痩せた背の低いガキは」
当人から離れたところで本音が出る。化けの皮というか、皇帝陛下直々の部隊を指揮する物という肩書きがなければ、ただの痩せっぽちの子供だ。
「何やら私どもの知らない技術を持った恐ろしい
「皇帝様から派遣されてきた部隊の指揮官とかいう話だったが、若すぎるな、どうにも部隊の規律も甘ったるい。あんなので、我が主人の前には出せないな、とは言っても、ブラバム様が仰るのだから連れて行かない訳にも行かんだろう、・・・しまった、招待の事をすっかり忘れておった、お前代わりに行ってきてくれ」
この親父自分の仕事を格下の人間に擦りつけよった。そりゃぁまぁ顔も合わせづらかろうよ。
ただの肩書きのでかい子供と思ったら、人ならざる
いい大人なんだから素直に謝りゃいいものを、面子がどうにも邪魔をする。そんなこといってる場合じゃあないでしょうに。それはそうと、クロンシュタットは今若干傾いている。
定遠(仮)に砲弾ぶち込む際に、俯角が足りなかったので、無理やり重力制御で海面スレスレまで船を傾けて砲弾をブチかましたのだ、そのせいで、モロクはベッドから転がり落ち、もう一度傾いたベッドに入っても気分が落ち着かないので、壁まで備え付けの椅子を動かして、壁を背もたれにして、ボーっとしている。そんなところに、ダッカムを引き連れて、ハーベイ・エルンストが顔を覗かせた。モロクの話を聞き、驚きの念を隠さず顔面蒼白になり、武装と医療の技術を目の当たりにして、えらいこっちゃ、とさらに顔面どころか、頭髪まで真っ白にして、取り返しのつかない事態にもう終わりだ。と考え替え込み、フラフラと甲板まで歩いて手すりに顎を乗せて項垂れていた。
時を同じくして、エリシケの港では、船着場に多数の蟹のような化物がその駒爪のような脚を引っ掛けて、ひらぺったい身体を港に引き上げては脚を引っ掛けてずずいと陸地にその姿を表していた。ゆっくりと、前脚の左側を港の陸地に引っ掛けて、真ん中の脚で体を引起こすようにして、一歩、二歩と足掛かりを確かめながら、ずい、ずい、とゆっくりと上陸してくる。体の部分は平ぺったく、両脳では、啄んだものを口元に運んだように縮こまっているが、その大きさたるやとんでもないもので、大の大人3人分はあろうかと言ったところだ、
脚はというと、本体の後ろ側に海老のように折り曲げて生えていて、前に四本、後ろに二本の脚が折れ曲がって付いている。船着場の船にその脚を引っ掛けて、転覆させて、大きな鋏の腕を船に突き立てて、食事用の小さい腕で、人間を捉えては、腹を裂き内臓を書き出して泡まみれの口元に運んで嘴のような口を開いて運んでいる。そんな怪物が陽の傾いた港に一杯、二杯と、いや、一匹、二匹か一体二体か、とにかく、多数でわらわらとやってこられては対処のしようがない。オーストラリアのクリスマス島じゃあるまいし、こんなにゾロゾロと一体何の用だ?しかも横じゃなくて前方向に歩きやがって。そう、歩くというよりは這いずっていると言った方が正しい。匍匐前進のように、一歩分前へ前足を動かした後、体を前へ動かし、這い上るようにして前へ進む。
港に停められている船を足がかりにして、最悪、船によじ登り、押し潰される。見た目よりも軽いのか、背せいぜいマストがへし折れて、船体が傾くだけでそのまま着底して沈没したり押し潰されたりはしない。だが、ジョンソン・ヒックス、マルゴートベックマン、ハリソン・クインシー号の3隻が蟹にのしかかられて破壊されてしまった。積荷の樽が海に放り出され、中身の鱈の塩漬けや燻製肉、酒が海に投げ込まれてしまった。とりあえず、ほっとくわけにもいかないので,様子を見に表に出ると、通りの向こう、ちょうど避難民救助用のテントがあるあたりの反対側、ここからだと左方向。建物の屋根の向こうに平ぺったいものが暗闇の向こうに
蠢いている。二階建ての建物の少し上くらいだから、7〜9メートルってところか、細い腕で
人間を挟んでは口元に運んでいる。姿が見えたままだから道造いに進んでいるのか。目的地はどこじゃいなっと。ダメだ、ここからじゃわからん、ってことでクロンシュタットの艦橋を登ってみると、マークスがものすごい勢いで駆け登ってきた
「おい海尋ちゃん!蟹だ、蟹!でっけぇ蟹が!」
「それわかりましたけど、全員待機で。」
えらくあっさりと答えると、マークスの顔が「なんで?」って顔になる。
「今回僕らは港町の砲撃に関して、調査、問題の解決に来ています。蟹の件は正式に領主からの要請がない限り動けません。」
「そりゃごもっともだがよ、せめて住民の避難誘導とかはやっても構わんだろう?」
「シズリどのぉ、シズリ殿、」
「おや、エルンスト殿いかがされました?」マークスと同じく、階段とタラップを駆け上ってエルンストが顔を出した。「何を呑気に!蟹の化物が街を、街を」
「あぁ、厄介ですねぇ。だけど頼まれもしないのに勝手に手を出すわけにもいきませんしねぇ、守備隊のモロクさん達がいるんだから余計な事するわけには・・・ねぇ」
「さっきのことなら謝る!謝罪する、だからあの蟹の化け物を何とかしてくれっ!」
「00>099:クロンシュタット!今の発言録音できた?」「>00:そりゃもうバッチリと」
「マークス、小隊全員に集合かけて!場所はテント前、モロクの隊にも武装渡せ、あ、武装はこっちか、ヴォルク!、モロクの隊に武装渡して、使い方教えてやれ!」
さて、忙しくなってきた。艦橋に続く階段でポカンとしているエルンストを置き去りにしてきた道を戻るマークス、海尋は階段を飛び降りて吸い込まれるようにクロンシュタット甲板に降り立った。広域センサーに引っかかったのが全部で7対、進行方向はバラバラだ。目的があるのか、それともないのか、自分の進行方向に邪魔なものがあるから踏み潰してって、それじゃぁ困る。まさか自分から鍋の中に入りに来たわけじゃないよな。破壊の目的があって、まさかクロンシュタットか、それとも定遠(仮)証拠隠滅にしてもあんな蟹で・・・そもそも進行方向が違うし、さては方向音痴か?
医療用テントに着くと、テントの中で木箱を並べて簡易テーブルにして、薬品の瓶を並べて簡易な地図を作って現場の様子をわかりやすくしている。並んでいるのは船かな?今のところ民家に被害は出ていないようだな。でも被害は少しづつと居住区の方へ向かっている。まぁ、倉庫倒したらその向こうの建物て事だろうけど、港の倉庫と居住区の間にある壁がいい仕事しているらしく、蟹の行手を阻んでいる。兎角、今現在進行の早い一体とそれに続く二体のカニをどうにかせにゃ。他の群れは後回し。まずマークスとコバックにそれぞれヴォルクを2名つけて
のカニを引きつけ、ヌモイ、ジョルジュ、アイザック数名つけてに蟹を押さえ込んでもらう。さて、それじゃぁ初めようか。とは言っても12.7mmじゃぁ物足りない。そんなわけで、もってきましたZiS−3、76mm野戦砲。クロンシュタットの武器庫に何故か4問あったので、2鎖引っ掛けて引きずってきたお陰で、ちょっと遅れた。軽く使い方説明してあとはよきにはからえ。弾こめのさいに手を引っ込めること、射撃時に十分後ろに下がること、ぶっつけ本番
頭の中には真っ赤に茹った蟹鍋がグツグツと美味しそうな音をたてている。蟹だけじゃ寂しいから、椎茸や白菜も欲しいな。まずは12.7mmで、やっぱり効かねぇ。裏がわの甲羅が薄いところ狙っても弾かれる。ジロリとこちらを睨みつけると、腹をこちらに見せて、巨大な鋏を振り上げてこちらへと向かってくる。そのタイミングで「弾種、鉄甲、狙いそのまま、」
そこで本音が漏れた「蟹鍋っーーー!<<うて>>」轟音と共に弾はまっすぐに頭?顔?を貫いてそのまま後ろにひっくり返って動きをとめた。「よおーし、次だ、次っ」物珍しさで周りにいたモロクの守備隊の人が反動と轟音に驚き、何だ何だと野砲の周りに集まると、危「ないよー」と声をかけた後で廃莢。調子いいことに二匹目、三匹目、とやってきた。四匹目のやつは定遠(仮)にへばりついて、繋いでいた癇煩を喰っていた。船体にしっかり爪を立て、しがみつき、細い前足で器用に縛りつけていた看板を摘んでは、鳥の嘴のような口で頭を千切って吐き出してから、胴体を掴んで内臓を啄んで《ついば》んで胴体のから内臓を取り除いてから嘴の口に持っていき、咀嚼している。咀嚼している途中で腕やら足やらがこぼれ落ちるが、また前足で摘んで口に運んでいる。化物のくせにわかっているじゃないかと、感心する。調味料人糞使う連中なんか食べたくはないだろう。かくいう僕も癇煩を食った蟹を食う気にはならず、
蟹の内臓って堆肥になるかな?と考えていたら、隣で
「クアァーニナネブェーッ!」エルンストの声で威勢のいい叫び声と共に轟音が響く。
隣にいたエルンストはともかく、自前の青銅製の大砲で蟹に狙いを定め、そして、駐退機がないから傍で撃った反動で暴れる青銅製の大砲。あれ?なんで青銅製の大砲んなんかがこんなところにあるんだ。そして、大砲の真横で
「はーはっはっははぁっ、どうだ化物め!」
威勢がいいのは結構だが、結論から言うと、あたり一面硝煙で煙だらけで、こちらとしては非常に宜しくない。視界が奪われて煙の向こうに相手がいることはわかるが、動きが見えない。と迷っていたら、大きな鋏で薙ぎ払われて、石造りの壁に叩きつけられる。一緒に薙ぎ払われた大砲とその真横でに大砲に足絵をかけて格好つけていたエルンストも一緒に薙ぎ払われ道の反対側に飛ばされていた。定遠から足を離して固められた地面をこちらに向かってくる。大きく振りかぶった鋏の右腕が勢いをつけて振り降ろされる。ガードの姿勢を取って振り下ろされる一撃に備えるも、上から降ってきた鍋に潰されて「ゴシャァ」と言う音とともに蟹が地面に突っ伏してのびている。
「海尋様っ!お怪我は御座いませんか?」サーシャだった。
「何やら巨大生物に襲われてお困りのご様子。侍女一同、お力添えに馳せ参じまして御座います」
そう言って、巨大なおたまやら、木べらをで中に背負ったサーシャが鍋の淵から顔をだす。「何だろなー説得力が全く感じられないのは僕の気のせいか」壁沿いに額を押さえて立ち上がると、次女さん達は蟹の解体作業を始めていた。手に手に大型の船舶解体用カッターを持って、
「硬ってーですわね!全くどんな進化の系譜辿ればこんなのが出来上がるんだか」「なぁこれ(蟹の外皮)で装甲服作ったらいいんじゃね?」「いやよ、蟹臭い」蟹にロープをかけてロープ伝いに「手足は付け根でぶった斬ってええんか」「切ったらそこに纏めといて、ふん縛って、
クロンシュタットの冷凍庫入れとくから」とわいわい楽しそうに解体している臙脂色の侍女服着たうちの侍女様。
「それにしてもなんでステルスで来たの?僕のセンサーにはひっっからなかったし、クロンシュタットからも連絡はなかったけど」
「その方ヒロイックだからです」
一方サーシャはと言うと、そっぽを向いて、薪にした廃材を竈門に放り込みながら
「その方が劇的でカッコイイじゃないですか」
後から付け加えるようにそういうと、親指をビシッ!と突き上げてきた。
「カッコイイというよリは、ドリフのコントかギャグマンがにしか見えない、大体どうやって鍋も運んできたのさ」なんか納得できない。
極光商会繁盛記 マギカロジカオペレッタ 八畳一間 @8jo1ma
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