No.32 はるなつオーバードライブ

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 問題解決のため、夜にデブリを誘い出すことにはしたものの、その結果が出るのは早くても週末……ナツがN世界に戻り向こうの科学者に分析結果を聞いてからである。

 それまでの間は普段通りに暮らすしかない。

 もちろん、夜の公園以外で大型のデブリが出てこないとも限らないため、警戒は怠らないが――




「ねぇねぇ、マリちゃん!」

「はいはい、どうしたのナツ?」

「……」

「……疎外かーん……」


 普段通りの平日、ハルの通う学校にて。

 昼休み――ハルたちは集まって昼食をとっていた。

 メンバーはハルとナツ、それに良樹と風見真理の4人である。

 『催眠電波』で紛れ込んでいるだけのナツはともかく、何かと注目を浴びやすいメンバーが揃っておりチラチラと視線を感じてはいるものの、無理矢理4人の輪に入ろうとするものもなく比較的平和な昼休みであった。


(……誰にも邪魔されずに飯が食えるなんて、家の中以外では久しぶりだなー……)


 ハルとナツでそれぞれ男女の視線を集め中和しているのだろう。

 互いに互いが牽制しあうような形となっているのか、一人でいようものなら群がってくる女子も出てこない。

 ……良樹だけだと抑止力にならず、真理は良樹の彼女であることが知られているためこちらもまた抑止力にならない。

 ナツがいるからこその抑止力、そうハルは考えていた。




 それはともかく。


「……ナツ、そんなにべったりしてたら風見さんも困るだろう」


 助かっているのは事実ではあるが、だからと言って他人に迷惑をかけるわけにもいかない。

 ハルはやんわりとナツに注意をする。

 今4人は、机を向き合わせて座っているのだが――ハルと良樹が横並びに、その正面にナツと真理が座っている。

 そして、ナツは隣の真理にべったりなのだ。


「別に大丈夫ですよ、四季嶋君」

「……風見さんが大丈夫でも、良樹が――」


 良樹は自分の彼女を取られていじけている。

 ……ようには見えているが。


「え、俺? いやいや、俺は別に大丈夫だって」


 慌てて元の調子に戻る。


「そりゃ、もしハルにべったりなら嫉妬もするけどさ。

 ……ありえないだろ」

「まぁ……」


 『女嫌い』がネタでも冗談でもなく、本気であることは良樹も知っている。

 ありえるとしたら真理がハルに……というパターンだが、そうならないであろうことは良樹もよくわかっているし、真理のことを信頼している。

 仲のいい女友達とのじゃれ合い――良樹からすれば、ナツと真理の関係はそう見えているのだ。

 そんな友達付き合いに嫉妬するほど、良樹は度量の狭い男ではない。


(……良樹が気にしないのならいいけど)


 一方で、ハルは良樹ほどすんなりと割り切れていない。

 おそらくその理由は、だろうということに気付いてもいた。

 見た目も性格も違うし、もちろん全く別の意思と人格を持つ人間だということは理解しつつも、『同一人物』だという何とも奇妙な感覚が『自分が良樹と真理の邪魔をしているのではないか』と思わせてしまっているのだ。


(風見さんも、まぁ多分嫌がっている様子はないし……それに――)


 ハルの視線は自然とナツの方へと向けられる。

 元々よく笑う娘であったが、ナツが真理へと向ける笑顔は心の底から楽しそう――いや、『嬉しそう』なものだとハルには見えた。

 その理由にも見当がついている。


(俺がしすぎているだけならいいんだが――)


 N世界での真理とナツの関係は、H世界におけるハルと良樹のようにはなっていないように見えた。

 男女の違いがあることで人間関係が大きく変わるのは当然だとも思えるが、それ以上の『何か』があるようにハルには思えた。


「ねぇねぇ、ハル、諸星君! 私たち今日の放課後デートしてくるね!」

「えー? じゃあ俺とハルで遊びに行くか?」

「……そうだな。ここのところご無沙汰だったしな。たまにはいくか」


 少し迷ったが、承諾することとした。

 護衛なのにいいのか、とも思うが人気のある場所ならば大型のデブリは現れることはないだろうと予測している。

 何よりも――


(ナツと風見さんの関係が気になる)


 N世界でのことを根掘り葉掘り聞く気はないし、自分の予想を確かめるつもりもない。

 それでも、ナツが楽しそうに過ごせているのであればそれに越したことはない。そうハルは考えるのであった。

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