No.20 智と科学と傲慢 ~ナツの世界(前編)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「しかし……こうしてみると、やはりN世界は俺の世界と違いはあるんだな……」
アキたちが来るのを待っている間、ハルとナツはそのまま展望ラウンジでのんびりとしていた。
今後のことについてどうするかは全員が揃ってから――H世界に戻ってからでもいいだろうということで、最後に残ったN世界の見学だ。
ハルが想像していたような『未来都市』とは違うが、それでも見渡す限り背の高いビルが林立する、H世界の大都会でもありえないような光景ではある。
そこに実際に行かなければ『映像を見せられているだけ』と言うことはできるが……。
(……もう並行世界は疑わないでもいいな)
A世界とF世界でおなかいっぱいだった。
疑えばきりがない。
唯一わかっている『デブリに狙われていること』が確実なのだから、これ以上ナツの言葉を疑うことに意味はないとハルは判断した。
それに、感情と本能ではナツのことを既に信じているのだから。
「今日はアキ姉たちと合流した後、H世界に戻っちゃうけど……機会があれば散策とかしてもいいかもね」
「そうだな。A世界とかに比べれば危険は――ない、よな?」
「うん。そりゃまぁ交通事故とかには気をつけなきゃだけどね」
超科学の未来世界であっても、交通事故はまだ起きるらしい。
とはいえ、それはH世界も同じだ。怪物じみた生物に襲われる世界に比べれば、全然安全だろう。
そのまましばらくアキたちを待っていた二人だったが……。
「へへっ、ナツミ! 会いたかったぜ!」
「…………」
ラウンジにやってきたのは、アキたちではなかった。
爽やかな笑みを浮かべたイケメンと、その後ろに静かについてくる少女。
その二人ともに、ハルは見覚えがあった。
「!? 良樹……? それに風見さん……?」
顔も声も身長も、全てがハルの知る二人と同じだった。
唯一違うのは服装――風見の方はナツが着ているのと同じデザインの制服であり、おそらくは良樹の方はその男子版だろう、と推測する。
(……この世界の良樹たちか……)
科学力の差はあれど、それ以外に大きな変化がない。
だから良樹たちの容姿にも変化がない……そういうことなのだろうと納得しておく。
現れた良樹はわき目も振らず、一直線にナツの元へ。
「心配してたんだぜ? もう終わったのか? 怪我とかしてないよな?」
「あ、あの……その……」
詰め寄る良樹は恐らく心の底からナツのことを心配していたのだろう。
……その心配がただの友人とは思えないほど過剰なのは、ハルの勘違いではない。
ナツの方はやはり『男嫌い』が発動しているのだろう、教室の時のように緊張し俯きがちになってまともな返答ができない。
助けを求めるようにハルへと視線を送り――その視線に気付いた良樹がハルを見、剣呑な視線を向けてくる。
(……! これは――
天才なだけでなく度胸もあるハルと言えど、自分の親友から向けられる『敵意』の籠った視線には思わず怯んでしまった。
「……ああ、てめぇか。ナツミを困らせてるっつー並行世界の野郎は」
「お、俺は……」
今度はハルが困る番となったが、ナツに助けは求めない。
『困らせている』というのも事実だ。本人に原因がないとは言え、ハルが狙われなければナツが並行世界を旅する必要もなかったのだから。
そもそもナツに助けを求めることはしてはならない。
なぜならば、アキとフユの『男嫌い』とは異なり、ナツの『男嫌い』は
いくらN世界の話だからと言って、この対処をナツに求めるのは酷だと思っている。
さりとて、ハルがどうにかできるかと問われれば――こんなわけのわからない状況に陥ったことがないため解決策が思い当たらない。
頭脳をフル回転させてこの状況を切り抜ける方法を考えるが……。
「あら~? 喧嘩かしらぁ~?」
「ひぃっ!?」
「あ、アキさん……」
救世主は外からやってきた。
シャワーを浴び、着替えも終わったアキとフユが揃って展望ラウンジへと到着したのだ。
アキは明らかに『軍人』のような服をやめ、街中を歩いている『お姉さん』と言ったこれといった特徴のない女性服に。
フユはなぜか黒をメインとした、いわゆる『ゴスロリ』服に……。
「も~、喧嘩なんてしちゃ『メッ』ですよぉ~?」
穏やかに言うアキではあったが、目には見えない『圧』を発しているのをその場にいる全員が感じていた。
『
「……アキナさん、フユさんも合流したし、最後の準備を」
一歩離れて何も発言しなかった風見がこれ幸いと場を仕切る。
(……情けないな、俺……)
自分では何も解決できなかった。
そのことをハルは悔やむのであった……。
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