No.34 はるふゆハイパーバースト
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
4人揃って夕食を摂り、順番に風呂に入り、上がってからはリビング――ワンルームなのでハルの寝室ではあるが――で揃って団欒、というのがここ最近のハルたちのルーチンであった。
団欒時に何をするかはその時々によって異なるものの、最近は段々と固定化されていっている。
彼らがすることとは――
「…………」
押し黙るハル。
彼の膝の上にはフユがちょこんと座っており、その視線はテレビ画面へとくぎ付けになっている。
「うぅ~……やだやだやだ……」
「……」
ハルの右腕にはガタガタと震えるナツが抱き着き。
同じく左腕には震えてはおらずいつも通りの穏やかな表情のアキが抱き着いている。
……平静を装っているアキではあるが、ぎゅっとハルの腕を胸に抱えるようにしていることから、内面はナツ同様であろうことは推測できる。
そんな彼らが見ているのはテレビ画面――そこに映し出されているのは、鬱蒼とした森。
森の中を一人の青年が歩いている。
「……
ポツリとフユが呟き、その数秒後――
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「……っ!!」
青年が何かに気付き振り返ろうとした瞬間、その首がぽーんと
背後からの凶刃によって青年の首が一撃で切断されたのだ。
噴水のように血が噴き出し、暗い森を染めてゆく。
……そんな青年の首を切断した犯人は、返り血を頭から浴びながらも平然とし、そのままどこかへと歩いてゆく……。
――ハルたちが見ているのは、いわゆる『ホラー映画』。その中でも『スプラッター映画』に分類されるであろうものだった。
人里離れた森の中、キャンプに訪れた若者たちが一人、また一人と殺人鬼の手に掛かかってゆく……というオーソドックス極まりないものである。
ここ最近のテレビ放送では流されなくなってしまったものだが、ハルの所有するテレビはインターネット接続することで様々な動画サービスを利用することが出来る。
その動画サービスで提供されている古いホラー映画を皆で鑑賞しているというわけだ。
(……意外だ)
映画の内容よりも、三人の反応を見てハルは思う。
ナツは――まぁ予想通りの反応だった。キャーキャー言いながら、全力でホラー映画を楽しんでいると言えるだろう(本人的には本当に怖がっているのだろうが)。
意外なのはアキで、ナツのように悲鳴を上げることはないものの、ハルの腕に必死に抱き着いて離れる様子がない。
ナツの悲鳴と連動して、腕を締め上げてくるので『怖がっている』のには間違いないだろう、とハルは予想する。
(アキさん、こういうの何とも思わなさそうなんだけどなー)
もう一人、意外な反応なのがフユだ。
このホラー映画もフユが『みたい』と提案してきたものなのである。
そして、彼女だけは全く怖がっておらず、興味深そうに画面に集中しており、殺人鬼が出てきても全く反応していない。
……かといって残虐シーンを見てケラケラ笑うようなこともないのだが。
(よく考えたら、フユの『日常』はマジで命がかかっているからな。だからかな?)
凶悪極まりなく、一切の抵抗さえできない『鬼』と化した男たちが跋扈する世界の住人であるフユだ。常に『命懸け』の日々を送っていたことだろう。
正真正銘の怪物を目にして死と隣り合わせの日々を送っていたのだから、作り物の殺人鬼など彼女にとっては恐れるに足らない存在なのかもしれない。
(……気になるのは、フユの『危険感知』が映画でも働いているってことか。確かに凄い能力だ……)
映画を見慣れているのであれば、『あ、こいつここで死ぬな』みたいな予想は立てられるだろう。
フユはそういうのとは関係なしに、画面に映っている登場人物の危機を正確に予測している。
おそらく、ナツとアキに警告してくれているのだろう。とハルは考えている。
(もしかしたら、危機感知が鈍ってないか確認しているのか? いや、まぁそれもありそうだが……多分、純粋にテレビが面白いんだろうな)
日頃からテレビを一生懸命見ているのをハルも知っている。
ハルたちが学校に行っている日中に何を見ているのかまではわからないが、アキ曰くほぼずっとテレビの前から動かないとのことだ――買い物には連れて行っているのだが。
F世界には存在しないテレビや映画が、フユは純粋に好きなのだろうと好意的に解釈する。
「……ねー……この人たち、なにしてるのー……?」
「え? ああ、えっと――って!?」
色々と考え込んでいて映画の方に集中していなかった。
フユの問いかけに答えようと画面を見たハルが、思わず口を噤んだ。
なぜならば、画面の中では裸の男女がいて――まぁ、色々と、やっている場面だったからだ。
流石に古い映画だからといっても、モザイクが必要なところは映してはいないが……。
「さ、さぁ? 何やってるんだろうなー?」
「……おにいちゃん、なんでめかくしするのー……?」
フユが同年齢だというのは知識としては知っているが、思わずハルは膝の上のフユを抱きかかえるようにして両目を手の平で塞ぐ。
「……なんで俺の目を塞ぐんだよ……?」
と同時に、ナツとアキがそれぞれの手でハルの目を塞ぐのだった。
「…………あ、くるよ……」
あはんうふんと子供には見せるも聞かせるもしたくない場面は、乱入してきた殺人鬼によって無事中断されるのであった。
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