No.35 はるはるアナライゼーション
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜――
(皆、もう寝たか……)
四季嶋家の夜は、意外にも早い。
まずフユは見た目通り幼いためか、比較的早めに眠くなるようだった。遅くても22時には限界を迎えてしまう。
続いて、意外にもアキが眠ってしまう。
A世界で夜間の狩りはあまりやらないようで、彼女は太陽に合わせて寝起きしているのが普段なのだ。H世界にきてから少し夜遅くまで起きれるようにはなっていたが……それでも日付が変わるまでは起きていられない。
なので、大体二人が眠くなってきた頃合いで各自の部屋へと戻って就寝となる。
……ハルの部屋だけはどうしても共用部分となってしまうのがネックではあるが、ハルは4人の中では一番遅くまで起きているのでそこまで問題ではなく本人も気にしていない。
(さて、現段階での状況を整理しよう)
ベッドに入りはしたがあまり眠くもない。
この時間を利用して、ハルは状況の整理を行い――あわよくば事件の解決の糸口を見つけ出そうとしていた。
(まず、明日にはナツがN世界に一度戻って状況を確認してくる)
デブリ釣りを何度も繰り返してきたのだ、N世界でも観測しているというからには何かしらの情報が得られるはずだ、とハルは期待している。
(ナツの持ち帰った情報次第ではあるが――)
可能性としては2通り。
N世界側で原因となるものを突き止められた――こうなれば最上だ。原因の種類にもよるが、一気に問題解決できる可能性が高くなる。
もう一つの可能性としては、
こうなったら最悪……
(N世界側でわからないとなったら……かなり厄介なことになるが、それでも問題の解決には一歩近づくことになる)
並行世界のプロフェッショナルが揃っている(はずの)N世界側で『何もわからない』ということは、情報量がゼロを意味するわけではない。
ハルの考えが正しければ、それは
(……ありえるのか、そんなことが? だが……)
N世界以上の並行世界に詳しい世界があれば話は別だが、その可能性はあまり考える必要はないと思われる。
仮に存在していたとして、N世界が観測できるであろうし、N世界と同じ理由でハルを積極的に狙う理由もなさそうだ。
可能性の一つとして頭の片隅に置いておくくらいで良いだろう、とハルは切り捨てることにする。
今考えなければならないのは、ナツの持ち帰ってくる情報のうち、後者だった場合についてだ。
(デブリは俺の周囲、そして他の人間がいない時に現れる。
そして、時間がたつごとにどんどんと質量を増していっているように思える)
今のところデブリは脅威たりえない。
出現の予兆はフユが教えてくれるし、今の倍以上の大きさ・数であってもアキにかかれば鎧袖一触であろう。
更にはナツの持つ超科学兵器も控えている。真正面から襲い掛かられても何の問題もない。
問題となるのは、ハルが3人と合流できない状況でデブリに襲われた時だろう。そうならないように注意を払ってはいるが……。
(アキさんならばもっと大きなデブリでも簡単に倒せるだろうが、やはり時間をかければかけるほどこちらが追い詰められている――その事実に変わりはない)
ハルの予想はあくまでも『予想』でしかない。
突然手に負えないほど巨大なデブリが現れるかもしれないし、人前であろうとも出現するようになるかもしれない。
早めに決着をつけるべき、という考えにやはり変わりはない。
(――そういえば、
様々な可能性を検討していたハルが、ふとある疑問を抱いた。
否、あまりにも当然……あるいは『前提』であったが故に自然と受け入れてしまい忘れていた根本的な疑問だ。
(
『特異点』だからハルを狙う、それはあくまでも『動機』の話だ。
ハルたちには理由はわからずとも、『特異点』を狙う何かしらの利点があるのだろうと納得することはできる。
しかし、納得できないのは『なぜ今になって』なのかという『時期』の問題だ。
(ナツの話によれば並行世界の観測自体は200年ほど前からできていた――実際に安定して
アクシスの観測ができるようになった時期と、ハルの周囲にデブリが出現するようになった時期が一致していれば話は早い。
このパターンならばN世界側が原因であり、問題の解決方法も既に検討されていると期待できる。
だがきっとそうではない。
複数のアクシス間を跨って調査し、無数の人間の中からハルが『特異点』だということが判明するまではかなりの時間を要するはずなのだ。
だから年単位のラグがあるのは疑いようがない。
(……もっと早くに俺が狙われてもおかしくないのに、なぜ今なんだ?)
あまりにも小型すぎるデブリだったので気付かなかったが、それがついに大きくなった――とも考えにくい。
ナツと最初に出会った時のデブリは、少なくともハルの身長よりも大きなものであった。
前々から時間をかけて大きくなっていったというのであれば、もっと前から気付くくらいの大きさのデブリが出現していたはず。そうでなければ辻褄が合わないとハルは考える。
(あのデブリが最初である、と考えても問題はなさそうだな。
となると――やはりなぜ今なのか、という疑問が出てくるが……)
おそらく『そこ』に根本的な原因があるのではないだろうか、と推測する。
考えすぎであって全て『偶然』の可能性もあるが、そうだと断ずるに足る情報もない。
ならば、『偶然』ではなく『必然』――デブリが急にハルの周囲に出現するようになった『理由』があることを前提に考えた方が良い。『偶然』だった場合であっても、特に損することはないのだから。
(前に襲われず、最近になって襲われるようになった――何か『原因』があるはずだ。
一年以内……いや、数か月、下手すりゃナツと出会ったその日に何かがあった――そう考えよう)
色々と考えはするものの、それらしき出来事が思い浮かばない。
いつものように女性につき纏われ、告白を断り……と特に変わった出来事はなかった――日に数度も告白されるのは到底『普通』とは言えないのだが、ハルにとっては日常茶飯事であることを置いておいて。
(……あ、そういえば一個だけあったな。まぁ俺絡みの話じゃないから関係ないだろうが)
一つだけ、ハルの周りで変わった出来事があった。
それは、親友の良樹が風見真理と付き合い始めたということである。
数か月前のバレンタインの時に真理から告白し、即答でオーケーしたと良樹が言っていたことを思い出す。
良樹以外に男友達がいないわけではないが、女子と付き合うことになったという話は他に聞いていない。
確かにハルの周囲では珍しい出来事ではあるものの、ハル自身に関係するようなものでもない。
(……わからん……)
ベッドで目を閉じながら色々と考えてきて眠くなってきた。
考えることは無駄ではないがこれといった成果も出てこない。それが余計に眠気を誘ってくる。
(ま、明日のナツの情報にも期待しておくか……)
即解決には至らないかもしれないが、それでも何かしらの情報量にはなる。
そこから新たな可能性を考えることもできるだろう。
ハルはそう思いつつ、眠りにつくのであった。
望まず長期戦になると思われた今回の事件。
ハルたちも実際に長期戦を覚悟していたのだが――事態は思いもかけない急展開を迎えるのである。
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