PART 5 : アオハルデストラクション
No.36 崩壊の序曲(前編)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日――
ハル、アキ、フユの3人は町へと買い物に出かけていた。
ナツは予定通りN世界へと単身戻り、向こう側での調査結果を聞くため不在である。
「昼ご飯には戻るから! 絶対戻るから! アキ姉、私の分も用意しといて~!」
と必死に訴えかけてくるナツの熱意に圧され、3人はちょっと早めの買い物に出ているというわけだ。
ここで昼と夜ご飯の材料を共に揃えてしまえば、午後は丸々空くことになる。
(ナツの食い意地はともかくとして、持ち帰って来た情報を聞いて今後の方針を考えるには丁度いい時間か)
夜のデブリ釣りを続けるか否か、あるいは他の行動をとるべきかの相談も午後が空いているならやりやすい。
アキ一人に買い物を任せてハルとフユで留守番するというのも選択肢ではあったが、やはりいざという時にデブリと戦えるアキの傍にいた方が良いだろう、ということで全員でお出かけである。
……フユはテレビを見たそうにしていたが、ワガママを言うことはなく着いてきてくれている。
(うーん、一人で留守番させるのは不安だしなぁ)
頭では同い年だとわかっていても、どうしてもフユについては『子供扱い』してしまう。
テレビが見たいから行かない、と言われるとハルもアキもあまり強くは言えなかったのだが、意外なほどすんなりと言うことを聞いてくれているのはありがたい。
フユも状況は理解できているためだろう、とハルたちは好意的に解釈することとする。
そして、3人がやってきたのはいつものスーパーではなく、全国展開している巨大ショッピングモールであった。
大体の用事はいつものスーパーで充分なのだが、今日は他にも色々と買い物をする必要があるためこちらへとやってきている。
いつもよりも荷物が多くなってしまうため、やはり3人で来て正解だったと改めてハルは思う。
「そこそこ混んでるな」
休日の午前中ということもあるのか、ハルの予想よりは人が多い。
レジも長蛇の列……というほどではないが数組は待たねばならないくらいではある。
買い物をしてレジに並んで歩いて帰るとして――正午にはアパートに戻ることは可能か、とハルはざっくりと頭の中で計算する。
思った以上にナツが早く戻ってきたら『お腹空いたー』と騒ぎ出しそうな微妙な時間ではあるが、それは我慢してもらうしかないだろう。
「……」
「あら? どうしたの、フユちゃん?」
ショッピングモール入口でカートを用意して……どこから回るか、と考えていたハルとアキ。
そんなアキの服をフユがくいくいっと引っ張ってくる。
「……トイレー……」
「あ、あらあら」
普通の17歳ならば一人で行って後で合流、とできるだろうが……。
困ったようにアキがハルへと視線を向け、
「……まぁ人もいっぱいいるし、大丈夫でしょう。アキさん、フユのことお願いします。俺、その辺、適当に見てるんで」
ハルはそう答える。
安全を考えれば離れるべきではないが、流石に女子トイレの近くをウロウロしているわけにもいかない。
フユのことはアキに任せ――フユを一人にしておくと今度は彼女の身が危ういためだ――ハルは一人で行動することにする。
「……わかったわ。何かあったら、すぐ連絡してね、ハル君」
少し悩んだようだったが、アキも了承する。
ナツから渡された『超科学脳波通信機』は健在だ。
アキは常に身に着けているため、いざとなればハルもそれで連絡することができる。
「はい。じゃ、また後で」
単独行動は避けた方がいいのはわかっているが、人目の多いショッピングモールならばむしろ人気の少ない隅っこのトイレよりも買い物するフロアの方が安全だろうという判断もある。
とにかく、ハルとアキ・フユは一時別行動をすることとなった。
――これを『油断』とは言えない部分はあるだろう。
(さて、とは言いつつも……別に俺一人で買い物するわけでもないしなぁ)
そんなに長い時間待つ必要もないはずだろうが、やはり女子トイレ前では待っていられないというだけでその場から離れてしまったが、少し早計だったかもとハルは後悔する。
食料の買い物についてはアキがいなければならないし、他の生活用品の買い出しをするとなると逆に単独行動の時間が増してしまう。
なので、結局少し離れた売り場をウロウロしてこれから買うものの『予習』をするだけに留まる。
(……むぅ、こういう時に『女』ばかりってのはやっぱりなー……)
家族も父親以外が女性なので慣れているし、『そういうもの』というのはわかっているが、どこか居たたまれない思いは拭いされない。
並行世界の自分と言えども、性別の壁はやはり大きい。
ハルが自分で思うよりも、彼女たちにも色々とあるのには違いないのだ。
長年の経験から、『男』がそうした領域に迂闊に踏み込むのは何一つとして利はないとわかっているため、ハルは何も言わず、そして何も思わず自然と距離を取るように移動する。
とりあえず売り場でも覗くか、それとも邪魔にならないような隅っこでスマホでも弄ってるかと思っていた時だった。
「お、ハルじゃねーか」
「? 良樹に風見さん……奇遇だな」
「おはようございます、四季嶋君」
偶然にも出会ったのは、良樹と真理の二人だった。
二人とも高校の近く――つまりはこのショッピングモールの近所であるのだ、顔を会わせることに不自然さはない。
また、このショッピングモールはこの付近のターミナル駅と直結している。どこかに出かけるにしても、ここを通るのは自然なことであった。
「……デートか」
見ればわかるだろう、と思いながらもついつい口にしてしまう。
二人の関係がうまくいっているようで何より、と心の底から思いつつも若干『羨ましい』という気持ちは否めない。
その気になればいくらでも彼女を作ることは出来るハルではあるが、『女性嫌い』という致命的な欠点に変わりはない。
……拒否反応の起きないナツたちには何の気持ちもわかないし、ハルにとっては縁遠いものなのであった。
「ああ、ちょっとな」
「……ふむ?」
微妙に言葉を濁す様を見て――ハルは悟った。
これはあまり深く突っ込まない方がいいところに出かけるつもりなのだ、と。
「そうか、まぁ……楽しんできてくれ」
「お、おう」
こういう時に多くを語らないのは、男同士の暗黙の了解である。多分。
「四季嶋君は買い物ですか?」
「ああ。休みの日に買いだめしておかないとな」
「そういや、ナツちゃんと一緒じゃないんだな?」
「あ、ああ……」
アキたちについてはまだ良樹に紹介していない。
ここで下手に顔を合わせると、事情の説明やらで良樹たちの時間を取ってしまうことになるだろう。
言葉を濁しつつ、ハルは良樹たちを促す。
「あいつとはまた後で合流するさ。
それよりも、二人とも行かないでいいのか?」
「――っと、そうだな。真理、行こうぜ」
「う、うん。それでは、四季嶋君。また来週、学校で」
「ああ。じゃあな、二人とも――」
微妙に来週顔を合わせるのが気まずいなー、とお互いに思いつつもそれぞれの休日を過ごすべくハルたちはその場を後にする。
ハルもその場にとどまっているのも何なので、適当に離れようとした――それが、アキたちと物理的な距離を開くことになってしまう。
ハルと良樹たちがそれぞれの方向に歩き出して距離を取った時だった。
(――? なんだ、騒がしくなってきた……?)
離れた場所からさざなみのように、そしてさざなみはすぐさま荒波となりハルの元へと押し寄せる。
――パニックの波だ。
ハルが気付いた時には、もう手遅れだった。
「うわっ!?」
動揺の気配が声となり、悲鳴となり、ハルの元へと辿り着いた時には逃げ惑う人……という物理的な波と化していた。
(一体何が起きている!?)
ついには異常を察知したらしいショッピングモール側が、緊急放送をはじめ更に音の波が増幅される。
そして、人の波に逆らおうとするハルは
「…………嘘だろ……!?」
視線の先、パニックの源となった思しき方向にありえないものがいた。
それは、かなり高めのショッピングモールの天井に届くほどの高さを持つ黒い泥――
「デブリ……!?」
人目があるにも関わらず、という段階をすっ飛ばし、かつてないほどの巨体を持つデブリが突如としてショッピングモール内に出現したのであった。
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