No.33 はるあきリミットブレイク

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 夜――いつも通りの『デブリ釣り』の時のことだ。

 初日以降の数日は1匹ずつ現れていたデブリだったが、今日は様子が異なっていた。


「数が多いな……」


 大小様々な大きさのデブリが複数。

 ハルたちを取り囲むように出現している。


(……が当たったか?)


 この状況においても、ハルは頭の片隅で考え続けている。

 デブリの出現における『法則』というか『規則』についてだ。




 『デブリ釣り』を始めた最初の日に現れたのは、巨人と言ってもおかしくないほどの大型だった。

 それ以降に現れたのは、サイズはバラバラだったがいずれも初日に現れたのよりは大きなデブリ。

 そして今日は、今までの集大成とでもいうのか、多種多様な大きさだ。


(結論としては、デブリを出現させなければ大きくなっていく――つまり『溜め』ていくのではなく、、か)


 まだ確定ではないが、おそらくはそうなのだろうとハルは予想した。

 もしかしたら法則性などないのかもしれないが、それは楽観的な予測だろうとも思う。

 楽観視して『時間をかけても大丈夫』と油断してしまうことだけは避けねばならない。


「おい、ナツ。俺にも何か出来ることはないか?」


 ともあれ、今は目の前の問題解決が優先だ。

 流石に相手の数が多い。

 いくらアキが強くても、複数相手では――と考えたハルがナツに訊ねる。

 生身でデブリと戦うことは出来ずとも、ナツならば『超科学なんちゃら』的な武器を持っているのではないかと思っての問いかけだったが、


「大丈夫よ~」


 ナツが答えるよりも早く、のんびりとした口調で――敵の数に全く焦ることなくアキが答えた。

 と同時に、アキの姿が消えた……ようにハルには見え、次の瞬間には、


「…………マジかよ……?」


 周囲を取り囲んでいたデブリたちが、ほぼ同時に吹き飛ばされ消滅していった。


(もうバトル漫画の領域だな)


 目にもとまらぬスピードで移動、と同時にデブリたちを殴り飛ばしてあっという間に一掃してしまったのだ。

 ハルの目には見えないものの、起きたことを考えればそうとしか言いようがないだろう。

 ……そのうち、全男子憧れの『なんとか波』とかも使うんじゃなかろーか、と期待なのか呆れなのかよくわからない感情も抱いてしまう。


「えーっと……一応護身用のアイテムとかあるけど……いる?」

「あ、ああ……一応くれ。一応、な」


 少なくともアキが近くにいる間に使うことはないだろうなと、二人とも思うのであった……。




 ここ一週間と少し。

 ハルにとって共に暮らして一番印象が変わったのは、アキである。


「ねぇねぇハル君、これならフユちゃんも食べられると思うんだけど、どうかな~?」

「……ふむ。いいんじゃないでしょうか」


 話題の中心人物たるフユは、今はナツと共にお風呂に入っている。

 彼女たちが上がってくるのを待っている間、ハルは適当に時間を潰し、アキは熱心に料理の本を読んでいた。

 その中でフユでも食べられそうなものを探しているのだ。

 フユは未だにこの世界の食事を『食べ物』として認識できておらず、また様々な食品添加物はおろか調味料も食べ慣れていないため、口にできるものが極端に少ないのだ。

 だからと言って毎日『豆』だけを食べさせるわけにもいかない、とアキは奮起してフユでも食べられるように常に工夫をしているのだった。


(面倒見は本当にいいんだよなー。もう『姉』というより『母』のレベルだ……)


 家事は料理を含めてあっという間に覚え、今やハルよりも全てが完璧に行えるほどになっている。

 多少甘やかし――フユに関してはハルも人のことは言えないが――すぎるところはあるものの、もはや『母親』と言ってもいいだろうほどだ。


「アキさん、本当にありがとう」

「? あら、どうしたの~?」

「いや……家のことも任せているのに、デブリとの戦いもアキさんに頼りっぱなしだからさ……」


 心苦しいのは、ほぼすべてをアキに任せてしまっている現状だ。

 もちろん、ハルも一人暮らし歴はそれなりにある。出来ることは自分でやろうとはしているのだが――日中に時間の余裕があるアキにほぼ全てをやってもらっているという感じである。

 しかも、肝心のデブリとの戦いにおいてはアキの戦闘力に頼るしかない。護身用アイテムはあくまでも『護身用』にしかすぎない、狙われている対象のハルが積極的に打って出るわけにはいかないだろう。

 その辺りにやはり『男』として思うところはあるが……。


「ふふふ、それがわたしの役割だからねぇ~。ハル君が気にすることはないわよ~。

 それに……」


 一旦意味深に言葉を切り、にこりと微笑みかける。


「向こうにいる時よりもずっとですからね」


 その笑顔には嘘はないようにハルには見えた。


(……アキさんが本来の世界でどんな生活してたかわからないけど……)


 殺伐とした世界なのは疑いようはないだろう。

 アキも荒事は特に嫌いではないようだし、身体を動かすことは好きなようだ。

 けれども、今の(デブリの問題はあるが)『平和』な暮らしが『楽しい』というのも本音のようだった。


「ふぅー、お風呂あがったよー」


 と、そこでナツとフユが風呂から出てくる。

 ……流石に裸のままうろつく癖はもう治っているようだ。


「あら、それじゃあ――ふふふ、ハル君、一緒にはいる?」

「…………勘弁してください」

「ふふ、残念♪」


 悪戯っぽく笑うアキ――そんな彼女を見て、ますますハルはアキのことがわからなくなるのだった。

 ただし、それは決して悪い意味ではない。

 『原始人』のような生活をしていたはずなのにあっという間にH世界の生活に慣れ、それどころか本当は同い年にも関わらず『母親』のような役割をこなし、かと思えばハルを揶揄うような悪戯な面も見せる。

 アキもやはり、ハルには理解できない『女』なのだ、と改めて思い知るのであった。

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