No.13 チアーズ! ”俺”ハーレム部隊結成(中編)

 『超科学パラレルワールドゲート』――それは、初めてハルとナツが出会った時にナツが現れたのと同じ、『光』……としか言いようのないものであった。

 凄まじく輝いているものの、不思議と眩しいとは感じない。直接目にしてもチカチカしない、不思議な光だった。

 ハルの部屋中央に設置されたゲートを前に、流石のハルも緊張を隠せない。


「……戸締りは大丈夫。よし、行くか」


 しかしいつまでも待ってはいられない。

 覚悟を決め、ハルとナツはゲートを潜り――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「――ここは……!?」


 ナツと共にゲートの光へと入った、と思った次の瞬間。

 ハルの目の前に全く異なる景色が広がっていた。

 ……いや、『景色』というには少し物足りない。

 、と言い換えた方が適切であろう。

 自分たちの足元にある『台座』のようなもの以外何もなく、壁床天井全てが白一色に染まった少し広めの部屋だった。

 ベッドも何もない病室……というのがハルの率直な感想だった。


「おつかれ~ハル。戻って来たわねー」

「……ここが、N世界……?」

「うん。『超科学パラレルワールドゲート』の本体が足元のね。

 こっちからあっちへ行く時は割と自由に場所を選べるんだけど、あっちからこっちに戻ってくる時は必ずここになっちゃうのよねー。ま、そのうち改良されてどこでも自由に行き来できるようになると思うけど。

 ……って、そんな話してても仕方ないか。こっちよ、ハル」

「お、おう」


 ナツが何もない壁の一方へと向かい、ポケットから出したカードキーのようなものを翳すと、壁が音もなく横に開く。

 その先には廊下のようだった。


(……眠らされてその間に別の場所に連れてこられた、という可能性は否めないが……いや、しかし……)


 まだ本当にN世界――自分の世界と全く異なる世界かどうかは確証が持てない。

 ナツのことは感覚としては信じているが、『最後の一押し』にはまだ足りない。

 とりあえずハルは大人しくナツについていくのであった……。




 窓のないそこそこ広めの廊下を少し進んだ後、別の部屋の扉の前でナツは足を止める。


「じゃ、これから一人ずつ別の並行世界から来た私を紹介するわね。

 …………多分大丈夫だと思うんだけど、その……?」

「……は? 多分? 気を付けて?」

「入るよー」


 扉の横にあるボタンを押し、中へと声をかけるなりカードキーを翳して扉を開く。

 一方でハルの方は流石に混乱していた。

 ナツの言葉をそのまま解釈すれば、中にいる『別の世界の自分』に襲い掛かられる危険性があるということでは……?

 だが止める間もなく部屋の扉は開き――


「うおっ!?」


 むわっとした熱気が噴き出て来た。


「あ、ナツちゃん。おかえりなさぁい」

「うん、ただいま。


 恐る恐る部屋を覗き込んだハルの目に見えたのは……。




 美女、だった。

 ナツに対して思った時同様、素直に『綺麗だ』と思える女性がそこにいた。

 ――が、

 彼女が身に纏っているのは、上半身は柄のないタンクトップのシャツ一枚、下半身は迷彩柄のズボン、足にはゴツいブーツを履いている。

 思春期男子としては、パツパツになった胸に思わず視線が行きそうではあったが……そんなことを吹き飛ばすほどの違和感。


「よっ、ほっ! 後10回で終わるから、ちょっと待っててねぇ~」

「相変わらずねぇ、アキ姉は」

「いやいやいやいや……!?」


 ほんわかとした会話をするナツと『アキ姉』だが、状況がおかしすぎる。

 なぜならば、『アキ姉』はスクワットを続けているままだ。

 いや、それはまぁいい。きっとトレーニング好きなんだろうと無理矢理解釈できないわけでもない。

 おかしいのは、彼女は背中に黒光りする金属の塊――だ。

 しかもよく見ると、足はべったりと地面につけているわけではなく、つま先立ちをしている状態だ。


「はぁい、終わり~」


 呆然とするハルを横に置いて、予告通り残り10回のスクワットを終えて鉄塊を置く。

 部屋の床が抜けるんじゃないか? と少し心配になるが……。


「超科学トレーニングルームだもの、このくらいじゃビクともしないわよ」

「……さよか……」


 ハルの考えを読んだであろうナツが補足する。

 いや、この鉄塊に見えるものは思ったよりも重くないだけなんだ、そうなんだ。とハルは現実逃避することとした。

 それよりも、今は――


「ナツちゃん? その子が……?」

「あ、うん。

 紹介するね。この人は『アキ』――今回ハルの護衛に呼んだ、並行世界の私の一人よ。

 で、アキ姉。こっちはハル」

「ど、どうも……」


 やはり拒否反応は起こらない。

 起こらないが――ナツとはあまりに違う、大人の女性であるアキにハルは戸惑いを見せた。

 身長はほぼ同じくらい。女性としてはかなりの高身長だと言えるだろう。

 ……全てにおいて『デカい』。けど、不思議とデカいという印象を抱かない女性だ、というのがハルの第一印象だ。

 戸惑っているのはアキの容姿だけではない。

 穏やかな笑みを浮かべているものの――彼女の眼光はどこか獲物を見定める肉食獣のような危険さがある、と肌で感じ取っていたためだ。


「…………うふふ~。よろしくねぇ、ハル君」

「よ、よろしくお願いします、アキさん……」


(やべぇ、この人……なんか見た目のイメージに比べてやべぇ気配がする……!?)


 まるで森の中で野生の熊に遭遇した時のような、本能的な危機をハルは確かに感じていた。

 微笑みを見せているというのに、見られているだけで背中が汗で濡れていくのがわかる。


「あ、アキ姉……、だよね?」

「ええ、もちろん。

 うふふっ、不思議な感じねぇ~。なんてぇ」


(殺……っ!? えっ!?)


 凄まじく不穏なことを言われたが、ナツとアキは共ににこやかに談笑している。

 聞き間違いと思いたいが……。


「ところでナツちゃん? ここにハル君を連れて来たのは~?」

「あ、うん。皆を紹介するのと、ついでに――皆にも並行世界の体験をしてもらおうかなって思って。

 それが終わったら――」

「……うふ、ふふふ。そう、ハル君の世界でデブリとやらをぶっ殺――ハル君の護衛開始ねぇ~。腕が鳴るわぁ~」


 一瞬、ぎらっと彼女の目が危険な輝きを放ったように見えたのは、きっと自分の勘違いではないだろうと背筋を震わせながらハルは思う。

 変わらず微笑みを浮かべたままアキは先ほどまで背負っていた鉄塊 (らしきもの)へと向き直り、拳を握ると――


(……うそだろ……)


 拳を叩き込まれた鉄塊が一撃で砕け散っていった。


「ふふふ、それじゃ『フユ』ちゃんをお迎えにいきましょうかぁ~。他の並行世界に行くってことは、シャワーはその後の方がいいかしらねぇ」

「そうだね、アキ姉。ちょっとだけ我慢してて」

「別にいいわよぉ~。シャワーなんて、元の世界じゃ浴びれなかったしねぇ~」

「じゃ、ハル。もう一人の子を紹介するから行くわよ」

「あ、ああ……」


 鉄塊を素手で破壊したことに驚くこともなく、ナツとアキは部屋から出て次の部屋へと向かおうとする。


(……うおっ、重っ……!?)


 バラバラに砕けた残骸の一つを手に取ってみると、掌サイズの欠片だというのにズシリとした重さをハルは感じていた。


「…………あの人だけは怒らせないようにしよう……」


 間違いなく物理的に死ぬ。

 ハルを守ることが目的なのだから滅多なことはないとは思いたいが――

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