No.14 チアーズ! ”俺”ハーレム部隊結成(後編)

 アキのいた『超科学トレーニングルーム』から別のフロアへ。

 廊下のかなり奥まったところ――『物置』なんじゃないのか? と思えるような、何に使うのかわからない道具や荷物が積まれたところの奥にある扉へとやってきた。

 物置、あるいは倉庫か。

 何となく体育倉庫に近い雰囲気をハルは感じていた。

 廊下も薄暗く、あまり人が来ない場所であることを示している。その意味では倉庫というよりは、捨てに行くのも面倒なので適当に放っておいているだけの場所であるとも言えるが。


「こんなところに……?」

「あー、うん。もっといいお部屋があるよ、って言ってはいたんだけど……」


 『監禁』に近いんじゃないか、と思ってしまうハルにナツも言葉を濁す。

 ……わざわざ並行世界から護衛のために連れてきて『監禁』はしないだろう、と思いたいところではあるが――


(会ってみればわかるか)


 ひとまず疑問は飲み込んで行く。


「よし。じゃあ、『フユちゃん』入るわよー?」


 一声かけてから倉庫の扉を開くものの……。


「うわっ、真っ暗」


 灯りもなく、真っ暗な空間がそこには広がっていた。


「……もー、フユちゃーん? ナツお姉ちゃんだよー?」

「…………!」

「あ、いた」


 真っ暗でよく見えないが、そこまで広い部屋でもないようだ。あるいは、沢山の荷物が置かれているため狭くなっているだけか。

 そんな部屋の片隅に、周囲の闇に溶け込むように黒い服を着た少女の姿があった。


「ほら、大丈夫。怖くないよー?」

「うふふっ、フユちゃん。わたしが守ってあげるから心配いらないわよ~」

「……うぅ、うぅ……」


 まるで怯えて隠れた猫を誘い出しているかのような光景だ。

 やがて、ゆっくりと闇の中から『フユ』は這い出してきて――


「――ぴゃっ!?」


 ナツ、アキの後ろにいるハルの姿を見て硬直する。

 が、再び暗闇の中へと戻ることはなく、恐る恐る部屋の外へと出てくるのであった。




「フユちゃん、このお兄ちゃんがハルよー」

「……」

「……あー、その……」


 ナツたちの後ろに隠れ、じっと感情の窺えない目で見つめてくるフユに対し、ハルもどう対応すればいいのかわからず困惑する。

 フユは、ナツたち同様美しい少女だった。

 二人と大きく違う点は――フユはあまりにも『幼い』ということだろう。

 どんなに高く見積もっても、10歳程度の子供にしか見えない。


「…………お兄ちゃん?」

「! お、おう。ハル兄ちゃんだぞー」


 天才といえど、普段接することのない小さい子、しかも自分に対して警戒していると思われる少女にどう接すれば良いのか答えが出ない。

 とりあえず『怖くないよー』ということを示すため、できるかぎりの笑顔を向けるものの……。


「……」


 ささっとナツたちの後ろにまた隠れてしまう。


(……こいつフユもやっぱり『男嫌い』かー……)


 そこは予想通りではあった。

 が、ナツと異なるのはハルに対しても何やら警戒しているらしき様子だ。

 ……アキもかなり怪しいところではあったが、少なくとも拒否反応は示していないだろうことは確実だ。


「あらあら~、照れちゃってるのかしら~?」

「……」

「照れてる……?」


 そう言われて隠れるフユの様子を改めて窺ってみると、チラチラと隠れながらも視線をハルの方へと向けてくる。


(……照れてる、のか……)


 初対面の親戚の小さな子を思い出す――女の子ではなく男の子だ――と、確かにこんな感じだったかも? とハルは思えた。

 となると――

 頭をフル回転させたハルは、その場で膝を曲げて小柄なフユの目線に合わせ、精一杯の笑顔を浮かべる。


「よろしくな、フユ」

「…………ぅん」


 こくり、とハルに対して小さく頷くのであった。




「じゃ、改めて。

 この子はフユ。ハルを守るために集まった最後のメンバーよ!」

「……ナツ、アキさん、それにフユ……3人だけ?」


 全ての並行世界が滅ぶかもしれない、というのにやけに少人数だなというのがハルには引っかかる。

 特にフユは荒事には全く向いていないどころか、むしろハルよりも優先して守らなければと思わせるほどのか弱さだ。

 ……尚、アキについては突っ込むのが怖いので触れないこととする。


「あんまり大勢集めても仕方ないしね。

 それに、多分『護衛』という意味ではベストメンバーが揃ってると思うわ」

「ベストメンバー、ねぇ……」


 どこがどうベストなのかはわからないが、説明は後でしてくれるだろうと割り切る。

 それよりもハルには言うべき言葉があった。


「その……ナツ、アキさん、フユ。3人とも俺のためにすまない。

 まだ全部が全部を信じたわけじゃないが、俺がデブリに狙われているということだけは確かだ――皆の力を俺に貸してほしい」

「あらぁ? その言い方だと……ハル君、自分も戦うつもりぃ?」

「ああ、そのつもりだ。

 ……並行世界の自分だと言っても、やっぱり女性にだけ戦わせてっていうのは男として、な……」

「……ふふっ、うふふっ。いいわねぇ、お姉ちゃん、そういう『男』よぉ」

「? あ、ああ……足は引っ張らないようにするつもりだ」


 アキの言葉に若干の違和感を抱きつつも、ハルはそう言った。


「うーん、最悪の場合は自分で自分の身を守ってもらうことになるかもしれないけど、ハルにはあんまり前に出て欲しくないかなー……。

 でも――えへへっ」

「……」


 ナツもハルに前に出てほしくはなさそうだが、彼の決意に嬉しそうに笑う。

 フユはどんな感情を抱いているのかわからないが、じっとハルのことを見つめていた。


(ナツとアキさんはまぁいい。フユとは……ちょっと時間かかりそうだな)


「えっと――そうだな、改めて。

 3人とも、よろしく」


 そう言って右手を前に差し出すハル。


「うん! 任せて!」


 差し出された手にナツの手が重ねられ、


「ちょっとは骨のある相手だといいわねぇ~。あ、もちろんハル君もナツちゃんもフユちゃんも守るわよ~」


 更にアキの手が重ねられ、


「…………がんばる………………――のために……」


 最後にフユの小さな手が載せられた。




 こうして、異なる並行世界から1つの目的のために集まった男一人女三人、しかし全員が同一人物という『一人ハーレム部隊』は誕生したのだった。

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