No.23 四季嶋さん家の懐事情

 各自の部屋と収納ボックスの使い方、そして肝心なのはH世界での家具家電等の使い方である。


「……アキさん、あんまり力入れないでくれよな?」

「うふふっ、大丈夫よ~」


 アキのパワーが常識外れなのはもう疑わない。

 下手に彼女が力を入れ間違えると、あっという間に壊れてしまうことは目に見えている。

 ハルの部屋に皆住むのだから、当然水道や家電、風呂・トイレも共同だ。

 比較的『近い』世界であるナツは、昨日来た時に何の説明もなしに使いこなしていたが、アキとフユはそうもいかないだろう。


(……言っちゃなんだが、二人とも『原始人』みたいなものだからな……)


 フユについてはF世界にかつて高度な文明があったが、彼女がその恩恵にあずかっていたとは思えない。

 言葉を選ばなければ、ハルの思う通りの『原始人』的な存在だ。

 H世界のものについては一から使い方を教えなければならないだろう。




 幸いにも二人は事前にN世界におり、『ボタンを押すだけで色々なことができる』という原始人からすれば魔法のような仕掛けは目にしていた。

 それに並行世界のハルだからか、理解力は人並み以上にある。


「なるほど~。わかったわ、ハル君」

「…………フユも、おぼえた」


 とりあえずは電気の点け方消し方と、風呂トイレの使い方さえ覚えていれば困ることはないだろう。


「じゃあ、そろそろ晩飯のこと考えるか。そこの餓鬼も待ちきれないって顔してるしな」


 並行世界に移動したりもあってそれなりに時間が経っている。

 今後のことを相談するにしても、夜ご飯を食べてからでいいだろうとハルも考える。


「……そういえば、皆料理ってできるのか?」


 ふと気になったことを口にしてみる。

 ハルはできないわけではないが、別に得意でもない――以前に触れた通り、時間の余裕があまりないため基本的には外食か弁当で済ませている。


「料理? 『女』はやりませんねぇ~。『女』の仕事は、狩りですから」


 さらりとアキは『できない』と言う。

 A世界だと、『女』は狩りが仕事なのだ――食料調達のための狩りだけでなく、不倶戴天の敵である男を狩るという二重の意味なのだろうが……。


「…………りょうり、ってなに?」

「えーっと……フユ、普段は何食べてるんだ?」

「…………ちっちゃいおまめ」


 F世界では成長の早い豆のようなものが主食らしい。

 狩りなどできないようなか弱いF世界の『女』は、そうした豆などを採取して飢えを凌いでいたらしい。

 ……『火』を使った調理はできないだろう。そんなことをすれば、自分の居場所を『男』に教えるようなものだ。


「私もできないよー。というか、私の世界だと『超科学全自動調理マシーン』があるからね!」


 流石の超科学の世界だ、ボタン一つで欲しい料理が出てくるとかすげーな。そんなことを考えるハルであったが。


「……でも、アレめちゃくちゃ不味いのよねー……。

 必要な栄養さえ取れればいいっていう感じで、味の薄いおかゆ? って感じなのよ」

「お腹に入れば何でもいいとは思いますけど~……うーん、確かに物足りないご飯でしたねぇ~」

「…………おまめ……」

「お、おう……」


 どうやらハルのSF知識の中でも一番美味しくなさそうな感じの『料理』らしい。


「だからかな? 実はN世界では『料理人』は超高給取りなのよ。

 ……まぁ行列すごくて入れないし、すっごい高いから滅多に行けないんだけどね……」


 飲食店はあることはあるようだ。


「まぁいい。とりあえず誰も料理できないことはわかった。

 ……はぁ。仕方ない。外食――はまだ早いだろうし、適当な弁当とか総菜買ってくるか」


 ハル自身も料理が得意なわけでもないし、レパートリーも少ない。

 それに4人分を作るのも大変だ。

 食事事情に関しては早急に解決しなければならないだろう、と密かにハルは決意する。

 ……もっとも、解決策は何も思い浮かんでいないが。


「折角だし、皆で買い出し行くか。しばらくこっちに住むんだし、アキさんたちもどこに何の店があるのか知っておいた方がいいだろうし」

「そうねぇ~。『お店』っていうのが何なのかわからないけど」


(おぅ……そこからか……)


 集落同士の交易とかがあるのかはわからないが、貨幣のようなものはないのだろう。

 『集落の物は皆の物』という感じなのだろう、とハルは理解した。

 ある意味では平等な世界なのだろう――戦闘民族である『男』と『女』を除けば。

 と、そこでハルは重要なことに気付いた。


「……そういえば、ナツ」

「なーに?」

「おまえ、金持ってるか?」


 アキとフユには聞くだけ無駄だと思っているので、一番の事情通であろうナツに重要なことを訊ねる。


「え? ?」

「は? マジか?」

「H世界のお金でしょ? 持ってるわけないじゃない」

「…………マジかー……」


 別の世界の貨幣を持っているわけがない。確かにそうだろう。

 H世界とN世界で仮に貨幣が共通だったとしても、『偽金』扱いになるのは目に見えている。


(……金、足りるかな……)


 ナツですら金を持っていないということは、4人分の食費――それ以外の雑費も――はハルが支払わなければならないということだ。

 護衛してもらっているということを考えれば、それくらいはして当然と言えなくもないが……。

 ハルは未成年であり、生活は両親からの仕送りで成り立っている。

 アルバイトもしておらず、仕送り以外の収入はない。

 自由な時間が不可抗力であまり取れず、良樹などの友人たちとたまに遊びに行くくらいで貯金自体はできているが、単純計算で消費が4倍になるのだから貯金が尽きるのもそう遠くないだろうと予測できる。


(……事件の決着は早めにつけないとヤバいな、色々な意味で)


 改めて自分に降りかかる『事件』の早期解決を決意するハルなのであった。

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