No.24 四季嶋さん家の食事事情

 夜ご飯は適当にコンビニ弁当にするか、と最初ハルは考えていたものの、明日以降に備えて少し多めに買い物をしておきたいためスーパーへと向かうこととした。

 学校方面へと行かなければならないため距離が少々あることが難点だ。ナツとアキはともかく、フユには少々辛い距離かもしれないと思っていたのだが……。


(……意外に体力あるんだな、フユ)


 特に疲れたとも何も言わずにちょこちょことハルたちの後ろを着いて歩いてきていた。

 あまり表情が出ないせいで無理をしてるんじゃないかと少し心配ではあったが、徐々にナツの方が遅れてきていることを見ると、少なくともフユの方がナツよりも小柄であっても体力はあるようだ、と認識を改める。


(フユの世界で、あんな化け物から逃げ回る生活をしてたんだからな……身体は小さくてもそれなりに体力がなければ生き残れない、ということか)


 一方で全く疲れた様子を見せないのがアキだ。

 むしろ、『靴を履く』という習慣がそもそもなかったようでそちらに違和感を抱いているらしい。


「うーん……ちょっと歩きにくいですねぇ~。でも履いてないとダメなんですよね~?」

「まぁ、街中で裸足で歩き回ってたら不審がられますね。

 しばらくしたら慣れますよ」

「仕方ないですねー」


 N世界で着ていたものは、ナツがあらかじめ渡していたものだったらしい。

 本来のアキは、ハルがイメージするような『原始人』的な恰好でいることがほとんどだということだ。

 ……身体的にも頑強なため、足を保護するという発想すらないのだろう。


(フユもそうだけど、アキさんも靴擦れとかならなきゃいいが)


 アキ同様にフユも『原始人』的な生活をしていた。

 どちらもN世界の服を今は着ているが、慣れない靴を履いているため靴擦れが起きる可能性は高い。

 出かけたついでに、絆創膏や消毒液も少し買い足しておくか――ハルはそんなことを考えるのだった。




 その後、ドラッグストアの他に本屋にも寄って簡単な料理のレシピ本を購入。

 目的のスーパーで諸々の物を買いこんでハルのアパートへと戻って来た。

 今日の夜ご飯だけでなく、明日の昼以降におそらく使うことになるであろう飲料やお菓子、そしてある程度は『自炊』しなければ財政破綻が目に見えていたため米も買っておいた。

 一人では到底運ぶことは出来ない量ではあったが、


「うふふ、これじゃ訓練にもならないわねぇ~」


 と涼しい顔をしてアキが一人で運んでいた。

 ビニール袋の持ち手の方が重さに耐えきれず切れてしまうのではないかと心配するくらいだった。

 それはともかく――


「ご飯っ、ご飯っ♪」

「……だからなんでお前はそんな食いしん坊キャラなんだよ……」


 大きなトラブルもなく無事に戻ってこれたということで、夜ご飯を済ませることとする。

 アキたちは並行世界帰りにシャワーを浴びていたがナツはまだだ。先に風呂に入るかという提案もあったが――


「じゅるり……」


 ナツが限界を迎えそうだったので先に食事にすることにした。




「おお……これが『カツ丼』……!」

「……大げさな……」

「そしてこれが『天丼』……!」

「つーか、一人でよく二つも――しかも揚げ物ばっか」


 ナツはカツ丼と天丼を食すことにした。

 サラダも何もない、丼弁当二つだ。

 かなり物申したいハルであったが……きっとN世界では滅多に食べられない料理なのだろう、と生温かく見守ることとした。


「アキさんは足りそう?」

「ええ、大丈夫よ~。急に慣れないものをいっぱい食べたら、お腹がびっくりしちゃうからねぇ~」


 アキはかなり控え目に、焼き魚と野菜の煮物、それとインスタントの味噌汁だけである。

 彼女本人が言う通り、慣れない食事をいっぱいに取ったら体調を崩しかねないだろう。特に、アキが食べたことのないような添加物が多く入っていたり、揚げ物をいきなりはハードルが高すぎる。

 ……それでもアキなら問題ないんじゃないかなと思うものの、口にする勇気はハルにはなかった。


「…………おまめ……」

「うん、まぁフユがいいならそれでいいんだけどな……」


 最後にフユはと言うと、スーパーで売っている様々なものが『食べ物』として認識できなかったようだ。

 食べたいもの、食べられそうなものを訊ねてみても、困ったように首を傾げるだけでハルたちもかなり困っていた。

 最終的に、『おまめ』こと枝豆と、インスタントのスープだけとなった。

 アキ以上にフユの食べるものには気を付けなければならないだろう。彼女の身体能力では、体調を崩してしまったらなかなか立ち直ることができないと予想できる。

 そして仮に体調を崩したとして、ハル以外はこの世界では『無保険』なのだ。

 財政破綻を遠ざけるためにも、健康には特に気を遣いたいところだ。


「じゃ、いただきます、と」


 ハルは焼き鮭とのり弁、それにインスタント味噌汁だ。

 特にこれと言って好き嫌いもなく、これを選んだ理由も特にない。

 4人で囲むには少し小さな座卓にて、四季嶋家の夜ご飯となる。




「…………おまえ箸の使い方へったくそだなー」

「う、うるさいわね! 普段使ってないからよ!」

「――その割には、アキさんは普通に使えているが?」

「ぐぅ……」

「うふふ、ハル君と合流するまで暇だったから、覚えておいたわ~」

「…………おはし、むずかしい……」

「フユはいいんだぞー? これから練習しような?」

「……ぅん」




 ……と、全員で顔を合わせたのがほんの数時間前だというのに、4人は比較的穏やかな夜ご飯を共にするのであった。

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