No.25 四季嶋さん家のお風呂事情 ~ナツ編

「……ぉー……」


 座っているハルを座椅子にしているフユが熱心に見ているのは、テレビ番組である。


「面白いか、フユ?」

「……わかんなぃ……でも、ふしぎ……」

「不思議よねぇ~」


 ベタな反応だな、と思いつつも微笑ましく思うのであった。


(……しっかし、軽いなー、この子……)


 そもそもの見た目が小柄なのもあるが、それでも思った以上にフユが軽いことに驚きを覚える。

 この国の子供の平均体重よりも更に軽いのではないかとさえ思える――もっとも、見た目が小さいだけで同い年であることは変わりないのだが。


「……フユのおへやに、ほしぃ……かも」

「テレビか? うーん……線引っ張らないといけないから難しいかもなー。

 でも、別に見たけりゃここで見てていいぞ」

「……わかった……」


 謎空間にあるフユの部屋までテレビの線は引っ張っていくことはできないだろう。

 部屋にテレビは置いてあるものの、ハルはほとんど見ていない。

 フユが好きな番組を見ればそれでいいのではないかとは思っている。番組の好き嫌いがあるのかは怪しいところではあるが。




 食事も終わり、いい時間だということで今後のことについて話し合おうとしたハルであったが、


『私もお風呂入りたーい!』


 とナツが駄々をこねたため、先にお風呂タイムである。

 N世界でシャワーを浴びていたアキとフユは後にして、先にナツからである。

 ――尚、家主であるはずのハルの意見は聞き入れられることなく……。


(……別にいいけどさー……)


 お風呂待ちの間、アキフユと一緒に適当なテレビ番組を見ているというわけである。




 自分の部屋で女子がシャワーを浴びてる……!?

 膝の上には可愛らしい女の子が無防備に乗っかっている……!?

 隣には穏やかな笑みを浮かべた(見た目上だけは)年上の色気溢れるお姉さんがいる……!?

 やだ……こんな狭い空間に女の子ばっかり……ドキドキしちゃう……!




 ――なんてことは、相変わらずありえないわけで。


(……ナツの時もそうだったが、アキさんもフユも何にも感じないなー……)


 フユに何か感じたら、それはそれで大問題ではあるのだが。

 ともかく、ナツ同様に『人型のクッション』を抱きかかえているとしか思えない――相手に人格があることは重々承知してはいるものの。

 フユたちの方もまた、ハルに対して『異性』とは感じてないようだ。もっとも、この二人に関しては単純な『男嫌い』というわけではないのがややこしいところだが――




「ふぃー、あがったよー」

「……やっと……か、よ……?」


 女の風呂が長めなのは家族で知っていたが、後がつかえているのだ。

 何の気なしに振り返ったハルの言葉が止まった。

 なぜならば――


「ちょ、おまっ……!? !?」


 そう、ナツは一糸まとわぬ全裸で現れたのである。


「え? あー、つい癖で。てへへっ♪」

「癖って……おまえなぁ……」


 真正面から女子の全裸を見ても、

 『なーんで裸なんだよ』とは思うものの、それ以上の感想が出てこないのだ。興奮するどころかむしろ呆れている。

 一方で、見られている側のナツもまた何とも思ってないようだ。

 ノリノリで『セクシー(?)ポーズ』を決め、


「ね、ね。どう? なんか感想とかないの?」


 感想を求めてくる。


「どう、ったって……」


 自分の身体とは違うとは言っても、『鏡に映った自分』を見ているのと気分的には変わりない。としかハルには思えない。

 それでも「ん? ん? どうよ?」とノリノリで主張してくるナツを無碍にもできず――


「……」

「…………てれび、すごぃ……」


 テレビに夢中のフユを見て、


「……」

「あら~? どうかしたの、ハル君?」


 横で微笑むアキを見て――視線が一瞬下に向き、


「……」

「どうよ?」


 ナツへと戻り。


「…………足、ふっと」


 胸元へと向けた視線を敢えて逸らし、そう言う。


「………………コロス」

「護衛対象を殺すな!?」

「最初どこ見て言おうとした!? そして私の気にしてることをよくもぉ!」

「いいから服、せめて下着くらい履け!」

「……ゆれるぅ……やめてぇ……」

「うふふ、それじゃあお姉ちゃんとお風呂入りましょうねぇ~、フユちゃん」

「うわぁぁぁぁん!! 足太くないもん!」


 怒りと悲しみのままにハルへと掴みかかるナツ。

 そんな二人を華麗にスルーしてアキがフユを抱きかかえて風呂場へと向かうのであった……。

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