No.26 四季嶋さん家のお風呂事情 ~アキ&フユ編
「ねぇねぇ、見て見て~! 『彼シャツ』ー! なんちゃって♪」
「……」
とりあえず機嫌が戻ったのか、アキたちが風呂へと入っている間に裸から脱したナツ。
下着だけつけ、その上からワイシャツを羽織っているが……。
「おまえ、それ俺のシャツじゃねーか! 洗濯物増やすんじゃねーよ!?」
「えー? 今お風呂入ったばっかりだし、汚れないでしょ?」
「そういう問題じゃねーよ てか、『彼』じゃねーし」
「そりゃそーなんだけどさー……ほら、こういうの、私たち縁がなかったわけじゃない? ちょっと憧れてたんだよねー」
「……さよか」
と、傍から見ればイチャついている美男美女カップルに見える二人であったが、当然お互いに恋愛感情は一切持っていない。
二人ともナルシストではないのだ。
「そういやおまえ、髪乾かさないでいいのか?」
「乾かすわよ? マイドライヤー持ってきてるし」
「……さよか」
女性が三人ともなると大変だなーと思うハルであったが、
「『超科学ドライヤー』! あ、電気代とか心配しないで大丈夫よ。超小型
「……それは使って大丈夫なものなのか……?」
「へーきへーき。H世界ではともかく、N世界だと500年くらい前から使われてる技術だから安心安全よ!」
「……さよか」
さらっととんでもないことを言うナツであった。
並行世界を行き来するほどの科学技術なのだ、核融合くらいはとっくに実現しているのだろう。
事故った時には全員まとめてお陀仏だろーな、と思いつつも、もう電気代がかからないならいいやと突っ込みを放棄するのであった。
そんなこんなでアキたちを待つ二人。
適当にゲームをしつつ雑談をしているのだが……。
「……ね、ね。ハル?」
「なんだよ?」
「ちょっとはドキッとしたりした?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、ハルと並んで座っていたナツがそう訊ねて来る。
「……なんか予想外のものをいきなり目にした、って意味ではドキッとしたな」
「なにそれ、私珍獣扱い!?」
正直な感想を伝えたがなぜか怒られてしまった。
(いや、まぁ色々な意味でドキッとしているのは否定できないんだが……)
N世界から持ちこんでいたのだろう、ナツが使ってであろうボディソープかシャンプーかハルにはわからないが、とてもいい匂いがすぐ隣からしてくるのにはドキッとさせられている。
……が、それはあくまでも嗅ぎなれない匂いを嗅いで驚いているだけだ、とハルは努めて冷静に分析していた。
それにナツが急に全裸で出て来た時も――興奮とか欲情はなかったが、ドキッとしたのは確かだ。
異性の裸を見るのは初めてではないが、あからさまにさらけ出して来たのはナツが初めてであるのも確かだ。
(…………なんか、奇妙な気分だ……)
ハルはハルで自分の抱いている感情がよくわからなくなってきた。
「お待たせ~」
「…………ぁっぃ……」
と、そこでアキたちが風呂場から出て来た――
「……って、アキさんもかよ!?」
「え~?」
若干『助かった』という思いを知らず抱いたハルだったが、出て来たアキを見て突っ込まずにはいられなかった。
なぜならば、アキもナツ同様何も身に纏わない裸のまま出てきたのだから……!
「ちょ、アキ姉! せめて下着くらいつけないと!」
「おまえが言うな、マジで」
「下着ぃ~? ……んーと……あれ、窮屈なのよねぇ~」
全裸のまま少しだけ眉を寄せて困ったように呟くアキ。
仕方のない話だ。
ハルは服を着たアキしか目にしていないため知らないが、本来のアキは想像通りの『原始人』の恰好――獲物から剥いだ毛皮を身体に纏っているだけなのだ。
現代人のような下着の概念がそもそもない。それに近しい形で毛皮を加工していたとしても、現代の下着は『窮屈』に感じることだろう。
「うふふっ♪ ねぇハル君。どう?」
「……どう、と言われても……」
「アキ姉、私の黒歴史掘り返さないで……」
先ほどのナツの真似なのだろう、見様見真似で全裸でセクシー(?)ポーズをとるアキであったが……。
(…………これはヤバい)
その破壊力は『並行世界の自分』であっても抜群であった。
鏡の自分の裸を見ても普通は何も感じないだろうが、ナツとは違って見ること自体に気恥ずかしさを覚える。
とはいえ何も言わないわけにはいくまい。
隣のナツを見て、アキへと視線を戻し、
「……アキさん、細いっすね。なのにあのパワーとは……」
疑問に思っていたことをついでに呟くのであった。
「………………オマエヲコロス」
「だから護衛対象を殺すな」
「今! 絶対! 私の足見てから言ったでしょ!!
「うふふ、よく食べてよく寝てよく運動するのが秘訣よ」
「いや、アキさんのパワーは物理法則を超えて――言っても仕方ないか。とにかく何か羽織ってください」
再び喚き散らすナツをスルーする二人。
アキの体格ではどう考えても鉄塊を打ち砕いたり、目にもとまらぬ高速移動しながら戦闘したりは不可能だと思うのだが、
(……なんかもうそういう『生き物』なんだろうな、とでも思っておこう)
住む世界が違う生物なのだ。考えるだけ無駄だろうとハルは思考を放棄することにした。
「で、フユは――おお、ちゃんとパジャマ着てるな」
「……ちょっと、あつぃ……」
N世界から持ち込んできたのであろうパジャマをしっかりと着ている。
……フード付きの『黒猫着ぐるみパジャマ』であったが。
「…………こんな小さな子がちゃんと服着てるというのに……」
残念な生き物を見る目でナツへと視線を向ける。
尚、アキには怖くて向けられない。運動能力も天才的とは言え、アキには全く勝てる気がしないのだ、仕方ない。
「…………ぃつでも、にげられる、ように……じゅんび……」
「そ、そうか」
自分の家ならば安全であろうナツ。
そもそも生物として規格外の強さを持っているアキ。
この二人とフユは明確に異なる。
荒廃したF世界に『入浴』の習慣があるのかはわからないが、水浴びくらいはしているだろう――自分の匂いを消さないと『男』に嗅ぎつけられるかもしれない。
『いつでも逃げられるように』しておくのは、フユにとっては当然のことなのだ。
……それを抜きにしても、風呂上りに服を着るのが当然なのだとは思うのだが。
「まぁいいや。とりあえず、俺も風呂入ってくるわ。
出たら、ちょっと明日以降のことについて皆で話そう」
「ええ、わかったわぁ~」
「……てれび……」
「足太くないもん……」
肝心な話が一向に進まないことは気になるが、こんな賑やかな夜を過ごすのは久しぶりだ――とハルは少し嬉しく思うのであった。
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