No.27 四季嶋さん家のお風呂事情 ~ハル編

「やれやれ……」


 昨日ナツが来てからというもの、一人で落ち着ける時間が全くなかった。

 『同一人物』なのだからプライバシーも何もないのだが、それでもやはり『違う身体』という点は無視できない。

 スペースの問題で寝室は分けているものの、やはり広さがあっても全員別の部屋で寝たであろうことは想像できる。

 どれだけ親しい仲であろうとも、プライベートな時間は必要なのだ。


「……うえっ、超ぬるくなってんじゃねーか……はぁ」


 ほぼ唯一の癒し空間であろう風呂であったが、時間が経ってしまっているためかなりぬるくなってしまっている。

 残念ながら追い炊き機能はない。


「仕方ないか……」


 癒し空間とは言っても、別に長々と湯舟に浸かってリラックスするような習慣もない。

 この後に話もしなければならないし、さっさと上がるか――ハルはそう考え、とりあえず身体を洗い始める。




 一方で、入浴中のハルを待つ女性陣はというと――


「はい、フユちゃんも終わり」

「…………」


 ナツがテレビに夢中のフユの髪を『超科学ドライヤー』で乾かしていた。


「いやー……私の目に狂いはなかったわー。可愛い……可愛すぎるわ……」

「…………」


 色々な意味で自画自賛するナツ。

 フユの服については、ナツがN世界で色々とチョイスしたものを着せている――フユ本人は、アキ同様に色々な服を着ておしゃれをするという概念がそもそもないため、身を守れるものならなんでもいいという無頓着ぶりだ。

 つまり、フユの着ぐるみパジャマも、その前に来ていたフリルいっぱいのゴスロリドレスも、全部ナツの趣味なのである。

 もちろんおしゃれの習慣がないフユでも着やすいように工夫されている『超科学服』である。フユ一人でも着替えは可能だ。


「んーと……」


 そんなナツとフユの横では、アキが『本』を読んでいる。

 買い物の時に一緒に購入したレシピ本である。

 アキにも『料理』という概念自体はないわけではないが、自分では作らないしそこまで凝ったものがA世界にあるわけではない。

 『腹に入れば皆同じ』とワイルドな考え方をしていたアキであったものの、本に載せられている色とりどりの様々な料理には興味をひかれているようだった。


「ふむふむ……なるほどねぇ~」


 ちなみに、アキは

 言語は同じ日本語 (のようなもの)を使っているので会話には困らないが、A世界には文字がない。必要がなかったためだ。

 字は読めずとも写真は当然見える。

 説明文の意味は今はわからなくても、これまでの会話とこれからの会話で何となく掴みはじめてもいる。

 生まれ育った世界は異なっても中身は『ハル』と同じ、天才なのである。


「アキ姉、料理するのー?」

「うーん、どうしようかしら~? ハル君のお家にお世話になるのだし、何かした方がいいとは思うんだけど~」

「……フユも、お兄ちゃん、おてつだい……」

「おー……じゃ、家電の使い方とか文字とか、もうちょっと本気で教えた方がいいかなー」


 意外にも色々とやる気をだしているアキたちを見て、ナツも少し考えを改める。

 ハルをデブリから守るのは当然のこととして、『居候』するのだからやれることはやるべきなのではないか、と。

 ……言われるまで何もする気がなかったのか、とハルが聞けばツッコミを入れたであろう。


「ふぅー、さっぱりした」


 と、そこで家主のハルが戻ってくる……のだが。


「ちょっ!? あんた、パンツくらい履きなさいよ!」

「……あ、すまん。つい癖で……」


 散々人に物申していたハルも、結局は同じタイプの人間なのであった。


「……ふふっ、『男』だったら――いえ、何でも?」

「……ぉー……」

「…………すぐ着替えてくる」


 『同一人物』であっても『男』と『女』の差はある――そして生い立ちが違うがために性格も異なり、また今までに目にしてきたものも異なる。

 アキはともかくとして……フユにとって『まともな男』の裸を目にしたのは初めてなのだろう。

 恐れることなく、どころかむしろ興味津々と言った感じでハルに視線を向け……このままだと色々とヤバそうだ、と察しさっさと着替えるのだった。




 ……自分の家なのに微妙に肩身が狭い、と口には出せないもののハルは釈然としないものを感じていた。

 感じたところでどうにもならないと半ばあきらめてもいたが。

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