No.28 四季嶋さん家のこれからの事情
「じゃ、明日からのことについて話し合いましょうか」
色々とあった一日であったが、まだやるべきことはある。
明日も平日――ハルは学校に行くため昼間不在となってしまう。
だから相談をするには今日中、寝る前でなければならない。
「俺とナツは学校に行くでいいが、アキさんたちをどうするかなー……」
「うーん……学校、はやっぱりちょっと無理があるよねー」
アキはまだ誤魔化しようがあるが、フユは見た目の年齢があまりに低すぎる。
『超科学催眠電波』を使ったとしても違和感は消し去れないだろうし、余計なトラブルを生む原因となりかねない。
というのも――
「……フユちゃん一人にしておくわけにもいかないしねー」
「ああ。部屋に閉じ込めるわけにもいかんし、かといって一人で外を出歩かせると――
フユの『男嫌い』の対象は、あくまでもF世界の『男』に対してであり、ハルたちが思うような『普通の男』に対しては特に何とも思っていない。これは構わない。
問題なのは、『普通の男』側がフユに対して抱く感情だ。
何しろ見た目は可愛らしい少女だ。しかも目立つゴスロリファッションをしている。
そうなると、『変な男』が寄ってくる……というわけだ。しかも、フユはF世界の『男』以外に危機感を全く抱いていない。
知らない人にはついていかないように、と言いきかせることはもちろん可能ではあるが、もしも襲い掛かられたらフユでは対抗することができないという問題がある。
「アキ姉とフユちゃんはセットでお留守番してもらうことになるかしらねー?」
「そうせざるをえないか。
……アキさん、頼んでいいか?」
「ええ、いいわよ~。ハル君を近くで守ることができないのは、ちょっと心配だけどねぇ~」
『ハルの護衛』という本来の目的とは離れてしまうのが気がかりではある。
「まぁ人目のあるところではデブリもそんなに襲い掛かってこない……とは思うし、しばらくの間は大丈夫じゃないかな。
襲われないうちに解決できればいいんだけど……」
「N世界の方で動きはないのか?」
「一応、超科学アカデミーで調べているんだけど……出てきちゃったデブリはどうしようもないから、こっちで対処するしかないって感じ」
「まぁそれは仕方ないか」
護衛と言いつつも、出番がないことに越したことはない。
アキが本格的にデブリと戦うようなことになる前に、N世界側で犯人、あるいは『原因』を突き止めて騒動を収めることができればそれが一番いい結果であろう。
「皆とすぐに連絡つけられるように、これ渡しておくわね」
と、ナツが収納ボックスから取り出したのは耳掛け型イヤホンのようなアイテムだった。
「『超科学脳波通信機』よ。ハルは携帯電話持ってるからいいけど、私たちはないからね。これを使っていざという時は連絡を取りましょう。
使い方は――」
簡単に使い方を説明する。
耳に装着して、頭の中で考えるだけで相手と通信できる代物らしい。
学校に行くハルとナツは教師に見つかると厄介なので、必要な時にのみ着けることになってしまうだろう。
「緊急事態の時は、これでアキ姉たちに連絡するね」
「わかったわ~」
アキの脚力ならば、全速力で走れば徒歩30分の学校にでも数分かからず到着できるかもしれない……。
スーパー以外の学校などの必要な場所の説明は追々やっていくしかないだろう。
「それでハル君、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどぉ~」
「? なんすか、アキさん」
「ハル君たちがいない間、お家のことを色々やりたいんだけど~、いいかしら?」
「! そりゃありがたい! んじゃ、色々教えておきますね」
家電の使い方など教えるべきことはまだまだある。
とりあえずは火事を起こさないように、火の扱いだけは今日中に念入りに教えておかなければならないだろうとハルは考える。
「方針としては……ハルの護衛を続けつつ、N世界側で原因を突き止めるのを待つって感じしかないかしらねー」
「……そうだな」
基本的な方針はそれしかないだろう、とハルも思う。
『待ち』――それで解決できるかは怪しいところだが、他に現状打てる手がないのも確かだ。
(……
並行世界の技術を扱えるのがN世界しかないのだから、N世界に任せるしかない。その考えに間違いはないはずだ。
なのに、ハルは頭の奥に『引っ掛かり』があるのを自覚していた。
(まだ何もわかっていない。ナツたちに話しても仕方ないか――いや、下手に話さない方がいいだろうな)
N世界側からハルの様子は観測され続けている、そう思った方がいいだろう。
だから、N世界側に犯人がいたとしたら感付かれ妨害される恐れがある。
確証が持てる、そして一気に行動して決着をつけられるようになるまでは自分の胸に秘めておくしかない。
ハルはそう決意するのであった。
ひとまずはデブリから身を守りつつ、アキたちがH世界での生活に慣れるようにする。
今後の行動指針はそう決まった。
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